kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit「一夜限りの≪春食材の饗宴≫」メニュー確定のご案内です。

 先日、東京で「桜の開花宣言」が発表されました。桜前線に一喜一憂したときも束の間、今ではいつに「花見」を行うか思い悩む日々なのではないでしょうか。「春に三日の晴れなし」とはよく言ったもので、この時期の天気は、「花冷え」「花散らしの雨」「桜雨」「花嵐」など、サクラの花にちなんだ言葉が多々あり、天気予報でもよく耳にします。これほどまで馴染み深く、想いを馳せる花だからこそ、これほどの名句が詠まれたのでしょう。

世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし 在原業平

f:id:kitahira:20190327102616j:plain

 世の中に、春を彩る食材がなくなれば、ゆったりと春を過ごすことができるかもしれません。いや、そのようなことはできません。四季折々の旬の食材は、今我々が必要としている栄養が豊富に含まれており、その時々を無事息災に乗り切ることを手助けしてくれています。自然から与えられたこの特権を放棄してはいけません。生きとし生けるものの体は、食べたものでできているのです。

 そこで、Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、春の雨によって目覚めた食材を使い。一夜限りの「春食材の饗宴」を、Benoitで開催することにいたしました。開催といっても、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業です。しかし、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして春は始まらない」という旬の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意いたします。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

 

Benoit特選メニュー「一夜限りの≪春食材の饗宴≫」

日時:201941()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、このメールへの返信か、Benoitへご連絡をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

 f:id:kitahira:20190308181657j:plain

 いったいどのような饗宴となるのか。春を代表する旬の食材は、日持ちのするものが少なく、食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。よほど天候不順などの問題がなければですが、食材が決まり、シェフのイメージするコース料理の流れが確定いたしました。皆様に以前にご案内した内容から、少し変更が入っています。以下に今回の「春食材の饗宴」メニューを、簡単に紹介させていただきます。

 

Menu de saison du CHEF “C’est le PRINTEMPS !! ”

≪一口の前菜≫

グリーンピースのスープ

≪前菜≫

モリーユのフリカッセ グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」 ヴァン・ジョーンヌ風味

≪魚料理≫

千葉県勝山港より桜鯛ポワレ フランスのロワール産ホワイトアスパラガス

≪肉料理≫

仔羊背肉のロースト グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」、そら豆オニオン・ヌーボーの旬野菜

≪デザート≫

愛媛県宇和島より「樹成完熟デコポン」と熊本県天草より「不知火」と「パール柑」のヴァシュラン

 

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパン、白2種類と赤ワインの計4杯のセットを、お一人様5,000(税サ別)にてご用意しております。

Champagne (当夜のお楽しみ)

2008 Pinot Gris cuvée des Comtes d’Eguisheim  Léon Beyer

2012 Châteauneuf-du-Pape cuvée special Clairettes vieille vigne Magnum  Dom.Saint Préfert

2005 Château Calon-Ségur Magnum

 この豪華なラインナップです。マグナムボトル(1.5L)のご用意のため、数に限りがございます。ご希望の場合はご予約の際にお伝えいただくと幸いです。当夜にご希望の旨をお伝えいただけることも可能ですが、一部ワインがl変更になる可能性がございます。この点は当夜にご相談させてください。

 

 今回は道のりの長いコースを組み立てたため、前菜の前の「小さな一品」としてご用意するのは、グリーンピースのスープです。素材そのものの美味しさをお楽しみいただきたく、余計なことはせずに翡翠色美しいとろりとなめらかなスープへと仕上げました。ボイルした粒粒そのものも少しばかり添えさせていただきます。

f:id:kitahira:20190327102802j:plain

 前菜は、今回のメインディッシュともなりうる、フランスの春を代表する、自分も心待ちにしていた逸品、「モリーユ茸とグリーンアスパラガス」です。フランスと日本との育ちの違いこそあれ、ともに太陽の恵みを十二分に受けた春の食材。2019年のBenoitの春は「讃岐から目覚める」、香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」です。瀬戸内海を想わせる塩分の湯の中で、職人ならではのしゃくっという心地よい食感を残すように湯でた「さぬきのめざめ」。日本の多くの地域が海外品種を栽培している中で、これは香川県独自品種です。このアスパラガスだけでも十分に美味であることは、この食材が「さぬき(讃岐)」を冠することが物語っているのではないでしょうか。

f:id:kitahira:20190327102840j:plain

 さらに、モリーユ茸はもちろんフレッシュが届きます。生の時にはパッとしない香りが、熱を加えることで豹変するのです。芳しい香りを放つこの茸に、相性の良いクリームを加え、旨味を十二分に引き出した中に、フランスのSavoie(サヴォア)県の特産でもあるVin Jaune(ヴァン・ジョーンヌ)と呼ばれる黄色いワインを香りづけに使用します。なかなか独特な風味のワインですが、モリーユ茸とクリーム、さらにグリーンアスパラガスとを全て調和させる力を持っている山のワインです。よく考えると、全てが「山の幸」ではないですか。春が萌えてくる山を想い描きながら、この美味しさのマリアージュをご堪能いただきたいと思います。

f:id:kitahira:20190327102924j:plain

 

 魚料理もまた、日仏の春を代表する食材のマリアージュです。日本からは、千葉県の勝山漁港より直送される「桜鯛」です。魚の品種である「サクラダイ」とは全く別物。「腐っても鯛」といわれるほど美味しい魚のため、日本では真鯛は魚の王者として君臨し、季節のよって愛称がつけられ、産卵後から夏にかけての期間は、特になし。秋は「紅葉鯛(もみじだい)」、冬は「寒鯛(かんだい)」、そして春が「桜鯛(さくらだい)」です。海深く、美味しい海老をたらふく食べている真鯛が、産卵に向けて浅瀬に姿を現す時期が「春」なのです。エビをむしゃむしゃいただいているということで、身の色がピンク色になるのだといい、まさに春色。日本人の心に花咲く「桜」にぴったりという、古人の名付けのセンスに感服です。縦横無尽に大海原を泳いでいるため、身が締まり格別な旨味をもち、運動不足と飽食の養殖とは違い適度な脂によって美味しさを増しています。この身を、表面に焼き色を付けるようにし、オーブンを使ってふんわりと焼き上げます。

f:id:kitahira:20190327103115j:plain

 そして、フランスからは春食材の代名詞的な逸品、ロワール地方より「ホワイトアスパラガス」が届きます。フランスの大地が育んだ独特の春の苦みと優しく甘い味わい。これこそ、日本でなかなか内包できないフランスのホワイトアスパラガスの美味しさです。この特徴を生かすように、シンプルに茹であげたものを真鯛の下に。アクセントを加えるように、バターのコクをベースに、レモンの心地良い酸味とケッパーの美味しさを加え、イタリアパセリをアクセントに。真鯛白身とホワイトアスパラガスの出会いを演出するこのソースもまた美味なり。Benoitで一堂に会した時、お皿の上でどのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。

f:id:kitahira:20190308181255j:plain

 

 メインディッシュは春の肉料理として「仔羊」の登場です。ニュージーランドから届く仔羊の背肉を、余計な脂身は取り除き、赤身の背肉を筒状に整形し、ブロックのまま中がピンク色になるようにゆっくりゆっくりと熱を加えていきます。ラムチョップの肉と脂身とのコンビネーションも良いですが、やはり肉本来の美味しさは赤身です。時間をかけて焼くことは、美味しさの要素でもある肉汁を逃がさず、心地良い食感に、噛むほどにジュワと仔羊の旨味があふれ出すことを約束いたします。仔羊の背肉のローストをご堪能いただきたい。

f:id:kitahira:20190327103153j:plain

 ここへ、日本の春を代表する食材を揃えます。香川県の「さぬきのめざめ」はもちろん、そら豆とオニオン・ヌーボーも加えさせていただきます。そら豆の美味しさは言うに及ばずでしょう。オニオン・ヌーボーとは、なにやら聞き覚えなおない食材ですが、実は銘産地の静岡県浜松では「葉付き玉葱(たまねぎ)」という昔から存在していたようなのです。春に旬を迎える、ネギの風味優しく熱を加えると甘みを増す美味しい野菜です。決して間引いた玉ねぎではありません。江戸時代に年貢として納めていたという由緒正しい伝統野菜です。「葉付き玉葱」では残念至極ですが、「オニオン・ヌーボー」という名もどうかと。なぜ、地名を名前に冠しなかったのでしょうか?そう思いながら、春に出会う美味しい逸品です。仔羊の肉本来の旨味は格別です。そこへ、日本を代表するこれらの春野菜がそろい踏みするのです。

f:id:kitahira:20190327103215j:plain

 仔羊が苦手な方は、他の肉への変更が可能です。ご予約の際にお声をおかけいただけると幸いです。

 

 デザートは、これを以外に春を語るものは無いのではないでしょうか。今まさに旬を迎えている、熊本県を代表する柑橘「不知火」と「パール柑」を惜しげもなく使用し、冬眠気味の我々の体を目覚めさせてくれる今の時期ならではの至高の逸品。不知火とデコポンはパール柑、それぞれ色味の違う果肉と果皮は、見た目にも美しいばかりではなく、味わいや香りの違いを生み出します。果実はそのままに、果皮は甘さ控えめのシロップで煮るようにコンフィへ、さらに果肉と果実をつかって甘ほろ苦いマルムラードへ。さらに、果汁を絞り、そこへ果肉と果皮を加えて仕上げた、輝かんばかりに美しいオレンジ色を放つシャーベットは、今回の特選食材2種類の柑橘の魅力を凝縮したかのよう。さらに愛媛県から「樹成(きなり)完熟デコポン」が加わることになりました。

f:id:kitahira:20190303093029j:plain

 余計な甘さは一切なし。旬の柑橘のもつ「甘さ」「酸味」「苦さ」が、見事なまでのハーモニーを奏でることで、ひとつの作品へと仕上がります。熊本県天草と愛媛県宇和島がはなつ「春の魅力」を我々に教えてくれることになるでしょう。

f:id:kitahira:20190217113334j:plain

 おそらく、今回のメニューだけに登場することになる、愛媛県宇和島の「デコポン」を少しばかり書いてみようと思います。

 不知火(しらぬい)という品種の中でも、甘味と酸味が基準値を超えたもののみに与えられる名称のため、この名を名乗ることができるだけでも、美味しさは保証されたようなもの。日本屈指のミカンの産地である愛媛県の中にありながら、海より隆起した地形ゆえにミネラル分を多く含み、急斜面だからこそ水はけの良さを誇ると同時に、恵まれた日照条件を満たす地。温暖だからという理由以外に、数々の条件を兼ねそろえた、愛媛県の西側に位置する宇和島市の吉田町の産物です。

 今回は愛媛県東部、瀬戸内海に面している西条市、JA周桑(しゅうそう)のもと、県下最大級の直売所として2006年にオープンした「周ちゃん広場」。他の直売所と異なることは、地元の食材のみならず、県内の素晴らし食材を探し集めていること。いうなれば、愛媛県の農について知らぬことはないプロ中のプロが選んだ逸品がそろう直売所なのです。前述した宇和島吉田町の多種にわたる柑橘を育む山ひとつ分の全量を買い取り販売しているといいます。この柑橘フルーツを指揮しているのが、皆より柑橘のプロと称された武田さんです。

 彼女の見立てにより、吉田町で完熟まで収穫せずに樹に実らせておく「樹成完熟デコポン」がBenoitに届いています。完熟に向かえば向かうほど、糖度が上がり酸味が減るため、劣化・腐敗というリスクが高まります。その危険を冒してまでも、美味しさを追求することを求めたのが「樹成完熟」なのです。天気との駆け引きの中で、どこまで耐えることができるのかを見極めることは、経験なくして成しえないもの。彼らがここまで求めるにはそれなりの理由が存在します。どれほどの美味しさなのか、この機会にぜひご賞味ください。

 

 春の雨によって目覚めた食材を使い、4月1日の一夜限りの「春食材の饗宴」をご用意いたします。それぞれが個性的であり、春の美味しさを内包した逸品食材が、どのように変貌するのかをご紹介させていただきました。全てが一堂に会するこの一夜は、皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことでしょう。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

次回は7月1日月曜日に、「夏食材の饗宴」を予定しております。

 

 今咲き誇る桜の花。この花には花言葉とは別に異名があります。「夢見草(ゆめみぐさ)」。出会いや別れの重なる春らしく、桜ととともに思い出と輝かしい夢を重ねながら、新たな門出を迎える時期だからなのでしょうか。はたまた、桜の豪華絢爛な満開の姿が、これから迎える人世の門出を盛大に祝福していると見たからなのでしょうか。学業の1年の区切りが、海外では9月であるのに対し、日本では4月です。かつては世界競争力を養う上でも、変更すべきと話題になりました。賛否両論でましたが、やはり4月から変更しなかったことは、この「桜」にちなんだ、日本人ならではの感性が大きな要因だったのではないでしょうか。もちろん、他に大事な理由はあると思いますが、毎年「桜」を見るたびに、しみじみと感じ入ってしまう自分がいます。年をとってしまったのでしょうか。

f:id:kitahira:20190327103421j:plain


いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com