kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitの料理をお家で楽しみませんか?

小山田(をやまだ)の 水のながれを しるべにて せき入るるなへに 鳴くかはづかな  藤原定家

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 山あいの小さな田んぼ、棚田のような光景なのでしょうか。田起こしをし、苗代の早苗(さなえ)の成長を見届けながら、田へ水を引き込む。小川から流れを止めているのは、石なのか土なのか。塞(せ)き外すことで、田へ流れ込む清らかな水。これを合図とするように、蛙が鳴き始める。

 いまでは灌漑用の水路が張り巡らされ、川の近辺でなくとも、田を広げることができるようになりました。昔とは比にならないほどの耕作地と収量を誇ります。しかし、水を田に引き入れると、其処彼処で鳴き始める蛙の声。長い冬の眠りを邪魔された嘆きの声なのか?それとも、待ちわびた春の到来を、清流が教えてくれたことへの感謝の声なのか?

 夕刻ともなり、周りが静まり返ることで響き渡る蛙の声は、田の「蛙の初音(はつね)」は、よほど薬漬けで田が死んでいなければ、今も昔も変わりません。夏の盛りの鳴き声とは少しばかり違った声色が、耳にした人を郷愁の念へと誘(いざな)います。

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 司馬遼太郎氏の「手堀り日本史」の中でのこと。日本人は「練度というもので道具の不備や不便をカバーしていく。ところが、西洋人は、すぐに便利な道具を考えてしまう。それが、ヨーロッパ文明を興したわけだし、日本文化が明治まで停滞したのは、道具をさほど重んじなかったからでしょう。」と書き記しています。

 宮大工さんのような職人とよばれる人々は、先人より連綿と受け継がれてきた技術を習得し、日々研鑽に励み、後世に伝承する。「義務」ではないが、先人の技を絶やさぬという、何か使命感のようなものがあるのでしょう。効率が良いかと言えば、嘘になる。しかし、その仕上がりに美しさには、畏敬の念を覚えずにはいられないものです。

 確かに、近代文明という眼鏡を通すと、効率が悪く、安全基準も定まっていない。近代文明は、我々の生活を豊かにし、安全・快適に日々を送ることをもたらしました。しかし、昨今の異常気象や自然災害、ウイルス災禍を導いた要因かもしれません。何が良いのかということは、自分には分かりません。

 こと、料理の世界になると、冷蔵庫・冷凍庫から始まり、電子レンジなどの調理器具の発達は、飛躍的に料理の美味しさと手軽さを実現しました正確な情報は、食中毒を激減に減らし、インスタント食品や冷凍食品も、この手軽さを考えると馬鹿にはできなない品質です。

 しかし、料理には「職人」が必要である。世界から職人がいなくなることはありません。どれほど技術が発達しようが、レシピがあろうが、職人の腕によるところが大きいのです。食材に触れた時に、どうした調理方法が最適で、美味しく楽しめるのか。この料理が、食材が、食事の中でどのような役割を担うのか。最後の仕上げに何が足りないか?

 自然の産物である「食材」は、どれ一つとして同じものはありません。我々人間が、皆違うのと同じように、同じであろうはずがありません。時期によっても違いがある、だからこそ「旬」という発想がうまれるのです。その十人十色の食材を、触れ味わい、どうすべきなのか悟らねばならないのが、「調理の職人」です。そして、この職人は、一朝一夕ではできず、学ぶこと、経験することで「練度を高める」しかありません。

 

 田水が引き入れられ、蛙が目覚めたように、5月1日に「営業自粛」の塞きを外し、「営業を再開」という水を引き入れました。皆様の努力が水泡と化さないよう、「新型コロナウイルス災禍」への細心の注意を払わなければなりません。そのため、まだちょろちょろとした流れです。しかし、この流れでも蛙を目覚めさせるには十分だったようです。

 Benoitキッチンが本格的に始動いたしました。食材廃棄を避けねばならないため、メニューを絞っての営業です。手を抜くことは「練度を下げる」こと。彼らに妥協はなく、もちろんきっちりと仕事をこなし、美味しいものを仕上げています。しかし、メニューに選択肢がある以上、日々きっちり用意した料理が終わることはありません。まして、この状況下なので、無駄になる確率が高いものです。

 せっかく職人が仕上げた美味なるものを、皆様にもお楽しみいただきたいと考えたのです、「自宅で」。そう、「テイクアウト」を始めました。もちろん全ての料理ではなく、シェフがお家でも美味しくお召し上がれると判断したものを厳選させていただきました。

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受付時間: 1030分から1900分まで

お受渡し時間: 1130分から2000分まで

電話(03-6419-4181)にてご希望の商品と数量、お渡し時間をお伝えください。メールの場合には、前日までに送りいただけると幸いです。

www.benoit-tokyo.com

 メニューはこちらから (表示価格は税込みです。)

http://www.benoit-tokyo.com/pdf/2005_Takeout.pdf

 ※数量限定の商品がございます。ご購入日に、ご希に添えない場合がございます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

テイクアウトメニューから、お勧めしたいものを抜粋させていただきます。

 

TERRINE DE CAMPAGNE テリーヌ・ドゥ・カンパーニュ 200g (2名様分) ¥1,850(税込)≫

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 豚の肩肉をメインに、豚の背油と鶏の砂肝をメインに仕込むテリーヌは、仕上げるのに2週間を要します。なぜ2週間もの時間を要するのか?ばらばらだった味わいが馴染み塩っ気が落ち着くのに必要なのが、この期間です。肉肉しい食感を生かしながら仕上げた、Benoit自慢のテリーヌです。

 

FOIE GRAS de canard confit フォアグラのコンフィとキンカン 100g (2名様分) ¥2,600(税込)≫

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 仕上げるのに3週間を要する、アラン・デュカスのスペシャリテです。仕上げるのにこの期間を要するため、「自粛休業」前に仕込んだ逸品です。この詳細は後日にお話いたします。口の中の温かさでとろけるようなフォアグラの仕上がりと、旨味満載の美味しさは、後日に詳細させていただきます。一言だけ、このフォアグラのコンフィを知ってしまうと、他のフォアグラのコンフィは味気なくなることでしょう。なぜ、アラン・デュカスが巨匠と称されているのか、垣間見ることができる逸品です。

 

Délicat velouté de PETITS POIS グリーンピースのスープ 300g (2名様分) ¥1,650(税込)≫

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 Benoitのスープは四季折々を反映しています。フランスから届くグリーンピースは、国産とは似て非なるもの。別品種ではないかと思うほどの違いがあります。我々の惜春の想いは、このスープに表れている気がいたします。滑らかながら、とろりとする濃厚なスープは、「グリーンピースが嫌い」な方にこそお試しいただきたいです。冷凍のシュウマイにのっかっているものとは、一線を画します。

 

Brandade de MORUE タラとジャガイモのブランダード 200g (2名様分) ¥1,550≫

 フランスの伝統の逸品は、以前にご案内させていただきました。家でも作ることは可能ですが、Benoitのブランダードは、一味も二味も違います。この機会に、ぜひお試しいただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

Pain de campagne パン・ドゥ・カンパーニュ 1個¥2,600 1/2 ¥1,300 1/4 ¥650(税込)≫

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 以前の「パン・ドゥ・カンパーニュ」も美味でした。しかし、この「パン・オウ・ルヴァン・ドゥ・カンパーニュ」は、別格です。なぜ、前よりも手間暇かけて仕込むのか?「美味しいものを作り上げるため」、ただそれだけの理由です。このパンの詳細は、後日に書かせていただきます。

 

≪グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」5本 ¥1,620(税込)

※誠に申し訳ありません。今期「さぬきのめざめ」の販売は終了いたしました。

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 Benoitの春は「讃岐から目覚める」!香川県の至高の産物、アスパラガス「さぬきのめざめ」がBenoitに届いています。どれほどの特選食材かは、以下のブログを参照ください。kitahira.hatenablog.com

 このテイクアウトは、このメールを受け取っている皆様だけのご案内です。Benoitシェフ野口と話した結果、「美味しくお家でアスパラガスを楽しむためには、茹でたてが一番」という結論に達しました。そこで、河田さんのグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」を、30cmほどの収穫したままの長さのまま、皆様にお渡ししようと思います。もちろん、下ごしらえは済んでいるので、お家では「茹でるだけ」です。切らないで茹でたいですが、長いため、皆様のお家のお鍋しだいでしょうか。たっぷり熱湯に、海水ぐらいの塩分濃度で、3~5分茹でます。この時間の誤差は、お湯の量によります。

 「茹でる」とぃう一手間はかかりますが、お家で茹でたての美味しさをご堪能いただきたいと思います。「口福な食事」なひとときを、惜春を感じながらお楽しみいただければ幸いです。

 5月17日からの販売です。グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」の入荷状況によりご期待にお応えできないこともございます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 

Benoitで「酒販免許」を申請中です。≫

Benoitが所蔵するワインを、お家でもお楽しみいただこうと、期間限定「酒販免許」を申請しております。販売が可能となりしだい、再度ご案内させていただきます。Benoitのテリーヌやフォアグラと、香ばしいパン・オウ・ルヴァン。アラン・デュカスオリジナルシャンパンとのマリアージュが、お家で実現する日も、そう遠くないことでしょう。

 

 皆様がBenoitでお食事をされた際に、お持ち帰りいただいても。ご希望のお時間に、Benoitへ受け取りにいただいても。さらには、お車でお越しの際には、ドライブスルーのように1階の青山通りまで届けに伺います。何気兼ねなくご連絡ください。

 

 日本に根付く歳時記の世界は、農作業の暦であり、古人の英知の結晶ともいえます。カレンダーという便利な代物に頼ってしまったがために、ついつい見過ごしてしまいがちな変わりゆく自然の機微を、昔の人々は読み取り、農作業の目安にしていました。我々日本人が、桜の開花を待ち望み、桜前線に一喜一憂するのはなぜなのでしょうか。理由は多々あるかと思いますが、「日本人が農耕民族である」ことが大いに関係している気がいたします。

 「農耕の神」を指し示す言葉は「さ」なのだといいます。その神が山より里へやってくることで、無事息災に稲が育つ。実りの時期を迎えた後に、神は山へと帰ってゆくのだと考えていたようです。春、山よりいでし「農耕の神(さ)」が、宿る場所が、「座」を意味する「くら」なのだといいます。桜は「さ・くら」であり、神が降り立つ場所が「桜」だと。

 花咲く頃に神が宿り、豊穣を祈りお祝いをすること、これが花見のルーツなのだといいます。桜の開花に心躍る心地がするのは、古人の想いが、今なおDNAに刻み込まれているからなのでしょう。この桜の開花を目安に、「耕(たがえし)」「田打ち」とよばれる、田の土を起こす作業が始まります。北の地では桜の開花が遅いため、コブシが桜の代わりでした。そのため、コブシを「田打ち桜」と呼ぶのは、このような理由からなのです。

 稲作の農耕民族であるがゆえに、桜の開花が仕事始めのタイミングです。その名の如く、「田を起こし」た後に「畔塗(あぜぬり)」、別で「苗代(なえしろ)」をこしらえると同じく、「種浸し」そして「種蒔(たねまき)」と。田植えの準備が整うことで、田に水を引き込む作業が始まります。

 今でこそ、機械化が進み、耕運機や田植え機が活躍することで、時間短縮を図ることが可能となりました。しかし、稲を育むのは太陽であり大地であるため、栽培手順の流れは今も昔も変わりません。今は、隅々まで耕された田に水を引き込み、再び耕す「代掻き(しろかき)」へ。ビニールハウスのない時代にあっては、発芽に必要な温度を見極めながら苗代を作り上げる作業を並行しながらの、なかなかの重労働だったことでしょう。

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 日本有数の米どころである新潟県。広大な越後平野を有し、豪雪地域ならではの水資源の豊かさが、この名声をもたらしたのでしょう。先日、鹿児島県のある農家さんが、田んぼの休眠期である晩秋から、特産でもある「そらまめ」を植えることで二毛作を行っている話を耳にいたしました。なるほど、マメ科の植えることで、田にも良い影響がでるのだと。ところが、新潟県で「二毛作」は、雪に覆われる地ゆえにまったく不可能なこと。春を告げる「梅」が花開く時期も遅ければ、「桜」もまたしかり。

 冬の間、日本海から湿気のある風が越後山脈にぶつかることでもたらされる大雪は、豊富な雪解け水を確保する利点はあるものの、人々は長く厳しい冬の期間を過ごすことになります。寒冷な期間が晩春まで続くのかと思いきや、新潟県では春が急ぎ足で訪れます。

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 南から吹き荒れる春の風が、越後山脈を乗り越える際に「フェーン現象」を引き起こし、いっきに気温が上がってくるのです。関東では、梅が咲いた後に、桜の開花が待ち遠しくなる「間」がありますが、新潟県では意外に短いものです。そして、米どころだからこその多忙を極める日々が到来いたします。

 今か今かと待ちわびる春告げる「鶯(うすいす)」の初音(はつね)で、仕事始めに対する心の準備を整え、蛙の鳴き声を耳にすることで、「田植え」という一大作業へ向かう心を決めるのでしょう。関東ではGW前に田植えが始まりますが、新潟ではその後です。

 田に水を引き込み、代掻きを行う。陽が暮れ始める頃には家路につきます。人々で賑わいのあった田も、夕刻には静まり返り、耳にするのは嬉しそうに合唱する蛙の初音。目覚めさせてくれたお礼なのか、まだまだ続く農作業への励ましなのか?「蛙の初音」は、今も昔も変わることのない新潟の春の風物詩です。

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最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com