kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

「Benoit営業再開」のご案内です。

花にそめし 心をやがて うつすとは いはでもふかし 山吹の色  進子(しんし)内親王

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 桜(サクラ)の名称は、田の神を意味する「サ」と、その神が舞い降りる居座る場「クラ(座)」から成り立つといいます。桜の開花は、稲作の最初の工程である「田起こし」の目安となるため、稲作文化の我々日本人にとっては、親密な関係性があります。冬の閉ざされた自然環境の中、桜の開花を望むことで耐え抜いてゆくという、ある意味「心の拠り所」であったかもしれません。

 平安時代以降、和歌の中で「花」といえば「桜」のことを指し示します。もちろん、桜の品種であるソメイヨシノがあったわけはなく、山桜のことを詠っていたのでしょう。桜色とは何色か?淡いピンク色を想像されるかもしれませんが、山桜が花咲く時に開く若葉の色。艶のある小豆色に似ているでしょか。この色を着物に染め上げて、桜散る頃に花を愛でに行くのが風流だったのだといいます。

 これほどまでに想いのこもった「花」が散りゆく。葉桜と姿を変えた時、古人は得も言われぬ喪失感に包まれる。そのまま、視線を下へ向けると、新緑が生い茂る中に、輝かんばかりに黄色の花が咲き誇ってるではないですか。「桜の花に染まった私の心を、そのままあなたへ向けることにします。教えてくれずとも十分に理解していますよ、山吹の花よ。」と、感慨深いものです。

 「うつす」と「いはでも」が掛詞(かけことば)であることを考えると、ヤマブキ側からも読み取りたいと思います。「桜の花に染まった皆様の心もち、そのまま移(うつ)してください。人知れず色鮮やかに咲き誇っている山吹の花へ」となる。勝手気ままな解釈ではありますが、なかなか興味深い歌ではないでしょうか。さて、進子内親王の心中やいかに。

 

 昨今の「新型コロナウイルス災禍」は、日々の日常を奪い去りました。桜前線に一喜一憂するはずが、一憂二憂するばかり。しかし、思い悩んでばかりではいけません。桜が散っても、視線の向きを変えれば、新緑の中に黄金色に輝く山吹が咲き誇っている。この憂いた気持ちは、何をどうしても霧散することはありません。この無念の想いを秘めつつ、視線を変えてみることで、今後どうすべきなのかの道筋が見えてくる気がいたします。

 今回の災禍は、飲食店の弱さをまざまざと見せつけられました。人生を豊かにするうえでもなくてはならないものですが、平穏無事な状況下でしか成り立たないということ。自走できる船とは違い、風を頼りに進む帆船のようです。帆船は、港に停泊するさいに錨をおろし、出発の際にこの碇を巻き上げる力を利用して、行き足をつけます。今のBenoitは、このウイルス災禍によって急ぎ帆を閉じ、漂っている帆船のようなもの。

 経済が停滞しているように、海も凪いでいる。いざ出発しようにも、行き足のつかない帆船では、風が吹かない限りどうすることもできません。約3週間に及ぶ営業自粛で、Benoitの時が止まりました。いずれ迎える本格的な営業を前に、時間をかけて「失われた時」を取り戻すべく、粛々と準備を進めるかのように営業再開を試みさせていただこうと考えました。

 

 先日、何をどうしたものか思案するも、「何もしない」ことが良策と判断し、Benoitの「営業自粛」を決断いたしました。当初は28日(火)までの予定でしたが、現状を鑑み月末の30日(木)まで「営業自粛」を延長し、51()より営業を再開させていただきます。しかし、東京都の「緊急事態措置」を鑑み、ディナーの営業時間を大幅に変更させていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご容赦のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

202051(金曜日)からの営業は下記の通りです。

≪ランチ≫ 1130分から1530分まで(14時ラストオーダー)

≪ディナー≫ 1730分から2030分まで(19時ラストオーダー)

※さらなる営業時間の変更や短縮の可能性もございます。ウイルス災禍収束のため、皆様にはご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

 Benoitでは、お客様の安全を第一に考え、従業員全員の手洗いと消毒、マスク着用を義務といたします。出勤時と営業時間の前後はもちろん、店内6か所に設置している除菌用アルコールを使い、営業時間内外を問わず徹底してまいります。店内の除菌清掃はもちろん、皆様がお手に触れるカトラリーや食器類にいたっては、業務用洗浄機を使い高温(80℃以上)にて除菌洗浄を徹底いたします。

 営業のオペレーションにおいては、お越しいただいたお客様が隣同士に隣接しないように、1テーブル以上席間を空けることで、「密」を排除いたします。出勤時にスタッフ皆の健康を確認し合い、自分を含めたスタッフ皆がいつも以上の体調管理を心がけ、スタッフ同士の「密」を避けるためにも最小人数にて営業に臨ませていただきます。

 

 目に見えないウイルスに対し、医療従事者の皆様は身の危険を顧みず最前線で奮闘してくださっております。新薬開発に向け、寝る間も惜しんで研究を重ねている方々がいらっしゃいます。物流を途絶えないように、そして生活必需品滞りなく取り揃え我々に提供してくださる方々がいる。彼ら皆様を支えてくださっている保育園や学童、役場など、多くの方々がいらっしゃいます。

 今までの日々の生活が、知らない方々の尽力の上で成り立っていることに気付かされます。この場をお借りし、深く深く御礼申し上げます。Benoitは、再開を決定いたしました。これまでの皆様の努力を胸に刻み、細心の注意をもって営業に臨むことをお約束いたします。

 

 いまだ終息の見えないウイルス災禍です。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。旬の食材には、今我々が必要としている栄養に満ち満ちています。免疫力を高める意味でも、旬の食材を食し、この危機を乗り越えてゆきましょう。この未曾有のウイルス災禍は「収束」へ向い、必ず「終息」するものと信じております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

 

「やまとうたは人の心を種として、万(よろず)の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、こと(事)わざ(業)繁きものなれば、心に思ふことを見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。花に鳴く鶯(うぐいす)、水に住む蛙(かわづ)の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける」

 古今和歌集の撰者の中心的な役割であった紀貫之が、その序文に平仮名で書き記したものです。和歌とはどのようなものかを、教えてくれています。

 「やまとうたは、人の心を種とし、数え切れないほどに生い茂った言の葉である。世に命を授かったものは、多くのことを経験してゆくことで得ることのできた、心に思うこと見たこと聞いたことを言い表したもの。花で鳴いているウグイス、水に住んでいる蛙の声を聞くと、生きとし生けるものを、歌として詠まないことがあるでしょうか。」

 飲食の道を志し、すでに20年近い経験となりました。皆様より𠮟咤激励を賜りながら、少しばかりは成長したものかと思うも、まだまだ達人には程遠い力量です。いかに「口福な食時」なひとときを、皆様に過ごしていただくことができるのだろうか。そう思案する中で、食材や料理、調理人のこだわり、さらに心に思うこと見たこと聞いたことを、皆様にお伝えしてゆくことも、「口福な食時」へ誘(いざな)うために大切なことなのかもしれない、そう考えるようになりました。

 万(よろず)の言の葉となるよう学び、文字として書き記すことで、皆様の都合の良い時に、読んでいただけるのではないか。もちろん、素人の自分が和歌を詠うなどとはもってのほか。古人の英知をお借りして、皆さまに季節のお話を交えながらお伝えしてゆこうと思います。

 

以下は、Benoit営業自粛の期間に、ブログに書き記した5本です。お時間のある時に、ご訪問いただけると幸いです。

 

立てば芍薬(しゃくやく) 座れば牡丹(ぼたん) 歩く姿は百合(ゆり)の花

 今咲き誇るのが牡丹の花。そこで、3つの花を調べつつ、「座れば牡丹」について考えてみました。この結論は、偶然なのか?こじつけなのか?

kitahira.hatenablog.com

 

旬の食材には、今我々が欲している栄養価が満ち満ちています。」

 いつもであれば、ここで熊本県天草の特選食材「柑橘」を、贅沢に使用した料理やデザートをご紹介するのですが、残念ながら今春はそうもいかないようです。ただ、このまま旬の食材を見過ごすこともままならず、Benoitで購入していた、購入予定であった「美味なる柑橘」をご紹介させていただきます。スーパーや八百屋さんで見かけた際の、参考になれば幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 いまだ終息の見えないウイルス災禍に対し、今我々にできることは家にいること。そこで、一般社団法人天草宝島観光協会にご協力いただき、皆様にBenoitが購入していた、購入予定であった柑橘の産地「熊本県天草」をご紹介させていたきます。≪前編≫は、歴史を顧みながら少しばかり「﨑津集落」へ向かいます。

kitahira.hatenablog.com

 

 ≪後編≫は、「島原・天草の乱」に触れながら、旅路を進めてゆきました。少しでも、皆様が天草へ興味をもっていただき、新型コロナウイルス災禍終息の折には、足の赴くままに、彼の地をご訪問いただけると幸いです。kitahira.hatenablog.com

 

 本来であれば、もっと早くお話すべきお話です。完熟キンカン「たまたま」がたまたま教えてくれたことです。Benoitの職人気質をご紹介させていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com