kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選食材≪宮崎県の完熟マンゴーと沖縄県のパッションフルーツ≫&特別プランのご案内です。

「紅一点(こういってん)」

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 多くの中で異彩を放つもの、むさい多くの男性陣の中の、美しい一人の女性、などという意味合いでよく使われる言葉です。この表現は、緑の葉が生い茂るなかで輝かんばかりに咲く一輪の花という光景から生まれたらしいのです。今では、花が散りかけ少し実が膨らんできている頃でしょうか。いったい何の花か思いあたりますか?

 秋に独特の姿のはじけんばかりの実を結ぶ、「紅」鮮やかなザクロの花です。「緑」美しい時期だからこそ映える美しさ。それゆえに、「紅一点」という表現が生まれたのでしょう。と思いつつ、画像がザクロの花なのですが、何か違和感を覚えませんか?「紅一点」というには、意外にも多くの花を咲かすのです。ここはひとつ、意図的に視野を狭めてご覧ください、まさに紅一点の世界観を望めるのではないでしょうか。はたまた、視野を広げてみると、この時期は思いのほか白い花が多いもので、紅色の花が梅雨の最中に映えるからこそ、「紅一点」なのでしょうか。

 

 日本全国津々浦々、多彩な四季の表情に恵まれている日本に住んでいるからこそ、旬の食材にこだわりたいものです。年間スケジュールを組むも、なかなか思い通りにゆかないもので、栽培者の方々とお話をさせていただきながら、忸怩(じくじ)たる思いで断念せざるを得ない数々。自然の育む美味なる食材を、自分が勝手にカレンダーにあてはめていること自体がおこがましいとは十分に理解しているものの、どうしても前もって計画せねば何も始まらないのも事実。今年は旬の食材の収穫が遅れるは、早まるはの、なかなかに忙しい令和元年です。

 Benoitの7月メニューに明記される特選食材の数々。その中で、今回はデザートを彩る「紅一点」ならぬ「紅三点」ともいえる逸品を、まずは簡単にご紹介させていただきます。残念ながら「ザクロ」はまだ完熟していないので、登場いたしません。

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 「紅」一つ目は、Benoitの7月のデザートの食材といえば、和歌山県紀の川市桃山町の豊田屋さんの「白桃」です。桃山町です、地名に「桃」の字が入っているほどの銘産地であり、彼の地の選ばれし桃は「あら川の桃」のブランドを冠します。今届いている品種は、画像の「日川白鳳(ひかわはくほう)」です。この品種から始まり、「白鳳」へ、そして白桃の王様「清水白桃」を迎え、7月末の「川中島白桃」で豊田屋さんの収穫は終わりを迎えます。皆様がBenoitへお越しいただけるときに、どの品種なのかは、桃にお伺いを立てるしかないでしょう。

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 「紅」 二つ目は、和歌山県と瀬戸内海を挟んでの反対側に位置する、香川県さぬき市の「ひうらの里」からBenoitに届いている飯田桃園さんの「スモモ」です。今の品種は画像の「大石早生」で、まもなく「フランコ」へ。今期は飯田桃園さんお12種類のスモモの品種より選りすぐりのものを送っていただきます。予定では、7月中旬には「ソルダム」、そして「太陽」へと引き継がれることに。

 白桃は「ピーチメルバ」へ、スモモは「クラフティ」へと姿を変えます。ともにフランス料理を代表する伝統デザートでありながら、そこへBenoitパティシエール田中真理のセンスが加味された美味なる逸品となり、メニューに名を連ねております。これらのデザートの詳細は後日とさせていただき、残りの一つをご紹介しなくてはなりません。すでに表題にもなっているので皆様お気づきかと思いますが、「紅」三つ目の特選食材は、宮崎県綾町で育まれた「完熟マンゴー」です。眩(まばゆ)い輝きをはなつ「紅三点」。それぞれの美味しさを皆様に語らねばならない中で、筆頭に上がるのは「完熟マンゴー」です。なぜか?間もなく収穫が終わってしまうからです。今お楽しみいただかなければ、来年まで待たねばなりません。

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 宮崎県の完熟マンゴーは、加温栽培で全国一の生産量を誇ります。その県内で、Benoitがどうしてもこだわりたかったのが「綾町」産でした。この地は宮崎県のほぼ中央に位置し、宮崎市から西へ20km、大淀川支流の本庄川をさかのぼった中山間部。町の約80%が森林で、それも日本一の照葉樹林を形成しています。さらに、この恵まれた環境は、名水百選にも選ばれる水源を生み出しました。自然豊かな環境で育てられた農畜産物の美味しさは県内外に知れ渡り、多くの観光客が彼の地を訪れているそうです。ただ自然豊かだから美味しい?これは主要因ではありますが、他にも一因があるのです。綾町のお話は、以前「トウモロコシ前線のご案内」で書いております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 マンゴーは亜熱帯の果物なので、宮崎県の気候をもってしても露地栽培は難しく、全てハウス栽培です。だからこそ、徹底した管理のもと美味しさを追求できるのです。地植えとポット栽培を併用し、収穫は人がハサミを使って行うのではなく、マンゴーの樹は果実が熟すと実を落とすという特性を利用した、自然落果した果実を収穫します。太陽の恩恵を十二分に受け、植物のみが成せる光合成によって栄養を果実に蓄える。母なる樹から、子である果実が離れる時が、立派に成長した極み。宮崎県のマンゴーは、その瞬間(とき)を逃がさないよう、ひとつひとつの果実をネットで包み、果実が熟して自然落下するのを待つのです。これゆえに「完熟マンゴー」と命名。マンゴー本来の味わいと香が最大限発揮される「完熟」だからこその逸品へと名を押し上げたのです。さらに、自然の摂理を尊重する自然生態系農業を実践する綾町は、除草剤不使用に加え、土作りも堆肥から。広大な照葉樹林から湧き出でる名水と自然の生態系を生かした良質な土から育まれた「綾町の完熟マンゴー」が、美味しくないわけがありません。

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 Benoitデザートの重責を担うのがパティシエール田中真理です。何度となく名前が挙がるので、すでに周知の方も多いのではないでしょうか。フランスのコンクールでも優勝している実力者。昨年のこと、彼女に問う「マンゴーを購入したらデザートに組み込める?」「グラン・リーブル(アラン・デュカスの料理の粋を結集したレシピ本)に載っている逸品を作るよ」「宮崎県の完熟マンゴーで美味しいデザートになる?」「誰に言っているの?」と自信の笑みがこぼれていました。今期は2回目。自分の中では、昨年のスタイルが美味しく好評だったために、変更しなくとも良いのではと思うのですが、そこは「職人気質」に溢れる彼女です、昨年の自分を越えねばならないというのです。

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 アラン・デュカスの料理哲学は、「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」です。宮崎県綾町の完熟マンゴーがどれほどの食材かを知りえたこともあり、今年はこれでもかというほど贅沢に完熟マンゴーを使用します。画像にある乱切りのマンゴーは、マルムラードとソルベ(シャーベット)へと姿を変えるのです。作業中の光景を目の当たりにした時、宮崎県の完熟マンゴーの価格を知っているだけに、「うわっ」と声が漏れたのを覚えています。フレッシュで仕上げることが、どれほど美味しさを生み出すのかを、一口お召し上がりいただければご理解いただけるのではないでしょうか。

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 ココナッツとアーモンドを加え丁寧に仕上げた生地を、香ばしく焼き上げていき、ここへ盛りつけてゆきます。と、焼きあがったタルトを前にし、田中がなにやら教えている姿が。脇で話を耳にした時、「こんな些細なところにまで」と感服いたしました。いつも、さも自分が仕上げたかのようにぺらぺら話をしているからこそ、なおさらこの想いが募るというもの。何をしているのかわかりますか?すでにこのデザートが始まり10日ほど経っていますが、気づいた方は皆無なのではないでしょうか。これ、焼き上がったタルトの側面のザラザラを削ぎ落しつつ、上部の淵の内側を削り鋭角な角を付けているのです。タルトを家で焼いているかたは、焼き上がりのタルトの淵が丸みのあるボテッとした姿を思い浮かべていただきたいのです。そこを、削るのです。食感と盛り付けた際の美しさを求めるがゆえに。

 アラン・デュカスがデザートに求める要素は「食感・甘さ・温度の違い」。上記のタルトに、完熟マンゴーのマルムラードをのせ、ライムを加えたクリームを絞り込みます。コクのある甘さのマンゴーに、クリームのまろやかさ、ここにライムを加えることで味を引き締めるのです。これだけでも十分に美味しいところへ、これでもかとフレッシュの完熟マンゴーを山のように盛りつけます。沖縄県パッションフルーツの果実をのせ、ライムを削る、添えるのは宮崎県マンゴーと沖縄県パッションフルーツのソルベ。それぞれの「食感と甘さ・酸味」の違いが、飽きることのない味わいのハーモニーを奏でるのです。この美味しさを、どうお伝えすればよいのか?悩みどころは、最後の一口を、「完熟マンゴー」にするか「シャーベット」にするか?いや、サクッと香ばしいサブレという選択肢もある。まさに「口福なデザート」とは、このことかもしれません。

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 完熟マンゴーを使用したデザートは、ランチでもディナーでも2,000円の追加料金でお選びいただくことが可能です。しかし、皆様より並々ならぬご愛顧を賜っていることへのお礼と、宮崎県綾町の「完熟マンゴー」があまりにも美味しいので、皆様にどうしてもご賞味いただきたいという思いがあり、特別プライスのコースをご案内させていただきます。ランチ・ディナーともに、プリフィックスコースのデザートは、もちろんここまで長々と力説させていただいた自慢の「宮崎県綾町の完熟マンゴーの逸品」です。前菜とメインディッシュは当日お選びいただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、宮崎県のマンゴーの収穫が終わりを迎えるまでの、平日限定です。ご予約人数が8名様を超える場合は、ご相談させてください。

 

ランチ

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

5,800円→5,000円(税サ別)

 

前菜x2+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

6,800円→5,800円(税サ別)

 

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート+デザート

5,800円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

8,100円→6,700円(税サ別)

 

前菜x2+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート

9,100円→7,500円(税サ別)

 

前菜+メインディッシュ+完熟マンゴーデザート+デザート

7,500円(税サ別)

 

 ご紹介しましたプランは、BenoitのHPなどには記載いたしません。このメールを受け取っていただいている皆様への特別なご案内です。完熟マンゴーの収穫が自然落果を待つため、日照条件によって収量が左右されます。そこで、このプランをご希望の方に優先的にこのデザートを確保させていただきます。ご面倒とは存じますが、ご予約のご連絡をいただけると幸いです宮崎県綾町より7月末を待たずして収穫終了するかもしれませんとの情報を受けております。いつまで、ご用意可能なのか?こればかりは、マンゴーに聞くしかありません。ご不便をおかけいたしますが、自然のことゆえご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

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 今回の完熟マンゴーのデザートにとって、欠かすことができないもう一つの特選食材が、パッションフルーツです。名前こそよく耳にいたしますが、いったいどのような果実で、どのように食べるものなのか?ましてやどのように栽培されているのか?なかなか思い当たらないものです。上に添付した画像は、マンゴー畑ではなく、実はパッションフルーツ畑。この特選食材は、沖縄県本島の最南端から。大部分が海に面している海人(うみんちゅ)の街である糸満市、彼の地の山城農園から、海と太陽が育んだ類まれなる逸品がBenoitへ。

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 園主である山城さんは、農薬を使わずに安心・安全な果物を提供したいと切望し、栽培方法すらままならないパッションフルーツの無農薬・無化学肥料栽培へ挑みました。徹底した管理の下での栽培を要求されるため、ハウス栽培を選択し、土作りから取り組みます。しかし、失敗を重ね、自然の辛酸を舐めること幾度となく。彼の苦悩は計り知れず、我々の想像を超えるものだったはずです。周囲の仲間からは、励ます者もいれば、諦めを促す方もいたでしょう。山城さん自身の心が折れることもあったでしょう。しかし、最高のパッションフルーツを育て上げるという信念はゆるぎのないものでした。そして、ついに無農薬・無化学肥料栽培を実現させたのです。流れし時は、ゆうに7年に及びます。

 南国のフルーツならではの、強い日差しを要求するパッションフルーツ。同時に、無農薬栽培を実現するためには徹底した管理を求められます。ハウス栽培では少なからず陽射しの恩恵を削がれるがために、パッションフルーツの持つ光合成能力を高めねばなりません。そこで、その能力を最大限に引き出すため、山城さんは玄米アミノ酸酵素液を採用しました。そして、乳酸菌と納豆菌に加え酵母菌を培養した「えひめAI」と木酢液を使うことで、生育を促します。さらに、人体に害を及ぼす虫の駆除に一役買っている、インド原産のハーブの一種「ニーム」を加えた、玄米アミノ酸ニーム酵素液を防除に試みたことが功を奏しました。この彼の情熱に応えるかのように、甘さと酸味の抜群バランスの美味しさに満ち満ちた果肉がぎっしりと詰まった、外観も完璧なパッションフルーツに成長したのです。彼はこの逸品を「」パッション・ルビー」と命名しました。

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先日、この糸満市パッションフルーツを、さも自分が苦労して育てたかのように、お客様に自慢していた時のお話です。なんとお客様が糸満市出身の方だったのです。「北平くん、糸満(いとまん)市は、なぜその名称になったのか知っているかい?」と問いかけられました。もちろん「存じません」と答える。「糸満と呼ばれる前の昔の話なのだけどね」と話が始まりました。琉球王国の時代、彼の地の沖合でイギリスの商船が難破したのだといいます。一難去った船乗りたちは陸を目指して泳ぎ始めるも、力尽きるものも数知れず。糸満の海岸に辿り着いた船乗りは僅か8人しかいなかったというのです。そして、お客様が自分に問いかけました、「英語で言ってごらん」と。8(eight)人(man)、「エイトマン」…糸満なのだと。ありそうでもあり、なさそうでもあるこの驚愕のお話は、年配の糸満市の人々は皆知っていることなのだといいます。この話を別のテーブルで披露すると、「複数形だから8(eight)人(men)だね」とご指摘が。そうか、こう切り返さなければいけなったのかと、自分の未熟さを再認識した忘れることのできない貴重な一日となったのです。

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 Benoitに初めて届いた山城さんの育んだパッションフルーツの段ボール。中には「パッションフルーツは収穫後に追熟するフルーツです。ツルツルの表面がしわしわになり、香りが立ってきたときが食べ頃です」というご案内が入っておりました。それを片手に自分の業務へと戻ろうという時、パティシエから声がかかりました。段ボールの側面を見てくださいとのこと。添付画像をご覧ください、ひたむきに栽培に取り組む姿が見えるかのようなコメントではないですか。素晴らしい品質を生み出すには、栽培者の想いや人柄が大いに関係している気がいたします。料理もワインもまたしかり。さて、山城さんの住んでいる糸満市の由来、疑うことなく信じたくなるのは自分だけではないでしょう。

 

以下は「みやざきマンゴー物語」です。

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 宮崎県のマンゴーを調べている中で、宮崎日日新聞の記事が目に留まりました。「みやざきマンゴー物語」です。宮崎県でのマンゴー栽培が順風満帆に進んだのではなく、人々が英知を絞り出し、挑戦し砕かれる。この繰り返しの中で、着実に成果を出しながら、今の宮崎県完熟マンゴー「太陽のたまご」が生まれたようです。何度となく襲い掛かる試練に、心折れそうになるも、宮崎県ブランドを背負える逸品を仕上げたいという強い信念があったればこそ乗り越えられたようです。そんな臥薪嘗胆の心意気を、この記事は如実に物語っています。

 1985年、宮崎市から北西に向かった「西都市」から物語が始まります。この地の農家さんが、ピーマンやキュウリに代わる新しい作物を求め、県総合試験場へ向かったのです。綾町の話でもでてくる、この時代のキーワードは大量生産です。大消費地である都心から距離のある地で、都心近郊と同じことをしていては生き残れないことを、肌身に痛感していたのは、農を生業とする農家さんでした。地方だから、宮崎県の温かい気候風土を生かした「特産」を探し求めよう、そう考えたのが「西都市」、豊かな照葉樹林を生かした自然生態系農業へと舵取りしたのが「綾町」、きっと他の地域でも、いろいろな道を模索していたはずです。

 西都市の農家さんが県総合試験場から勧められたのが「マンゴー」でした。ところが、試験場で栽培されているのみで、栽培歴がない上に身近に無い作物。そこで、沖縄県産マンゴーを取り寄せ実食。その甘い香りと深いコクに感銘を受け「気候の違いは技術で補える。未知のこの果物を西都でつくろう」と誓い合ったといいます。時同じくして、JA西都の技術者だった楯さんは、沖縄県を視察し、すでに「マンゴー」に出会っていたのです。鮮やかな紅色と高級感、甘くてさわやかな味わいは、きっと好評を博すと実感していたといいます。そして、ここで運命の出会いが待っていたのです。前述した農家さんから、マンゴー導入の話を持ち掛けられたのです。

 苗木を取り寄せて、栽培農家さんを募るものの、この栽培歴もない上に見たこともない作物に、果敢にも挑戦する農家は少なく、当初は2戸、その後に少し増えるものの8戸のみ。土作りに土壌管理、温湿度、病虫害対策に摘葉・摘果の成長の管理、全てが未知なること。何度となく沖縄県を訪れ、技術指導をうけることに。8人が集まればマンゴーの話ばかり。試行錯誤の日々で、先の見えない心配と並々ならぬ苦労があったことでしょう。それでも「夢があって、楽しかった」と。そして、ついに1988年に210kgの初出荷にこぎつけたのです。

 当時、輸入されたマンゴーの品質が良くなく、東京で良い印象が持たれておらず、宮崎県産マンゴーを売り込むも失敗に終わります。そこで、県内で地物マンゴーの認知度を上げる地道な活動を余儀なくされました。その最中、画期的な栽培方法が生まれたのです。「大きな実に限って落ちて売り物にならない」と相談を受けたことが始まりでした。完熟では実を落とすマンゴーの特性のため、今までは8~9割の熟度でハサミを使い収穫していました。ところが、「落ちた実」は甘くジューシーだったのです。そこで、楯さんが発案したのがネットで完熟前の実を包み込み、自然落下の完熟果をキャッチすることだったのです。日焼けや圧力で網目が実に残らないよう、ネットを改良に改良を重ね生み出したのです。ここに、宮崎県産最大の魅力でもある「完熟マンゴー」が誕生したのです。さらに、1989年に県がフルーツランド構想を策定、1993年には「宮崎はひとつ」を合言葉に、県果樹振興協議会亜熱帯果樹部会が設立され、「みやざき完熟マンゴー」のブランド化に。そして1998年、厳しい独自基準を設け選別された最高級品「太陽のタマゴ」が誕生しました。

 今でこそ、ブランド名声を確固たるものにしていますが、それまでの苦悩はひとかたならぬものだったはずです。台風の通り道だからこそ、大雨による冠水や暴風によりハウスの倒壊、それに伴い枝が折れるという被害も。病虫害や裂果にも悩まされ続ける。そして、偽ブランドの台頭。何かを乗り越えると、また次の災禍に見舞われる。それでも、己を信じ皆で励ましあいながら辿った道のりに、多くのサクセスストーリーがありました。全ては宮崎県を代表する、他の追随を許さない逸品に仕上げよう、この強い心意気がすべての困難を乗り越えさせ、今の「みやざき完熟マンゴー」が生み出したのではないでしょうか。乗り越えることのできない壁はない、宮崎県のマンゴーを通して、大いに学ばせていただきました。さらなる高みを求め、彼らの挑戦は今も続いています。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com