kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年5月 Benoit≪特選食材≫と≪お勧め料理/デザート≫のご案内です。

 「風」は季節を導き、彩りばかりではなく、喜怒哀楽をも表現しているかのような美しい「風景」を我々に見せてくれます。そして、四季折々の「風」は国内各地方にその地ならではの「風土」を作り出すことになる。その多様な「風土」で育まれた食材は、同じ野菜であっても味わいに些細な違いがあり、それが「風味」となる。太陽の恩恵を十二分に受け、風味豊かに育ったものこそ、旬の食材です。

 旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に旬食材が「和」する料理の数々に舌鼓を打つ。「令和」という元号には、なにやら深い深い意味が込められているのかもしれません。

 皆様、移ろいゆく春の美しさに見入りながらの散策の後、そのまま足の赴くままにBenoitへお運びください。そして、旬の食材でこしらえられた料理の数々に舌鼓を打つ。春の機微を口中で感じ入ったとき、Benoitでのひとときが「口福な食時」となることでしょう。さあ、自慢の料理の数々を、ご紹介させていただきます。春には関係ない料理もありますが、そこは「期間限定のお勧め」ということで、ご容赦のほどよろしくお願いいたします。

 

苦手と思っている方こそ、お選びいただきたい「グリーンピース」のスープ!

 日本でもお馴染みの春食材の「グリーンピース」。ところが、缶詰の普及がこの食材への偏見を導き、好き嫌いの多い食材になってしまったことは否めません。しかし、鮮度の良いグリーンピースの美味しさは格別で、春にしか楽しむことができない旬の味わいです。

 知っているようで知らないグリーンピース。分類上では「マメ科エンドウ属」に組し、多品種ある中で未熟の若々しいものを食すのが「さやえんどう」で、中でもごく小さいものを「きぬさや」と呼んでいます。豆が成長してぷっくりと膨らみ熟していないものを「グリーンピース」、もちろん完熟すると「エンドウ豆」という出世魚ならぬ出世豆…いや、それぞれに適した品種があるので、出世させずに適した時期に美味しくいただくために、同じ品種の出世魚とはちょっと違う。

 未熟だから栄養が貧弱かと思いきや、このグリーンピースの栄養価はまさにエリート級です。豊富なビタミンB群は糖質や脂質の代謝を盛んにし、抵抗力を向上させる。さらにビタミンCとの相乗効果で感染症から守ってくれます。特筆すべきはカリウムと食物繊維の豊富さです。便秘解消、生活習慣病の予防にも最適。まさに春の美容と健康のためにあるような食材です。

 国産の食材を愛する自分ですが、今回ばかりは驚きの美味しさを誇る、地中海性気候の恩恵をこれでもかと甘受して育ったイタリア産に席を譲るしかありません。船便では間に合わないため、飛行機で運んできた逸品です。もちろん、品種が違うといえば違うのですが、あまりにも国産を凌駕する甘みのある美味しさは、一食の価値あり。生の鞘(さや)を口にすると、鞘の筋が口中に残るものの、春らしい甘さを堪能しながらポリポリと食べることができるのです。鞘がそれほどまでに美味しいということは、中の粒粒はいかほどのものか。

 この粒粒をたっぷりと使い、奥ゆかしい玉ねぎの甘さを加味した、なめらかなスープをこしらえます。Velouéとは、「ビロード生地のような」という意味ですが、もちろんビロードそのものは食べることができません。「なめらか」は肌触りではなく、口当たりのことで、それも惹かれるほどに美味しいものにあてるようです。グリーンピースそのものを楽しむかのような濃厚なスープは、グリーンピースを感じる方にこそお試しいただきたい。きっと今までの苦手の概念が一変するはずです。

Délicat velouté de PETITS POIS et fromage frais

グリーンピースのスープ リコッタチーズ

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの前菜の選択肢に名を連ねております。

 

≪暖かくなってきましたが、熱々のオニオングラタンスープを継続します!

 フランスの食の都「リヨン」では、オニオングラタンスープは鶏のガラからじっくりと旨味を引き出します。しかし、Benoitは違う!牛のすね肉から、じっくりと2日間かけて旨味を煮出すのです。このブイヨンこそが、Benoitのオニオングラタンスープの美味しさの決め手なり。

 この琥珀色に輝かんばかりのブイヨンは、濃いというよりも旨味が満ち満ちている。そこへ、たっぷりの飴色のタマネギを加えてほどよく煮込み、味を馴染ませるために冷やし休ませる。そして、オーダーをいただいた後、スープを熱々にし、ライオンの顔がデザインされた独特のスープボールへ注ぎ入れる。パンを浮かべ、グリュイエールチーズをパラパラと加え、オーブンへ。チーズがとろけ、ふつふつとしたところで、皆様の元へと運ばれてゆきます。

 このオニオングラタンスープは、3月までの限定と考えていました。しかし、多くのあついあつい要望にお応えし、5月末までこの熱々の逸品を延長することにいたします。素材に何か奇をてらうわけではない、素材そのもの美味しさを十二分に引き出した、まさに時(とき)がなせる美味しさの極みというのでしょう。前述したグリーンピースのスープと併せてご注文いただいても、自分は止めることはいたしません。

GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜として+1,000円でお選びいただけます。

 

≪さっぱり分かり難い料理「ブランダード」、しかしこれが美味なり。≫

 「タラのブランダード」というお料理は、横文字の名前だけに、なにやらさっぱり分かり難(にく)いものですが、これがまた美味なり。ヨーロッパでは、北欧を主として、塩をたっぷりとまぶし釘が打てるほどに乾燥させ保存性を高めたタラ、「Morue(モリュ)」と名付けられた食材があります。これをいかに美味しく食べようかという、フランスの伝統と知恵が作り上げたのが、ブランダードという料理。同じような料理が、ヨーロッパ各国にあり、大航海時代で言語が伝播するように、世界中に拡がっていきました。いったいどの地が発祥なのか、今となっては知る由もありません。

 日本は周囲を海に囲まれており、鮮度良く美味しいマダラが手に入る環境にあるため、Benoitのブランダードは塩干タラを使用しません。北海道のタラに塩をまぶし一晩お休みです。これにより、、身が引きしまるのと同時に、旨味が出てきます。このマダラを少しばかり塩抜きし、牛乳とニンニクの中で煮たものを、ほぐしたジャガイモと混ぜ合わせます。これに半熟卵をのせる。ジャガイモの甘さとホクホクの食感、そこにタラ特有の繊維っぽい身質と旨さが絡みあう。半熟卵のとろりとくる黄身との相性も抜群です。さらに、クリームにニンニクを風味付けしたものをソースとする。これがBenoitスタイルです。

Œuf mollet, brandade de MORUE

鱈のブランダードと半熟卵

※ランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

「魚」偏に「春」と書くと「鰆」なり!≫

 サワラは「鰆」と漢字でかきます。日本の沿岸を回遊している魚だけに年中水揚げがある魚ですが、やはり「春」と当て字に入るぐらいですから、春にこそお楽しみいただきたい旬の味覚。今年は冬の寒波に春の暖かさによって海水温の変動が大きかったこともあり、自分の故郷である新潟県では記録的な不漁となっています。しかし、回遊魚だからこそ、どこかで美味なる旬の味が揚がっている。そこで、今回は豊洲の力をお借りして、日本全国から東京に運ばれてくる中から、魚卸の老舗「大芳」さんの目利きによって選ばれし逸材がBenoitに届きます。

 西京焼きなどで馴染みの魚です。しかし、焼くよりも生のほうが美味しい。しかし、天然の魚だけにアニサキスの心配が脳裏をよぎるもの。そこで、Benoitでは捌かれたサワラを一度冷凍し、いっさいのアニサキスを退治します。これを丁寧に解凍しただけでも美味しいのですが、ここでひと手間を惜しまない。表面を炙るように香ばしさを加え、「鰹のたたき」ならぬ「鰆のたたき」のように仕上げるのです。

 今が旬の野菜、カラフルなニンジンと赤玉ねぎをお供に、柑橘で春らしくこしらえる。柑橘は、熊本県不知火の「のむちゃん農園」の「不知火(しらぬい)」、次に「農6号」へ。怪しい名前ですが、これがかなり美味。甘みとコクがあるので、ジュース用に絞ってしまうそうなのですが、それを送っていただきました。その後は、産地を神奈川県小田原へと北上し、「江之浦果樹園」さんから、「南津海(なつみ)」そして「バレンシアオレンジ」へと変わってゆきます。

Sawara en escabèche

サワラのエスカベッシュ 柑橘風味

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

サクラマスの美味しさを知ってしまったので、今年も登場です!≫

 川で生まれたマスは、1年ほどその川で育まれる。後に、川の残る個体と川を下る個体とに分かれるというが、どのように決まるのかは、自然の神秘のベールに包まれていて、いまだ解明されていません。川に残ったものが「ヤマメ」であるならば、果敢に大海原へ向かうのが「サクラマス」です。

 サクラマスは、ベーリング海峡へと向かい、オキアミなどを大いに食して成長してゆきます。そして、1年後に母川(ぼせん)を目指し日本へ向かいます。この遡上する時期が、桜咲くころなので「サクラマス」と古人は名付けました。今この時期だからこそ、その極まった美味しさを堪能できる。「サクラマス」の旬は、今をおいて他にはありません。

 3年かけて母線回帰するサケとは違い、1年で戻ってくるサクラマスは、やはり脂のりが優しいもの。焼いてしまえば、ぱさぱさな鮭。そこで、身の中心まで火を通さないmi-cuit(ミ・キュイ)という調理方法を採用。これにより、しっとりとしながら、ほろっと崩れるように仕上げます。

 サクラマスの上には、甘さを引き出した新玉ねぎ、シャリシャリのスプラウトカリカリの細切りジャガイモをのせることで、味わいにアクセントを加える。ソースには、バターのコクと甘さに、心地よい白ワインと瀬戸内レモンの酸味が加わったブールブラン。そう、フランスはロワール地方の伝統料理を思わせる逸品です。

Sakuramasu au plat, primeurs de saison, beurre blanc

サクラマスのソテー 春野菜 ブールブランソース

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの主菜として、お選びいただけます。

 

≪春を代表する野菜といえば、アスパラガスなり!≫

 グリーンアスパラは、新芽だけに日に5cmも背丈を伸ばすというほどに勢いが強い。野菜の名前が由来となっているアスパラギン酸に富んでいるのですが、これはL型とD型があるようです。もともとアスパラガスが内包するのは健康に有用なL型で疲労回復やスタミナ増強に効果的。しかし、紫外線をたっぷり浴びることで、このL型が人体に悪影響を及ぼすといわれるD型に変わるというのです。やはり、摘みたて新芽は美味しいというばかりではなく、今我々が必要としている栄養が満ち満ちているのです。

 新芽だけに、「鮮度こそが美味しさの要」です。和歌の世界では、「東風吹かば 思い起こせよ 梅の花~」という有名な歌がある通り、東の風が春を導いてくると考えています。しかし、日本では天気は西から移ってくると小学校で学んだ通り、春も西からやってくるようです。そこで、Benoitでは3月の「はしり」の時から、佐賀県の杵島(きしま)郡白石町の橋本農園さんから送っていただいておりました。すべてのものに「限り」があるように、アスパラガスも例外ではありません。今は香川県の眞鍋さんにバトンが受け渡されています。

 瀬戸内海に面した香川県丸亀市、眞鍋さんの屋号は眞鍋牧場です。牧場?そう、以前は牛を飼っていたそうですが、時代は酪農ではないと悟り、アスパラガス栽培に切り替えたそうです。時は30年も前のこと。当初は収量を確保するための栽培方法だったため、東京のレストランに持ち込んでみても、まったく売れることなかったそうです。その経験によって、一念発起することに。収量よりも品質、いかに人を唸らせる美味しいアスパラガスを育て上げることに挑むことになるのです。

 今では、香川県のアスパラガス栽培のレジェンドと評されるまでなった眞鍋さん。彼のアスパラガスは、その美味しさゆえに、全国からの購入希望が舞い込み、県内では、こだわりの八百屋「サヌキス」以外では購入できないほどです。なぜ、サヌキスだけは彼のアスパラガスを手に入れることができるのか?それは、鹿庭さんという熱い思いの好漢が代表を担っている八百屋さんだからです。桃の話ですが、blogで鹿庭さんを紹介しております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

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 眞鍋さんは、アスパラガスの美味しさを追求するために、土づくりや肥料の選定などをいろいろ試してきたといいます。試行錯誤しながら労を惜しまず、今まで継続してしたきたからこその賜物。彼のアスパラガス畑の株年齢は、20年を超えており、子株では30年にいたるといいます。10年で植え替えをすることを考えると、彼がいかに丁寧に、丹精込めて育ててきたかがわわかります。

 今年は、桜の開花が早かったばかりか、あっという間に散ってい春が去ってゆくように、アスパラガスも「待つ」という優しさをもっていません。眞鍋さんの農園も、まもなく夏芽に切り替えるための「立茎」へと移るために、終わりを迎えます。その後、産地は北上し、東北のほうへと向かいます。

 アスパラガスをこよなく愛した一人に、フランス国王として全盛を極めた太陽王ルイ14世がいます。彼は、ヴェルサイユ宮殿の庭師に、「一年中収穫できる栽培方法を模索するように」と命じたというのです。彼をしてここまで言わしめるアスパラガスとは、どのような野菜なのか?少しばかり、ご紹介させていただきます。

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≪愛媛のマダイと佐賀県のグリーンアスパラガスがBenoitで出会う!≫

 日本全国津々浦々、日本人にとって欠かすことのできない魚が、真鯛ではないでしょうか。美味しいだけではなく、その威風堂々たる姿は、魚の王様と称されるに相応しい。丁寧に捌き、皮を取り除いた白身をしっとりと焼き上げます。この逸材に、春の味覚「グリーンアスパラガス」を添えます。

 そこで、今季はアスパラガスを茹でるのではなく、「焼く」という調理方法をとります。水分を多く含んだ野菜だけに、焼きすぎてはべたっとなる。いい塩梅の焼き加減が、しゃくっという食感と、アスパラガス本来のコクを引き出すことになり、焼き目が香ばしさを与えるのです。さらに、鮮度が良いからこそ、生のグリーンアスパラガスをスライスし、サラダのように盛り付けます。思いのほか生アスパラガスは美味しいもので、しゃりしゃりっとした食感の心地よさに加え、春らしいさわやかさを感じることのできる一皿に仕上がります。

※アスパラガスは、時期のよって佐賀県から香川県へ、さらに東北へと移行します。

 なにやら、謎のものがマダイの脇にあります。これは、シェフの野口が、マダイ料理の味のバランを考えたとき、ふっと閃いたものらしい。焼いたアスパラガスを細かく切り、そこにエシャロットの甘み、さらにカキで特有の旨味を加えたもの。カキは柿ではなく牡蠣です。確かに!これがいい仕事をする。皆さま、気になりませんか?

 どうやら、ブノワ東京の春は西日本からやってくるようです。

Dorade au sautoir, asperges vertes, sucs de caisson

真鯛ポワレ グリーンアスパラガス

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの主菜として、お選びいただけます。

 

新潟県佐渡ヶ島のヒラメが、お相手に選んだのは…ホワイトアスパラガス!≫

 この時期にヒラメ?とお思いの方は、太平洋側にお住まいの方でしょう。新潟県では今から旬を迎えるのです。それも今回は佐渡ヶ島から直送という、なんとも贅沢な逸品がBenoitに届いているのです。

 彼の島は、東京二十三区合わせた面積よりも大きい。確かに、日本地図を見ると、見事な大きさで島が描かれている。これほどの大きさを誇りながら、九十九里浜のような広大な浜辺などは皆無で、大粒の砂が輝く狭き浜辺が点在するだけ、多くはごつごつと岩肌むき出しの岩礁地帯に囲まれているような島です。そのため、佐渡ヶ島の海岸域は、我々に見事なまでの景観を楽しませてくれます。

 その海岸域の延長でもある海の中は、海に生きる生物にとってなんとも居心地のいい住環境を提供してくれています。さらに、南からの対馬海流が多くのプランクトンを運ぶことで、豊かな食環境をもたらす。この理想的な「衣」のない「食住」は、海中生物の見事なまでの食物連鎖を形成することになります。プランクトンを食餌とする小魚や甲殻類が育まれ、それらを捕食する大型魚が幅を利かすようになる。人の体は食べたもので作られる、もちろん魚も同じこと。美味しい食餌で育まれた上に、海流にもまれにもまれたヒラメが、まず美味しくないわけがありません。

 佐渡ヶ島のマルヨシ鮮魚店の石原さんによって選ばれたヒラメは、彼の手によって神経〆の後に、丁寧に捌(さば)かれBenoitに直送されます。彼の目利きと仕事の丁寧さを、Benoitシェフの野口は絶賛している。実際に二人は会ってはいないが、ヒラメを仲介することで、それぞれの分野でのプロフェッショナルだからこそ気づくのでしょう。

 佐渡ヶ島近海のヒラメは、ぶりぶりの身質に旨味がのっている。新潟では、やはりお刺身でいただくことが多い。そこで、シェフの野口は考えた、「ショードレという料理は煮込み料理だが、これでは佐渡のヒラメの美味しさを損ねてしまう」と。さっと表面だけを焼く、そう焼ききらないことでヒラメのもちうる美味しさを生かせるのだ。

 このヒラメと一堂に会するのは、ホタテガイとハマグリ、そして忘れてはならないのが、フランスより届いたホワイトアスパラガスです。とホタテガイも、ヒラメ同様に、さっと表面を焼き上げます。ハマグリは、白ワインで蒸し焼きに。ホワイトアスパラガスは、ランド県の砂地で育まれた類まれなえぐさを生かすため、シンプルに茹でたもの。ハマグリを蒸し焼きにした際のスープに、魚のスープを加え、さらにクリームを少々。このスープこそが、この料理の決め手となる!

Chaudrée de turbot et coquillages, asperges blanches

佐渡ヶ島産ヒラメと貝のショードレ フランス産白アスパラガス

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜として+1,500円でお選びいただけます。

 

 ショードレとは、フランスの漁師料理のひとつ。魚を知り尽くしたフランス漁師さんの料理と言えば、南仏の「ブイヤベース」があまりにも有名です。しかし、なにも漁師さんは南だけにいるわけではなく、もちろん北にもいる。彼らの漁師料理の中でも、ロワール地方の伝統料理が「ショードレ」です。

 海での一仕事を終えた漁船が港に着岸すると、すぐに魚の選別が始まり市場へと卸されます。この時に、美味しいけれど雑魚(ざこ)呼ばれる魚や、個体が小さすぎたものは、市場へは向かわず漁師さんの手元に残ります。そこで、彼らは考えたのでしょう…どうやったら美味しく簡単に食べることができるのか、と。

 南仏であれば、特産のトマトやオリーブオイルを使うことは想像に難くはありません。では、北フランスはというと、言わずと知れた酪農の産地です。牛乳やバターにクリーム…そう、現地のショードレは、多種多様な魚をミルクで煮たものです。しかし、そこはBenoitですから、魚文化の日本らしく美味しさを追求した結果、魚介は魚介、スープはスープと別々にこしらえる今のスタイルにいたしました。

 

≪ボーノ(美味しい)という名を冠したボーノポーク?!

 「ボーノポーク」は、イタリア語で美味しいという意味の「ボーノ」という言葉を冠し、なんとも軽々しい印象を受けますが、その実は、岐阜県の中濃ミート事業協同組合の威信にかけて育て上げた銘柄豚です。飼育地は、県内の瑞浪(みずなみ)市、山県市、揖斐(いび)市の3地域。3つの種の掛け合わせで誕生した三元豚で、そのひとつが霜降り割合を増加させる能力を持つ、岐阜県が開発育種した「ボーノブラウン」という種豚です。

 抗酸化能とオレイン酸を多く含む植物性原料を含み、飼料中のアミノ酸バランスを調整した専用に開発された飼料を与えています。この飼料を含め、徹底した管理のもとで飼育されることで、霜降り割合が一般的な豚肉の二倍にものぼり、肉自体の旨味を十二分に堪能できる上に、脂の甘味か加味されるのです。さらに、一般に流通している豚肉よりもドリップロスが少なく、肉の旨味が逃げにくいのが特徴といいます。

 飼育した全てが「ボーノポーク」というブランドを冠することはありません。県下の和牛ブランド「飛騨牛」が、霜降り具合を目視によって5等級なのか4等級なのか、はたまた3等級なのかと振り分けるように、この豚もまたロース部位を目視によって判別してゆきます。違う点は、区分けが「ボーノポーク」か「一般的な豚」の2択であるということ。

 皆様が、「ボーノポーク」という豚の名前を耳にしたことがないのも当然、徹底した管理のために多くを飼育できない上に、厳しい選別ゆえに流通量が極端に少ないのです。その、貴重な豚肉がBenoitに届いています!どれほど美味しいのか?それは、Benoitが4年間にもわたり他の豚へ浮気しないことがなによりの証(あかし)です。

 どれほどのブランド肉でも、豚肉は生では食せず、良く焼くと硬くなります。そこで、ロースの部位を厚めにカットするのですが、休ませながら断面がうっすらとピンク色になるように丁寧に焼き上げることで、しっとりとした食感とボーノポークの旨味を十二分に堪能できるのです。さらに、ディジョンマスターにエシャロットの甘みを加えたものを下に、オリーブ2種とクルミを細かくカットしたものを上に。ボーノポークと会いまった時、その美味しさが際立つかのよう。この味わいのバランスこそが、この料理の神髄です。

Longe de cochon de Gifu en cocotte, pommes de terre nouvelles, lard paysan et cébettes

岐阜県ボーノポークロース肉のココット焼き 新ジャガイモと九条ネギ

※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの主菜として、お選びいただけます。

 

鴨がネギをしょってくる?いやいやBenoitでは柑橘です。

 フランス料理で肉食材といえば、まっさきに思い浮かぶものは鴨ではないでしょうか。Benoitでも人気を誇る食材で、今までは、フランスやハンガリーから送られてきていました。…「た」、「送られてきています」と綴りたいところなのですが、残念ながら手に入れることができていません。これは戦争の影響ではなく、ひっそりとヨーロッパで広がりを見せている鳥インフルエンザの影響です。当面の間、鴨という食材の選択肢はないものと思っていました…

 また、「た」です。しかし、今度は喜びの「た」です。そう、フランス原産のバルバリー種の「津軽かも」と出会ったのです。このブランド名からお察しかと思いますが、飼育場は青森県津軽地方の6か所に点在しています。雄大な山々があり、そこより湧きいづる豊富な水資源、四季折々の優しさに厳しさ、この自然環境こそが、鴨にストレスを与えず健康に育て上げることのできる理由なのでしょう。さらに、平飼い開放鳥舎によって余裕のある飼育面積を確保し、飼料も独自開発したものを与えるという徹底ぶりです。

 バルバリー鴨は、他の鴨と比べて皮下脂肪が薄く、赤身は濃い鮮紅色です。鴨特有の臭みが少ないとはいいますが、やはり鴨は鴨。この独特の臭みの大部分は脂についているため、Benoitでは皮目に隠し包丁を入れ、余計な脂を落とすように焼き、その後は低温でじっくりと、表面がロゼ色になるようにこしらえます。

 「鴨がネギをしょってくる」とは言いますが、Benoitはフランス料理店なので、ここはオレンジをしょってきてほしいものです。しかし、ここで海外のオレンジを選ぶようでは、これほどまで食材にこだわるBenoitの名折れというもの。そこで、登場するのが、「のむちゃん農園」の野村さんが丹精込めて育てあげた「農6号」です。産地は、熊本県宇城市の不知火(しらぬい)地区松合(まつあい)というところ。不知火と聞いてピンとくるのではないでしょうか。そう、柑橘「不知火(しらぬひ)」発祥の地です。

 「農6号(のうろくごう)」とは聞き慣れない柑橘ではないでしょうか。正式には「柑橘中間母本農6号」というそうですが、ますますもって意味が分からない名前。これは「キングマンダリン」と「無核紀州みかん」の交雑育種された品種といいます。ミカンのMサイズほどの大きさで、濃厚なミカンというようなオレンジというような、ほのかに苦みを感じるのが甘さを引き立てているのでしょうか、かなり美味しい。しかし、果皮が厚く手で剝くことが難儀なため、市場には出回らないのでしょう。そのため、育種向けとして「農6号」と登録されたようです。

 特筆すべき味しさを誇るにもかかわらず、果皮が厚いがために市場に出回らない。「のむちゃん農園」でも、果汁を絞るのに栽培しているといいます。しかし、Benoitにとって果肉はもちろん、果皮も重要な食材なのです。この「農6号」を惜しげもなくまるまると、軽くシロップで加熱したコンフィに、さらに細かくたたくように仕上げたコンディモンへと仕上げてゆきます。コンディモンとは、日本でいう薬味のようですが、味の重大要素を構成するためのアイテムです。

 青森県の「津軽かも」と熊本県「のむちゃん農園の「農6号」が。東京のBenoitで出会いました。ほぼ無農薬にノーワックスだからこそ、果実はもちろん果皮をも使って表現する鴨料理です。柑橘のもつ爽やかな香りに、ほど良い酸味と果皮の優しいほろ苦さが生かされたコンフィとコンディモン。この食材のマリアージュを、惜春の思いとともにお楽しみください。

Canard de Aomori à l’orange, fenouils cuits et crus

青森県産鴨胸肉のローストとウイキョウ オレンジ風味

※ディナーのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 ランチでは、「津軽かも」の代わりに、「丹波黒どり(たんばくろどり)」で、同じようなスタイルでご用意いたします。この鶏は、フランスの地鶏「ラベルルージュ」の血統をもち、京都で育種され地鶏認定を受けたもの。飼育羽数を制限し、90~100日という長期にわたる飼育期間は、きめ細かな肉質に、上質な脂肪分とコクのある味わいを約束してくれます。

 しかし、鶏肉であるがために、調理方法によっては、パサパサになってしまう難しい難しい食材です。そこで、Benoitでは、丁寧に下ごしらえされた丹波黒鳥の胸肉ともも肉を骨付きのまま、低温調理を施します。旨味を逃がさず損なわず、ゆっくりと。仕上げは、表面が色付くように焼いてゆくことで香ばしさを加味してゆきます。

 さあ、「丹波黒どり」と熊本県「のむちゃん農園の「農6号」とのマリアージュをおたのしみいただけるのはランチのみです。

Volaille de Kyoto aux agrumes, fenouils cuits et crus

丹波黒どり"のローストとウイキョウ  柑橘風味

※ランチのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 先日、薬膳の先生にBenoitでお会いできました。その時に教えていただいたことを、少しばかりご紹介したいと思います。

 「春は陽気に誘われるかのように、気持ちが上ずってしまう時期です。」というのです。確かに、寒い冬が終わり、ぽかぽかともなると、花粉症で苦しむ中でも気持ちが高ぶってくるものです。しかし、この高揚感に、身体がついてゆかず、心と体のバランスが崩れることで体調不良を引き起こしてしまうのだというのです。

 そこで、気持ちの高ぶりを落ち着かせるために、薬膳では春には「香りの良いもの」を取り入れる。往古、この時期の日本では山菜を楽しむ習慣があります。この春を代表する山の幸の「やさしいほろ苦さ」も同じ効用だといいます。そして、「シェフは薬膳を知らないと思うけれど、旬の食材で組み立てる料理こそが薬膳の考え方そのもの」なのだと、鴨料理を前にして教えてくれました。

 この画像の見慣れない姿の野菜はウイキョウです。さわやかな香りにやさしいセロリのようなこの野菜の風味は、魚や肉料理を問わずして、Benoitでは必須の食材の一つ。さらに、柑橘のはつらつとした香りにきれいな酸味、さらに果皮の心地よいほろ苦さ。シェフが組み立てたランチの「丹波黒どり」とディナーの「津軽かも」の料理に、薬膳の真髄を見ることができるのです。

 

≪旬を迎える柑橘…agrumesそれともcitrus?

 今の時期となると、Benoitのメニューの中に「柑橘」という文字が多く登場します。しかし、フランス語表記を見てみると、「agrumes (アグリューム)」と「citrus (シトリュス)」と使い分けています。フランスでは。ミカンやオレンジ、グレープフルーツなどが「agrumesで、レモンやライムは「citrus」であるという。なるほど!さすが世界文化遺産であるフランス料理を誕生させた国である。日本はあまりにも無頓着なのか…と思いきや、日本はさらに細分化した品種へのこだわりが素晴らしい!

 日本は、収穫量こそ他国に及びませんが、多種多様な柑橘を誇る国であるといっても過言ではありません。あまりにも身近にある果実なため、ついついその価値を見落としてしまうもの。偉そうに言う自分もその一人でした。この日本の柑橘の素晴らしさを教えてくれたのが、アラン・デュカスグループのエグゼクティブシェフチームでした。10年ほど前のことでだったでしょうか…アメリカ合衆国のフロリダからグレープフルーツを購入すべく画策している頃のこと、指摘されたこの一言が、自分に気づきを与えてくれたのです。

 「日本には素晴らしい柑橘がたくさんあるのに、どうして海外から買おうとするのか?」

 おっしゃる通りです…西日本に目を向けてみると…あるわあるわ。今では、Benoitでは、西日本3地域からこれでもかと美味なる柑橘が直送されるにいたります。さらに、今年から東日本の1地域が仲間入りいたしました。一品種では、収穫期はひと月にも満たないほどですが、多品種に加え東西の離れた地域であることが、思いのほか長い期間に皆様へ柑橘を使った料理やデザートを提供することを可能にしたのです。

 熊本市から南西に向かうと、天草へと導かれるかのように宇土半島が伸びています。この半島のつけねあたりの南側にあたり、八代海(やつしろかい)に面した場所にある不知火町。そこから西へと向かうと、天草の島並が見えてくる。ともに共通しているのは、熊本県屈指の柑橘産地であるということ。

 この熊本県の2地域との出会いが、どれほどBenoitに柑橘のバリエーションをもたらしたことか。そこで、柑橘のご紹介とともに、世界遺産を有する天草地方の観光を含め、ブログでご紹介させていただきます。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

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 広島県は、瀬戸内海に浮かぶ離島「大崎上島(おおさきかみじま)」からです。サンサンと降り注ぐ陽光に温暖な気候という恵まれた環境の中、飽くなき探求心と努力を積み重ね、類まれなる品質の「瀬戸内レモン」を育て上げているのが、岩﨑さんご一家です。陽射しばかりでなく、愛情もたっぷり受けて育ったレモンは、まろやかな酸味が特徴で、そのまま食すると皮のほろ苦さと相まって、なんと美味しいことか。すっぱさに顔をしかめる必要はありません。

 東日本は、柑橘の北限といってもいいのではないでしょうか、神奈川県です。小田原市の中心部から、海岸線を熱海のほうへ向かったところに江之浦という地がある。ここで果樹栽培をしているのが、「江之浦果樹園maruesu」です。Benoitでお食事をされていた鈴木さんとの偶然の出会いが、彼の地とBenoitを繋げたのです。思えば…出会うべくして出会ったのではないかとも思う…

 すでに、収穫を終えた「瀬戸内レモン」に代わり、江之浦の「片浦レモン」がBenoitに届いています。小田原でレモン栽培をしているとは露知らず、話を聞いた時は驚きを隠せなかったのを覚えています。しかし、鈴木さん語られる言葉の端々に感じることのできる自信と誇りに、魅せれてゆく。そして、Benoitに届いたレモンが彼女の言葉が誇張ではないことを教えてくれました。

 江之浦という地は、前述した大崎上島と海に面しているという点で似ていなくもありません。すでに、日本屈指の名声を誇る「瀬戸内レモン」を産する地も海に面してる丘陵地に植樹されています。大崎上島は島だけに、周りがすべて海。江之浦もまた、海に面した丘陵地ですが、その傾斜は並々ならぬもの。太陽の恩恵を十二分に受けることができるうえに、柑橘のとって快適な水はけをももたらします。さらに、海からの養分たっぷりの汐風が、柑橘の美味しさを増しているかのようです。

 どんなに適した地であっても、その環境に甘んじていては、良いものはできません。どちらの地も、労を惜しまず丹精込めて育て上げたからこそ、人々を感動させる逸品となる。栽培に携わらない自分などが偉そうに言うよりも、Benoitの料理やデザートを通して、皆様ご自身で美味しさを感じていただきたいと考えています。

 そして、幸いに手の取ることができたとき、その輝かんばかりに美しいレモン同士をこすってみていただきたい。透きとおった爽やかな香りに魅せられることでしょう。そのまま目を閉じると、遠く潮騒(しおさい)が耳に届き、レモン畑から一望できる瀬戸内海に浮かぶ島々の美しさが、相模湾雄大な海原が脳裏に浮かぶ…

 

≪「クレープシュゼット」がBenoit初登場!

 柑橘の宝庫でもある日本。この機を逃さず、ついに!フランスの伝統的なデザート「クレープシュゼット」が、メニューに名を連ねました。このデザートは、皆様の目の前で仕上げてゆくものなのですが、やはり自分なんぞがこしらえるよりも、パティシエのほうが何倍も美味しいものを提供できます。そこで、厳密なクレープシュゼットではなく、Benoitパティシエチームがアレンジした新スタイルで皆様のお席にお持ちいたします。

 「国産シトラス」と表記している理由は、柑橘の産地と品種が目まぐるしく変化するためです。熊本県不知火のむちゃん農園の「ブラッドオレンジ」と「グレープフルーツ」で始めるも、「農6号」「ジューシーオレンジ(河内晩柑)」へと引き継がれ、さらに同県天草の「完熟不知火」が柑橘ローテーションに加わりました。今後は、神奈川県小田原の江之浦果樹園から、バレンシアオレンジが馳せ参じることに。昨年10月から始まった今季の国産柑橘も、北限ともいえる小田原の江之浦をもって、いよいよ終わりを迎えることになります。

 なぜここまで国産の柑橘のこだわるのか?従来のクレープシュゼットではオレンジとレモンを使いますが、Benoitは違います。品種の違う2種類を使うことで、得も言われぬ味わいのバランスを作り上げているのです。フレッシュの果肉はもちろん、ノーワックスで届くから柑橘なので、果肉果皮を存分に生かすように仕上げるコンフィにマルムラードは深みのある美味しさがあります。極力甘さを控えるからこそ、柑橘それぞれの魅力を最大限に引き出しているのです。

すべてが一堂に会する

 バニラが香る温かいクレープを重ねるその間に、柑橘のさわやかでほろ苦いマルムラードを忍ばせる。そして、柑橘のフレッシュの果肉に心地よい食感を残すコンフィを盛りつけ、オーブンへ。お持ちするお皿の上は、華やかではないが、暮春を思わせるような、優しい色で彩られている。そこへ、、つ~とそそぎ入れるのが、柑橘を絞ったジュースにカラメルのコクとほろ苦さを加えたもの。添えるのは、バニラビーンズを惜しげもなく使用することでなしえる、妥協のないバニラアイスです。

 一口お召し上がりいただくと、甘いだけのデザートではないことがお分かりいただけます。柑橘特有の甘さ・酸味・ほろ苦さを、品種違い調理方法違いで余すことなく表現しているのです。時をみて口中に挟み込むバニラアイスの濃い味わいが、いい仕事をする。柑橘の種類が変わってゆくことを考えると、まさに一期一会ともいえる美味しさが、そこにあるのです。

Crêpe Suzette aux agrumes de saison, glace vanille

国産柑橘のクレープシュゼット バニラアイスクリーム

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートとして+800円でお選びいただけます。

 春が去ってゆくように、柑橘の旬も「待つ」という優しさをもっていません。かたくなまでに、国産柑橘にこだわりますが、いずれは終わりを迎えます。6月の中旬には、海外の助けを借りることになります。

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もします。これでは不十分であることは、すでに皆様ご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 「春」とはどのような季節なのでしょうか。薬膳の先生の言葉を借ります。「春は陽気に誘われるかのように、気持ちが上ずってしまう時期です。」確かに、寒い冬が終わり、ぽかぽかともなると、花粉症で苦しむ中でも気持ちが高ぶってくるものです。しかし、この高揚感に、身体がついてゆかず、心と体のバランスが崩れることで体調不良を引き起こしてしまうのだというのです。

 そこで、気持ちの高ぶりを落ち着かせるために、薬膳では春には「香りの良いもの」を取り入れる。往古、この時期の日本では山菜を楽しむ習慣があります。この春を代表する山の幸の「やさしいほろ苦さ」も同じ効用だといいます。そして、「シェフは薬膳を知らないと思うけれど、旬の食材で組み立てる料理こそが薬膳の考え方そのもの」なのだと。

 季節が過ぎ去ってゆくように、柑橘も品種を変えながら、産地も西から東へと、順を追って終わりを迎えていきます。さあ皆様、香り高く心地よい酸味の利いた柑橘を、食生活の中に取り入れませんか。美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。疲労困憊の時には、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

 過ごしやすい日々ではありますが、まだ「春に三日のはれなし」と表現される時期です。この不安定な天気は、知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくもの、油断はなりません。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com