kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021 まもなくBenoitの「モンブラン」が終わりを迎えます!

 2021年1月20日に、四十節気の24番目の「大寒(だいかん)」を迎えました。この最後の日、2月2日をもって暦の上での季節「冬」は終わりを告げます。翌日の3日は「立春」、いよいよ春が始まるのです。寒いからこそ、其処彼処(そこかしこ)に春の兆しを感じ取れる昨今。この時期は「春隣(はるとなり)」と呼ばれ、季語にもなっています。

 「節分(せつぶん)」とは、季節の分かれ目のことをいい、年に4回あります。暦の上では各季節は、「立春」「立夏」「立秋」「立冬」から始まるので、その前日が節分です。皆様、気づかれましたか?「2月3日が立春」ということは、その前日が節分です。2021年は22日が、「鬼は~外♩福は~内♬」の豆まきの日の節分です。124年ぶりに、1日早く迎えるのです。なぜか?この話は長くなるので、後日に書き綴ろうかと思います。

 

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 さて、1月5日「小寒」から「寒の入り」した一番寒い時期「寒中」も、大寒の最後の日、節分を持って「寒の明け」です。一日の一番気温が下がる時は、夜明け前です。日増しに暖かくなるであろう「春」の前が、一年で一番寒い時期ということで名付けられたのでしょう。「寒」「寒」と教えてもらわなくとも分かります!と愚痴を言いたくなるような今日この頃でしょうか。

 日本列島を寒波が覆うことで、都内でも最低気温が氷点下となる日々が続くことで、公園の池に氷が張っていました。そのような氷が、鏡のように周りの景色を映しだすことを、古人は「氷面鏡(ひもかがみ)」と表現しました。寒い時期だからこそ、空気が冴えわたり、美しく氷が映しだす。なんという美しい表現でしょうか。

 「氷面鏡」は、序詞(じょことば)に分類されており、氷は暖かくなると「解ける」「解く」を導くのだといいます。枕詞(まくらことば)と似ているのですが、これは意味をなさずに歌い手の想う情景を加味しながら和歌の文体を整えるというもの。序詞は意味を成していることが大きな違いでしょうか。詳細は、専門家のご意見をお伺いください。

 これほどの言葉でありながら、中世頃の造語なのではないかとの解説があります。万葉の時代、後世から歌聖と称えられた柿本人麻呂が書き遺した一首に、「紐鏡(ひもかがみ) 能登香(のとか)の山も 誰(た)がゆゑか 君(きみ)来ませるに 紐(ひも)解(と)かず寝む」とあります。この誤解から生まれたのだと。

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 歌聖は「紐鏡」が「紐解かず」と詠う。「紐解く」とは「つぼみがほころぶ」という意味もあることから、「氷面鏡」が美しく映える時期は、「つぼみはまだ硬く閉じている」であり、「花」微笑(ほほえ)むには、時期尚早であり「氷が解ける」まで待ちなさい、という意味を込めたのでしょうか。真相は定かではないですが、「誤解」から生まれたと片づけてほしくないほどに、奥深い言葉に思えてしまうのは、自分だけではないのではないでしょうか。

 

 春の花々が紐解く頃には、日増しに暖かくなっていることでしょう。おのずと「氷」は解けて姿を消してゆきます。日本に誇れるほどの美しい四季があり、この時の流れが多種多様の旬の食材を育んでいます。そのため、季節の移り変わりに従うように、食材も次へ次へと引継ぎを行っているかのようです。

 「氷面鏡」が姿を消す頃には、「山笑う」季節が訪れます。そして、Benoitもこの時の流れを追いかけるように、2月15日にランチ・ディナーともにメニューを大きく変更いたします。そう、今Benoitを牽引してしてくれている冬食材も、この日をもって食材へと引継がれてゆくのです。

 今、メニューに名を連ねる料理の数々には、Benoitが選びに選んだ特選食材を惜しげもなく使用しております。その多くが、2月15日に姿を消してゆくのです。昨年末より続いてきた、「牡蠣のグラタン」の前菜も、口惜しいことに終わりを迎えます。「惜しげもない」やら「口惜しい」やら、「惜」の漢字ばかりが登場します。そこで、花微笑む前に、「惜冬(せきとう)」の思いを込めて、今皆様にお召し上がりいただきたい特選食材を続けざまにご紹介させていただきます。ますは、これです。

「Benoitのモンブラン

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 毎年のように、秋冬にかけてBenoitのメニューに堂々と名を連ねるデザート「モンブラン」。なんと美しく心に響く音色でしょうか。西ヨーロッパアルプス最高峰のMont-Blancが、このデザートの名前の由来といいます。しかし、どこをどう見てもデザートのモンブランと、山のモンブランでは似ても似つかない、そう思うのは自分だけではないはずです。もしや、。「Mont(山)」「Blanc(白い)」という名だけに、雪を冠した姿は目を見張るほどに美しい。比類なきこのデザートの美味しさを讃えるために、人々を魅了してやまない山の名前をあてたのでしょうか。

 これほどに壮大なネーミングなだけに、Benoitではシェフパティシエールの田中が毎年苦悩しながら組み立ててゆきます。今年は和栗7割とフランス栗3割の比率で栗のペーストを仕上げます。フランスらしい風味にするのであれば、フランス栗だけで仕上げればいい。しかし、職人である田中の場合、「美味しい食材が目の前にあるのにもかかわらず、なぜ海外産を使わなければならないのか。」との思いが強い。美味しいフランス産の栗を無下にすることも、洋菓子であるデザートを組み立てる上で無下にはできない。そこで、試行錯誤の末に、今期は7 :3と決めたのです。

 栗を知り尽くし、炊きほぐした栗の品質に絶大なる信頼のある恵那川上屋さんに、今期もBenoitへ送っていただきました。栗きんとんの専門店だからこそ、その自慢の栗きんとんそのものである「加糖された栗ペースト」。さらに、Benoitのために炊いてほぐしただけの「加糖していない栗ペースト」の2種類です。

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 これを半々のブレンドにして、フランス栗を加え、丁寧に丁寧に細心の注意を払い混ぜてゆき、裏ごししてゆきます。この作業を怠ることは、最後に絞り込む栗ペーストの滑らかさを失うばかりか、和栗の旨さを損なうことになるのです。女性にはなかんか難儀な力仕事であることを、加筆させていただきます。

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 そして、たっぷりと絞り込みます。今回、このモンブランには、タルトやスポンジ生地などは一切加わりません。栗の下には、軽やかに仕上げた生クリーム。Benoit自慢の、優しい甘さと心地よい食感のメレンゲを焼き上げ、これを土台とします。濃くも滑らかな栗の美味しさを、軽やかなクリームが引き立てる、やわらかい中にカリっと加えることで心躍る心地とはこのことでしょうか。

 最初感じるコクのある甘さはフランス栗が、後引く深い深い栗の旨味は和栗が、それぞれの大役を担っています。これだけでも美味しい。しかし、何かが足りない。フランスでは、カシスとのマリアージュが最高であるとい、多くの日本人パティシエがこのマリアージュに果敢に挑戦する。カシスの強さに栗の風味が消されてしまうこと、しばしば。

 Benoitの田中ならば、彼女の経験からカシスも間違いなく上手に使いこなす。しかし、「目の前に美味しい食材があるにもかかわらず、なぜ海外産を使わなければならないのか」と彼女は思っている。今期のモンブランの味わいの構想をしているときに、すでに心に決めていた感があります。2020年9月の時点で自分にこう言ってきたのです。

「美味しいユズを探してほしい。」と

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 今期に出会った「笠置ゆず」。果肉果皮を惜しげもなく使ってマルムラード仕上げ、モンブランの中に加えるのです。このユズだからこその酸味とほろ苦さが、栗をいっそう引き立てるかのよう。和栗だからこそ、和の柑橘ユズがいいのかもしれません。そして、果肉と果汁から粗目のかき氷のようなグラニテも仕上げ、別の器で用意します。交互に、もしくは一緒にお召しがありいただくことで、さらなる栗とユズのマリアージュをお楽しみいただけるはずです。

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Mont Blanc à notre façon

モンブラン ブノワ風

 ランチでもディナーでも、+1,000円でプリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。其処此処に春の兆しが見え始めました。今期のBenoitモンブランは、2月14日(日)までのご用意です。

 

 西ヨーロッパの中央に、7か国にまたがる壮大な峰々がアルプス山脈です。交通の難所でありながら、この山脈に端を発しいる大河川は、ヨーロッパの人々に貴重な水資源を提供しています。そして、その山の端の中で、際立つように聳(そび)えているのが、名にし負うモンブラン」です。

 この山脈を源流とし、フランスを悠々と流れるのが「ローヌ河」。食の都「リヨン」の脇を流れるように南下してゆき、地中海に注ぎます。この河の中流域、ちょうどフランスの中央高地の南東部に、Ardèche(アルデシュ)県があります。Auvergne-Rhône-Alpes(オーベルニュ-ローヌ-アルプ)地域圏に属しており、その名の如く、アルプス山脈の麓(ふもと)に位置しています。この「アルデシュ」と聞いて、ピンときた方はかなりの栗好きの方ではないでしょうか。フランス国内でも栗の産地として有名で、ワインと同じように原産地を名乗ることのできる政府保証付きの銘産地なのです。

 そういえば、日本にも日本アルプスと呼ばれる峰々が本州中央に鎮座しています。これは、北アルプス飛騨山脈中央アルプス木曽山脈、そして南アルプス赤石山脈という3つの山塊で構成され、それぞれを源流とする河川が大地を潤しています。特に、前者2つは豊穣な濃尾平野を形成しているのです。さらに、中央アルプスを源流とする木曽川が、濃尾平野に流れ込む手前、ここは日本でも有数の栗の銘産地です。

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 フランスのパリにある老舗Benoitの「Mont Blanc」が、フランス栗を使うのであれば、同じ名を冠するBenoit東京の「モンブラン」は和栗をつかいます。フランスでは、モンブランにアクセントとなる酸味を加えるべくカシスやレモンを加えます。これが洋栗とのマリアージュを成すのだといいます。では、Benoit東京では何を加えるのか…これもまた、今回の特選食材です。

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 山間を流れていた木曽川は、美濃加茂(みのかも)市の南東、可児(かに)市の北部のあたりで、が濃尾平野に流れ着きます。そして、この地で北アルプスこと飛騨山脈に端を発した飛騨川が落合います。急流から悠々と流れる「大河」へと姿を変え西へ西へと流れゆき、岐阜城を北に眺めながら、ほどなくして南に向きを変え、伊勢湾に注ぎ込みます。

 「大河」、そういえばNHKさんの大河ドラマ明智光秀を主人公に据えた「麒麟(きりん)がくる」です。「歴史は勝者が作る」というだけあって謎が多く、なんと魅力に満ちた武将でしょうか。木曽川の「大河」の話をしてきたので、少しばかり明智光秀の出生の地をご紹介させていただきます。

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≪北平のBenoit不在の日≫

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 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

3日(水)

5日(金)

 上記日程以外は、緊急事態宣言延長如何によって変動してしまうため、後日ご報告させていただきます。Benoitへお運びいただける際には、自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。

 皆様にお会いする機会を賜りながら、自ら放棄する無礼、ご容赦のほどよろしくお願いいたします。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com