kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2020年 干支「庚子(かのえね)」のお話です。

今年の干支は「庚子(かのえね)」です。

 古の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしました。その英知の結晶が「干支」です。甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)…と続く「十干(じっかん)」と、馴染みの子(ね)・丑(うし)・寅(とら)…と十二支。この10と12という数字が、我々の生活の中でどれほど溶け込んでいるか。算数を学ぶ上で、数字の区切りとなるのが10。そして、半日は12時間、1年は12ヶ月。10と12の最小公倍数は「60」。還暦のお祝いとは、この漢字の通り「暦が還(かえ)る」人生60年目の節目を迎えたことを祝うもの。そして、あてがわれた漢字は、それぞれに樹の成長を模したものだというのです。

 2019年の干支のお話は、「はてなブログ」に記載しております。お時間のある時にご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 人が抗しがたい時世の勢い、世相には10年というサイクルを見出し表現したものが、「十干」だと。1番目の「甲(きのえ)」から始まり、6番目の「己(つちのと)」までは、樹そのものの成長を、7番目の「庚(かのえ)」から最後の「癸(みずのと)」は花を咲かせ種を生み出すことを象(かたど)っているといいます。かたい殻に覆われた状態の「甲 (きのえ)」、芽が曲りながらも力強く伸びるさまが2番目の「乙(きのと)」。芽が地上に出て、葉が張り出て広がった姿が「丙(ひのえ)」。そして「丁(ひのと)」は、重力に逆らうかの如く、ぐんぐんと勢いよく天に向かい成長し、「戊(つちのえ)」に大いに茂る。2019年「己(つちのと)」では、勢いよくぼうぼうに生い茂った樹が、理路整然と体裁を整え、効率よく光合成をおこなうことで養分を蓄えてゆく。

 2020年は7番目の「庚(かのえ)」という、馴染みの無い漢字です。「説文解字(せつもんかいじ)」によると、秋にたわわに実がついた様子を象るのだといいます。「庚」は「己」を継承し、人のへそに象るとも。「庚庚(こうこう)」とは、樹木がしっかりと実をつけたさまを意味するのだといいます。さらに、「釈名(しゃくみょう)」によると、「庚」は「更」であり、固いさまを指し示す。そして、「更」は新しいものへとかえるという意味を含みます。

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 昨年までの成長から、次の世相へ引き継ぐための種を作る過程に入りました。「庚」には「道路」という意味もあります。10年の世相サイクルの中で、6年かけて育まれた時世の勢いによって方向づけられた「道」は、「夷庚(いこう)=平坦な道」となるか「険庚」となるかは、はたまた「夷険(いけん)な庚」となるのか。実を成す初年度なために定かではない、そのために不安が募ります。しかし、「庚」が堅強であり道であるならば、紆余曲折することのない道が続いているはずです。どのような道のりなのか?「各々の心の持ちよう」だと教えてくれるのが、人世を表現する「子」のようです。

 

 人世における栄枯盛衰は世の常であり、繰り返すもの。古人はここに12年を見出します。人生もまた、樹の成長になぞった漢字1文字をあてがいました。2020年は1年目の「子(ね)」です。子供のことでもあり、果実の実や植物の種をも意味する「子」。陽気が滋(しげ)り始めると「説文解字」は教えてくれる。さらに「釈名」では、「子」は「孳(し・じ)」であると。陽気が萌えて下に孳生(じせい)する。「孳」とは、「増える/産み育てる」という意味があり、「子」は「蕃孳(はんし)=おおいに茂ったさま」の状態だといいます。昨年の「亥(い)」が、樹が葉を落とし、種に生命を引き継いだ状態なのだと。さらに、百物を収穫して、その良し悪しの真偽を核(えら)びとる。まだまだ可能性を秘めた種が多いことを示唆しつつ、確固たる種となり越冬(丑)するための準備期間ということなのでしょうか。

 「易経」とは古代中国の賢人が生み出した占い法です。自分が占い師ではないため、詳細は専門家のHPを参照ください。今回、なぜ易経を取り上げたかというと、「子」が易では「坎(かん)」の卦(か)に相当するというからです。易を構成する基本形を八卦(はっか)と呼び、その八卦を上下で組み合わせたものが「六十四卦(ろくじゅうしか)」であるといいいます。この八卦のひとつが「坎」というもの。これを図象化したものが以下に添付した画像です。

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 短い横線が山々となり、山間を流れゆく川。これが「坎」の表現するところのようです。この図象を縦にして眺めると「水」に見えなくもありません。そう、「坎」は「水」を象徴し、「険(けん)=険難」であるというのです。水は高き所から低き所へと流れ続ける忙(せわ)しさもありながら、正確な平を意味する「水平の準拠」ともなります。「坎」の卦が上下に姿を見せる六十四卦では、「坎為水(かんいすい)」と書き記しています。

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 たびたび出てくる「説文解字」と「釈名」という名前。本というよりも辞典と言い表した方が良いかもしれません。しかし、これらが編纂されたのは、古代中国でした。「説文解字」は紀元後100年頃、六書(りくしょ)の区分に基づき、「象形」「指事(指示ではないです)」「会意」「形声」に大別され、さらに偏旁冠脚(へんぼうかんきゃく)によって分類されています。「指事文字」とは、絵としては描きにくい物事や状態を点や線の組み合わせで表した文字をいい、「上」や「下」が分かりやすいと思います。十干の「己」は指事文字です。そして、「会意文字」は、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもの。例えば「休」は、「人」と「木」によって構成され、人が木に寄りかかって休むことから。干支の「亥」は会意文字です。「偏旁冠脚」は、漢字を構成するパーツのこと。そのパーツの主要な部分を「部首」と定め、現在日本の漢和辞典は「康熙字典」の214種類を基本にしています。しかし、偏旁冠脚では、漢数字、十干や干支もこのパーツに含まれ、その分類区分は、「一」から始まり「亥」で終わる、総数が540です。気づかれましたか、数あるパーツの中から、殿(しんがり)を担ったのが「亥」です。この後、さらに時は流れ紀元後200年頃、音義説によった声訓で語源解釈を行い編纂されたものが、「釈名」です。

 万物を陰と陽にわける陰陽説と、自然と人事が「木・火・土・金・水」で成り立つとする五行説が合わさった考え方が、陰陽五行説です。兄(え)は陽で弟(と)は陰。陽と陰は、力の強弱ではなく、力の向く方向性の違いのこと。陽は外から内側へエネルギーを取り込むこと、陰は内側から外側へ発することだといいます。運の良い人とは、陽の人であり、外側から自分自身へ力を取り込んでいる人のこと。「運を呼び込め」とはよく耳にいたします。陰の人とは、運が悪いわけではなく、自分自身のみなぎるエネルギーを外に発している人のこと。一方が良くて、他方が悪いわけではなく、すべては陽と陰の組み合わせです。陰陽の太極図を思い浮かべていただきたいです。2つの魂のようなものが合わさって一つの円になる。一方が大きければ、他方は小さくなり、やはり円を形成するのです。森羅万象全てがこの道理に基づくといいます。

 

 2019年は、時世「己(紀)」が教えてくれるように、ひとつの区切りとして人倫の道を外さぬよう、なりふり構わず頑張ったことを省み、紀識(きしき/しるすこと)し紀念(きねん/こころにとどめて忘れないこと)することを促すのだと。忘れ去るのではなく、真摯に受け止め真実の核心となし、次へ引き継いでゆくこと。引き継ぐ先は、自らの人世である「子(ね)」の2020年へ。時世が導いた大通りのどの場所を進むのか?これから4年をかけて次の世相へ続く道の方向は同じでも、道の右側っを通るのか左側を通るのか、はたまた中央なのか。昨年までに学んできた人世の多々ある成果を取捨選択し、選ばなければならないのでしょう。

 「庚」は「更」であることから、2020年は「更始(こうし)=古いものを捨て、初めからやり直すこと」の年であると。時世は成長から継承へと移る中で、先行き見えない不安が募る1年となりそうです。しかし、人世の「子」が時世を乗りきる指針を教えてくれています。「子」は「孳」であり「坎」でもある。「孳孳(しし)」とは勤勉に努めることを意味する。「坎」の卦が上下に姿を見せる、六十四卦でいう「坎下坎上(かんげかんじょう)=坎為水」は、「重なる険難はあるが、真実をもって行動すればうまくいく。」ということを象っているといいます。山間を流れるせせらぎのように、一時に集中するのではなく絶え間なく努力を続けること、そして水でいう「水平」の如き確固たる準則を、いうなれば信念を持って、今年の時世を乗り切りなさいと教えてくれているようです。

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 1984年の「甲子(きのえね)」に幕開けした60年の世相のサイクル。「世」の字には30年という意味が込められていると聞きます。60年の中に30年の2つの世相。2014年「甲午(きのえうま)」からはすでに後半の世相が始まっています。還暦の中には6つの時世と5つの人世。人世における栄枯盛衰は世の常であり、これを乗り越えなくてはなりません。その先に、宝の地図(人世のさらなる高み)を見つけることができるはずです。

 今年の干支の動物には「カピバラ」の画像を使用いたしました。外敵への弛まぬ警戒心も持ち続けるも、家族仲間と無理をせずに悠々自適に日々を過ごす。時に水の中へ、時に陸の上にと、危険をひらりひらりとかわす術は、今年を乗り切るためのヒントが隠されているような気がいたします。水陸を自在にこなす「カピバラ」こそ、まさに理想の「庚(水)」の「子(ねずみ)」であると。

 カピバラのお話は、「はてなブログ」に記載しております。お時間のある時に、以下よりご訪問いただけると幸いです。

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いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com