kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitのセラーから、特選ワイン≪Dom.CHANSON≫のご案内です。

 世界一の収量を誇る果物は、「ブドウ」です。もちろん、生食と加工用を含めてです。世界規模で栽培されているだけに、その歴史は深く、紀元前3000年前には、黒海カスピ海沿岸ではすでに栽培化が成されていたといいます。文明の伝播が、そのままブドウ栽培地という様相を見せる中で、ローマ帝国時代に加速度的に版図を広げたのだといいます。彼の帝国が崩壊すると、ブドウ栽培の伝道者としての役割を担ったのが「修道士」でした。

f:id:kitahira:20200817113745j:plain

 キリスト教を布教する目的で、イタリアからフランスへ、プロヴァンス地方を境に、さらに北へ西へと向かっていきました。その際に、拠点となる教会を中心に町を造り上げ、周囲には神聖なる「ワイン」を醸すために葡萄を植え付けていきます。しかし、肥沃な土地は葡萄など植えることなく作物を育て、民に食を提供しなくてはなりません。

 自給自足のできる農業国フランスとはいえ、昔々はまだまだ未開の地。生きるための糧こそ、まず先に確保しなければなりません。嗜好品のワインは「二の次」だったはずです。そこで、他の作物に比べ屈強な葡萄は、斜面や他の農作物が育たないような不毛の地に植えられることになりました。これが、今のワイン産地の礎を築くことになります。

f:id:kitahira:20200817113709j:plain

 過酷な環境でこそ高品質の葡萄が育つとは、今でこそ周知の事実です。かつては、生きるために必要不可欠な食料を確保しなければならない、その糧が育てられない「不毛な地だからこそブドウしか植栽できなかった」。斜面や地盤の緩い危険な地もあったことでしょう、過酷な環境の中で開拓を進めていったのです。

 彼らは、試行錯誤を繰り返すも、情報が無い中で多くの生死を分かつ失敗もあったことでしょう。そして、確たる情報もない中で、持ち込んだブドウを植栽する。かつてはブドウ品種というものは明確ではなかったため、ブドウ畑には多くの品種が混植されていたはずです。

 修道士たちの苦悩と苦労は計り知れません。フランス中央のブルゴーニュ地方は、いまでこそワインの銘醸地として名を覇していますが、冷害と紙一重の厳しい自然環境もった地です。この過酷な自然環境が、混植されていたブドウ品種を淘汰してゆくことになります。そう、彼の地を代表するブドウ品種、「シャルドネ種」と「ピノ・ノワール種」は、この地に適した品種だったのです。

f:id:kitahira:20200817113717j:plain

 

 パリから南へ東へと向かった先に、スイスを国境を接する「Bourgogne-Franche-Comté (ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ)地域圏」が広がっています。首府は「Dijion (ディジョン)」。この街から、名立たるワイン畑を横目に、南に進むと「Beaune (ボーヌ)」の街が迎えてくれる。

 ワインの銘醸地として、南北に長いブルゴーニュ地方の中心にあり、まわりはもちろんブドウ畑が広がる。1443年にブルゴーニュ公国の宰相ニコラ・ロラン氏が創設した「ホスピス・ドゥ・ボーヌ」は、その荘厳たるいでたちに、美しくカラフルな屋根が特徴の建物が目を惹きます。かつては、王侯貴族から寄進されたブドウ畑から醸されたワインを販売し、その資金をもとに貧しい人々に無料で医療を施したといいます。いまでは、歴史博物館であり、ワインオークションの場として活用されています。

 ボーヌ市街地の北側に、1750年から素晴らしいテロワールを表現したワイン造りを行なっている老舗があります。45haの自社畑を所有し、そのうちの殆どがプルミエ・クリュとグラン・クリュ。また、パートナーの契約農家から供給されるブドウで自社畑産ワイン同様に高品質なワインを醸しているのです。この造り手は…

Domaine CHANSON (ドメーヌ・シャンソン)」

 

 1750年にシモン・ヴェリー氏によって創立された、ボーヌで最も古い歴史をもつワイナリーの一つ。1777年にポール・シャンソン通りにあるドメーヌを購入し、当時国有であった「バスティオン(稜堡式城郭※)」を借り受けて、ワイン熟成を行うカーヴとして使用していました。1794年にシャンソンがバスティオンを購入し、現在もカーヴとして使用しています。

 ※大砲を主要防御武器として設計した城郭。多数の大砲が死角を補い合うように設計されたもので、星形要塞であることが多い。16〜18世紀にヨーロッパで建造され、日本では幕末に五稜郭などに取り入れられた。

 1847年にジュール・ヴェリー氏は、40年のビジネスパートナーであるアレクシス・シャンソン氏に売却し、「ドメーヌ シャンソン」として再スタート。近年では1999年にSJB(ボランジェグループ)の傘下となり、2001年に大規模な投資を行い、目を見張る品質の向上につながっています。

 

 さて、なぜDomaine CHANSONの話をしているのか。いつもであれば、ご当主が来日し、Benoitでワインパーティー開催!と告知するのですが、昨今の状況はこれを許しません。そこで、皆様には、この老舗が醸すワインをBenoitのお食事とともに、皆様のご都合で、お楽しみいただこうと。特選ワインを特別価格で、皆様にご提案させていただこうと思います。Benoitシェフ・ソムリエ永田の、この一言から始まりました。

「このような逸品が、ワインセラーの奥底に眠っているのです」と。

f:id:kitahira:20200817113705j:plain

≪白ワイン≫

2015 Chassagne-Montrachet 1er cru Les Chenevottes

16,000円(税サ別)

2015 Puligny-Montrachet 1er cru Les Folatières

16,000円(税サ別)

≪赤ワイン≫

2012 Corton grand cru

16,000円(税サ別)

※すでに特別価格なため、ワインの日では割引対象外となることをご了承ください。

 

  希少な逸品なために、もちろん各1箱(12本)しか保有しておりません。ご希望の際は、すぐに返信またはBenoitへご一報をいただけると幸いです。2020年10月末までに、Benoitへお越しいただきますこと、なにとぞよろしくお願いいたします。ご予約日まで、希望数を大切に保管させていただきます。

 どれほど美味しいワインなのでしょうか?ワインごとに自慢話を書き記させていただきます。少しでも参考になれば幸いです。

 

2015 Chassagne-Montrachet 1er cru Les Chenevottes

シャサーニュ・モンラシェ プルミエ・クリュ レ・シュヌヴォット

 2haの特別な区画は、名高いモンラシェの目と鼻の先にあり、シャサーニュ特有の「石ころの上にある粘土石灰質の土壌」です。ブドウ樹は、密接に絡み合う小さな塊をなかのような独特な姿を成している。これは、丁寧な剪定がなせる業であり、一朝一夕にできるものではありません。畑は完全な東向き。吹き抜ける涼やかな風が、このワインに芳醇な香りと瑞々(みずみず)しさを与えているようです。オーク樽にて熟成すること11ヶ月なり。

 白金色のきれいな色合い。白い花の思わせる複雑な香りに、ほのかにレモン感じとれます。風味のあるテクスチャーと重厚なボリュームは圧巻なり。

 区画名「シュヌヴォット」は「シャンヴル(小さな麻)」という語が由来で、かつては麻を植えていたのかもしれません。何はともあれ、ブドウを植える決断が早かったことで、今の名声を勝ち得たのでしょう。

 

2015 Puligny-Montrachet 1er cru Les Folatières

ピュリニー・モンラシェ プルミエ・クリュ レ・フォラティエール

 区画はグラン・クリュのシュヴァリエ・モンラシェやモンラシェに非常に近接した理想的な位置にあります。粘土の割合が多い土壌は、ワインに繊細なミネラルを与え、シャルドネ種の真価を発揮させるようです。畑は南東向きの理想的な斜面。植栽間隔の充分とることは、ブドウ樹は地中深くに根を張ることを可能としているようです。12ヶ月オーク樽にて熟成。

 淡い黄金色。香りは総じてフローラル。スパイスのニュアンスによって引き立てられた、熟れた白い果実やトロピカルフルーツのアロマなどもあり、その背後にミネラルを感じます。味わいには複雑さがあり、それでいて均整がとれている。構成の全てが上品で、余韻は美しい。

 区画名「フォラティエール」の語源は「フォル(狂った)・テール(土地)」であるという。これは、どう捉えるべきなのでしょうか?狂おしいほど愛おしいのか、この地に何かを植えることは狂っていると古人は考えたのか?

 

 上記2本の白ワインのヴィンテージは2015年です。この年は理想的な気候条件だったといいます。春さきの昼夜の気温差が理想的なほどに大きかたこと。さらに、例年稀に見るほど、栽培者にとって寛大である夏をもたらしたこと。この完璧とまでいえる気候条件が、ブドウを最良の成熟と言える水準に導きました。収穫は9月のある晴れた日に始めることができ、白ワインにとっては、トロピカルフルーツやフローラルのアロマな香りが現れるヴィンテージとなったのです。

 

2012 Corton grand cru

コルトン グラン・クリュ

 生産区域はコルトン山の斜面、中腹に位置し、区画は東向き。中腹の土壌が赤みを帯びて小石が多く、褐色の石灰岩と豊かな泥灰質が混じり、カリウムの含有量が高いといいます。そう、ピノ・ノワールに最適な土壌なのです。

 2012年は前年からのとても寒い冬となり、春は寒い上に雨が続きました。春の長雨はミルランダージュ(結実不良)を招き、雷雨を伴う夏の天気が、栽培者の不安を煽(あお)ります。しかし、8月後半の晴れ晴れとした夏空は、強烈な暑さを導きます。9月には、さんさんと陽射しが降り注ぐ中で始めることができたのです。ミルランダージュによる少ない果実は、見事なまでに凝縮することになり、収量こそ少ないですが「偉大なる年」となったのです。細心なワイン醸造と16か月にもおよぶたる熟成、さらに瓶熟成が、ワインに豊潤な香りと繊細な味わいを与えることになりました。

 美しいルビー色。赤い果実や黒い果実を思わせる中に、奥ゆかしくフローラルな香りが潜む。奥行きある頑健なストラクチャーと、凝縮感を伴った複雑さ、心地良いタンニンによって構成される味わいは、余韻となって長く続きます。

f:id:kitahira:20200817113720j:plain

 美味しいかどうかは別として、ブドウ果汁が発酵したものをワインとするならば、有史以前から存在していたはずです。収穫したブドウを、保管しようと器の中に入れることで、果実が圧(お)し潰される。すると、果皮に付着している天然酵母が発酵を行うたうため、人類が最初に口にしたアルコール飲料ではないかと言われています。

 ブドウは「液果(えきか)」に分類されるほど果汁に富んでいます。そのほとんどが水で数%の成分の違いが、ワインの品質に左右するというのです。ワインの造り手は、飽くなき探求心と弛まぬ努力を、この数%の僅かな違いに、まさに心血を注いできたのです。

 どんなに醸造技術が発達したとしても、最高のブドウ果実を無くして最高のワインは生まれません。5の能力のブドウから10のワインは、魔法でもかけない限り醸せません。例外はありますが、何も加えずに造られるワインだからこそ、素材そのものが重要なのです。さらに、10の能力のブドウから5のワインが生まれることは往々にしてあること。そのため、ヴィンテージが云々、造り手が云々と語られる所以はここにあるのです。

f:id:kitahira:20200817113713j:plain

 老舗のDomaine CHANSONが、連綿と引き継がれてきたブドウ栽培、醸造技術を駆使して醸したワイン。そこへ、「熟成」という魔法がかけられることで、いかような美味しさを導き出すのか?この未知なる扉を開けるのは、皆様です。

 

≪待望の桃デザートが、新たな姿で登場です!≫ 

 待望の桃のデザートのご案内です。今年は「ピーチ・メルバ」ではありません。ついにBenoitパティシエールチームが新作を登場させたのです。デザート名は、「岐阜県飛騨もものヴァシュラン」。はて、ヴァシュランとは?

kitahira.hatenablog.com

 

 今年の干支である「庚(かのえ)」という漢字を使った「庚伏(こうふく)」という言葉があります。夏の一番暑い時期という意味なのですが…考えすぎでしょうか、今夏は十分な暑さ対策が必要なのかもしれません。

 外すことのできないマスクは、体の暑さを逃す妨げになるばかりか、水を飲む行為すら億劫(おっくう)にいたします。今夏は、意識的にというよりも計画的に、こまめな水分補給と少しばかりの塩分補給をお心がけください。

 

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com