季節は過ぎてゆき、待てといっても待ってはくれないもの。5月5日に「立夏」を迎え、暦の上で夏が始まりました。すでに猛暑を予感させるような夏日が続きますが…ここは惜春の思いを込めて…期日に書き切らなかった負け惜しみです。
春は曙(あけぼの) やうやう著(しる)くなりゆく 山ぎは少し明かりて紫だちたる 雲のたなびきたる

自分が学生の頃は、中学校の古文ででしたが、今では小学校の国語の授業で出会うようです。平安時代中期に、清少納言が思いの丈を書き綴った「枕草子」の冒頭の文章。短く歯切れのよい的を射た表現の数々は、まるで心地よいリズムを奏(かな)でているかのように耳に残ります。今でも学校で学ぶことからわかるように、彼女の遺したこの随筆が後世に与えた功績は計り知れません。
この随筆の中で、春は「曙」の頃がよいと喝破している。星月夜の中で、うっすらと見て取れる山の稜線。その山の向こう、地球の局面から太陽が姿を見せる頃ともなると、山の端(は)がじわりじわりと際立って見えてきます。そして、山際(やまぎわ)に太陽が差し迫ってくると、見事なまでに赤紫色に染まってくる。山にうっすらとたなびいている雲が、陽射しに照らされることで姿を見せる春ならではの光景である…
山と空の境界で、山側が「山の端」といい、空側が「山際」といいます。山際にたなびいている雲は、低高度で発生する春を代表する「おぼろ雲」なのでしょうか。夏や冬であれば、白々しく夜が明けるのものですが、春や秋に発生しやすい雲がうっすら山の端にかかることで、得も言われぬ美しさを導いてきているのです。
平安時代に清少納言は宮仕えしていたこともあり、もちろん居住地は京都中心地です。盆地だからこそ、彼女は山際に朝日を見ることになります。しかし、春の曙の美しさは、なにも山際だけに限りません。目の前に広がる太平洋の大海原、その水平線上に太陽が姿を見せようとするその時…こう口遊(くちずさ)んでしまうのかもしれません。
≪春は曙(あけぼの) やうやう著(しる)くなりゆく 海ぎは少し明かりて紫だちたる 靄(もや)のたなびきたる≫

今のBenoit特選食材を獲るため、まだまだ夜の帳(とばり)が下りきっている頃に漁船は出港します。月影に照らされていればまだしも、星月夜ではおぼろげにしか望めない陸地を左手にみるように、沖合の定置網を目指す中で、東の水平線上に春の曙が姿を見せる。
ここ足摺岬(あしずりみさき)の西に広がる海域は、黒潮がもたらす恩恵をうける好漁場。それと、サンゴ礁や藻場が多く成育環境が整っており、1000種以上の魚種が生息しているといわれている宿毛湾周辺海域。この2か所の漁場で漁獲された天然マダイがBenoitに届きます。このような離れ業は、宿毛市にある与力水産の吉村さんのご尽力なくしてありえません。
というわけで、高知県西端に位置しているこの2つの漁場の紹介と、与力水産のご紹介、さらに知っているようで知らない「定置網漁」について、ブログに詳細を綴ってみました。以下よりご訪問いただけると幸いです。
≪春曙(しゅんしょ)派?それとも春宵(しゅんしょう)/春夕(しゅんせき)派?≫

圧倒的な古代中国文明の渡来によって、万葉の時代の宮廷内では漢文が席巻していたという。そのため、漢詩がもてはやされたのに対し、日の目を見ない和歌の時代が続く。しかし、平安時代に「ひらがな」が誕生したことで、ゆうに300年は続いた和歌の暗黒時代の幕は閉じ、国風文化が花開くことになるのです。そして、宮廷で和歌が活況を呈すると、その教養がその人に栄達にまで影響するようになるのです。すると、この時代に趨勢(すうせい)に乗り遅れまいと、貴族や武士たちが和歌の教養を得るために勉学に励むようになる。
今も昔も、何かを学ぼうとするとき、何かに教えを乞うことになる。賢人を師事することで学ぶこともできるが、言葉であれば、今でいう教科書なるものがないからこそ、賢人が書き遺した和歌や随筆、物語や日記などを識ることも学ぶ方法もある。学べばな学ぶほどに自信がみなぎり、なにかと優劣をつけたがるものです。
梅の花と桜の花。優劣をつけたいものの、品種そのものが違う上に、花笑う時期までが違う。では、ともに美しい花で良いではないかと落ち着くかもしれない。しかし、「曙」と「宵/夕」となると、時間は違うが同じ空。そうなると、春はどちらが美しいのかと決めたくなるものです。どちらも美しいが…何かしらの理由を付けて優劣を決めようと、宮中で喧喧囂囂(けんけんごうごう)と議論したのではないかと…
「春曙」なのか「春宵/春夕」なのか?皆様はどう思いますか?過去の歌をもとにして、自分なりに考えてみた理由をブログに綴ってみました。お時間のある時にご訪問いただけると幸いです。
≪春曙派であるならば、やはり高知県のマダイなり!≫

海から陽が昇る、海に陽が沈む。太陽は季節によって軌道を変えるとはいえ、太陽は東の際から姿を見せ、西の際に沈みゆく。新潟出身の自分からすると海から日が昇ることはない。対して太平洋側に住んでいれば、海に陽が沈むことはない。確かに、山の端(は)から陽が昇る、山の端に陽が沈む光景は美しい。しかし、これが海の端となると、その美しさが際立ってくるうえに、(太陽の話だけに…陽)比にならないほどの「あはれ」の感情を覚えるものです。
旬の海の幸をいただくのであれば、春曙派は海の端(は)より太陽が姿を見せる高知県の海産物をおいてほかにはない。宿毛(すくも)より直送されるマダイをBenoitで食せずして、春は終われません。この魚は、美味しいだけではなく、その威風堂々たる姿は、魚の王様と称されるに相応(ふさわ)しい。特に春のマダイの美味しさは格別なため、「桜鯛」という愛称までついています。
丁寧に捌き、皮を取り除いた白身をしっとりと焼き上げます。この逸材に、春の味覚「グリーンアスパラガス」を添えます。今季はアスパラガスを茹でるのではなく、「焼く」という調理方法をとります。水分を多く含んだ野菜だけに、焼きすぎてはべたっとなる。いい塩梅(あんばい)の焼き加減が、しゃくっという食感と、アスパラガス本来のコクを引き出すことになり、焼き目が香ばしさを与えるのです。
鮮度の良いグリーンアスパラガスは、生でも美味。そこで、アスパラガスをスライスし、サラダのように盛り付けます。しゃりしゃりっとした食感の心地よさに加え、春らしいさわやかさを感じることができる。さらに、謎のものがマダイの脇にあります。これは、シェフの野口が、マダイ料理の味のバランを考えたとき、ふっと閃いたものらしい。焼いたアスパラガスを細かく切り、そこにエシャロットの甘み、さらにカキで特有の旨味を加えたもの。カキは柿ではなく牡蠣です。確かに!これがいい仕事をする。皆さま、気になりませんか?

Dorade au sautoir, asperges vertes, sucs de cuisson
※ランチとディナー、ともにプリ・フィックスメニューの主菜として、お選びいただけます。
≪いやいや、春宵/春夕派であれば新潟県のヒラメですよ!≫

旬の海の幸をいただくのであれば、春曙派が高知県の海産物であるならば、春宵/春夕派は海の端(は)に太陽が沈みゆく新潟県の海産物である。多々ある海産物からBenoitが選んだ逸材は、佐渡ヶ島近海で漁獲したヒラメです。この時期にヒラメ?とお思いの方は、太平洋側にお住まいの方でしょう。新潟県では今まさに旬を迎えているのです。
佐渡ヶ島は、東京二十三区を合わせた面積よりも大きい。確かに、日本地図を見ると、見事な大きさで島が描かれている。これほどの大きさを誇りながら、九十九里浜のような広大な浜辺などは皆無で、大粒の砂が輝く狭き浜辺が点在するだけ、多くはごつごつと岩肌むき出しの岩礁地帯に囲まれているような島です。そのため、佐渡ヶ島の海岸域は、我々に見事なまでの景観を楽しませてくれます。
その海岸域の延長でもある海の中は、海に生きる生物にとってなんとも居心地のいい住環境を提供してくれていることか。さらに、南からの対馬海流が多くのプランクトンを運ぶことで、豊かな食環境をもたらす。この理想的な「衣」のない「食住」は、海中生物の見事なまでの食物連鎖を形成することになります。プランクトンを食餌とする小魚や甲殻類が育まれ、それらを捕食する大型魚が幅を利かすようになる。人の体は食べたもので作られる、もちろん魚も同じこと。美味しい食餌で育まれた上に、海流にもまれにもまれたヒラメが、まず美味しくないわけがありません。
佐渡ヶ島のマルヨシ鮮魚店の石原さんによって選ばれたヒラメは、彼の手によって神経〆の後に、丁寧に捌(さば)かれBenoitに直送されます。ぶりぶりの身質にヒラメ特有のきれいな脂がのっている今に時期のヒラメは、新潟ではお刺身でいただくことが多い。確かに生食もおいしいが、これほど旨味をもっている魚であれば、火が入っても美味しい。しかし、火が入りすぎてしまうと、ぱさぱさとなり佐渡のヒラメの美味しさを損ねてしまう。生ではなく、焼きすぎてもいない、この職人技ともいえる絶妙な焼き加減こそが、ヒラメの美味しさを堪能できるのです。
今季は、このヒラメにアサリとホッキガイの美味しさを添えます。緑野菜には、グリーンアスパラガスにスナップエンドウとインゲン豆、さらに空心菜やタアサイなど、収穫を迎えている緑野菜が、味わいばかりではなくこの一皿に色映えを与えてくれている。そして、魚と貝の旨味がぎゅっと詰まったスープをクリームでまろやかに仕立てたソースは、個々の食材の美味しさを引き立てると同時に、調和をもたらしていかのようです。

Blanc de turbot au plat, coquillages et légumes verts
佐渡ヶ島産ヒラメのソテー 貝と緑野菜
※ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、主菜として+1,500円でお選びいただけます。
※ご用意できる数量に限りがございます。ご希望の方はご予約時にご希望数をお伝えください。
≪テーブルマナーを知っていても、見初(みそ)むる心地のする講習会です!≫

其処彼処(そこかしこ)で開催しているテーブルマナー講習会であれば、自分は皆様へご案内することはありません。
日本人が、ついついやってしまうことを、笑いを込めながら教えてくれ、毎度のように「やっちまった~」と笑いが、部屋の仕切りとなるカーテンの隙間から漏れ聞こえてくる。このようなテーブルマナー講習会があったであろうか。だからこそ、皆様にご案内させていただくのです。
~ 世界基準の一流を学ぶ 「テーブルマナー講座」 ~
開催日: 2024年
7月 20日(土) / 29日(月) ※
すべてが単独での開催で、すべてに申し込む必要はありません。
時間: 11:30より講義を始めます。
※11:10までにお運びください。終了予定は15時15分を予定しております。
料金: 20,000円(サービス料/税込) 食事とワイン2杯を含みます。
※ 7月29日(月)の開催のみ料金18,000円です。
※事前振込制です。ご希望の日程がございましたら、北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡ください。質問なども喜んで承ります。この講習会に関しては、電話でのご予約は受け付けておりません。
いったいどのような講習会なのか?吉門先生のご紹介を含め、ブログに詳細を綴っております。人生が変わるといっても過言ではありません。気になる方は、ぜひ以下よりブログを参照ください。
≪北平のBenoit不在の日≫
私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2024年5月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
バランスの良い美味しい料理を日頃からとることは、病気の治癒や予防につながる。この考えは、「医食同源」という言葉で言い表されます。この言葉は、古代中国の賢人が唱えた「食薬同源」をもとにして日本で造られたものだといいます。では、なにがバランスのとれた料理なのでしょうか?栄養面だけ見れば、サプリメントだけで完璧な健康を手に入れることができそうな気もしますが、これでは不十分であることを、すでに皆様はご存じかと思います。
季節の変わり目は、体調を崩しやすいという先人の教えの通り、四季それぞれの気候に順応するために、体の中では細胞ひとつひとつが「健康」という平衡を保とうとする。では、その細胞を手助けするためには、どうしたらよいのか?それは、季節に応じて必要となる栄養を摂ること。その必要な栄養とは…「旬の食材」がそれを持ち合わせている。
その旬の食材を美味しくいただくことが、心身を健康な姿へと導くことになるはずです。さあ、足の赴くままにBenoitへお運びください。旬の食材を使った、自慢の料理やデザートでお迎えいたします。
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最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。皆様のご健康とご多幸を祈念いたします。
ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬