kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年11月Benoit 「知っていても、見初むる心地のする≪テーブルマナー講習会≫のご案内です!」

 徒然草兼好法師は、「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」と綴っている。「花は満開のときだけを、月は雲がないときだけを見るものであろうか、いやそうではない。」と喝破しているのです。この背景には、往古より「月は雲なきをのみ見る」ことを良しとし、切望していたということがあります。これに異議を唱えたのが、百人一首をご存じの方も多いのではないでしょうか、平安時代後期に活躍した藤原彰輔(あきすけ)がこう詠っています。

秋風に たなびく雲の 絶え間より もれいづる月の かげのさやけさ  藤原彰

 月を待ち望むも雲に覆われてしまい落胆している中で、わずかな雲間より「もれいづる」月かげ(月の光)に感嘆の声を上げ、「さやけさ」を覚えると詠っているのです。月を愛でることを切望していたからこそ、その思いは一入(ひとしお)だったことでしょう。そして、彼が正三位(しょうさんみ)という官位をもった歌人だっただけに、まるでたこの一首が投げかけた問いに、歌壇は騒然となったのではないかと思うのです。多くの共感を得るばかりではなく、反論され、異端と陰口をたたかれたことでしょうか。ただ、この歌によって、兼好法師のいう「月は隈なきをのみ見るものかは」という感性が胚胎したといっていいのでしょう。

 何はともあれ、素人の自分にとっては「月は月」であり、雲があろうがなかろうが、その姿を目にしたときは嬉しいもの。ただ、太陽や他の星とは違い、何やら不思議な感覚に捉われるもの確か。夜半に神々しく光を放つ月を見ると、なにやら畏敬の念を覚え、ついつい足を止めて見入ってしまうものです。妖怪「狼男」が誕生するのも分かるような気がするのです。そんな折に、この歌に出会いました。

夜とともに 山の端(は)いづる 月かげの こよひ見初(みそ)むる 心ちこそすれ  藤原清輔

 詠者は、歌壇に旋風を吹き込んだ藤原彰輔の息子、藤原清輔(きよすけ)です。この藤原清輔の秀歌を引用させていただき、「さやけさ」と「見初むる心地」についてブログに綴ってみました。きっと共感していただけるのではないでしょうか。そして、今宵から月への想いが変わってくるやもしれません。残念ながら、今は下弦の月に向かっているため、月の出は日を追うごとに遅くなります…夜更かしには、十分ご留意ください。

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≪テーブルマナーを知っていても、見初(みそ)むる心地のする講習会です!

 其処彼処(そこかしこ)で開催しているテーブルマナー講習会であれば、自分は皆様へご案内することはありません。

 講師である吉門先生とは、すでにBenoitで76回もこの講習会を開催しているのです。リピートされている方ばかりであり、あまりにもためになり面白いため、その方がご友人を誘う。それほどに内容が深いものなのです。しかし、Benoit主催ではないため、皆様が知る由(よし)もなく10年もの歳月が過ぎ去ることになるのです…

 この講習会を、ぜひにも皆様に紹介させていただきたく、Benoit枠を設けていただくことをお願いしたのが昨年のこと。吉門先生に快諾いただいたことで、今年より自分から皆様へご案内することが叶ったのです。80回近くも開催しているイベントなのに知らなかった…とは、このようないきさつがあったからなのです。

 さて、いったいどのような講習会なのか?当日の流れをご紹介しながら、少しでだけ講習内容に触れてみようと思います。

 当日は、皆様にはBenoitのランチ営業前の11時10分から20分ほどにはお運びいただきます。挨拶をかわしながら席に着き、11時30分から12時10分まで吉門先生の話に耳を傾けていただきます。長いように思うのですが、参加された方の話では、笑いあり涙あり?で思いのほかあっというまの40分間のようです。

 ここで、いつもの料理説明を自分が行い、いざ実践の場へと移ります。テーブルマナー講習会は、ある意味「間違える場」でもあるので、気後れしてはいけません。遠慮なく間違い、気さくに指摘してくださる先生から大いに学びましょう!そして、先生が食事中だろうがなかろうが、気になる点や疑問点を気兼ねなく問うべし。少人数だからこそ、都度、質問に的確に答えてくれます。

 料理は、残念ながらいつものように選ぶことができません。自分がシェフと相談して決めさせていただくのですが…其処此処(そこここ)に、美しく食事をすることを邪魔するポイントが隠されています。皆様を思ってのことで、決して自分の性格が悪いからではありません…もちろん、陰でほくそ笑んでいることもありません。前菜→スープ→主菜→デザートと流れる料理/デザートに、スパークリングワインと白か赤ワインの2杯をお持ちいたします。もちろん、ノンアルコールドリンクもご用意しております。

 15時に終わる予定なのですが、1回とてこの時間で終わったためしはありません。、毎度のように、Benoitランチ終了の15時30分まで、話の盛り上がりが途切れることがないのです。これほどの長時間にもかかわらず、講習を終えられた皆様の表情に疲れは見えず、何かを感じ取ったかのような高揚感が、発せられる言葉の端端に表われている。

 いったいどのような話の内容なのか?

 ナイフやフォークは外側から使いましょう…というような話がなくもないですが、吉門先生が伝えたい本質はそこではありません。すべての所作には「理由」があり、その理由を識(し)ることで身体が覚えてゆき、知らず知らずに美しさを身にまとうことになる。そして、それがその人の「品位品格」となってオーラを発するようになる。

 食事の席というのは、知っている人ばかりとは限らず、知らない人のときもある。そこは、栄養を摂る場所ではなく、語らいの場です。美しい所作が相手に共感を覚えさせる、そして内面からはなたれる品位品格が感動を覚えさせる。これが相手との距離を詰めることとになり、会話が弾む。そこに美味しい料理が加わることで「口福な食時」となる。知性あふれる言の葉が発せられる口が福を呼ぶのか、はたまた舌鼓(したつづみ)を打つほどの美味しい料理によって口中に福を感じるのか。この2つが相まったときの「ひととき」に、我々は幸せを感じるのではないでしょうか。

 自分が、学生さんのテーブルマナーの講師を依頼されたときに、吉門先生に相談いたしました。すると、先生からの第一声は…何にも増して「感謝」の気持ちを伝えることを教えてほしと。さあ、いったい何に対して?いつどのように?感謝を伝えればよいのか。1回でも吉門先生の講習を受けると、この答えが鮮明となるばかりか、テーブルマナーの真髄に触れたかのような、まるで「見初むる」心地を覚える…そして、「さやけさ」感じるオーラを放つ人間になる…はずです。

 

世界基準の一流を学ぶ 「テーブルマナー講座」

開催日: 20231118() / 1127() / 123()

時間: 11:30より講義を始めるので、ます。 11:10には受付を始めます。終了予定は15時15分を予定しておりますが、毎度のように15時30分までは盛り上がります。

料金: 18,000(サービス料/税込) ※お食事とワイン2杯を含みます。

※事前振込制です。ご希望の日程がございましたら、北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡ください。質問なども喜んで承ります。この講習会に関しては、電話でのご予約は受け付けておりません。



 講師である吉門憲宏さんは、元日本航空国際線のキャビンスーパーバイザー(チーフパーサー)として世界の空を飛び続けた、飛行距離は地球450周を超えるほど。120万人もの旅客様と笑顔を交わしてきているのです。在職中は、定年退職になるまで飛行機に乗り続けたつわもの。日本文化の礼節を伝える民間外交でもある接客のプロとしての人生を歩んできた、だからこそ、多くの知見があるのです。

 先生との自分との出会いは、偶然だったのか必然だったのか…現職を退いてからは、アメリカでのMBA取得のための派遣される某大手企業のスタッフが、欧米の社交界に馴染めるようにとトレーニングをする講師を担っていました。その打合せの席なのか、無事に送り出したお礼のためだったのか、大手企業の人事の方々が選んだのがBenoitでの一席だったのです。そのようなこととは露知らず、自分がいつものように語るは語る…後日に知ることになるのですが…いやお恥ずかしい限りです。

 幸いにも、この出会いが、今も続いているBenoitで開催される「テーブルマナー講習会」を導いたのです。日本人が、ついついやってしまうことを、笑いを込めながら教えてくれ、毎度のように「やっちまった~」と笑いが、部屋の仕切りとなるカーテンの隙間から漏れ聞こえてくる。このようなテーブルマナー講習会があったであろうか。だからこそ、皆様にご案内させていただくのです。

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 季節性インフルエンザやコロナウイルスが猛威を振るっているようです。秋深くなり、過ごしやすい日々が訪れますが、ここで気を緩めると猛暑疲れがドッと押し寄せてくるでしょう。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、無理は禁物、十分な休息と休養をお心がけください。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2023年11月「月の魅力を少しばかり、≪月かげに見初むる心地≫について…」

夜とともに 山の端(は)いづる 月かげの こよひ見初(みそ)むる 心ちこそすれ  藤原清輔

 往古より、「花」といえば春を意味します。数多(あまた)あるどの花のことなのか。かつては「梅(白梅)」でしたが、今では「桜」です。「桜」といえば、真っ先に思い描くのがソメイヨシノかと思うのですが、これは江戸時代に誕生した改良品種。平安時代では、山桜(ヤマザクラ)のことを指していたといいます。なぜ変わったのでしょう?

 万葉の頃は、古代中国から怒涛のように渡来してきた文化に圧倒され感化されてゆく時代でした。書くこともままならなかった古代日本に、「漢字」という文字が渡ってきたのです。圧倒的な文化の差に、宮廷人がどれほど驚愕したことか。この頃の公式文書が漢文であったことを思うと、必死に取り入れようと苦心していたことは間違いないでしょう。このような趨勢(すうせい)の中で、彼の時代の日本人は、話し言葉である「日本語」を捨て去らなかった…万葉集とは当時の人々の想いを話し言葉でまとめた、日本最古の歌集です。この時代に「ひらがな」はなく、識(し)った漢字を駆使して、漢字の音読みの「音」を駆使し、まるで当て字のように書き綴っているのです。これが「万葉仮名」というものです。

 古代中国文化に圧倒される時代の中でも、古代日本人は「日本文化」を見失わなかった。和歌という文化を遺しつつも、「和歌の暗黒時代」と呼ばれる月日の中で、どれほど肩身の狭い思いをしていたことでしょうか。古人は、漢字の素晴らしさを理解し取り入れるも、「完璧」とは思っていたなかったのでしょう。古代の日本の賢人は、話し言葉として連綿と引き継がれてきた大和言葉でなければ、日本の「花鳥風月」の移ろいの美しさを表現できない、そう悟っていたのかもしれません。

 いくほどの月日が経るなかで、ついに平安の時代に「ひらがな」が誕生したのです。今でもいう日本語とは、この時代に姿を現したといってもいいと思います。万葉の時代から、ゆうに300年近くの暗黒時代を経れなければなりませんでした。そして、時代が求めたのでしょうか、稀代の天才が続々と歴史に姿を現すのです。日本最古の勅撰和歌集の編纂を命じた醍醐天皇、その時代には紀貫之がいる。彼の書き綴ったいう序文には、四季を尊ぶ日本人特有の花鳥風月の想いがとうとうと込められている気がします。この話は、次の機会に。

 このような時代変遷があったことを鑑みると、万葉の時代には。、古代中国文明とともにもたらされた「梅」を愛でることこそが文化人なり、と考えていたのも想像に難くないもの。そのため、「花」といえば「梅」。それが、平安時代に日本文化が開花することによって、日本の固有種である桜「ヤマザクラ」に移っていった。そこで、「花」といえば「桜」となる。ヤマザクラの美しさは、今も昔も変わりません。もちろん万葉の時代もです。しかし、彼の時代の文化人を自負する人々には、梅を愛でることこそが美であると気取っていたのでしょうか…まあ梅も桜も美しい花を咲かすことは周知の事実ですが、幸いに花笑う(はなわらう)時期が違うことが、ともに忘れ去られることがなかった理由かもしれません。

 余談が過ぎました。今回は「花」ではなく「月」です。上記のような時代の変遷をたどりながらも、「月」は「月」です。大和言葉で「つき」と呼んで崇めてきた唯一無二な存在であり、満ち欠けと姿の移ろいが何やら神秘的なものと捉えていたのでしょうか。そこに、漢字が怒涛のように渡来してくるも、「月」という漢字の意味は踏襲するも、これに「つき」と「読み」をふるという英断をするのです。

 四季折々に月の軌道は変わりますが、毎月のように月を空に眺めることができます。雲が邪魔をしていたとしても、少なくともご自身の年齢に12を掛けた数だけ満月に出会っている。それにもかかわらず、「月」が秋を意味するというのは、古代中国で生まれた「中秋の名月」という美意識が日本にもたらされ、秋の風物詩として確固たる地位を確立したことことを意味しているのでしょう。それでも、月(つき)と呼ぶことを変えなかった。

 よくよく考えると、今も昔も地球から眺める月の姿は変わりません。もっと言ってしまえば、地球と月が誕生してから悠久ともいえる何億年もの歳月が流れていますが、その姿は変わりません…のはずです。夜の帳(とばり)が下りてくるころ、東の山々へと視線を向けると、その稜線から姿を見せる月がある。上弦の月であれば、明るい中でしれっと昇ってゆく。下弦であれば夜遅くないと姿を見せないもの。藤原清輔が夜更かしでもしていなければ、冒頭の歌で詠われた月の姿は、満月に近かったはずです。

 煌々(こうこう)と光をはなちながら天高く昇ってゆく姿を目にし、あまりにも清らかな「月かげ(月の光)」であったからか、今宵に初めて出会ったかのような心地を覚えてくるようだ…と藤原清輔はいう。まさに「さやけさ」を感じるひとときではないかと思うのです。清らかで美しいと辞書に記載があるも、この「さやけさ」という言葉には、月の光のように、なにやら畏敬の念が込められた不思議な響きをはなっている気がするものです。

 我々にとって、月は子供の頃から知っている、馴染みの存在です。そして、毎月のように、いかなる形であれ目にすることができます。それにもかかわらず、あまりにも月かげに神々(こうごう)しいからなのか、「見初(みそ)むる心地」がするという清輔の感慨に、大いに共感を覚えるものです。夜半に、ついつい立ち止まって眺めてしまう自分がいる…皆様も同じような経験があるのではないでしょうか。

 

 余談ですが…月の光によって照らされた地は、なんとも寒々しさを感じるほどの美しさがあります。影ができるほどの月明りではありますが、月が発する光ではなく、太陽光が月に当たり反射したものであることは周知の事実。では、どれほどの明るさなのかというと、身近なもので例えると「20mの高さに吊るした100ワットの電球」だといいます。

 LEDが普及しつつあるも、まだまだ随所で見かける100Wの白熱球。高さ20m、ビルでいえば7階から、この電球で照らす明るさを想像できるでしょうか。闇の中では、無いよりはましだけれども、何をするにも不自由な暗さです。科学的な説明では、なんとも味気ないものですが、澄み渡る秋の空一面の星月夜の中で、その星々を凌駕するかのような光を放つ秋の月は、美しく魅力的なことは間違いありません。

 「月」は秋の季語ではありますが、春夏秋冬それぞれに違った美しさをもっています。そして、往古よりその姿を変えていません。万葉の時代から平安・室町の時代にかけて、数々の秀歌を遺した賢人たちも、間違いなく同じ月を眺めていた。そして、その月に魅せられていった。こう考えると、毎月のように眺めることのできる月が、なにやら畏敬の念を覚えるものです。

 名月といわれていなくとも、月の美しさにかわりはありません。「見初むる心地」のなかで、「さやけさ」という感覚をおおいにお楽しみください。そして、しみじみと感じ入る…「いとをかし」と。月齢が増すごとに、月が姿を現す時間が遅くなります…夜更かしには、十分ご留意ください。

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 猛暑な日々も影を潜めてきたようです。これと入れ替わるかのように季節性インフルエンザやコロナウイルスが猛威を振るっているようです。過ごしやすい日々が訪れますが、ここで気を緩めると猛暑疲れがドッと押し寄せてくるでしょう。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、無理は禁物、十分な休息と休養をお心がけください。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2023年11月「月の魅力を少しばかり、≪十三夜≫のお話です。」

昔より なぞ長月の 今宵しも 曇らぬものと 空もしりけん  源俊頼

 昔から、どうして旧暦9月の今宵(十三夜)に限っては、曇ってはならないと空は知っているのであろうか。もちろん、空が我々に都合よく雲を散らしているわけではありません。「中秋の名月」が、あまりにも雲の動向にやきもきするからこそ、「後の名月」の雲ひとつとない空に恵まれることが多く、心も晴れるのでしょうか。地上人の想いを、空が理解してくれたのだと…

 先日、10月27日に「十三夜(じゅうさんや)」を迎えました。「後の名月」とも呼ばれるこの名月は、古代中国から鮮烈にもたらされた文化の中の一つで、旧暦8月15日の「中秋の名月」を愛でることに由来しています。この次に巡ってくる「朔望月(さくぼうげつ)」の名月を楽しもうというもので、日本で誕生した風習です。

 旧暦は月を基準にしており、「朔(さく/新月)」から始まり「朔」で終わる期間が1ヶ月です。そのため、毎月14日目~17日目が満月にあたります。「十三夜」とは、その文字のごとく13日目の月のこと。満月(十五夜)から、少しばかり左が欠けています。この完璧ではない、「少し欠けている」姿に美を見出すところに、日本人らしさがあるような気がします。と書きながら、理由は他にあるのではないかと思うのです。

 月を基準にした旧暦と太陽の新暦では、どうしても偏差が40日ほど生じます。そのため、旧暦8月15日の「中秋の名月」が新暦9月となるのです。まんまると神々(こうごう)しく輝く月を愛でよう…というのも分かるのですが、古来より日本のこの時期は秋雨前線の影響もあり、曇りがち。確かに、毎年のように天気が落ちつかず、名月を鑑賞できない年もあります。

 徒然草兼好法師は、「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。」と綴っている。「花は満開のときだけを、月は雲がないときだけを見るものであろうか、いやそうではない。」と喝破しているのです。この月とは「中秋の名月」のことをいっているのでしょう。雲一つない空に昇る満月は素晴らしいが、雲があってもいいものである…雲が多いときが多いから、そこまで落胆しなくともいいのではないか。往古よりこの日は曇りがちだったことは間違いありません。

 そこで、古代賢人は考えた。経験上、旧暦9月の満月の頃のほうが、空が雲で覆われることが少ないことを知っていた。そこで、「中秋の名月」を愛でることがままならない無念さから、「後の名月」という着想を得た。しかし、旧暦9月は新暦でいう10月あたりであり、今年は暖かいというよりも暑い日々が続いていますが、例年であれば夜半は寒いものです。

 月齢は若いほど、月は早く姿を現します。寒さの耐えうるためには、月齢が早いほうが都合良いが、あまりにも三日月や上弦の月では趣がないもの…そこで、少し欠けた月齢13日にしよう、月齢15日の満月よりも、月が姿を見せるのが早いから…月齢が一日増えるごとに、約30分遅れて月は姿を見せる。ということは、2日間も早めれば、約1時間も早くなる。

 「十三夜」については、諸説あるものの、醍醐天皇が月見の宴を催したのが始まりだといいます。彼(か)の時代は、平安…防寒着もままならない時代のこの季節、いかに風流人であっても、夜半に歌会は寒さが身にこたえるもの。日中が好天に恵まれるということは、月が中天に向かうにつれ放射冷却の影響もあってか寒さが増してくるものです。寒さに凍えているようでは、秀歌を詠う心の余裕などできようはずもありません。いや、極限に身を置いたほうが、頭が冴えるのか?さて、皆様はどう思いますか?

 余談ですが、「十五夜」は「芋名月(いもめいげつ)」という異名を持っています。この芋は、舶来物のジャガイモやサツマイモのことではなく、「里芋」のことです。お月見の団子は、この里芋に模したのだといいます。

 「十五夜(中秋の名月)」と「十三夜(後の名月)」のどちらか一方しか鑑賞しないことを、「片見月(かたみつき)」や「片月見(かたつきみ)」といい、縁起の悪いことと考えれたようです。それに、同じ場所で愛でねばいけないのだとも。そして、「十五夜」と「十三夜」を合わせて「二夜の月(ふたよのつき)」と呼び、この風流を楽しんでいたようです。逢瀬(おうせ)を重ねる人にとっては、格好の口実だったのではないかとも思うものです。十五夜で逢ったならば、十三夜でも逢わなければいけないので…

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 猛暑な日々も影を潜めてきたようです。これと入れ替わるかのように季節性インフルエンザやコロナウイルスが猛威を振るっているようです。過ごしやすい日々が訪れますが、ここで気を緩めると猛暑疲れがドッと押し寄せてくるでしょう。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、無理は禁物、十分な休息と休養をお心がけください。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2023年11月 「北平がBenoitを不在にする日」のご報告です。

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない11月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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 上記日程以外は、Benoitを優雅に駆け回る所存です。自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。末筆ではございますが、皆様のご健康とご多幸を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2023年10月11月 Benoit特選食材とお勧め料理のご案内です。

 草木の花々は移りゆく季節の機微を捉え、順を追って咲き誇るもいずれは散りゆきます。食材も同じように「旬」という期間は限られたものであり、「待つ」という優しさはありません。そこで、全ての旬食材は無理でも、Benoitの要望に応えてくれた逸材でこしらえた、まさに「旬の味覚」の料理とデザートをご用意いたしました。その旬の食材とお勧め料理/デザートを、皆様にご紹介させていただきます。

 

ラグビー日本代表の善戦に敬意を表して、今季のBenoitはこのカボチャ

 今秋のBenoitのスープは、まるでラグビーボールのような形のこの「ロロンカボチャ」でこしらえます。多くの野菜が新鮮であればあるほど美味しいものですが、カボチャは別です。収穫してから追熟させることで美味しさが増してくるのです。このロロンカボチャは、香川県の県庁所在地・高松市の南部、香南町(こうなんちょう)に畑を有する「薫る農園」さんが、丹精込めて育て上げ、同市に店を構える八百屋「サヌキス」さんが保管をしていたものがBenoitに届くのです。

 ねっとりと優しい甘みのあるこのカボチャをたっぷりと使い、なめらかなトロッとするスープに仕上げます。カボチャの美味しさを引き立てるかのように、バターと玉ねぎがいい仕事をしている。フランス料理の世界では、さらっとした液状のスープを「Soup」、とろりとした濃密なものを「Velouté(ヴルーテ)」と表現するようです。もちろん、BenoitのかぼちゃのスープはVeloutéと表現するにあい相応(ふさわ)しいもの。

 カボチャは、とてもとても栄養価の高い野菜。もちうる免疫力を最大限発揮することを促す、カロテンやビタミン類を豊富に含んでいます。さらに、ホルモン調整機能をもったビタミンEが、肩こりなどの更年期障害の症状を改善するといいます。

 夏には恨めしく思っていた陽射しは、これから冬に向かうことで日増しに短く弱くなってきます。ついつい憂鬱な気分に陥ってしまう時期だからこそ、免疫力が下がり体調を崩しやすくなるもの。「冬至にカボチャを食べると病気にならない」とは古人の教えであり、今でも十分に説得力を持っています。

 しかし、Benoitでは冬至まで待つことはありません。「秋からカボチャを食べることで、きっと病気にならない」との思いを込めて、ロロンカボチャのヴルーテをご用意しております。美味しく食することで、効率よくカボチャの豊富な栄養を摂ることができ、さらに人を笑顔にする。上向きの気持ちの時には、病気にはかからないものです。

Velouté de potiron et fromage frais “

香川県産か ぼちゃ"のスープ リコッタチーズ

※ランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

Benoitの秋は栗で始まる…≫

 秋を代表する食材の中で、料理とデザートで主役を担うことのできるものとして、和洋を問わず筆頭に挙がるのが「栗」でしょう。栗なる木の実を大きく分類すると3つに分けることができ、それぞれに美味しさが異なります。天津甘栗などで有名な「中国栗」、マロングラッセなどには欠かせない「ヨーロッパ栗」、そして、日本の「和栗」です。Benoitには、ヨーロッパ栗と和栗が届いています。

 ヨーロッパ栗は、もちろんフランスから。フランス栗は特有のコクと甘さがあり、フランス伝統菓子のマロングラッセがやはり美味。栗おこわにすると、和だしや醤油の旨味ばかりかもち米の繊細な風味をも奪い去ってしまうことでしょう。そこで、Benoitでは、洋栗をこれでもかと使ったなめらかなスープに仕上げます。

 フランス栗だけでこしらえるスープは、甘さと木の実のコクが強く出ます。だからといって薄くするという発想はありません。Benoitでは栗の渋皮を加えることで、赤ワインの渋みのような味わいを加えるのです。今の時期になると、必ずと言っていいほど「栗のスープはいつからですか?」と皆様から問い合わせが入る逸品です。Benoitの秋は栗で始まる…

Velouté de châtaignes, garniture mijotée

フランス産栗のスープ

※ディナーランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 そういえば、栗には東西を問わず渋皮があります。美味しく食べるには、この渋皮を取り除かねばなりません。フランスで栗の収穫を迎えると、この渋皮剥(む)きは女性の担当だったといいます。この作業を経験した方はご存知かと思いますが、手が渋皮で黒ずんでくるのです。特に爪が黒ばんでくることを、フランス女性たちの美意識が許しませんでした。そこで、考案されたのが「マニキュア」だと…そのような女性たちの想いを感じながら、Benoitの栗料理と栗デザートお楽しみいただくことも一興かと。

 

 

Benoitのフォアグラのコンフィが意味するもの

 もう14年もまえのこと、2009年にフランスで「Best of Chef」シリーズのレシピブックが刊行されました。10€という価格ながら、詳細な解説に幾枚もの写真が掲載されており、ついつい素人の自分でも作れるのではないかと錯覚してしまう。1刊目は、BOCUSEさん。3刊目はROBUCHONさん。ともに鬼籍に入るも、今なおその名声は衰えを知らない。この二人の間に割って入ったのが、我々のボス、Alain Ducasseでした。

 アラン・デュカスがこのレシピブックを刊行するにあたり、まっさきにもってきた料理こそが、今回ご紹介する「鴨のフォアグラのコンフィ」でした。自分がBenoitで働き始めた頃、初めてこのフォアグラの料理を口にした時は驚愕を覚えたものです。あまりの美味しさに、当時Benoitのシェフだった小島景から事細かに作り方を聞いたものです。なんと手間暇のかかる逸品なのかと感じ入ったことを今でも鮮明に覚えています。それが、このレシピ本では、家でも作れるのではないかとも思うほど詳細に、作り方が記載されているのです。

 鴨のフォアグラは、塩・コショウをふって冷蔵庫で休ませます。そして、カットすることもなく、そのままぬるめの鴨脂の中へ。ゆっくりゆっくりと鴨脂の温度を上げてゆく。揚げるわけではないので≪ぐつぐつ≫ではなく、鍋を覗き込むと、熱で脂が対流しているかのよう。何時間を要するだろうか…

 湯ではなく、鴨脂に浸かるフォアグラの中心温度が70℃に達した時点で、温度を維持するのではなく、そのまま油から取り出し、粗熱をとります。この状態でも美味しそうなのですが、アラン・デュカスが求めるフォアグラのコンフィは、さらに気の遠くなるほどの時を要求してくるのです。

 粗熱をとったフォアグラは、冷ました鴨脂とともにパックし、そのまま冷蔵庫で眠りにつきます。何もしない…そう何もしないこと3週間。フォアグラは、ミンチにすることも潰すこともせず、そのまま調理してゆきます。そのため、1週間ではまだまだフォアグラのもつ内臓の荒々しさが残っているのです。それが、3週間という時が経過することで、口中でとろけてゆくような滑らかさのある、さらに旨味に満ちた逸品に仕上がるのです。

 

Foie gras de canard confit, pain de campagne toasté

フランス産フォアグラのコンフィ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜として+2,000円でお選びいただけます。

 

 「コンフィ」とは、今では生活に欠かすことのできない冷蔵庫が無かった時代、先人たちが考えた食材の保存方法でした。水ではなく油で煮ることで、低温でじっくり熱が入り、素材の美味しさを逃がしません。そして、油に浸かったままにしておくことで、空気に触れいないため酸化せず、あらに悪玉菌が増殖することもなく保存が可能となるのです。ちなみに「フルーツのコンフィ」は、油ではなく砂糖漬けです。ばい菌が活動できないほど甘く仕上げるのです。この先人の知恵は、保存性ばかりではなく、あらたな旨味をひきだすとして、調理方法へと発展してゆきました。

 

 

Benoit自慢のテリーヌなり!≫

 ビストロというカテゴリーの飲食店において、日本のみならず本場フランスでも欠かすことができない料理が、「テリーヌ」ではないでしょうか。Benoitにおいても、前菜として不動の地位を得ており、メニューから姿を消すことはありません。これほどまでに馴染みの料理でありながら、これといった決まった素材や調理法があるわけではなく、テリーヌ型といわれる陶器の蓋つき容器を使ってじっくり焼き上げたもの。肉に限らず野菜や魚介でも、この型で焼けばテリーヌということになるのです。

 このようにあいまいなカテゴリーなために、シェフによってさまざまなテリーヌが存在することになります。同じ肉主体でありながら、柔らかく仕上げたものもあれば、ゴロゴロと食感が残るようにこしらえたものもあります。違うからこそ、どのようなテリーヌが供されるのかもまた、楽しみの一つなのでしょう。

 Benoitシェフの野口は、長い調理人経験の中で試行錯誤を繰り返し、彼の求める美味しさを追求してきました。そのため、多くの店が提供しているとは、Benoitはひと味もふた味も違う。テリーヌの素材は、豚肉をメインに鶏レバーの加えて粗挽きでこしらえる。数多(あまた)あるテリーヌもそう変わらない。しかし、野口の肉のブレンド比率とスパイスとハーブの使い方が妙を得ているのでしょう、食感が心地よく旨味あふれる逸品に仕上がってるのです。

 ランチは、豚の肩肉をメインとし、豚の背脂で旨味を加え、鶏のレバーでコクをあたえたもの。Benoitの定番として不動の人気を誇るもの。ディナーでは、Benoitサラダのトッピングとして登場します。

Terrine de campagne, pain toasté

テリーヌ・ド・カンパーニュ

※ランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 ディナーでは、この時期ならではのジビエのテリーヌをご用意いたします。鴨(かも)と猪(いのしし)、さらに鹿というジビエの三つ巴ともいう食材を使い、上記の定番テリーヌとは違った、味わいと深みのあるコクに満ち満ちたものに仕上げています。それぞれの肉を大ぶりにカットするため、口の運ぶ場所場所によって少し異なる味わいをもお楽しみください。

Terrine de gibiers, pain toasté

ジビエのテリーヌ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

≪さっぱり分かり難い料理「ブランダード」、しかしこれが美味なり。≫

 ヨーロッパでは、北欧を主として、塩をたっぷりとまぶし釘が打てるほどに乾燥させ保存性を高めたタラ、「Morue(モリュ)」と名付けられた食材があります。これをいかに美味しく食べようかという、フランスの伝統と知恵が作り上げたのが、ブランダードという料理です。同じような料理が、ヨーロッパ各国にあり、大航海時代で言語が伝播するように、世界中に拡がっていきました。いったいどの地が発祥なのか、今となっては知る由もありません。

 日本は周囲を海に囲まれており、鮮度良く美味しいマダラが手に入る環境にあるため、Benoitのブランダードは塩干タラを使用しません。北海道のマダラに塩をまぶし一晩お休みです。これにより、、身が引きしまるのと同時に、旨味が出てきます。このタラを少しばかり塩抜きし、牛乳とニンニクの中で煮たものを、ほぐしたジャガイモと混ぜ合わせます。これに半熟卵をのせる。ジャガイモの甘さとホクホクの食感、そこにタラ特有の繊維っぽい身質と旨さが絡みあう。半熟卵のとろりとくる黄身との相性も抜群です。さらに、クリームにニンニクを風味付けしたものをソースとする。これがBenoitスタイルです。

Œuf mollet, brandade de MORUE

鱈のブランダードと半熟卵

※ランチのプリ・フィックスメニュー、前菜としてお選びいただけます。

 

 

≪今秋は旬の美味なる魚をムニエルでいかがですか?≫

 魚料理名の中に、「ムニエル」という言葉が度々姿をみせます。「舌平目のムニエル」などは、いかにもフランスっぽい料理であり、音の響きではないでしょうか。この「ムニエル」とは、料理を意味するのではなく、魚に小麦粉をまぶし、たっぷりのバターで焼き上げる調理法のことです。

 今秋のBenoitのメニューにも、「ムニエル」という単語が登場しています。ココットにバターをたっぷり溶かし込み、ふつふつと泡立つ中に魚を落とし込みます。この時、魚には小麦粉はふらず、シンプルに魚の美味しさを表現します。ココットの中では、熱々のバターをふりかける度にじゅわ~ビチビチと心地良く響く音色に、立ち昇るバターの甘い香りに香ばしい魚の香り…

 しっとりと焼き上げる魚に、職人技を垣間見ることができます。旨味の移ったバターに、ニンニクで香りをつけ、心地よいレモンの酸味を加え、さらにアンチョビを旨味を足したものがソース。添えるのがジャガイモを3種の調理方法で仕上げたもの。マッシュポテトにほぐしたジャガイモ、そして透けるかのようなポテトチップス。バターソースなだけに、お皿の中はジャガ&バター…この相性が悪いわけがありません。

 と、ここで気になるのが、旬の魚とは何か?ということでしょう。今季のBenoitは、ランチ/ディナーともに、「カレイ」なのですが、その仲間の中でも群を抜いた美味しさを誇る「マツカワカレイ」です。北海道で水揚げされた「マツカワカレイ」は、見事なまでに美しい背ビレに腹ビレに描かれる帯模様。これぞマツカワガレイなり!ヒラメにも負けないほどの肉厚さながら、やはり肉質は繊細で、優しい旨味に満ち満ちています。

 肉厚ではありますが、3枚に捌いてしまうと「美味しくなる前に火が入っていまう」ものです。そこで、中骨を残したままぶつ切りにして焼き上げるのです。骨付きだからこそ職人技ともいえる絶妙な火入れを可能とし、旨味を逃がさないのです。骨があって食べにくい?いやいや、骨に沿って魚ナイフをいれていただければ、きれいに身がほろっととれるのです。

 背びれを上に置き、白い腹目を地につけた時、「左ヒラメに右カレイ」なのだといいます。ヒラメとカレイを見分ける時の決まり文句です。その眼の向きは、やはり美味しさに違いをもたらしますが、エビ・カニ・小魚を捕食することで蓄えられる旨味は甲乙つけがたいもの。しかし、その肉質には大きな違いがあります。カレイ目ヒラメ科の仲間がぷりっと堅めの身質であるならば、カレイ目カレイ科はふわりとして柔らかい。

Carrelet à la meunière, pommes de terre écrasées

カレイのムニエル じゃがいものエクラゼ

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜としてお選びいただけます。

 

 

佐渡ヶ島から直送!アオリイカBenoitに姿を見せる。≫

 新潟県佐渡ヶ島は、沿岸一周約280kmもあり、東京23区の1.4倍の広さを誇る本州最大の島です。新潟港からカーフェリーで2時間半、ジェットフォイルを使えば1時間ほどで島の両津港へと着岸します。そこから少しばかり北に向かうと、「佐渡魚市場」が姿を見せます。まだ東雲(しののめ)の頃から、次々と水揚げされる魚介の量の多さは、いかに佐渡近海が好漁場であるかを物語っています。

 Benoitは、マルヨシ鮮魚店の石原さんに競りを託します。活気を帯びる市場の中で、彼にお願いしたのは旨味食味が抜群で、イカの中でも最高級の食材と称されている「アオリイカ」です。生きたものしか捕食しないという硬(かた)くなまでのこだわりが、この美味しさを生むのでしょう。夏に生まれたアオリイカが、海水温が下がってくるころから沿岸部から深辺へと移りゆき、ぐんぐんと成長するといいます。確かに、今はまだ小さめだというのですが、いやいやこのサイズだからこその美味しさがあるのです。

 焼き切ってしまえばただの焼きイカ。そこで、Benoitではちゃっちゃと焼きを入れるのみ。半生のようであり、余熱で軽く焼きが入るようでもある。だからこそ、アオリイカが誇る香りの高さに魅せられ、パリッという若々しい弾けるような…そして、イカ特有のムッムッとくる食感、その溢れ出る旨味に酔いしれる…

 石原さんがこのようなメッセージを送ってくれました…「ただただ美味しく召し上がっていただきたいという一心です。良いものを早く処理して一流の料理人に渡す事が魚屋の仕事だと思っています。佐渡ヶ島の旬の逸品をお楽しみください!」と。

 

 このアオリイカに合わせるのは、やはり旬の食材である「秋ナス」です。しかし、この時期は美味しいけれども、少々皮が厚くなるもの。そこで、Benoitは3種類の調理方法でご用意いたします。一つは、皮を剥いてオーブンでじっくり焼き上げたナスを心地よい酸味のマリネ液に浸したもの。もう一つは、焼くことで旨味したナスを細かく切るように仕上げたところに、爽やかな酸味を少々。さらに、そのナスにゲソを細かく切ることで、アオリイカ特有の旨味を加えたもの。

 

 上述した「爽やかな酸味」とは、レモンではありません。この時期ならではの特選食材である幻の酢ミカン「直七」です。この聞き慣れない「直七(なおしち)」とは、スダチやカボスといったような酢ミカンに分類されています。原産は広島県尾道市因島(いんのしま)の田熊で、学名は「田熊スダチ」といいます。これが高知県へと持ち込まれました。今では因島で栽培している人はなく、高知県でも四万十市のさらに西隣にある宿毛(すくも)市とその周辺で栽培されているのみです。

 かつて、土佐の魚商人が、「魚に絞ると美味しいよ!」と、この田熊スダチを水揚げされたばかりの魚と共に売っていたそうです。あまりの相性の良さに加え、その魚屋さんのキャラクターが地元の人々に好印象だったのでしょう。人々は、その柑橘を田熊スダチとは覚えず、彼の名前で呼ぶようになった…「直七」とは、その魚行商を行っていた人の名前です。

 馴染みのスダチとは、外形も味・香も異なっています。ほのかな甘みに、心地よい酸味と柑橘の爽やかな青々しさ。姿もそうですが、スダチとミカンを合わせたような柑橘です。青果での流通は一昨年より初めてテスト的に一部のスーパーなどへ出荷しただけでした。一昨日にBenoitシェフ野口が試食し絶賛!今期も購入させていただいております。

 そう、Benoitでは、幻の酢ミカンが幻ではなくなっています。

 この「直七」を、果皮を削り、さらに果汁を絞ったものを、アオリイカの料理に使用します。レモンではない、スダチではない、直七だからこその風味が、アオリイカと秋ナスの美味しさを引き立て、調和をもたらしている。それぞれが持ちうる旬の美味しさをご堪能ください!

Calamars au plat, aubergine confite

佐渡ヶ島アオリイカのソテー ナスのコンフィ 柑橘直七

 

「秋茄子は嫁に食わすな」

 体が冷えて流産してはいけないと嫁の体を労(いたわ)った言葉です。夏野菜であるナスは、水分が多い上にカリウムが豊富です。カリウムには利尿作用があり、余分な水分を体外に排出する際に体温を奪っていきます。さらに、ナスのアクも体温を下げるのだといいます。夏であれば良いことも、肌寒くなると困りもの…しかし、秋ナスは格別に美味しい。

 食べ過ぎいけないことはどの食材でも同じこと。アク抜きしたナスを適量であれば、妊婦さんでも美味しくお召し上がりいただけます。まして、ナスから摂れる葉酸を思うと、「秋ナスこそ嫁に食わすべし!」というものです。なにぶん、体が冷えることは体感的に分かっていても、葉酸などの含有成分などわかりようもない時代にあっては致し方ないことなのかもしれません。

 

 

≪ボーノ(美味しい)という名を冠したボーノポーク?!

 「ボーノポーク」は、イタリア語で美味しいという意味の「ボーノ」という言葉を冠し、なんとも軽々しい印象を受けますが、その実は、岐阜県の中濃ミート事業協同組合の威信にかけて育て上げた銘柄豚です。飼育地は、県内の瑞浪(みずなみ)市、山県市、揖斐(いび)市の3地域。3つの種の掛け合わせで誕生した三元豚で、そのひとつが霜降り割合を増加させる能力を持つ、岐阜県が開発育種した「ボーノブラウン」という種豚です。

 抗酸化能とオレイン酸を多く含む植物性原料を含み、飼料中のアミノ酸バランスを調整した専用に開発された飼料を与えています。この飼料を含め、徹底した管理のもとで飼育されることで、霜降り割合が一般的な豚肉の二倍にものぼり、肉自体の旨味を十二分に堪能できる上に、脂の甘味か加味されるのです。さらに、一般に流通している豚肉よりもドリップロスが少なく、肉の旨味が逃げにくいのが特徴といいます。

 飼育した全てが「ボーノポーク」というブランドを冠することはありません。県下の和牛ブランド「飛騨牛」が、霜降り具合を目視によって5等級なのか4等級なのか、はたまた3等級なのかと振り分けるように、この豚もまたロース部位を目視によって判別してゆきます。違う点は、区分けが「ボーノポーク」か「一般的な豚」の2択であるということ。

 皆様が、「ボーノポーク」という豚の名前を耳にしたことがないのも当然、徹底した管理のために多くを飼育できない上に、厳しい選別ゆえに流通量が極端に少ないのです。その、貴重な豚肉がBenoitに届いています!どれほど美味しいのか?それは、Benoitが4年間にもわたり他の豚へ浮気しないことがなによりの証(あかし)です。

 しかし、どれほどのブランド肉でも、豚肉は生では食せず、良く焼くと硬くなります。そこで、ロース肉とバラン肉は厚めにカットし、時間をかけながら焼き上げます。特にロース肉は、断面がうっすらとピンク色になるよう職人技によって、しっとりとした食感とボーノポークの旨味を十二分に堪能できる。バラ肉は、ボーノポークならではの脂の甘さに旨さに感動を覚えることでしょう。さらに、この2種にウデ肉を加えてこしらえた自家製ソーセージは、保存性をもたせる必要がないため余計な添加物など一切入りません。豚肉の各部位のもつ、旨味が一堂に会するかのようにソーセージをお楽しみいただきたいです。

 添えるのはフランスのル・ピュイ産のレンズマメ。ワインと同じように原産地呼称を受けている緑レンズマメだけに、その美味しさは格別です。カスレのように、レンズマメの中に豚肉を加えて煮込んでいるわけではありません。この豆を、茹でたもの、ピューレにしたもの、チップスにしたもの、と食感を変えながら盛り付けてゆきます。

 

Cochon de Gifu aux lentilles vertes du Puy

岐阜県ボーノポークソーセージ/コンフィ/ソテー レンズ豆の煮込み

※ランチのプリ・フィックスメニュー、主菜としてお選びいただけます。

 

 我々はレンズマメと呼んでいる、今回の豆。平たくまるでレンズのような形をしているから…だからレンズ豆なのか!と思ってしまうのですが、真相は逆です。レンズが、レンズ豆に似ているから、レンズをレンズと名付けたのです。歴史は、レンズよりも豆が先です!

 

 

鴨がネギをしょってくる?いやいやBenoitではミカンです。

 フランス料理で肉食材といえば、まっさきに思い浮かぶものは鴨ではないでしょうか。今回は、ヨーロッパから届く鴨胸肉の皮目に隠し包丁を入れ、余計な脂を落とすように焼き、その後は低温でじっくりと、ローストビーフのように表面がロゼ色になるようにこしらえます。生ではないのですが、焼き切らない。鴨肉は、焼き色が付くほどに焼いてしまうと、鉄っぽいレバーのような風味が出てしまう。だからこそ、このこだわりの焼きの技が求められるのです。

 今季の鴨に添える野菜は、ビーツです。北海道真狩村(まっかりむら)の三野農園さんが、丹精込めて育て上げたビーツです。往古、甘味料の原料として北海道産ビーツが確固たる地位を獲得していました。しかし、時代は、すっきりとした甘さを求めたことでその地位をサトウキビに譲ることになります。確かに、ビーツは根菜だけに独特の土っぽい雰囲気がある。甘味料としては余分な味わいであっても、それが今回の鴨料理には必要だったのです。蒸し煮するように熱を加えたビーツに、生のスライスも。食感の違いばかりではない、ビーツそのものの美味しさを気づかせてくれる。

 日本では「鴨がネギをしょってくる」と言う。しかし、Benoitはフランス料理店なので、ここはオレンジをしょってきてほしいものです。しかし、ここで海外のオレンジを選ぶようでは、これほどまで食材にこだわるBenoitの名折れというもの。そこで、登場するのが、極早生ミカンです。

 日本は世界に誇る柑橘王国です。その実りは南から始まります。今は、熊本県天草に果樹園を有する「オレンジファーム本田」さんから、露地栽培の極早生ミカンがBenoitに届いています。太陽の陽射しを思う存分直に受けることで、濃ゆい甘さに心地よい酸味をもち、その果皮は薄くやさしい苦みがある。もちろん、ノーワックスです。

 Benoitにとって果肉はもちろん、果皮も重要な食材なのです。この極早生ミカンを惜しげもなくまるまると、軽くシロップで加熱したコンフィに、さらに細かくたたくように仕上げたコンディモンへと仕上げてゆきます。コンディモンとは、日本でいう薬味のようですが、味の重大要素を構成するためのアイテムです。今回の鴨胸肉の脇に、なにやら「紅葉おろし」のような薬味が添えられています。これが、極早生ミカンのコンディモンなのですが、なぜ赤い?…そう、ここにはビーツも加味されているのです。

 このマリアージュを思う存分ご堪能下さい!

 

Canard à l’orange, navets et betteraves

鴨胸肉のローストオレンジ風味 カブとビーツ

※ランチのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

 

 

京都の地鶏「丹波黒どり」をご堪能ください

Volaille de Kyoto comme un coq au vin, pâtes fraîches

丹波黒どり"のオーブン焼きコック・オ・ヴァン風 フレッシュパスタ

※ディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜としてお選びいただけます。

 

 フランスの地鶏「ラベルルージュ」の血統をもち、京都で育種されているのが「丹波黒どり(たんばくろどり)」です。飼育羽数を制限し、90~100日という長期にわたる飼育期間は、きめ細かな肉質に、上質な脂肪分とコクのある味わいを約束してくれる。しかし、鶏肉であるがために、調理方法によっては、パサパサになってしまう難しい難しい食材です。

 今回の料理名は「コック・オ・ヴァン」という、フランス伝統料理で、言わずと知れた鶏肉の赤ワイン煮込みです。先述したように、いかに美味しい鶏肉であっても、鶏肉だからこそ煮込んでしまうとパサついてしまうもの。気づかれましたか?メニュー表記に「風(ふう)」という言葉が入っている。

 Benoitでは、丁寧に下ごしらえされた「丹波黒どり」の胸肉ともも肉を骨付きのまま、低温調理を施します。旨味を逃がさず損なわず、ゆっくりと。仕上げは、表面が色付くように焼いてゆくことで香ばしさを加味してゆきます。そこに、赤ワインを使いコック・オ・ヴァンのようなソースを仕上げて、低温調理した鶏肉に絡めるように仕上げをするのです。煮込んではいないけれども、煮込みのような伝統料理。そこで、こう名付けたのです、「“コック・オ・ヴァン”風」と。

 

 

≪好評につき、仔羊を継続しました!≫

 フランス料理の肉料理のカテゴリーの中で、確固たる地位を得ているのが「仔羊」です。我々にとっては馴染みが少ない食材ですが、フランス料理界の中では、牛肉よりも仔羊肉を重要視するようです。高級レストランでの主菜に、仔羊が頻繁に姿を見せることが、何よりの証ではないでしょうか。

 Benoitはビストロということもあり、6月7月限定でメニューに載ることが常でした。実際に仔羊料理を皆様に提供しながら思うことは、Benoitのプリ・フィックスメニューの選択肢として、しばらく存在してもいいのではないかと。しかし、フランス産の仔羊では、入荷が不安定という問題もある…そこで、オーストラリア産仔羊の助けを借りて継続することにいたしました。

 仔羊は丁寧にトリミングを施し、背肉を表面に焼き色を付け、ふつふつとしたバターをふりかけながら、ゆっくりゆっくり熱を加えてゆく。この魅惑的な香りをどう表現したものか。表面には美味しそうな焼目がつくが、中はまだ生のままです。肉が内包している温まった肉汁を利用し、中からじっくり熱がゆきわたるように、温かい肉部屋で休ませロゼ色に焼きあげます。この美しい焼色なくして、仔羊の美味しさを味わえないでしょう。

 その時々の緑色の野菜、インゲン豆やスナップエンドウなどにハナニラ、さらにそこへ3種に調理したヒヨコ豆も加わったものを添えます。目の前に運ばれてきたときに、仔羊の焼き色と緑野菜の色のコントラストが目を引き、その香りに魅せられる。そして、仔羊の旨味の凝縮したソースを、そっとお肉へかけてゆく。全てが一堂に会する時、なぜシェフが継続を決めたかが、お分かりいただけるはずです。

 

Côtes d’agneau au sautoir, légumes verts et pois chiches

仔羊背肉のソテー ひよこ豆と緑野菜

※ディナーのプリ・フィックスメニューで、主菜としてお選びいただけます。

※料理画像はパプリカとズッキーニですが、今は緑野菜とヒヨコ豆に変更しています。

 

 

≪「後の名月」の異名は「栗名月(くりめいげつ)」なり!≫

 秋ともなると、Benoitのディナーは「栗で始まり、栗で終える。」というプリ・フィックスメニューの流れが多くなります。ときに栗の前菜がスープなために、コース2番目に配することもありますが、気持ちの中ではやはり「栗で始まる」ようなものです。前菜の栗はフランス栗。であればこそ、最後は和栗で終えたいものです。

 昨今の人手不足問題は、Benoitも例外でありませんでした。しかし、季節が去ってゆくものであれば、旬の食材も去ってゆく。このままでは、今季の秋の味覚を楽しまずに終えてしまうと、危惧を覚えていたのがBenoitパティシエチームでした。料理チームの協力を得ることで、下ごしらえに時間を割くことができたのです。

 遅きに失した感は否めませんが、ついに11月4日のディナーからBenoitデザートに「栗」という文字が姿を見せることになりました。昨年同様に、熊本県山江村の生産者さんの協力のもと、彼らが丹精込めて育て収穫した晩生の栗をふんだんに使います。

 今季の栗デザートは「モンブラン」ではなく、「デクリネゾン」と名付けられました。これは、単語の語尾活用の変化や書物の編集という意味があります。およそデザートには似つかないこの単語に、アジア圏のエグゼクティブ・シェフパティシエであるAriitea ROSSIGNOL(以下、アリテア)の想いが詰まっているのです。

 フランス語で動詞が主語によって語尾が変化するように、栗とミカンという食材をフランスデザートの技法を駆使し、味わいや食感を様々に変えてゆくのです。アリテアにとって和栗は初めての食材。幾度となく繰り返された試作の中で、これぞという組み合わせを見出した。熊本県山江村の特産である「やまえ栗」と、同県天草の「早生ミカン」が、フランスデザートのエスプリが加味され、さまざまに姿を変え一堂に会する。

Déclinaison marron et mikan

熊本県産やまえ栗とみかんのデクリネゾン

※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートとして+1,000円でお選びいただけます。

 

 今後の季節のデザートについてのご案内です。今ほど姿を見せた「栗とミカンのデクリネゾン」は、11月末をもって一時中止いたします。12月は、新潟県白根のヤマヨ果樹園さんから洋ナシ「ル・レクチェ」がBenoitに届くため、このデザートに切り替えさせていただきます。そして、今季の新潟県は暖冬の気配があり、ル・レクチェは一月少々しかご用意できない予想です。そこで、ル・レクチェ終了ししだい、「栗とミカンのデクリネゾン」に戻し、2024年1月末を迎えようと考えております。

 

 

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 猛暑な日々も影を潜めてきたようです。これと入れ替わるかのように季節性インフルエンザやコロナウイルスが猛威を振るっているようです。過ごしやすい日々が訪れますが、ここで気を緩めると猛暑疲れがドッと押し寄せてくるでしょう。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、無理は禁物、十分な休息と休養をお心がけください。

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2023年10月 「北平がBenoitを不在にする日」のご報告です。

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない10月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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 上記日程以外は、Benoitを優雅に駆け回る所存です。自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。末筆ではございますが、皆様のご健康とご多幸を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2023年9月 下関・唐戸市場「道中さん」の「ふく」物語

 まだ夜が明けぬ中、本州最西端の地に人が集まり出す。日中の陽射しによって温められた地表が気温を上げるも、陽のかげりとともに下降の一途をたどり、闇が深くなる頃には身震いするほどの寒さに包まれる。夜が明ける直前が一番冷え込むことになるが、この地は三方を海に囲われているため、冬の時期の北風が、さらに体感温度を下げていく。

 時計に目を落とすと、午前3時ほど。研ぎ澄まされた寒空で、西の海へ沈みゆく輝かんばかりの満月を楽しむために、人々がここに集まった…ようには思えない。特に着飾っているわけでもない。車を降りた人は、出会う人へ物静かに挨拶をすませたかと思うと、まるで何かに導かれているように、海に面した建物の中へと姿を消してゆく。

 建物内は、外の月夜と比すれば明るいが、眩(まばゆ)いわけでもなく豪華絢爛(ごうかけんらん)な飾りつけもない。集いし者は、ひとつの部屋へと足早に赴く。夜も明けぬ時間だというに、人々の目に気だるさはなく、俯瞰(ふかん)するかのように部屋を一望している者、瞑想するかのように真剣に考えこんでいる者、鋭い眼差しで足元を見ている者、笑い声のこだまする和気あいあいとは全く異質の雰囲気を、この部屋にもたらしている。

 この静寂の終焉(しゅうえん)を告げるかのように、部屋にベルが鳴り響く。時は午前3時30分ほど。ざわつく中で、張り詰めた、何とも言えぬ緊張感みなぎる空気感へと一変する。「ええが、ええが」と小さく声を掛ける男が歩み寄る。彼のいでたちが、一風変わっている。右手には筒のような袋をかぶせているのだ。ドラえもんでいう「空気砲」のように。

 その男は、足元に並べてある「トロ箱」を順に廻り始める。各トロ箱の前で、数人がその男の袋で隠れた右手に握手をするかのような行動に出るも、ものの数十秒で隣のトロ箱へと移ってゆく。安堵する者、一喜一憂する者、この想いが交錯するこの部屋は、得も言われ雰囲気に包まれている…

 この本州最西端の地とは山口県下関市です。本州と九州とがもっとも近づく地であるからこそ、中継地として栄えた地。その下関市の南端に「彦島(ひこじま)」という、今では3つの橋からこの島に渡ることができるため、離島という印象こそ薄れてきてはいますが、日本海と瀬戸内海を結ぶ海上交通の要でした。余談ですが、昔々の源平合戦において、瀬戸内海の覇権を握った平家にとっては需要な拠点だったために、壇ノ浦の戦いでは平家が本陣をおいています。

 少し分かりにくいですが、添付した地図の左下、海の上に描かれた「フグの絵」の右下の島。この島の最西端に位置しているのが「南風泊市場」です。「トロ箱」とは、豊洲市場とは違う「競り」方法が、右手には筒のような袋をかぶせて各トロ箱をまわるというもの。魚を運搬する時に使うケースのことをいい、この中に魚が収まっているのです。

 この「南風泊市場」を初見で読める方はどれほどいるでしょうか?かつて、北前船海上輸送を担っていた頃、夏前に北海道で海産物を積み込んだ廻船が対馬海流に逆らうように日本海側を南下していき、本州最西端の関門海峡から瀬戸内海に入り、いざ大阪へと向かう。その関門海峡を通る際に、時として吹き付ける強い「南風(はえ)」は、帆を張る船にとってはゆゆしき事態。そのようなときは、無理はせず港に入って停「泊」しようじゃないかというわけで、名付けられたのが「南風泊(はえどまり)港」であり、隣接するのが「南風泊市場(はえどまりしじょう)」と。

 この南風泊市場で、冬の「北風(あなじ)」が吹く頃から春の「東風(こち)」吹く頃まで活況を迎えるのが「フグの競り」です。日本広しといえど、フグを専門にしているのはこの南風泊市場のみ。なんと!フグの水揚げ量は日本一を誇るのです。「フグが食いたし命は惜しし」、その美味しさは唯一無二であるがため、価格高騰を抑える意味でも独特な競りの方法が生まれました。これが「袋競り」と名付けられた独特なもの。今もなお、この伝統が踏襲されているのです。

 豊洲では「マグロ」が良い例です。人々が合図や掛け声で競り落とすのではなく、マグロは「札競り(ふだせり)」と呼ばれるもので、買い付けのプロが、マグロの見極め、札に入札金額を記入して伏せてマグロの脇に置いていきます。そして、その中での一番高額な札を出した人が購入とするもの。では、フグはどうするのか?

 毎年のように、新年1月4日未明に「新春の初競り」が行われ、その様子が報道陣に公開されます。ご覧になられた方は、なんと素早く競り落とされていることか、いや競り落とされていることすらよく分からなかたのではないでしょうか。フグは他で代用ができないため、かつては喧嘩になることもあったといいます。そこで、値段の駆け引きが分からないよう、競り人(売る側)の右手、競りの決め手となるこの右手を、袋で覆いかぶせるようにしたのです。画像の中央の赤いキャップの競り人の右手には、その「袋」が見て取れます。

 では、手を隠してどうするのか?仲買人(買う側)はその袋に手を突っ込み、購入希望額を競り人に伝えるというのです。買値の基準はその日の相場で決まれており、その金額を目安としながら、お気に入りのフグが入った「トロ箱」の希望金額を伝える。ポーカーフェイスで淡々と競りが行われているかのようで、実は袋の中では、お互いの右手によって駆け引きが行われているのです。でも、どうやって?

 人差し指を1本握れば「1」、中指が「2」、薬指が「3」、小指が「4」。親指は「5」、親指と人差し指で「6」という具合に。例えば、1,000円台の相場であれば、小指「4」を握ってから親指「5」を握ると、競り人はこの仲介人が4,500円を希望していると悟る。一切言葉を必要としない、この手だけのやりとりが、袋の中で次々と行われているのです。どうしても欲しい時には、つねっている…そんなわけはないと思いますが、こればかりは当事者にしか分かりません。

 通常の競りでは、最後の一人になるまで値が上がってゆくものが、袋競り(マグロの札競りも)は競り上げが無く、1回勝負。一つのトロ箱が数十秒ほどで競り落とされてゆくため、仲買人には、箱のフグの価値を素早く見定める力量と、競り勝つための経験が問われることになるのです。

 日本全国から南風泊市場へフグが集まる流通体制は、仲卸人の目利きに磨きをかけさせ、「下関ふく」とブランド化できるほど、確固たる地位を確立しました。そこで、2004(平成16)年に南風泊市場で水揚げされ、組合員が取り扱うフグのみに付けられる「本物の下関のふく」の証が特許庁に商標登録されました。山口県では「フグは福招く魚」であるとして、「ふく」と呼ぶこととで、縁起を担いでいます。

 おや?日本全国からフグ集まる?これはどういったことを意味しているのか。日本でも、少ないですが其処此処(そこここ)でフグの水揚げがあります。わざわざ下関まで持ってこずとも、現地で競りにかければよいものを、と思うのですが…ここには、フグならではの理由があり、これがために「フグといえば下関」といわれる所以がありました。そう、下関に運ばれてくる「ふく」が「福」をもたらしているのです。

 

 この関門橋山口県側のたもとには、壇ノ浦漁港があり、潮流激しいながらも好漁場であることから、大いに賑わいを見せています。さらに本州最西端を目指し、南西へと向かうと、下関市役所にほど近い場所の海沿いに、ひときわ大きな市場が登場します。「本州最西にある庶民の台所」とも呼ばれている「唐戸市場(からといちば)」です。

 山口県下関市は、陸路・海路の中継地として、かねてからの要所という位置付けづけだったようです。さらに、外国船の立ち寄り関所もあったため、おおいに刺激のある風土だったのでしょう。明治後半に建築された英国領事館は、現存する日本最古の異人館として、当時の様子を感じ取ることができます。

 商船の行き交う港町の下関は、明治時代の頃に、日本銀行の支店が、そして大手地方銀行の本店が立ち並ぶ、西日本最大規模の金融街としての地位を確立しました。人の集まる場所には、自然と商売の品々が集い、規模の大小はあれ、「市(いち)」が形成されることになります。唐戸町にある亀山八幡宮では、野菜や果物といった生鮮食品の市場が開かれ、さらに隣町である阿弥陀寺町には、鮮魚や干魚といった四十物(あいもの)を扱う市場も姿を現しました。これらが、知事の許可を得た市営の魚市場へと成長していきます。

 1924(大正13)年になると、阿弥陀寺町にあった市営市場は唐戸市場と合併し、「唐戸魚市場」が誕生します。1933(昭和8)年には規模を広げ、青果部、バナナ部、鮮魚部、雑部の4部門を抱える「下関市唐戸魚菜市場」が開場。通常、市場は業者向けの卸しとしての機能を担っていましたが、ここは一般の方々も購入できる市場としての先駆けとなった場所です。

 1971(昭和46)年の卸売市場法の制定により、2年後に「下関市地方卸売市場」へと改名。後に、さまざまな立地環境を考慮し、青果卸売部門は勝山地区へ移転することになり、唐戸の市場は「下関市地方卸売市場唐戸市場」と改名。平成13年2001(平成13)年に、ショッピングセンターが加わることでリニューアルされ、今に見る下関有数の観光スポットとなりました。「下関市地方卸売市場唐戸市場」という正式名称は、やはり口にするには長いこともあり、「唐戸市場」の名で人口に膾炙するのです。

 この唐戸市場では、当初は内海を漁場とするフグの水揚げのみでした。それが、漁場の広がりと地方で水揚げされたフグが持ち込まれるようになり、唐戸市場ではさばききれなくなる。フグを扱う市場を新設する必要に迫られるのです。そこで、本州最西端の彦島に「南風泊市場」を新設。ここに全国で唯一、フグ専門の市場が誕生いたしました。

 全国で水揚げされた約8割の天然フグが、さらにフグの養殖場が多く存在する九州からも多くの養殖トラフグが、この南風泊市場を通って出荷されていきます。遠方で漁獲されたものをわざわざ集積させるのは、効率が悪いように思いますが、「扱う魚がフグ」であるがために、下関という地が選ばれたようです。まさに「フグの玄関口」です。

 猛毒を持つフグは、捌くのに専門の資格を必要とします。以前から下関には熟練のフグ料理人が集まり「下関で調理されたふぐは安全」と、信頼されていました。その長年培われてきたフグ調理のスキルは全国から注目され、惜しみなく伝承されていったのです。このノウハウは、資格制度が確立された今も途絶えることはなく引き継がれ、全国で最も多くのフグ調理人が南風泊市場に集まっています。さらに、除去した有毒部位を処理する体制が整った場所でなければなりません。南風泊市場には、フグを捌く大きな共同工場が隣接しているのです。そして、トラフグの産卵地である玄界灘沖や瀬戸内海西部沿岸に近く、東シナ海日本海、瀬戸内海とフグ漁場として名立たる海域に囲まれた地の利があることも忘れてはいけません。

 フグがフグだけに、他にはない特別な市場が必要だった、そう人々が切望するからこそ、人々が集う下関の唐戸市場に「フグの市場」が誕生した。しかし、時代を追うごとにフグの美味しさが日本全国に知れ渡り、養殖技術の発展とともに取扱量が増してゆく。そこで、新たにフグ専門の市場を開場しようと白羽の矢が立ったのが、彦島の「南風泊市場」でした。

 「フグは喰いたし命は惜しし」、美味しい食材なのは分かるが、除毒しなければならない。フグの種類のよっては毒の部位も違うし、美味しさの優劣も出てくる。この地は、全国で最も多くの熟練したフグ処理師が集うのと同時に、他には類を見ない特別な目利きをもった仲卸人をも育て上げていったのです。

 海の恵みが豊かだからこそ、下関には魚市場は3つあります。フグ専門の卸市場「南風泊市場」、養殖鮮魚の相対売り(売る手と買い手が話し合いで決める)「唐戸市場」、そして、一般鮮魚を扱う「下関漁港市場」。2001年に、卸市場と観光客を対象とした市場を併せ持つのが、「唐戸市場」が新設されると同時に、「下関唐戸魚市場仲卸協同組合」が設立されました。

 それぞれの市場で「競り」に参加できるのは、多様な項目をクリアし山口県下関市から認可を受けた「下関唐戸魚市場仲卸協同組合」の24社のみ。特にフグという猛毒をもつ特殊な魚を扱うにあたり、この組合に登録されている現22社(2社はフグを扱いません)でないと、南風泊市場でフグを仕入れることができません。

 現在、唐戸市場には、多くの鮮魚が並ぶ中に、もちろんフグがあります。下関ではフグは「ふく(福)」と呼んでいます。この広大な敷地のどこかに、「フクマネキン」(福招金)の像があるのだとか。それ相応の大きさらしいのですが、広大ゆえに見つけることが難しいといいます。市場スタッフに聞いても、鮮魚情報は快く教えてくれるにもかかわらず、「フクマネキン」には口をつぐむ。ガイドブックへの記載もなし。だからこそ、見つけた時の喜びは一入(ひとしお)。その福招金には、皆様へのメッセージが添えられています。「僕はフクマネキン(福招金)。唐戸市場のマスコットです。僕の顔をなでれば、ご利益があるかもよ。一緒に写真に写れば開運の始まりです。いつでも唐戸市場で貴方をまっています。」とのこと。

 

 「フグと言えば下関」とイメージされる自信と誇りを胸に、フグの発信地としての「下関ブランド」という信頼を守るために、認可された仲卸人しか参加できないのです。この認可されている一つ、Benoitがお世話になり続けている1949年(昭和24年)創業の老舗の「道中(みちなか)さんです。

 この独特の世界に身を置くことを心に決め、「道中」の暖簾(のれん)を受け継いだ職人が、道中哲也さん。トラフグの水揚げ日本一を誇る下関に生まれ、自ら競りに赴き、父親譲りの鋭い目利きによって競り落とす。すぐさま、「ふぐ処理師免許」を持つ熟練の職人の手によって、除毒された「身欠き」へと捌かれてゆく。もちろん、冷凍などは一切なし。そして、この鮮度抜群のフグを、「唐戸市場(からといちば)」の中にある自らの店舗で販売、地方発送もしています。さらに、彼の目利きはフグのみにあらず。店舗には、下関漁港市場で水揚げされた鮮魚が所狭しと並んでいるのです。

 残念ながら、Benoitでは、フグの購入はしておりません。しかし、道中さんの目利きによって選ばれた魚介が直送されています。Benoitの晩秋から冬にかけて、「寒サワラ」を送っていただいたのを皮切りに、夏に確固たる地位を得た「剣先イカ(シロイカ)」はすでに3年目、さらに「マダコ(関門海峡タコ)」が今季より仲間入りいたしました。

 

 道中さんとの出会いがなければ、Benoitの夏を彩る「剣先イカ」と「関門海峡タコ」はなかった…といっても過言ではありません。そして、この出会いの架け橋となってくださったのが、グルメリポーターの菊田あやこさんです。7年ほども前のことでしたか…彼女が、山口県下関市の出身だと伺い、自分の食材探しの相談をさせていただいたのです。下関はもちろん、山口県にさえ足を踏み入れたことの無い自分では、なしえなかったこと。

 Benoitと道中さんの懸け橋となっていただいた菊田さんより、皆様へコメントをいただきました。

 「1949年創業、下関唐戸市場ふぐ専門店の道中さん。他界されたオヤジさんには可愛がっていただきました。帰省の折に会う温かい眼差し、楽しい会話に故郷の愛を感じていました。 いま週末に観光客で大人気の唐戸市場の寿司! これを最初に手掛けたのは道中のおじちゃん!大当りして、どの店もこぞって寿司や、食べ歩きの旨いものを並べ始めこんにちの賑わいとなっています。道中のおじちゃんの熱意が、全国・海外からのツーリストに伝わり下関の宝物を大発信しているのです。おじちゃんのDNAを引き継いでる息子さん、美人姉妹さんをBenoitさんに繋げることが出来て幸せです。」

 幸せなのは、自分のほうです。どれほどのご尽力を賜ったか、この場をお借りしまして御礼申し上げます。このご縁のおかげで、道中哲也さんとBenoitでお会いすることができました。優しい雰囲気をもちながら、言葉のはしはしに現れる自信のほど。握手を交わした時、「職人の手だ」と感じたのを、今でも覚えています。

 残念ながら、自分は道中さんのお父様とお会いすることはできませんでした。かつて唐戸市場から賑わいが消えてゆく中で、誰よりも下関を愛し、自分の仕事を天職と決め、唐戸市場のことを想っていたことか。だからこそ、一人の力でも何かをしなければいけないと心に決め、唐戸市場の復興に尽力したのでしょう。

 幼き頃の菊田さんは、唐戸市場をルンルンとスキップをしていたのだといいます。彼女がグルメレポーターとして独り立ちできた背景には、市場で当たり前に見ていた海からの贈り物があったため、目も舌も養われたのだと。「子供たちへ本物を遺してゆきたい」。菊田さんが見ていた、ピチピチ跳ねるシャコや青魚、もちろん河豚(ふぐ)!が並ぶ場内に活気に満ち溢れる唐戸市場は、道中のおじちゃん無くしてありえなかったことでしょう。

 下関市役所からいただいた「唐戸市場」の写真に、前列中央の貫禄のありながら笑顔が素敵な男性が写っている。道中哲也さんに似ていないか?人と人とは会うべくして出会うもので、その機会を生かすも殺すも自分しだい。心躍る心地を抑え、菊田さんに確認のメールを送りました。

 唐戸市場が直面する数々の苦難の壁を乗り越え、今の名声を得るにいたった立役者、道中さんのお父様と出会えたのです。写真という形ではありましたが、偶然にも、自分の手元に届いていたのです。どれほど唐戸市場への愛を、笑顔で語ってくれています。

 道中のお父様は、まだまだやり残したことが多々あったかと思います。幼き頃より彼の奮闘を目の前で見ていた哲也さんは、その意思を引き継ぐことを決意し、見事に唐戸市場の一役を担っているのです。お父様は息子を誇らしげに思っていることでしょう。そして、哲也さんは父からの叱咤激励を心で感じていることでしょう。

 この出会い、大切にさせていただきます。皆様におかれましても、「魚介」を通して道中さんの思いのたけを感じ取っていただけるはずです。下関をご旅行の予定がございましたら、「唐戸市場」を、もちろん「道中」をご訪問いただけると幸いです。

 バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。

 季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。

 その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。

 

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 猛暑な日々も影を潜めてきたようです。これと入れ替わるかのように季節性インフルエンザやコロナウイルスが猛威を振るっているようです。過ごしやすい日々が訪れますが、ここで気を緩めると猛暑疲れがドッと押し寄せてくるでしょう。さらに、疲労・ストレスなどが原因による免疫力の低下を招きます。皆様、無理は禁物、十分な休息と休養をお心がけください。

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com