kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年2月 Benoit「迎えし初春(2月1日から)のお特選食材/料理」のご案内です。

 コロナウイルス禍によって、我々の日常が停滞したとしても、季節は巡り去ってゆきます。各季節には、旬を迎える食材があり、我々を待ってくれるという「優しさ」は持ち合わせていません。旬の食材でこしらえた料理の数々は美味しいばかりではなく、いま我々が欲している栄養をも持ち合わせており、見過ごすという選択は、あまりにももったいないものです。

 そこで、「迎えし初春(21日から)の特選食材/料理」をご紹介させていただきます。

 

迎えし初春(21日から)の特選食材/

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 どうですか!この見事な食べっぷり。上野動物園にお住いのスマトラトラです。美しい毛並みに魅かれるのですが、お肉を嗜んでいる姿を間近で見ると、筋肉隆々とした体つきに恐怖すら覚えてしまいます。確かに大きな猫だといえなくもないですが、獲物を押さえる前足の先から肩までのなんとたくましいことか…肉を食らい、骨のまわりの肉を舐め削ぐ。最後は、ガリガリ、ボリボリと骨を喰らう。本能が食材を無駄にしてはいけないと訴えているのかもしれない。

 寅年だからこそ、肉食なり! …ネコ科なので、魚食もいいよ!

 

≪待望のオニオングラタンスープが登場です!

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 牛のすね肉から、じっくりと2日間かけて旨味を煮出すこのブイヨンこそが、Benoitのオニオングラタンスープの美味しさの決め手です。たっぷりのタマネギを飴色になるまで火にかけ、このブイヨンを注ぎ入れる…ほどよく煮込み、味を馴染ませるように冷やし休ませる。

 オーダーをいただいた後、スープを温め耐熱のスープボールへ注ぎ入れ、パンを浮かべ、グリュイエールチーズをパラパラと。そして、オーブンへ。チーズがとろけ、ふつふつとしたところで、皆様の元へと運ばれてゆきます。素材に何か奇をてらうわけではない、素材そのもの美味しさを十二分に引き出した、まさに時(とき)をなせる美味しさの極みとでもいうのでしょうか。

 このオニオングラタンスープが2月3月の限定でメニューに名を連ねます。下ごしらえに時間を要するため、大量に準備することができません。ご予約の際に、ご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 ライオンの顔があしらわれたスープボール…今年はトラに見えなくもない…

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GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜の選択肢としてランチ+1,000円ディナー+800円でお選びいただけます。

 

≪仔鳩がフランスから飛んできます!≫

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 この画像は日本のキジバトであくまでもイメージ画像です。今回の特選食材は、フランス南西部に位置してるLandes(ランド)県から、空港へ運ばれ、飛行機に乗って飛んでくる仔鳩です。とうとう、Benoitに仔鳩料理が姿を見せるのです。シェフの野口は、あえて「Pigeon(ハト)」ではなく「Pigenneau(仔バト)」を選びました。身質が柔らかい上に、優しい旨味に満ちているのです。

 丁寧に下ごしらえをし、胸肉ともも肉とを低温でゆっくりゆっくりと焼き上げます。このままでも十分に美味しさを堪能できます。しかし、フランスで伝統ある食材だからこそ、シェフはサルミソースというものを仕込みます。ハトを捌いたガラの部位から、じっくりと旨味を引き出すようにジュと呼ばれるソースをとります。そこへ、ハトのレバーを加えることで得も言われ美味しさが加わるのです。

 さあ、この機会にBenoitで仔鳩料理を!

PIGEONNEAU en cocotte, polenta crémeuse, sauce salmis

フランス産鳩のロースト クリーミーなポレンタ サルミソース

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜の選択肢としてランチ+1,500円ディナー+1,200円でお選びいただけます。飛んでくる(飛行機で…)量に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にお伝えいただけると幸いです。

 

Benoitの初春を飾る、旬の野菜は?

 「風」は季節を導き、彩りばかりではなく、喜怒哀楽をも表現しているかのような美しい「風景」を我々に見せてくれます。そして、四季折々の「風」は国内各地方にその地ならではの「風土」を作り出すことになる。その多様な「風土」で育まれた食材は、同じ野菜であっても味わいに些細な違いがあり、それが「風味」となる。太陽の恩恵を十二分に受け、風味豊かに育ったものこそ、旬の食材です。

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 日本でもお馴染みの春食材、「グリーンピース」。ところが、缶詰の普及がこの食材への偏見を導き、好き嫌いの多い食材になってしまったことは否めません。しかし、鮮度の良いグリーンピースの美味しさは格別で、春にしか楽しむことができない旬の味わいです。国産の食材を愛する自分ですが…地中海性気候の中で、太陽をさんさんと浴びて育ったイタリア産に席を譲るしかありません。

 鮮度を犠牲にしてまでもイタリア産にこだわるのは、その豆特有の香りがなく、やわらかい甘み。生の鞘(さや)を口にすると、鞘の筋が口中に残るものの、春らしい甘さを堪能しながらポリポリと食べることができるのです。鞘がそれほどまでに美味しいということは、中の粒粒はいかほどのものか。グリーンピースは、鞘から粒をとってしまうと劣化が激しくなるため、鞘の中に納まっている姿でイタリアから届きます。船便では間に合わないため、もちろん飛行機で。

 地中海沿岸の風土が育んだ、イタリア産グリーンピースの風味は格別です。今までグリーンピースが苦手な方の、ほぼすべての人の「嫌い」を「お!美味しい」と変えてきた逸品。いよいよBenoitに登場です。

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 鮮度を犠牲にしてはいけない旬食材が、これグリーンアスパラガスです。この野菜は、植栽してから地下に根を張り巡らせるように育てあげ、その根に栄養を蓄えたものが春の陽射しに誘われるかのように地面からにょきにょき伸びてくる新芽をいただきます。十分な美味しさと大きさに至るまで、ゆうに3年はかかるというのです。日々の土壌管理を怠ると努力が水泡と帰するため、栽培するには相応の心構えが必須です。露地栽培が少なく、ハウス栽培が主流な理由は、この徹底した土壌管理をしなければいけないためです。

 グリーンアスパラガスは、平均気温が15℃を超えないと姿を見せません。そこで、ハウス栽培では、どのタイミングで加温するのかで収穫時期が変わります。ヒーターで加温することで、北の地方でも早い時期に収穫は可能です。しかし、コストのことを考えると、太陽の陽射しを利用し効率よくハウス内を温めた方が、無理な販売価格にする必要もなくなります。そうなると、北海道が栽培地として有名ですが、初春はやはり西日本からということになるのです。

 地の利を生かし、初春に名が挙がる地が佐賀県です。Benoitもこの地から始め、香川県へと産地を映していこうと考えています。香川県?あまり農産物では馴染みのない県名ですが、讃岐平野が広がる古からの農産地。美味しい野菜を育むも、都道府県の中で一番面積が小さいため、農産物の県別ランキングでは上位に位置することは稀です。この地では、独自品種であるグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が栽培されているのです。

 毎年のように話題となる「桜前線」。自分はそれよりも「アスパラガス前線(自分の勝手な命名です)」に一喜一憂してしまいます。さあ。今年はどれほどの速さで南から北上してくるでしょうか。随時、この「アスパラガス前線」をご案内させていただきます。

 

 翡翠(ひすい)のようなグリーンピースの粒は、完熟すると「えんどう豆」です。未熟だから栄養が貧弱かと思いきや、このグリーンピースの栄養価はまさにエリート級です。豊富なビタミンB群は糖質や脂質の代謝を盛んにし抵抗力を、さらにビタミンCとの相乗効果で感染症から守ってくれます。特筆すべきはカリウムと食物繊維の豊富さです。便秘解消、生活習慣病の予防にも最適。まさに春の美容と健康のためにあるような食材です。

 対するグリーンアスパラガスは、抗酸化作用が高く、老化防止、ガン抑制、美容に効果を発揮します。特筆すべきは、野菜の名を冠するアスパラギン酸が豊富に含まれることでしょう。この成分は、体内でのエネルギー生成を促進し、疲労を回復させ、毒性を持つアンモニアを体外へ排出する働きがあります。また、カリウムマグネシウムなどのミネラルを細胞に運び込むというのです。スタミナドリンクの成分に名が挙がることも、このような理由から。確かに、ぐんぐんと伸ばす新芽の成長を思うと、アスパラギン酸がただものではないことがわかります。

 自分の常套句でもある「旬の食材には、今我々が欲している栄養が満ち満ちている」ことに大いに納得です。一年中食したほうが良いとは思うのですが、季節が過ぎ去ってゆくように、旬も去りゆきます。さあ、グリーンピースとグリーンアスパラガスという春を代表する食材を、Benoitで「美味しく」「楽しく」摂りませんか?心身共に満たされることで、皆様が持ちうる免疫力を堅持することを約束してくれることでしょう。

 

≪大海原から戻ってきたサクラマス!≫

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 北海道の雄大な河川で生まれた稚魚が、1年ほど母なる川で育まれた後に、川を下り大海原へと泳ぎ進みます。この時、川に居残る河川滞在型と海に向かう降海型に分かれるのです。サクラマスは降海型であれば、この種の滞在型はヤマメと呼ばれます。どうゆう理由で2つの型に分かれるのか?いまだ謎のまま…これがサケ目サケ亜科に分類される「鱒(マス)」の面白いところ。仲間にイワナがいるのですが、これは一生を川で過ごすため陸封型などだといいます。

 鮭はサケ目サケ科であり、鱒のサケ亜科との違いは何なのか?簡潔に言ってしまうと、川で孵化した稚魚が、稚魚のままもれなく全てが海に下るものが鮭で、稚魚が川に居残り成長してゆくのが鱒。前述したように、鱒の一部は海に降り立ちますが、鮭が3年を要して戻ってくるのに対し、鱒は1年であること。そして、共通しているのは、頑(かたく)なな母川回帰であること。鮎はきれいな川を選んで遡上するのに対し、鮭の仲間はどんな困難が待ち受けようとも生まれ故郷(母川)に帰ってくるのです。

 海に降り立ったサクラマスの向かう先は、ベーリング海峡です。荒れ狂う海でありながら、餌となるオキアミが豊富であることで、多くの魚を呼び込むようです。このオキアミや小魚をパクパクと食し、河川滞在型とは雲泥の差ほどの体格へと大きく成長し、1年後に戻ってくるのです。この行動は範囲と、食してるものの違いこそが、天然と養殖との差を生み出すのでしょう。

 

≪旬を迎える柑橘…agrumesそれともcitrus?

 皆様に、地方に埋もれる日本食材の魅力を伝えるべく、Benoitでの食材探しをはじめて、はや8年目です。ここまでくると、フルーツを使ったデザートの年間計画でパティシエチームの会話に入ることになります。そこで、気づいたのが「柑橘」の捉え方でした。

 アラン・デュカスグループでは、デザートに同じフルーツを使うことを避けます。よほどの事情がない限り、桃のデザート「ピーチ・メルバ」がメニューに入っている時に、例えば「桃のヴァシュラン」という調理方法が違っていても、並列することはありません。年間計画を立てるにあたり、この点を十分考慮したうえで、フルーツの提案を行います。

 え?昨年12月から今年の1月まで「レモンのタルト」と「和栗とミカンのモンブラン」があったじゃないか?とお思いではないでしょうか。この柑橘の範疇が、日本人とフランス人とでは異なっているのです。フランス人は、ミカンやオレンジ、グレープフルーツなどを「agrumes (アグリューム)」で、レモンやライムを「citrus (シトリュス)」であるという。分からないこともない…

 

 さて、2月3月でBenoitのメニューに登場する、旬の柑橘のご紹介です。

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 熊本市から南西に向かうと、天草へと導かれるかのように宇土半島が伸びています。この半島のつけねあたりの南側にあるのが、「不知火(しらぬい)地区」。八代海(やつしろかい)に面した丘陵な沿岸部は、一年を通して温暖。海に面した山の斜面は、太陽の恩恵を十二分に受けることができるうえに、柑橘のとって快適な水はけをももたらします。さらに、海からの養分たっぷりの汐風、阿蘇の伏流水である熊本の水、澄んだ空気で育まれた果実が美味しくないわけがありません。

 この地で代々にわたり果樹栽培を続けている「のむちゃん農園」は、若き園主である野村和矢さん早苗さんに受け継がれました。彼らは、天の恵みである不知火の地の利に甘んじることなく、飽くなき探求心のもとで、さらなる安心安全・美味しい果実を育て上げるため、農薬に頼ることを可能な限り避け、細心の注意を払いながら手間暇をかけることを惜しみません。柑橘の美味しさを追究するがために、彼らは露地栽培のみに徹しています。

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 「不知火」という地名から、我々を魅了して止まない柑橘を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。柑橘「不知火」の中で、一定基準を満たしたものが「デコポン」です。農業試験場で育種されたものの、栽培が難しいがために皆が二の足を踏む中で、果敢に挑戦し成功を収めたのが、不知火の人々でした。そして、その柑橘を「不知火」と名付けたのです。

 その柑橘「不知火」が、Benoitに届いています。さらに、のむちゃん農園からはもう一つ。これはBenoit東京史上初の食材で、自分も出会えることを心待ちにしたいた柑橘、「ブラッドオレンジ」です。

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 ブラッドオレンジのタロッコ種です。よく見かける真っ赤なブラッドオレンジと違い、果肉の果皮に接する部分に赤い果汁が集中している品種です。オレンジのようでありながら、ほのかな苦さが心地よい。赤い果汁は、抗酸化作用のあるアントシアニンの色素という。あまりにも美味しかったので、Benoitは樹に実る果実の全量を確保!すでに第一便が届いています。

 

 広島県、瀬戸内海に浮かぶ離島「大崎上島(おおさきかみじま)」。サンサンと降り注ぐ陽光に温暖な気候という恵まれた環境の中、飽くなき探求心と努力を積み重ね、類まれなる品質のレモンを育て上げているのが、岩﨑さんご一家です。陽射しばかりでなく、愛情もたっぷり受けて育ったレモンは、まろやかな酸味が特徴で、そのまま食すると皮のほろ苦さと相まって、なんと美味しいことか。すっぱさに顔をしかめる必要はありません。

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 露地栽培の瀬戸内レモンを摘んだそのままを届けていただくため、表皮のワックスを取り除く必要もありません。この輝かんばかりの輝かんばかりの黄色が美しい。レモン同士をこすった時の透きとおった爽やかな香り。そのまま目を閉じると、遠く潮騒(しおさい)が耳に届き、レモン畑から一望できる瀬戸内海に浮かぶ島々の美しさが脳裏に浮かぶ。

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≪西の「あまおう」、東の「とちおとめ」、やはりBenoitは「紅ほっぺ」。

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 多くのイチゴ品種が誕生する中で、1980年代には≪東(栃木県)の「女峰」、西(福岡県)の「とよのか」≫」という二大勢力が台頭するも、ここに「章姫」が割り込んできます。時が過ぎ、2000年前後ともなると、≪東(栃木県)の「とちおとめ」、西(福岡県)の「あまおう」≫へと移り行く。そして、ここに章姫と「紅ほっぺ」が姿を見せます。日本のイチゴ生産量の1位栃木県2位福岡県に負けじと健闘しているのが、地理的にも中間に位置している静岡県(4位)。イチゴ勢力図を二分する中に、割って入るかのように登場する≪章姫≫と≪紅ほっぺ≫という品種を生み出したのも、静岡県。甘さでは「あまおう<とちおとめ」、酸味では「あまおう>とちおとめ」。「紅ほっぺ」はどちらも中間に位置しているのだといいます。甘みと酸味を兼ね揃え、酸味があるからこそ甘みも冴えるのです。

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 静岡県掛川の「赤ずきんちゃんおもしろ農園」の赤堀さんが丹精込めて育て上げた「紅ほっぺ」は、みずみずしくしゃくしゃくの食感であることはもちろん、心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てています。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まる。Benoitに送っていただいているイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。豊潤な香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる豊潤な甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」であることか。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と納得の逸品です。

 さて、今年はどのようなデザートになるのでしょうか?

 

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com