kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitお勧めのチーズ「ロックフォール」のご案内です。

今回ご紹介する逸品はフランスのチーズ、「Roquefort(ロックフォール)」です。

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 こう切り出した後、あまりあるほどに詳細を書いてくれたのは、Benoit随一のチーズ博士の小林です。この若さながら、チーズプロフェッショナル協会が認定する狭き門を見事に突破した逸材であり、並々ならぬ知識は見事という他ありません。そこで、Benoitの特選チーズを、彼に紹介してもらおうと考えました。いかにチーズの魅力を伝えるか?これもまた彼にとっては乗り越えなければならない試練です。

 彼のチーズ愛は本物なのか?この判断を下すのは、皆様です。

 

 さて、本題のお勧めのチーズ「Roquefort(ロックフォール)」とは、イタリアのゴルゴンゾーラ、イギリスのブルー・スティルトンチーズと並び世界3代ブルーと称されるフランスを代表する青かびチーズです。と、力強く語る小林です。ここからは、彼の文章を転載いたします。

 このチーズは、羊(ラコーヌ種)の無殺菌乳を用いて、洞窟の中で熟成させる伝統的製法が最大の特徴です。塩味が強く、青かびのピリっとしたシャープな刺激があり、男性的な味わいがありながらしっとりしていて柔らか。バターのような口どけは甘みにも感じられ、羊乳独特のコクのある風味が広がります。

 このチーズの歴史は古く古代ローマ時代までさかのぼります。ローマの軍人で、博物学者でもあるプリニウスが著した「博物誌」で取りあげられ高く評価されている、ローマの属州ガリア(現在のフランス周辺)産のチーズが、現在のロックフォールの先祖にあたるチーズだと言われています。これはロックフォールが2000年の歴史を誇ることを裏づける文献になっています。

 その後ロックフォールは歴代の王に愛され、フランス南部にて生産地が広がっていきます。そして、ロックフォールづくりの伝統を守ろうということで、1411年、シャルル6世はロックフォール・シュール・スールゾン村の洞窟で熟成させるという伝統的な製法に対して、独占権を認めます。

 さらに1925年には、このロックフォールを模倣して生産したチーズが世間に出回ることが増え、伝統的製品と模倣品を区別することが難しくなったので、フランスのAOC※チーズ第一号として認定し固有の品質を保護することにしました。こうしてロックフォールと名乗ることができるのは、先ほどシャルル6世が独占権を認めた、ロックフォール・シュール・スールゾン村の洞窟で生産されたものだけになったのです。

AOCとは、フランスの「原産地名称統制」という制度で、ワインやチーズなどに対し国がその伝統性を認め、原産地や製造方法などを明文化して指定し、固有の呼称と品質の保護・保証するものです。

 

 ここでロックフォール・シュール・スールゾン村について少しお話しをしたいと思います。

 パリから南へ650km、ミディ・ピレネー地方アヴェロン県の南部にある、人口700人足らずの村です。村の北面は切り立った断崖です。その足元、崖沿いに2.5kmにわたって岩石の堆積物がごろごろと。この堆積物は、大昔、コンバルーの台地が水の浸食により崩壊し、地殻変動によって崩落した岩石が積み重なってできたものだといいます。

 周辺は世界自然遺産に認定されているレ・グラン・コースと呼ばれる巨大な石灰岩の高原地帯で、標高3000m以上、広さは約3万haにもおよびます。一帯は鋭くえぐられた峡谷によって仕切られていますが、ロックフォール村はそんな中のひとつ、コンバルー山の岩すそにあります。ロック(Roque)は岩、フォール(Fort)は城塞という意味で、コンバルー山の岸壁に位置する小さな村にふさわしい名前です。

 石灰岩質の台地は大小の岩石の魂を内部に落としながら変動していき、そのズレによりいくつもの空洞と無数の亀裂が生まれました。この結果、空洞は大きな洞窟を形成し、亀裂は内部と外部の空気の通り道となりました。この洞窟内ではチーズの熟成に適した温度帯で、亀裂からくる風によって湿度をコントロールしています。これがロックフォールの熟成に適した、天然の熟成庫になっているのです。

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 このロックフォールは、最低熟成は3か月間を要し、通常は6か月間熟成したものが美味しいと言われます。原料乳である羊(ラコーヌ種)の泌乳期間に合わせるため、12月から7月までの季節製造、農産物であることを忘れてはなりません。

 チーズの旬というのは「最良の時期に搾乳されてチーズが作られた時+それぞれのチーズの熟成期間」と言われています。さんさんと陽射しを浴びて育った栄養価の高い青草が茂る夏。この青草をむしゃむしゃ食べて育った羊のミルクで作られたロックフォールが、ロックフォール村の洞窟にて熟成され、最もおいしくなるのがクリスマス過ぎから、ヴァレンタインくらいまでが最良の時期。したがって今が、ロックフォールの旬とも言えるのです。

 甘いものと相性が良いので、はちみつも良いですが、Benoitでは、ボルドーのソーテルヌ(貴腐ワイン)との至高のマリアージュをお楽しみください。一年で最もおいしいと言われるこの時期を、お見逃しなきように。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬 いや、今回の語り手は小林でした。

www.benoit-tokyo.com