kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年5月 Benoit「首夏の夕暮れ特別プラン」のご案内です。

小山田(をやまだ) 水のながれを しるべにて せき入るるなへに 鳴くかはづかな  藤原定家

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 稲作は豊富な水資源を必要とするため、平野一面の田園風景とするには、高度な灌漑技術が求められました。昔々の日本において、皆がこの技術を習得できていようはずもなく、多くの田は「水は高き所から低き所へ流れる」という理を利用するために、山間(やまあい)に開墾されてゆきます。だからこそ「山田」と表現する。

 定家の目前にあるのは、高低差の少ない棚田のような光景なのでしょうか。小川から流れを止めているのは、石なのか土なのか。塞(せ)き外すことで、田へ流れ込む清らかな水。これを合図とするように、蛙が鳴き始めたのでしょう。

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 桜の開花を目安とし、「田起こし」を行います。この田起こしとは、その字の如く、休眠していた田を目覚めさせるように、鍬(くわ)で鋤(す)くこと。桜の開花が日を違(たが)えながら北上してゆくことで、田起こしは南から始まります。東北地方では、桜の開花を待っていると稲の生育期間が取れないため、コブシの花が目安となるといい、この樹を「田打ち桜」とも呼んでいます。

 田起こしによって空気を土壌に含め、苗代の早苗(さなえ)の成長を見守りながらしばしの休養をとります。そして機を見計らい、田へ水を引き込み一大イベントである「田植え」が始まります。耕運機を引っさげたトラクターや田植機の出現が、どれほど稲作を楽にし、田植の期間を短くしたことか。とはいえ、田植機で植えきれなかった田の隅や、早苗が間抜けしてしまった箇所は手作業であるため、家族総出の作業であることに変わりはありません。自分が新潟県出身なだけに、この田植えの光景はGWの時期と重なります。

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 今では灌漑用の水路が張り巡らされ、川の近辺でなくとも田を広げることができるようになり、一面の田園風景も珍しくはありません。早生、中生(なかて)に晩生(おくて)と田植えをすることで、田起こし後の休眠中の田の隣には水を引いた田があり、そのまた隣では早生の稲が植えられています。

 田起こしは、田を起こすのみならず、越冬するために土中に眠っていた小動物をも起こします。そして、田への引水(いんすい)は、まどろむカエルは覚醒したかのように鳴き始める。長い冬の眠りを邪魔された嘆きの声なのか?それとも、待ちわびた夏の到来を、川の清らかな水が教えてくれたことへの感謝の声なのか?

 

首夏の夕暮れ特別プランのご案内です!

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 陽が西の山の端(は)に沈みゆく頃、Benoitのディナーはしめやかにディナー営業を始めます。GWが始まり、「酒類提供の中止」の寂しさが、これほど身に染みるものかと思い知る日々。「ワインとフランス料理とのマリアージュ」とは、単にアルコールと食事という関係ではなく、歴史に裏打ちされた確固たるもので、切っても切り離せないものでした。とはいうものの、今Benoitが、都の要請に背きワインを提供すべき時ではない、耐え忍ばねばならない時と理性が教えてくれています。きっと皆様も同感していただけるものと考えております。

 Benoitは「休業」ではなく「営業」という選択肢を選びました。Benoitに鎮座する酒の神バッカス慟哭をよそに、「酒類の提供を中止」しています。それでも営業している理由は、季節に「待つ」という優しさはなく、旬の食材も時の経過とともに終わりを迎えてゆくことを、手をこまねいて見過ごすことができなかったからです。

 そこで、Benoitの料理を通して、今我々の欲している栄養に満ち満ちた旬の食材を体の中に摂りこんでいただき、体の中から元気になっていただきたい。そして、騒ぐではない「語らい」によって心満たされることで、このコロナ災禍を乗り越えていただきたいとの願いを込めて、ディナー限定「首夏(しゅか)の夕暮れ特別プラン」をご紹介させていただきます。 

首夏の夕暮れ特別プラン

ディナー

前菜+メインディッシュ+デザート

7,500円→5,000円(税込/サービス料別)

※プリ・フィックスメニューの料理内容は、当日にメニューをご覧いただきながらお選びいただきます。ご希望人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

  期間は緊急事態宣言下の、土日を含めた2021511()までです。私事で恐縮なのですが、5日水曜日だけ、自分がBenoitを不在にいたします。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。笑顔で「語らう」食事は、心身ともに活力をみなぎらせることとなり、昨今のウイルス災禍に対抗する最良の手法かもしれません。お一人様でのご利用も喜んで承ります。適度に自分が「語らい」に伺わせていただきます。

 ご予約は、自分へ(kitahira@benoit.co.jp)ご連絡ください。お急ぎの場合には、Benoitメールアドレス(benoit-tokyo@benoit.co.jp)より、もちろん電話でもご予約は快く承ります。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

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 夕刻ともなり、静寂の田園風景に響き渡る初夏の蛙の声は、まさに「蛙の初音(はつね)」であり、今も昔も変わりません。夏の盛りの鳴き声とは少しばかり違った音色は、いつの時代であれ、耳にした人を郷愁の念へと誘(いざな)います。季節と同じように、食材の旬もめぐってきます。いつでも美味しい食材であるかもしれませんが、「旬」が加味されることで、格別な美味しさとなります。いつの時代であれ、それを口にした人を「口福な食時」へと誘(いざな)います。

 

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com