kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年7月 Benoit特選食材「清流美どり」のご案内です。

 生きとし生けるものにとって、空気と水は必要不可欠なものです。地球上に住んでいる以上、空気に隔たりは無いため全ての生命体が共有できます。しかし、水資源となると流動的ではあるものの、限定的であるため、同じ地球上とはいえ豊富な場所とそうではない場所との差は大きいものです。日本はいかに水資源に恵まれていることか。

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 日本は、国土の3/4を山地が占めるといいます。まるで本州を縦断するかのような山脈の一群は、日本海側と太平洋側の気候を隔てる境界線になっています。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」と書きだしている、川端康成の「雪国」は、何も誇張しているわけではなく、温暖化の影響はあるものの今も変わりません。そして、この広大な山地には樹々が生い茂り、新鮮な空気を生み出すばかりか、豊かな水資源をもたらしてくれています。

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 山々の降り注ぐ雨は、豊かな森をフィルターとするかのように、余計なものは削がれ、山の豊かなミネラルが加わり、山々の其処彼処で湧き出(い)ずる。この小さな清流は、山間を通り、他の小川と落合いながら川となり、さらに他の川と落合いながら名立たる川へと姿を変えてゆく。氾濫という危険と隣り合わせでありながら、人々は河川の流域を拓(ひら)いてきました。そこには豊富な水資源と、その川が運んできた肥沃な土地があったからです。

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 木曽三川とは、岐阜県が誇る3つの川のこと。中心都市である岐阜市の南側を木曽川、西側を揖斐(いび)川、市内を横断するように長良川。この豊かな水資源無くして、豊穣を約束されたかのような濃尾平野はありえません。市内には、標高は329mの金華山が聳(そび)えています。数字だけを見ると、そう高くはないように思うのですが、市街地との高低差が300mもあり、下からは見上げるほどに急峻なもの。その頂(いただき)に鎮座するのが岐阜城です。

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 この岐阜城天守閣からの眺めは見事なもので、岐阜市内はもちろん、木曽三川とその支流が織りなす広大は濃尾平野を望めます。川が海の注ぐのが南側であれば、東西北には大いなる山々が連なり、扇の弧のように平野を囲む。その山には数えきれないほどの場所で水が湧き出で、それが落合い岐阜三川の源流となる。

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 鮎が遡上するほどの清らかな水を誇る木曽三川は、飲料水としてばかりではなく、美濃和紙、関の刃物、陶磁器の美濃焼などの匠の技を育て上げ、1300年以上にのぼる鵜飼の文化を生み出しました。そして、肥沃な濃尾平野で栽培される農産物はもちろん、畜産物にも分け隔てなく恩恵を与えてくれます。生きとし生けるものにとって、空気と水は必要不可欠なものであり、清らかな空気と水で育まれた鶏・豚・牛が美味しくないわけがありません。

 

 今回ご紹介したい食材は鶏肉です。(社)日本食鳥協会が定義するところの特別飼育鶏、「清流美どり」。JAグループが、安心・安全・良質な農畜産物を皆様にお届けしようと岐阜県に立ち上げたのが「岐阜アグリフーズ株式会社」です。県内の山間(やまあい)に2か所の自社飼育農場を持ち、さらに5カ所の契約飼育場があります。

 この7カ所の指定農場では、衛生管理の徹底はもちろん、飼育羽数を減らすことでより自然に近い環境を整えるようにしています。そして、室温と湿度を徹底管理するだけではなく、新鮮な空気を常に鶏舎に取り入れることも怠りません。さらに、人と同じ地面を踏む鶏たちが健やかに育つよう、鶏舎外のおいても除草剤は一切散布しないという徹底です。全ては、鶏に余計なストレスを与えないためといいます。

 人は、食べたもので体ができています。もちろん、鶏も食べたもので体ができてきます。彼らは飼料にもこだわります。「清流美どり」には、飼料用米やトウモロコシなどの穀物類、大豆粕などの植物性油粕類、魚粉などの動物性飼料などを、鶏の成長に合わせて適宜配合して与えていいます。この飼料にEMフィードBAが加えられます。

 なにやら化学薬品のようなネーミング。これは、乳酸菌・酵母などの有用微生物群(Effective Microorganisms)に枯草菌をプラスしたものを、米ぬかなどに加え、活用化させてペレットにした混合飼料のことです。鶏の腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)、腸内フローラとよくいいますが、正常化され有用菌の増殖を促し、有害菌・病原菌を抑制するのです。この効用によって、鶏は健康を維持することにつながるのです。名前こそ、横文字で化学製品のようですが、天然成分の塊のようなもので、安心・安全であることは間違いありません。

 特筆すべきことは、病気予防のためワクチンを投与していますが、全飼育期間において抗生物質や抗菌製剤を一切使用していないことでしょう。いや、これほどまでに飼育環境を整え、鶏の健康維持に尽力していれば、必要のないことなのでしょう。しかし、これを書くということは、いかに多くの飼育場が抗生物質や抗菌製剤を使用しているかということを物語っている気がします。

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 この岐阜アグリフーズの強みは、上記のような徹底した飼育はもちろんですが、ここに生鳥処理からカット・パック包装までの全工程を一か所で行っていることです。加工鮮度が保てるよう温度管理された施設からトラックに積みこまれ、発送されるのです。さらに、より安全・安心な鶏肉を皆様に届けるために、品質保証室を設置し、品質マネジメントシステムの運用、衛生管理の指導ならびに迅速な衛生検査体制を整えるべく、HACCP手法を含んだ国際認証であるSQFを導入し、徹底しています。

 自社飼育農場では、ただ飼育するというのではなく、安心・安全・良質を求め、妥協することなく研究に励む日々。その研究成果は惜しむことなく、各契約飼育場へと伝達されてゆく。皆が丹精込めて育て上げた鶏は、徹底的に衛生管理された施設で、鮮度を損なうことなく迅速に処理され送り出されます。この、どこにも忖度の入りようもない、一貫したシステムだからこそ可能とした、「清流美どり」の美味しさ。一口お召し上がりいただければ、皆様もその美味しさに舌鼓をうつことでしょう。

 岐阜アグリフーズのHPの「ごあいさつ」は、こう締めくくられていました。私たちはこれからも、私たちの製品を通じて、美味しさをつなぐ、笑顔をつなぐ、健康をつなぐ、そして信頼をつなぐ、そんな「つながり」が出来ることを目指して努力してまいります。出会うべくして出会ったのでしょうか。彼らの想いが導いてくれたのでしょうか。Benoitは「清流美どり」と「つながり」ができ、ランチのメニューにその名が登場しています。

 この特選食材をつかった、Benoitのお勧め料理のご案内は以下よりご訪問いただけると幸いです。

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余談ですが…

 自分の出身は新潟県です。この「潟」という字は、普段なかなか使うことがなく、いざ書こうにも難儀なものです。しかし、「干潟」のように、まだ用例が思い当たるものです。しかし、「岐阜」という漢字の特に「阜」は…岐阜県にお住まいの方には本当に申し訳ないのですが、この漢字を読むことはできても、いざ書いてみるとなると考え込んでしまうものです。これは、難読漢字に分類されるのではないかと思うのです。歴史にも幾度となく登場し、知名度が高いので、読めるには読めるのだけれども…

 岐阜城は、かつては稲葉山城と呼ばれていました。この城が歴史に登場するのは、斎藤道三が1539年に居城としたところからでしょう。後に織田信長が入城し、「岐阜城」と改名しました。この改名に一役買ったのが、愛知県名古屋にある「政秀寺」を開山した沢彦(たくげん)和尚でした。彼の進言で、信長が城下の「井ノ口」を改名することを決意したといいます。和尚は「岐山」「岐陽」「岐阜」の3つを提案し、信長自身が選んだのが、「岐阜」でした。

 岐山(きざん)とは、中国の陝西(せんせい)省岐山県にある山の名前。古代中国の殷(いん)を亡ぼし、天下を統一した周の都のあった地で、縁起がいいから候補に挙がったのだといいます。天下布武を目指す信長にはうってつけではないかとも思います。しかし、「岐阜」を選びました。

 語源辞典「漢辞海」で調べてみました。「岐」は、岐路という単語もあるように「道が分かれたさま。」という意味がある他に、「よく理解して優れたさま。賢い。」とある。「阜」は「ふ」以外に読みはなく、「小山」であるという。さらに、「肥えてたくましいさま」「豊富である。数が多い。」「旺盛なさま。」「情が厚い」といった意味を持ち合わせています。「阜」が土からできている小山であれば、「山」は岩石でできている大山、「陵」が土でできている大山なのだと。

 信長が岐阜城に入城した時、眼下の広大な濃尾平野雄大に流れる長良川を望んだ時、彼自身が天下布武を成しとげるという覇王への道を見据え、「岐阜」を選んだのではないでしょうか。なにわともあれ、常用漢字表では「阜」の字は、「岐阜」以外に使わないとあります。それほどの難読県名でした。

 

 余談が過ぎました。本題は、Benoitは「清流美どり」と「つながり」によってランチメニューに登場した料理のご案内です。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com