kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2023年1月 Benoit「寒中お見舞い」と「特選イベント」のご案内 です。

寒中お見舞い申し上げます。

 旧年中は並々ならぬご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。新年を迎え、皆様より賜りましたご温情は徒(あだ)や疎(おろそ)かにせず、倦(う)まず弛(たゆ)まず研鑽の日々に努めます。「観梅の心、観桜の目」を忘れることなく、少しでも皆様のご期待にお応えできるよう、万全の準備をもってお迎えいたします。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。皆様が、そして皆様のご家族ご友人の方々が、幸多き年となりますよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出します。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に日々を過ごしていただきたい。この想いを込め、Benoitのご案内をお送りさせていただきます。

 

2023年はBenoitから始まる…≫

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたらします。その風がもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福」を見出します。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。さらに、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、Benoitで「口福な食時のひととき」をお過ごしいただきたい。この想いを込め、「新春特別プラン」をご案内させていただきます。

 迎えし2023年は1月1日から4日までお休みをいただき、心機一転15()より、万全の準備をもって皆様をお迎えいたします。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなく返信ください。

 

新春特別プラン

期間:土日を含めた2022131()まで

ランチ: 前菜x2+メインディッシュ+デザート

6,000円→5,000円(税込/サービス料別)

ディナー: 前菜x2+メインディッシュ+デザート

8,600円→7,500円(税込/サービス料別)

 

 迅速に皆様のご希望にお応えできるよう、専用の予約サイト開設いたしました。以下のURLよりご利用ください。ご希望日のご予約が取れない場合でも、まだお席が残っている可能性もございます。その時は、何気兼ねなく自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)返信、もしくBenoitへご連絡(03-6419-4181)ください。ご要望や質問なども、喜んで承ります。

ランチのご予約はこちらから

https://www.tablecheck.com/shops/benoit-tokyo/reserve?menu_items=639a92a94c35a91c73ff9575

ディナーのご予約はこちらから

https://www.tablecheck.com/shops/benoit-tokyo/reserve?menu_items=6129a8e574892f048194df99

 

2023年はBenoitのイベントから始まる…

 「ゆく川の 流れは絶えずして しかも もとの水にあらず~」とは、鴨長明が書き綴った方丈記の冒頭です。

 「時(とき)」は止まることなく流れ続けています。「待て」と言われて歩みを止めることなどあろうはずもありません。さらに、「走鳥飛(とそううひ)」という言葉があります。「兎(うさぎ)」は月、「鳥」は日のたとえ、月日の経つのが速いということを言っています。十二支がウサギだけに、聞き流すわけにはいきません。

 兎に角、一刻一刻を大切に、そして一時一時を皆様がお楽しみいただけるよう、今年は立ち止まることなく、Benoitでイベントを実施しようと思います。「特選ワイン」であり、「音楽イベント」であり、さらに今期より「テーブルマナー講習会」までも。ご案内させていただきます。

Champagne Gosset Grand Réserve brut

 17,500円(Benoitワインリスト価格) ➔ 9,900(税込・サービス料別)

 Benoitの自慢の料理とともに、Gossetのシャンパーニュをお楽しみください。期間は、202315()から131()まで。本数に限りがあるため、予約はお早めにご検討ください。

※すでに特別価格でのご案内のため、Benoitのワイン割引はご利用いただけません。他のネットプランや割引の併用もできません。しかし、先にご案内しました「新春特別プラン」はご利用いただけます。

 

 「フレンチでタンゴ」と銘打って、皆様に音楽と舞の共演を、お食事も含め、五感を通してBenoitでお楽しみいただこうと思います。

Benoitミュージックディナー アルゼンチンタンゴ

日時:202337()8() 18:00より受付開始 18:30開演

料金:ダンススペース周辺のお席をS席、少し離れたA席をご用意させていただきます。

S席24,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

A席19,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

ダンサー:クリスティアン&ナオ

ピアノ:サッコ香織

バンドネオン川波幸恵

ヴァイオリン:専光秀紀

※昨今の不安定な環境下のため、開催日や出演者が変更になる可能性がございます。

 

 其処此処で開催しているテーブルマナー講習会であれば、自分は皆様へご案内することはありません。今からご案内するテーブルマナー講習会は、すでにBenoitで68回もこの講習会を開催しているのです。リピートされている方ばかりであり、あまりにもためになり面白いため、その方がご友人を誘う。それほどに内容が深いものなのです。

世界基準の一流を学ぶ 「テーブルマナー講座」

開催日: 2023年3月30(木) & 4月30()

時間: 11:30より講義を始めます。 

11:10までにお運びください。終了予定は15時15分を予定しております。

料金: 16,000(サービス料/税込) ※お食事とワイン2杯を含みます。

※事前振込制です。ご希望の日程がございましたら、北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡ください。質問なども喜んで承ります。この講習会に関しては、電話でのご予約は受け付けておりません。

 

 イベントの詳細はブログに紹介しております。以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。ご予約はもちろん、何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくメールで北平までご連絡ください。

kitahira@benoit.co.jp

kitahira.hatenablog.com

 

2023年の干支「癸卯(みずのとう)」のお話です。

 むかしむかしのこと、お釈迦様が動物たちに「新年の挨拶に赴いた順番を十二支にしよう」と語ったのだといいます。そこで、動物たちは我さきにと、お釈迦様の下へと馳せ参じることになる。己をよく知る牛は足が遅いことを理解しているため、前日からすでに出発します。一番先に門口(かどぐち)に到着するも、その背に乗っていた賢いネズミがひょいと先に門をくぐる。順を追ってぞくぞくと主役が到着する中で、犬猿の仲といわれる両者の仲裁に入ったがためにニワトリは10番目。猫はなぜ登場しないのか?猫はお釈迦様への新年の挨拶の日を忘れ、ネズミに聞いたところ2日だと。翌日に事実を知った猫は怒り、これ以降ネズミを追いかけ続けるのだとか。

 干支の中にある「卯」という漢字に、ウサギという意味もあるため、其処彼処(そこかしこ)で目にする可愛いウサギの姿。しかし、「うさぎ」には「兎」という立派な象形文字が存在していることを考えると…前述の口伝は、干支を生み出した古代中国の賢人が周知してもらうため、身近な動物にあてはめた際に寅に虎の意をあてたのではないかと思う。そう言えば、辰(龍)という架空の生物も含まれていますが、当時は深くその存在が信じられていたことの証でしょう。

 漢字とは、一文字が実質的な意味を持つ表意文字です。古代中国の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしました。この漢字の組み合わせは「干支」と名付けました。今年は「癸卯(みずのとう)」です。賢人は、漢字に何を託し、我々に伝えようとしたのでしょうか?語源辞典片手に、古人の想いを読み解こうと試みます。お時間のある時にブログをご訪問いただけると幸いです。※自分は占い師ではありません。

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2023年1月 Benoit「特選 イベント」のご案内です。

冬は時雨から始まる…

 いえいえ、「2023年はBenoitから始まる」のです。さあ、特選イベントをご紹介させていただきます。

 

20231月はBenoit特選シャンパーニュで始まる…

 Gosset(ゴッセ)は、シャンパーニュで最も古い歴史を持ち、マロラクティック発酵(乳酸発酵、以下MLFと表記)を行わないスタイルを、創業から今にいたるまで、頑なに守り続けています。これぞ「ゴッセ流のシャンパーニュ」なり!

 このMLFとは、ブドウそのものがもっているリンゴ酸を乳酸に変える発酵の事で、アルコール発酵後に行われます。これを行わないと、熟成中に勝手にMLFが起こり、破裂や噴きこぼれの原因になり、意図しない品質へとかわります。往古は意味の分からない劣化?悪魔の仕業?などとされていたものの、MLFが解明されてからは、多くのワインメーカーはこのMLFを施すようになりました。リンゴ酸が乳酸に変わることで、まろやかな風味になります。

 では、なぜGossetは頑なにMLFを実施しないのか?こればかりはご当主に聞いてみないと分からないのですが、調べてみると…リンゴ酸があることで、長期熟成に耐える芯をもったワインが醸されます。それが、熟成によって得も言われぬ美味しさを内包するということを、彼らが識っているからなのでしょう。きっと「ブドウと畑の潜在能力を最大限に引き出し、表現できるから」と語るでしょう。

 畑は、Aÿ(アイ), Bouzy(ブジー), Ambonnay(アンボネイ), Le Mesnil-sur-Oger (ル・メニル・スュル・オジェ)という、ほぼグラン・クリュ区画の村のみ。収穫後は品種・村毎に全て分けて圧搾し、村毎にステンレスタンクで発酵。18℃で約15日間のアルコール発酵。マロラクティック発酵は行わない。約200種の原酒を12月にアッサンブラージュ。瓶詰めは翌年の3月~6月。瓶内熟成は、法の定められた15か月を大きく上回る48~60か月!ドザージュ8g/L…

 爽やかな白い花や、アーモンド、さらに柑橘などをも想起させる美しい香り。シャルドネ種とピノ・ノワール種が織りなす堅牢な骨格は、MLFを行っていないからこそのもの。そう、このボトルには彼らの想いが詰まっているのです。持ちうる五感をフルに使い、どれほどのものかをご堪能いただきたいと思います。2023年は、Benoitの料理と、シャンパーニュ「Gosset Grand Réserve」とのマリアージュをお楽しみください。

 

Champagne Gosset Grand Réserve brut

 17,500円(Benoitワインリスト価格) ➔ 9,900(税込・サービス料別)

 

 期間は、202315()から131()まで。本数に限りがあるため、予約はお早めにご検討ください。ご予約はもちろん、何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。に自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)をお送りください。お急ぎの場合には、Benoitメール(benoit-tokyo@benoit.co.jp)より、もちろん電話(03-6419-4181)でもご予約は快く承ります。

※すでに特別価格でのご案内のため、Benoitのワイン割引はご利用いただけません。他のネットプランや割引の併用もできません。しかし、先にご案内しました「新春特別プラン」はご利用いただけます。

 

2023年の春は「フレンチでタンゴ」から始まる…≫

 人間の歴史を紐解いてみても、言葉という意思疎通のできるツールが無くとも、リズムを奏で、踊ることで神々と語り、感謝の気持ちを伝え、未来を占ってもらおう、もしくは導いてもらおうとしていることがわかります。力強くもリズミカルな太鼓の音に高ぶる気持ち、激しい舞を躍ることで神と一体化する儀式。神妙なる音楽に任せて、ゆったりと舞う巫女さんの姿には、尊厳の念を感じるものです。ほんの一例ですが、どちらも言葉を必要としません。

 神々への畏怖・畏敬の念から、愛情表現へと変わってゆくことは自然の流れであったはずです。そして、人々が切磋琢磨することで、至上の高みへ達した時、我々を魅了して止まない芸術となる。その一つが、「アルゼンチンタンゴ」です。そこで、「フレンチでタンゴ」と銘打って、皆様に音楽と舞の共演を、お食事も含め、五感を通してBenoitでお楽しみいただこうと思います。

Benoitミュージックディナー アルゼンチンタンゴ

日時:202337()8() 18:00より受付開始 18:30開演

料金:ダンススペース周辺のお席をS席、少し離れたA席をご用意させていただきます。

S席24,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

A席19,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

 

ダンサー:クリスティアン&ナオ

ピアノ:サッコ香織

バンドネオン川波幸恵

ヴァイオリン:専光秀紀

※昨今の不安定な環境下のため、開催日や出演者が変更になる可能性がございます。

 

 質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。当面の間、ご予約はメールのみとさせていただきます。北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡いただけると幸いです。

 

≪さらなる高みを!「テーブルマナー講習会」≫

 

 其処此処で開催しているテーブルマナー講習会であれば、自分は皆様へご案内することはありません。

 講師である吉門さんとは、すでにBenoitで68回もこの講習会を開催しているのです。リピートされている方ばかりであり、あまりにもためになり面白いため、その方がご友人を誘う。それほどに内容が深いものなのです。

 吉門憲宏さんは、元日本航空国際線のキャビンスーパーバイザー(チーフパーサー)として世界の空を飛び続けた、飛行距離は地球450周を超えるほど。120万人もの旅客様と笑顔を交わしてきているのです。在職中は、定年退職になるまで飛行機に乗り続けたつわもの。日本文化の礼節を伝える民間外交でもある接客のプロとしての人生を歩んできた、だからこそ、多くの知見があるのです。

 先生との自分との出会いは、偶然だったのか必然だったのか…現職を退いてからは、アメリカでのMBA取得のための派遣される某大手企業のスタッフが、欧米の社交界に馴染めるようにとトレーニングをする講師を担っていました。その打合せの席なのか、無事に送り出したお礼のためだったのか、大手企業の人事の方々が選んだのがBenoitの一席だったのです。そのようなことは露知らず、自分がいつものように語るは語る…後日に知ることになるのですが…いやお恥ずかしい限りです。

 この出会いが、今も続いているBenoitで開催される「テーブルマナー講習会」を導いていたのです。全ての所作には理由がある。日本人が、ついついやってしまうことを、笑いを込めながら教えてくれる。毎度のように、会場はやっちまった~と「笑い」溢れている。このようなテーブルマナー講習会があったであろうか。もちろん、料理は自分が語りに伺わせていただきます。

 先日開催された講習会の中で、目頭が熱くなるお話を伺いました。自分が見失いつつある思いを、あらためて思い起こさせてくれたのです。日本人であることを誇りに思う…この感動秘話は後日に…キーワードは…

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世界基準の一流を学ぶ 「テーブルマナー講座」

開催日: 202319()祝日 & 219()

時間: 11:30より講義を始めます。 

11:10までにお運びください。終了予定は15時15分を予定しております。

料金: 16,000(サービス料/税込) ※お食事とワイン2杯を含みます。

※事前振込制です。ご希望の日程がございましたら、北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡ください。質問なども喜んで承ります。この講習会に関しては、電話でのご予約は受け付けておりません。

 

≪冬は時雨から始まる…どういうこと?≫

 昨今では「冬は大寒波から始まる」ようで、気持ちの切り替えもままならぬうちに冬只中に入りこむようです。今では天気予報の精度が上がり、寒波の到来も予測できるようになりましたが、今年がこれほどまでの大雪をもたらすことは予想外だったのでしょう。難儀な生活を強いられている方々の、いちはやい日常の回復を、青山の地より祈念いたします。

 往古、季節の移ろいは、天気図ではなく自然の機微を読み取ることで悟っていたはず。春夏秋冬、肌に感じる気温によって判断できるものの、風流人はそれでは納得いかなかったのでしょう。季節の「はしり」を先んじて感じ取りたいと…そこで、京都の居を構える古人が着目したのが「時雨」でした。

冬は時雨から始まる

 なんと美しい言い回しでしょうか。どうやら、詠み人しらずのこの一首が発端であったようです。ということで、いつものごとく、少しだけ掘り下げてみました。

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2023年干支「癸卯(みずのとう)」のお話です。

 2023年の干支(えと)は、「癸卯(みずのとう)」です。

 漢字とは、一文字が実質的な意味を持つ表意文字です。古代中国の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしました。この漢字の組み合わせは「干支」と名付けました。今年は「壬寅(みずのえとら)」です。賢人は、漢字に何を託し、我々に伝えようとしたのでしょうか?素人ながら、漢字語源辞典「漢辞海」を片手に書き綴ってみようかと思います。

 

 世界の言語は、「絵画文字」、「表音文字」、「表意文字」などに大別されます。絵画文字は、古代文明に書き記された絵文字を代表とし、表音文字はアルファベット(音素文字)や日本の仮名(音節文字)などがあります。そして、表意文字は、一文字が単語を成し、実質的な意味を持つもの。それが「漢字」です。

 古代中国の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしたのではないかと思うのです。そこで、十干(じっかん)と十二支の組み合わせた干支というものこしらえた。甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)…と続く「十干(じっかん)」と、馴染みの子(ね)・丑(うし)・寅(とら)…の十二支。

 この10と12という数字が、我々の生活の中でどれほど溶け込んでいることか。算数を学ぶ上で、数字の区切りとなるのが10。そして、半日は12時間、1年は12ヶ月。10と12の最小公倍数は「60」。還暦のお祝いとは、この漢字の通り「暦が還(かえ)る」人生60年目の節目を迎えたことを祝うもの。

 表意文字だからこそ、漢字は一文字一文字に意味があります。さらに、干支にあてがわれた漢字は、それぞれに樹の成長を模したものだといいます。賢人は、今年の世相をどのように分析し見定め、干支という形で我々に遺したのでしょうか。漢字を読み解くことで、我々がいかに無事息災に、はたまた多くの幸を見過ごさないために、この古(いにしえ)の賢人の想いを知ることができると思うのです。

 干支が十干と十二支の組み合わせであることは前述いたしました。2つの漢字一文字ごとに意味があり、2つの立ち位置の違う世相を組み合わせているのだと考えます。最初の漢字の世相は、人が抗しがたい「時世」の勢いであり、賢人は10年というサイクルを見出し、「十干」をあてがう。人生とは栄枯盛衰を繰り返すもの、これが「人世」である。賢人は、その人世を12年であるとし、十二支をあてる。干支とは、古代中国の賢人が「時世」と「人世」を読み解くことで導いた、その年ごとの世相のこととみる。

 時世を意味する十干を、樹の成長になぞらえて漢字をあてています。最初から6番目までは樹そのものの成長期間、残る4つは次の時世への引継ぎを準備する期間であるという。かたい殻に覆われた状態の「甲 (きのえ)」、芽が曲りながらも力強く伸びるさまが2番目の「乙(きのと)」。芽が地上に出て、葉が張り出て広がった姿が「丙(ひのえ)」。そして「丁(ひのと)」は、重力に逆らうかの如く、ぐんぐんと勢いよく天に向かい成長し、「戊(つちのえ)」で大いに茂る。成長最後は、勢いよくぼうぼうと生い茂った樹が、理路整然と体裁を整え、効率よく光合成をおこなうことで養分を蓄えてゆく「己(つちのと)」です。

 2020年の7番目「庚(かのえ)」から最後の「癸(みずのと)」の期間は、花を咲かせ種を生み出すにいたります。秋にたわわに実がついた様子を象るのだといいます。「庚」は「己」を継承し、人のへそに象るともいう。「庚庚(こうこう)」とは、樹木がしっかりと実をつけたさまを意味するのだといいます。

2021年は8番目の「辛(かのと)」。「辛い」としか思い浮かばないかもしれませんが、意外な意味が含まれてることを語源辞典は教えてくれます。「説文解字(せつもんかいじ)」によると、「会意文字」で秋の万物が成長して熟すとある。さらに、「釈名(しゃくみょう)」によると、「辛」は「新」であるという。「はじめは新たなものがみな収まってしまう」、そう書き記されている。

 2022年は9番目の「壬(みずのえ)」で、いよいよ佳境に入る。「説文解字」によると、「指事文字」で癶あるという。巧みで美しいという象形文字「エ」という漢字の中央に「ー」が加わる。「巫」という漢字は、両袖を広げて美しく舞っている姿を象(かたど)るのという。すると、「壬」は両手を広げるというよりも、指事文字だけに両手で中央を指し示しているように見えなくもない。

 北の方角に位置している「壬」。北の陰の気が極まると陽の気が生ずる。易経(えききょう)では、陰の気そのものである「坤卦(こんか)」極まり、陰陽の竜が外で戦うと伝えている。戦うとはいささか物騒ではありますが、これは交接を意味しており、お腹に子を宿すこと。妊娠の「妊」の漢字に「壬」が見て取れる。「壬」の両手は、新たな時世を宿したお腹を指し示していることに、ついつい納得してしまいます。

今年の2023年は「癸(みずのと)」、いよいよ十干の殿(しんがり)を担う。なんとも見慣れない漢字だけに、いったいどのような意味が込められているのか。部首は頂にある「癶(はつがしら)」です。これ自体が漢字としてなりたっており、「両足がそむきあう」という動詞です。まったく意味が分からない…

 十干の一翼を担う「癸」は、方位では「北」に位置し、五行では昨年の「壬」ともに「水」にあてる。「説文解字」によると、象形文字であるという。秦の始皇帝が中国を統一した際に文字をもとりまとめたという、それが「篆文(てんぶん)」と呼ばれるもので、これが漢字のもとになっている。「癸」は添付した下の画像のような姿です。

 十字に重ねる棒の先には、なにやら学術めいたものがデザインされています。これは、日の出・日の入りを測(はか)り、東西南北の方位を知る器具を象る。さらに、説文字解はこう教えてくれる。「癸」は冬の時節に配される。そして、川も土地も凍り、草が枯れることで、地は平坦となることで「揆度(きたく)」するこができる、と。揆度とは「はかる」こと。さらに、川が四方から流れて地中に注ぐ形に象るという。

 さらに、「釈名」によれば、「癸」は「揆」である。時機を揆度して生じ、やっと土からでる。「揆」には、「はかる」という意味があり、その幅は広い。数値として「測る」に「量る」、タイミングを「計る」、計画を「図る」。「揆測(きそく)」は、「揆度」と同義であり、推しはかること。

 時世は、この10年をかけて育んだ新しい時世を大地に宿したのでしょう。まっさらになった大地に、四方から落合い落合い流れ込む川が大地を潤し、誕生することを促している。しかし、「癶」が進むことを躊躇(ためら)わせているかのよう。時世はその機を計っているかのように、急ぐ気配はないようです。十干の10番目に配されたということは、次の10年を推測するための大切な時期と古人は判断したのでしょうか。

 人世における栄枯盛衰に、賢人は12年を見い出し、樹の成長にならった漢字をあてがいました。2020年は人世一年目の「子(ね)」。子供のことでもあり、果実の実や植物の種をも意味します。「釈名」では、「子」は「孳(し・じ)」であると。陽気が萌えて下に孳生(じせい)する。「孳」とは、「増える/産み育てる」という意味があり、「子」は「蕃孳(はんし)=おおいに茂ったさま」の状態だといいます。

 2021年の「丑(うし)」は「象形文字」であり、手をぎゅっと紐(むす)ぶす姿を象るといいます。さらに、「釈名(しゃくみょう)」によると、「丑」は「紐」である。寒気がみずから屈紐(くっちゅう=ちぢこまること)のである。「易経」では「艮卦(ごんか)」に相当するという。「艮」は「限」であり、この時節に物が生まれるということを聞かない。生誕を限止(=制限)するという。

 2022年の「寅」は、「説文解字」によると「会意文字」という。陰暦の正月に陽気が動き始めて地下の黄泉の国から地上に出ようとするも、陰気が強く叶わない。ウ冠(=屋根)があって突き抜けられず、地下に退けられるさまを象る。さらに「釈名」によると、「寅」は「演」であるといい、「物を演(ひ)いて誕生させる」のだという。多少の違いこそあれ、何かが誕生したことに間違いはないようです。

 「演」は、「劇や演技を行う」という、今でも馴染みの漢字です。しかし、部首に「さんずい」が入っていることから、元々の意味は、水に関わることを意味していたはずで、川の名称だったという説もあります。「長距離を流れる/遠くへ流れる」という原義から、「展開する/広がる」という意も含むことに。「水土通演」は、「すいどつうジうるおフ」と読むことからも、「湿る・潤う」という意味がある。脚本をもとに効果的に上演や撮影の工夫を加えることを「演出」といいますが、もともとは「変わって新たに生まれること」を意味する、そう語源辞典は教えてくれます。

 今年2023年は、十二支の4番目の「卯」。方位では「東」に位置し、五行では「木」にあてる。「説文解字」によれば、象形文字であり、門が少し開いた形に象るという。万物が大地を冒(おか)して伸び出すことを意味するという。卯木(うつぎ)の花が咲く月だからということで、日本では旧暦4月が「卯月(うづき)」です。しかし、古代中国では2月を指す。ぼんやり眺めると、ウサギの耳に思えなくもない…

 さらに「釈名」はいう、「卯」は「冒」であると。「冒」は、目を日(=おおう)から構成された会意であり、目を覆われながらも前進すると、「説文解字」が教えてくれる。「冒険」とは危険を冒すことをいい、無理な条件にもかかわらず、実行することをいう。そう、「冒」のは「おかす」という意味があるのですが、「物の上からかぶさり覆う」や「水が溢れおおう」という、「おおう」という意味が語源辞典では先にきます。

 人世は、土が覆いかぶさった中で、各々が培ってきた種が着実に育まれていた。昨年は、土が人世の勢いを抑えるかのよう蓋となっていたものが、ついに押し上げられるよう。水が大地を覆い潤すことで勢いを得たのか。来年より始まる新たな世相10年を前に、まっさらな大地で、門が開くかのように動きをみせはじめる。

 2019年は、時世「己(紀)」が教えてくれるように、ひとつの区切りとして人倫の道を外さぬよう、なりふり構わず頑張ったことを省み、紀識(きしき=しるすこと)し紀念(きねん=こころにとどめて忘れないこと)することを促すのだと。忘れ去るのではなく、真摯に受け止め真実の核心となし、次へ引き継いでゆく。

 「庚」は「更」であることから、2020年は「更始(こうし)=古いものを捨て、初めからやり直すこと」の年でした。時世は成長から継承へと移る中で、先行きの見えない世相の一年でした。賢人は我々に人世は「子」であると教えてくれました。「子」は「孳」であり「坎(かん)」でもある。「孳孳(しし)」とは勤勉に努めることを意味します。「坎」の卦が上下に姿を見せる、六十四卦でいう「坎下坎上(かんげかんじょう)=坎為水」は、「重なる険難はあるが、真実をもって行動すればうまくいく。」ということを象っているといいます。

 2021年は「辛丑」。時世の「辛」には、「辛艱(しんかん)=苦しむ・難儀する」や「辛苦」「辛酸」など厳しい単語が多いもの。未曾有のコロナウイルス災禍は今なお猛威を振るっていることもあり、この漢字が心に突き刺さります。全ての希望に楔(くさび)を打ち込んでくる。しかし、「辛」は「新」でもある。何事も新しいことの門出には苦労や厳しさがつきものです。「新地(さらち)」となった時世には、新しいものが何でもいくらでも植えることができる。しかし、どのような種を植えるかの取捨選択は各々にまかせられている。

 2022年は「壬寅」。時世の「壬」は「妊」であり、人の妊娠の姿を象る。人世の「寅」は「演」であり、物を演(ひ)いて誕生させるという意味も含む。偶然なのか必然なのか、時世も人世も新しいものが誕生していることを暗示している。人智及ばぬものが時世であり、人がどこうできるようなものではありません。2020年の「辛」を受け注いだ「壬」、新しい時世が誕生してはいるものの、まだまだ赤子のような姿で、どのような性格を持ち合わせているのかは定かではありません。

 そして、時世と歩調を合わせるかのように、それぞれの人世も育まれているかのようです。混沌とした世界の中で、もがき苦しみ行動してきたことが実を結び「種」となる。時世という地に植えられた「種」が動きだそうとするも、時世が抑え込むかのようで動きは鈍い。時世は、我々に肥沃な地を用意してくれたものの、今が芽吹く時ではないといっている。

 2023年は、ついに育んできた時世の種が動き出す。古代中国で生まれた五行説では、時世の「壬」と「癸」は「水」であり、人世の「寅」と「卯」は「木」である。水は木を生み出すという…五行相生(ごぎょうそうじょう)という相性のいい関係。陰の気が極まった昨年の「壬寅」であれば、今年の「癸卯」は陽へと舵を切る。昨年より時世が大地を潤したことで、我々個々が育んだ種が演出した(=新たに生まれた)。それが、いよいよ動き出す。

 一昨年の「辛丑」は、止まるべき時に止まり、行うべき時には行う。動くも止まるも、時(天命)を見失わなければ、その道の見通しは明るい、と伝えていた。昨年の「壬寅」は、従順さであらゆる事柄を受け入れることにより、大いに順調にゆく、そう教えてくれた。川がその大地を演(うるお)すも、時世に寄り添うように身をゆだねながら、芽吹きの機を待てといってた。

 大地が演(うるお)い、凍てつくことで大地がまっさらとなる「卯」月を迎えることで、門が開くかのように芽吹きを迎えたかのよう。次の十干、時世10年が、いまだ始まっていない。先行き不安の中ではあるが、人世は「冒(おか)す」ことを促しているかのよう。「冒進(ぼうしん)/冒突(ぼうとつ」とは、無理やり突き進むことを意味する。

 しかし、「冒」には軽率という意味もあり、「冒昧(ぼうまい)」とは、道理をわきまえないで無理やり行うことをいう。さらに、「釈名」によれば、「冒」には遺体を嚢(ふくろ)で韜(つつ)むこと。遺体を覆って人に嫌われないようにするという原義があるという。自分の欠点をよくよく省(かえり)み、覆い隠すように改善せよといっているのか。はたまた、今までの努力しつつも失敗していたことを省み、それを踏み台とし、さらなる高みへと踏み出せと伝えているのか。

 時世は、我々に行動に移す時ではある教えると同時に、タイミングを「揆度」しろといっている。さらに、「揆撫(きぶ)」することを促しているかのよう。この言葉は、よくよく反省して考えること。水でいう「水平」の如き確固たる準則を、いうなれば信念を持って判断するように…言葉遊びのように思える干支の話も、ここまでくると何やら意味深いものと思えてしまうものです。

 1984年の「甲子(きのえね)」に幕開けした60年の世相のサイクル。「世」の字には30年という意味が込められていると聞きます。60年の中に30年の2つの世相。2014年「甲午(きのえうま)」からはすでに後半の世相が始まっています。世相における栄枯盛衰は世の常であり、これを乗り越えなくてはなりません。その先で、我々は宝の地図(人世のさらなる高み)を必ず見つけることができると信じています。

 「走鳥飛(とそううひ)」とは、月日の経つのが速いということを言っています。「兎」は月、「鳥」は日のたとえだといいます。古代中国では月にウサギが住んでいると信じていたために、「玉兎(ぎょくと/たまうさぎ)」の話が生まれます。では、鳥はなんででしょう?「火の鳥」に由来するのでしょうか…これは今後の課題にさせていただきます。

 兎に角、皆様一刻一刻を大切に、気を逃がさないよう耳を立てながら卯(兎)の年を過ごしましょう。まもなく、世相の冬は終わりを迎えるようです。

 本文中に出てくる用語を少しだけご紹介させていただきます。

 たびたび出てくる「説文解字」と「釈名」という名前。本というよりも辞典と言い表した方が良いかもしれません。しかし、これらが編纂されたのは、古代中国でした。「説文解字」は紀元後100年頃、六書(りくしょ)の区分に基づき、「象形」「指事(指示ではないです)」「会意」「形声」に大別され、さらに偏旁冠脚(へんぼうかんきゃく)によって分類されています。

 「象形文字」は、実物を絵として描き、その形体に沿って曲げた文字。「指事文字」とは、絵としては描きにくい物事や状態を点や線の組み合わせで表した文字をいい、「上」や「下」が分かりやすいと思います。十干の「己」は指事文字です。そして、「会意文字」は、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもの。例えば「休」は、「人」と「木」によって構成され、人が木に寄りかかって休むことから。干支の「壬」は指事文字、「寅」は会意文字です。

 「偏旁冠脚」は、漢字を構成するパーツのこと。そのパーツの主要な部分を「部首」と定め、現在日本の漢和辞典は「康熙字典」の214種類を基本にしています。しかし、偏旁冠脚では、漢数字、十干や干支もこのパーツに含まれ、その分類区分は、「一」から始まり「亥」で終わる、総数が540です。数あるパーツの中から、殿(しんがり)を担ったのが「亥」です。十二支の最後もまた「亥」です。この後、さらに時は流れ紀元後200年頃、音義説によった声訓で語源解釈を行い編纂されたものが、「釈名」です。

 万物を陰と陽にわける陰陽説と、自然と人事が「木・火・土・金・水」で成り立つとする五行説が合わさった考え方が、陰陽五行説です。兄(え)は陽で弟(と)は陰。陽と陰は、力の強弱ではなく、力の向く方向性の違いのこと。陽は外から内側へエネルギーを取り込むこと、陰は内側から外側へ発することだといいます。運の良い人とは、陽の人であり、外側から自分自身へ力を取り込んでいる人のこと。「運を呼び込め」とはよく耳にいたします。陰の人とは、運が悪いわけではなく、自分自身のみなぎるエネルギーを外に発している人のこと。一方が良くて、他方が悪いわけではなく、すべては陽と陰の組み合わせです。陰陽の太極図を思い浮かべていただきたいです。2つの魂のようなものが合わさって一つの円になる。一方が大きければ、他方は小さくなり、やはり円を形成するのです。森羅万象全てがこの道理に基づくといいます。

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2022年12月Benoit 「歳暮のご挨拶」と「新年のご案内」です。

なにとなく 年の暮るるは 惜しけれど 花のゆかりに 春を待つかな  源有仁(ありひと)

 何か特別なことがあるわけでもないけれど、歳暮(としのくれ)ばかりは、他の月とは全く違うほどに重みがあり、惜しむ思いが募るものです。12月31日と1月1日とは、月末から月初へと変わるということだけのことなのに。しかし、春には暖かな陽射しに誘われるかのように、草木の可憐な花が笑い始めます。これを待ち望むということは、きっとなにかしらのご縁があることなのでしょう。楽しみに春を待つことにしよう。

 今年もまた、新型コロナウイルス災禍に加え、ロシアのウクライナ侵攻という人災に翻弄され続けた一年であり、今なお収束の兆しがみえておりません。何が正しく、何が間違ってるのか手探りの中で、安心安全に過ごすことに加え、なすべきことをしなければならないというご辛労は並々ならぬものだったのではないでしょうか。

 「≪成功≫の反対は、≪失敗≫ではない、≪何もしないこと≫である」と、お客様より教わりました。成功はもちろん、失敗からも辛いですが多くのことを学ぶことができる。しかし、何も行動に移さなければ何もないままです。歳暮は、この一年を省みる機会を我々に与えてくれているような気がいたします。そして、花咲き誇る春には、我々を鼓舞してくれる何かがある。歳暮に省み、新年に新たな未来を想い描き、行動に移してゆくことで、樹々が萌(きざ)す季節には、きっと明るい兆しを皆様が感じることができるようになるはずです。

 新年を迎えるにあたり、皆様より賜りましたご温情を徒(あだ)や疎(おろそ)かにせず、自分の本年の至らぬ行動を省み、倦(う)まず弛(たゆ)まず努力を続け、少しでも皆様のご期待のお応えできるよう最善を尽くすことをお約束いたします。皆様におかれましては、Benoitへの変わらぬご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 皆様におかれましては、歳暮(としのくれ)までを無事息災に過ごされますことと、希望に満ち満ちた新年をお迎えできますよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

≪冬は時雨(しぐれ)から始まる…≫

 昨今では「冬は大寒波から始まる」ようで、気持ちの切り替えもままならぬうちに冬只中に入りこむようです。今では天気予報の精度が上がり、寒波の到来も予測できるようになりましたが、今年がこれほどまでの大雪をもたらすことは予想外だったのでしょう。難儀な生活を強いられている方々の、いちはやい日常の回復を、青山の地より祈念いたします。

 往古、季節の移ろいは、天気図ではなく自然の機微を読み取ることで悟っていたはず。春夏秋冬、肌に感じる気温によって判断できるものの、風流人はそれでは納得いかなかったのでしょう。季節の「はしり」を先んじて感じ取りたいと…そこで、京都の居を構える古人が着目したのが「時雨」でした。

冬は時雨から始まる

 なんと美しい言い回しでしょうか。どうやら、詠み人しらずのこの一首が発端であったようです。ということで、いつものごとく、少しだけ掘り下げてみました。

kitahira.hatenablog.com

 

2023年はBenoitから始まる…≫

 降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたらします。その風がもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福」を見出します。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。さらに、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に冬食材が「和」する逸品に出会い、Benoitで「口福な食時のひととき」をお過ごしいただきたい。この想いを込め、「新春特別プラン」をご案内させていただきます。

 迎えし2023年は1月1日から4日までお休みをいただき、心機一転15()より、万全の準備をもって皆様をお迎えいたします。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなく返信ください。

 

新春特別プラン

期間:土日を含めた2022131()まで

ランチ: 前菜x2+メインディッシュ+デザート

6,000円→5,000円(税込/サービス料別)

ディナー: 前菜x2+メインディッシュ+デザート

8,600円→7,500円(税込/サービス料別)

 

 迅速に皆様のご希望にお応えできるよう、専用の予約サイト開設いたしました。以下のURLよりご利用ください。ご希望日のご予約が取れない場合でも、まだお席が残っている可能性もございます。その時は、何気兼ねなく自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)返信、もしくBenoitへご連絡(03-6419-4181)ください。ご要望や質問なども、喜んで承ります。

ランチのご予約はこちらから

https://www.tablecheck.com/shops/benoit-tokyo/reserve?menu_items=6129a8e574892f048194df99

ディナーのご予約はこちらから

https://www.tablecheck.com/shops/benoit-tokyo/reserve?menu_items=639a92a94c35a91c73ff9575

 

20231月はBenoit特選シャンパーニュで始まる…

 Gosset(ゴッセ)は、シャンパーニュで最も古い歴史を持ち、マロラクティック発酵(乳酸発酵、以下MLFと表記)を行わないスタイルを、創業から今にいたるまで、頑なに守り続けています。これぞ「ゴッセ流のシャンパーニュ」なり!

 このMLFとは、ブドウそのものがもっているリンゴ酸を乳酸に変える発酵の事で、アルコール発酵後に行われます。これを行わないと、熟成中に勝手にMLFが起こり、破裂や噴きこぼれの原因になり、意図しない品質へとかわります。往古は意味の分からない劣化?悪魔の仕業?などとされていたものの、MLFが解明されてからは、多くのワインメーカーはこのMLFを施すようになりました。リンゴ酸が乳酸に変わることで、まろやかな風味になります。

 では、なぜGossetは頑なにMLFを実施しないのか?こればかりはご当主に聞いてみないと分からないのですが、調べてみると…リンゴ酸があることで、長期熟成に耐える芯をもったワインが醸されます。それが、熟成によって得も言われぬ美味しさを内包するということを、彼らが識っているからなのでしょう。きっと「ブドウと畑の潜在能力を最大限に引き出し、表現できるから」と語るでしょう。

 畑は、Aÿ(アイ), Bouzy(ブジー), Ambonnay(アンボネイ), Le Mesnil-sur-Oger (ル・メニル・スュル・オジェ)という、ほぼグラン・クリュ区画の村のみ。収穫後は品種・村毎に全て分けて圧搾し、村毎にステンレスタンクで発酵。18℃で約15日間のアルコール発酵。マロラクティック発酵は行わない。約200種の原酒を12月にアッサンブラージュ。瓶詰めは翌年の3月~6月。瓶内熟成は、法の定められた15か月を大きく上回る48~60か月!ドザージュ8g/L…

 爽やかな白い花や、アーモンド、さらに柑橘などをも想起させる美しい香り。シャルドネ種とピノ・ノワール種が織りなす堅牢な骨格は、MLFを行っていないからこそのもの。そう、このボトルには彼らの想いが詰まっているのです。持ちうる五感をフルに使い、どれほどのものかをご堪能いただきたいと思います。2023年は、Benoitの料理と、シャンパーニュ「Gosset Grand Réserve」とのマリアージュをお楽しみください。

Champagne Gosset Grand Réserve brut

 17,500円(Benoitワインリスト価格) ➔ 9,900(税込・サービス料別)

 

 期間は、202315()から131()まで。本数に限りがあるため、予約はお早めにご検討ください。ご予約はもちろん、何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。に自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)をお送りください。お急ぎの場合には、Benoitメール(benoit-tokyo@benoit.co.jp)より、もちろん電話(03-6419-4181)でもご予約は快く承ります。

※すでに特別価格でのご案内のため、Benoitのワイン割引はご利用いただけません。他のネットプランや割引の併用もできません。しかし、先にご案内しました「新春特別プラン」はご利用いただけます。

 

2023年のワインイベントはワインセミナーから始まる…≫

 Benoiシェフ・ソムリエの永田によるワインセミナー開催が決まりました。久しぶりの開催にふさわしく、この4年間で新しく発見した素晴らしいワインをご紹介いたします。価格高騰が続くシャンパーニュの中から注目すべきメゾンや、新発見した魅力ある地方ワイン6種類を、いつもながらの小話を交え、どれほど魅力的かを語らせていただきます。さらに、Benoitシェフの野口とともに、ワインと料理のマリアージュも画策中!こう、ご期待ください!

 

Benoitワインセミナー 「今後注目されるワインたち」

日時:2023127()18:30よりスタート

金額:15,000(消費税・サービス料込)

※質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。ご予約はこのメールへの返信、もしくはBenoit(03-6419-4181)にご連絡いただけると幸いです。

 

2023年の春は「フレンチでタンゴ」から始まる…≫

 人間の歴史を紐解いてみても、言葉という意思疎通のできるツールが無くとも、リズムを奏で、踊ることで神々と語り、感謝の気持ちを伝え、未来を占ってもらおう、もしくは導いてもらおうとしていることがわかります。力強くもリズミカルな太鼓の音に高ぶる気持ち、激しい舞を躍ることで神と一体化する儀式。神妙なる音楽に任せて、ゆったりと舞う巫女さんの姿には、尊厳の念を感じるものです。ほんの一例ですが、どちらも言葉を必要としません。

 神々への畏怖・畏敬の念から、愛情表現へと変わってゆくことは自然の流れであったはずです。そして、人々が切磋琢磨することで、至上の高みへ達した時、我々を魅了して止まない芸術となる。その一つが、「アルゼンチンタンゴ」です。そこで、「フレンチでタンゴ」と銘打って、皆様に音楽と舞の共演を、お食事も含め、五感を通してBenoitでお楽しみいただこうと思います。

Benoitミュージックディナー アルゼンチンタンゴ

日時:202337()8() 18:00より受付開始 18:30開演

料金:ダンススペース周辺のお席をS席、少し離れたA席をご用意させていただきます。

S席24,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

A席19,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料/税込)

 

ダンサー:クリスティアン&ナオ

ピアノ:サッコ香織

バンドネオン川波幸恵

ヴァイオリン:専光秀紀

※昨今の不安定な環境下のため、開催日や出演者が変更になる可能性がございます。

 

 質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。席数に限りがございます。当面の間、ご予約はメールのみとさせていただきます。北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡いただけると幸いです。

 

≪さらなる高みを!「テーブルマナー講習会」≫

 其処此処で開催しているテーブルマナー講習会であれば、自分は皆様へご案内することはありません。

 講師である吉門さんとは、すでにBenoitで68回もこの講習会を開催しているのです。リピートされている方ばかりであり、あまりにもためになり面白いため、その方がご友人を誘う。それほどに内容が深いものなのです。

 吉門憲宏さんは、元日本航空国際線のキャビンスーパーバイザー(チーフパーサー)として世界の空を飛び続けた、飛行距離は地球450周を超えるほど。120万人もの旅客様と笑顔を交わしてきているのです。在職中は、定年退職になるまで飛行機に乗り続けたつわもの。日本文化の礼節を伝える民間外交でもある接客のプロとしての人生を歩んできた、だからこそ、多くの知見があるのです。

 先生との自分との出会いは、偶然だったのか必然だったのか…現職を退いてからは、アメリカでのMBA取得のための派遣される某大手企業のスタッフが、欧米の社交界に馴染めるようにとトレーニングをする講師を担っていました。その打合せの席なのか、無事に送り出したお礼のためだったのか、大手企業の人事の方々が選んだのがBenoitの一席だったのです。そのようなことは露知らず、自分がいつものように語るは語る…後日に知ることになるのですが…いやお恥ずかしい限りです。

 この出会いが、今も続いているBenoitで開催される「テーブルマナー講習会」を導いていたのです。全ての所作には理由がある。日本人が、ついついやってしまうことを、笑いを込めながら教えてくれる。毎度のように、会場はやっちまった~と「笑い」溢れている。このようなテーブルマナー講習会があったであろうか。もちろん、料理は自分が語りに伺わせていただきます。

 先日開催された講習会の中で、目頭が熱くなるお話を伺いました。自分が見失いつつある思いを、あらためて思い起こさせてくれたのです。日本人であることを誇りに思う…この感動秘話は後日に…キーワードは…

JA8101

 

世界基準の一流を学ぶ 「テーブルマナー講座」

開催日: 202319()祝日 & 219()

時間: 11:30より講義を始めます。 

11:10までにお運びください。終了予定は15時15分を予定しております。

料金: 16,000(サービス料/税込) ※お食事とワイン2杯を含みます。

※事前振込制です。ご希望の日程がございましたら、北平宛(kitahira@benoit.co.jp)にご連絡ください。質問なども喜んで承ります。この講習会に関しては、電話でのご予約は受け付けておりません。

 

北平のBenoit不在の日

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2023年1月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

202311日から4日まではBenoitはお休みをいただきます。

10日火曜日

※13日以降の予定は、追ってfacebookinstagramにてご報告させていただきます。

 

 12月22日に「冬至」を迎えました。これからは徐々に陽脚が伸びてくるものの、古来より「畳の目ほど」と表現するほど微々たるものです。「冬至、冬なか、冬はじめ」というだけあり、本格的な寒さはこれから。木々は余計な体力を使わないよう冬籠りの準備中、まさに「山眠る」光景です。寒さ厳しい季節にはいります。

 古人は、冬に陽射しが降り注ぐ日を、恋しいからでしょう「愛日(あいじつ)」と呼んでいます。春秋左氏伝の「冬の日は愛すべし」からできた言葉のようです。冬は太陽が天高くまで昇らず、陽射しが低い角度で部屋の奥まで差し込むため、寒々しい中に暖かい「陽だまり」ができています。屋外でも、夏は木陰となっていた場所も陽だまりができているもの。

 まだまだ、今年にやり残したことがあるかと思いますが、ここはひとつ節目をつけ、「日向ぼっこ」で太陽の恩恵を十二分に享受いたしませんか。陽だまりでほっこりと温まるひとときは、何か心まで満たされる気になってしまいます。今年一年の自らを省みる時、暗闇よりも「陽だまり」のほうが、間違いなく明るい未来を見出すことができるはずです。さらに、愛日には「時を惜しむ」や「親に孝行する日々」という意味もあるようです。「陽だまり」が導く「家族の絆」が心の拠り所となり、この乱世の波を乗り切る活力となることと信じております。

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2022年12月 季節のお話「冬は時雨から始まる…」

神無月 ふりみふらずみ 定めなき 時雨(しぐれ)ぞ冬の 初めなりけり  詠み人しらず

 晴れ澄み渡った空にもかかわらず、はらはらっと肌に感じる軽やか雨を「時雨(しぐれ)」と言います。湿気のある風が山にぶつかり、雨粒を落とす。それが風に乗って晴れている地にもたらされるもので、盆地のような地理的環境が整っていないと、なかなか出会えません。そう、京都の「北山時雨」などは、ぜひとも体験したいものです。

 先にご紹介した歌は、万葉の時代詠われ、後撰集の中に綴られています。「詠み人しらず」…よく目にするこの表記ですが、実際に誰の作品か分からない場合だけに限らず、多くの歌人が同じように詠っていたり、身分が低い人であったり。とうわけで、自分などには探りようがないもの。しかし、この歌が後世に及ぼした影響は計り知れません。

 

 「神無月(かんなづき/かみなづき)」は、旧暦10月のこと。現行歴との偏差が40日ほどあることを考えると、12月初旬あたりで詠われたのではないかと思うのです。「降ったり止んだり定まらない時雨こそ、冬が訪れたことの証である。」と喝破する。なるほど、と感じ入る自分がいる中で、どうしても気になる表現が…「ふりみふらずみ」です。

 調べると、「降りみ降らずみ」と書いている。風に乗ってくる雨粒が時雨であるのあらば、ささやかに肌に感じたり、感じなかったり。「ふる」には、「降る」ばかりではなく、「古る/旧る」や「触る」という動詞があります。「触る」は、ふれるや出会うという意味を持ちます。「古り見、触りみ触らずみ」と折り返してみると…古(いにしえ)より、なかなか出会うことの無い時雨が舞う様子を、詠者は待ち望んでいたのではないかと思うのです。

 「しぐれ」と漢字変換すると、「時雨」という漢字が候補に挙がります。とはいうものの、知らないと読めない難読漢字であることに間違いありません。そう、時雨という単語に日本の賢人が特有の読みを付けた、国訓なのです。ということは、「時雨」という単語が、漢字発祥の地である古代中国に存在していたことなります。

 語源辞典「漢辞海」によれば、「時雨(じう)」であるという…ちょうど良い時に降る雨のこと。さらに、国訓「しぐれ」となると、秋の末から冬にかけて断続的に降る雨であるという。なかなか出会えないのが「時雨」であり、この自然現象は今も昔も変わりません。そこで、やっかみが加味されたのでしょうか…狭義では前述したような「青空ではらはらと降る雨」であるも、広義では晩秋から初冬にかけて断続的に降る雨のこととなる。

 

 人は、抽象的な事象を言葉で相手に伝える時、適切な表現が見つからない場合、既存のもの周知のものを拝借して言い表そうとします。例えば、ワインの表現の場合。香りを言い表すのに、「カシス」や「ラズベリー」、「枯れ葉」や「タバコ」という言葉がでてきます。前者は喜んで口にしたいものの、後者はご免こうむりたい。さらに「ビロードのような口あたり」…ビロードを食べたことも飲んだこともありません。

 古人は、目に見えない四季の移ろいを、いかに表現するかと苦心したのではないかと思うのです。明治時代になるまでは、月の満ち欠けが基準となる太陰暦であり、四季を表現できる太陽暦とは偏差が生じます。温度計や気圧計があるわけもない時代です。肌に感じることのみでは「寒い」「暑い」だけであり、ワインも「美味しい」「いまいち」ということになってしまうもの。では、どう伝えればいいのだろうか?それも端的に短い言葉で…

 そこで、四季折々の自然現象が豊かな日本だからこそ、そこに着目することで季節を表現することにした。目に見える草木の姿はもちろん、生活の中で欠かせない「衣替え」や蚊対策から草木をいぶす「蚊遣火(かやりび)」であったり、寒さ対策の「炭火」であったりと。さらに、雲の様子を含めた天候もそこに加わります。これからが、今でいう「季語」となる。

 季語は、古人がいかに季節の移ろいを言葉で伝えるか、それも美しく、その英知の結晶のようなもの。何も難しいものではなく、今でも十分に感じ取ることのできるものが多いです。しかし、現代人はあまりにも便利なカレンダーの数字に囚われてしまったがために、見失ってしまっているのでしょう。

 古人は、晩秋から初冬にかけての断続的に降る雨のことを、「八入(やしお)の雨」と名付けました。そして、この雨粒は木葉(このは)に触れることで、黄葉・紅葉へと染め上げるのだと考えていたようです。染物をする際に染料に生地を一回浸すことを「一入(ひとしお)」いいます。一回ではうっすらと色付くことになり、これを繰り返すことで色濃く染まる。多い数字を意味する「八」が加わった「八入(やしお)」とは、8回ではなく幾度となく染めの作業を繰り返すこと。一入の雨が木葉をうっすら染め上げてゆき、八入ともなると色濃くなってゆくのだと。

 この雨のことを、漢字が伝来する前から、「しぐれ」と読んでいたのではないかと思うのです。大和言葉らしい、丸みと優しが音に込められている気がします。その「しぐれ」は、樹々の葉を一雨ごとに色づかせていくと同時に、「一雨一度(ひとあめいちど)」というように、1℃また1℃と気温を下げてゆく。そして、一歩また一歩と真冬が足を忍ばせて近づいてきていることを、我々に教えてくれる。

 目には見えない季節の移ろいは、この「しぐれ」によって知ることができる。この知ることのできる好機に降るからこそ、漢字を得た古代知識人は、この雨を「時雨(じう)」であると知る。そして、古代日本の賢人はこの「時雨」という単語に、大和言葉である「しぐれ」という読みをあてたのではないか。

 時下り、京都に都が移ることで言葉の美を極めるかのように、典雅にして優雅な和歌の文化が花開きます。多くの歌人が、誰よりも先に四季の到来を感じ取ったことを誇示しようと、技巧を凝らした言葉の数々を生み出してきました。冒頭でご紹介した「北山しぐれ」のような気象用語の「しぐれ」は、雨というには心もとないものです。しかし、この「しぐれ」の後に断続的に降る「しぐれ」が来ることを、風流歌人は知っていた。季節を先取りしたいからこそ、気象用語である「しぐれ」を、本来の意味である「しぐれ」としたのではないかと思うのです。

 さあ、この歌は時雨なのか小雨なのか、詠み人しらずなだけに、確認しようもありません。しかし、この秀歌によって、名言が生まれたことは間違いないようです。

冬は時雨(しぐれ)から始まる

 

 2022年12月22日に「冬至」を迎えました。これからは徐々に陽脚が伸びてくるものの、古来より「畳の目ほど」と表現するほど微々たるものです。「冬至、冬なか、冬はじめ」というだけあり、本格的な寒さはこれから。木々は余計な体力を使わないよう冬籠りの準備中、まさに「山眠る」光景です。寒さ厳しい季節にはいります。

 古人は、冬に陽射しが降り注ぐ日を、恋しいからでしょう「愛日(あいじつ)」と呼んでいます。春秋左氏伝の「冬の日は愛すべし」からできた言葉のようです。冬は太陽が天高くまで昇らず、陽射しが低い角度で部屋の奥まで差し込むため、寒々しい中に暖かい「陽だまり」ができています。屋外でも、夏は木陰となっていた場所も陽だまりができているもの。

 まだまだ、今年にやり残したことがあるかと思いますが、ここはひとつ節目をつけ、「日向ぼっこ」で太陽の恩恵を十二分に享受いたしませんか。陽だまりでほっこりと温まるひとときは、何か心まで満たされる気になってしまいます。今年一年の自らを省みる時、暗闇よりも「陽だまり」のほうが、間違いなく明るい未来を見出すことができるはずです。さらに、愛日には「時を惜しむ」や「親に孝行する日々」という意味もあるようです。「陽だまり」が導く「家族の絆」が心の拠り所となり、この乱世の波を乗り切る活力となることと信じております。

令和5年は希望に満ち満ちた一日から始まる

 

 年の瀬を迎えました。いまだ収束の見えないコロナ災禍にあり、多くのことを考えさせられた一年であったと思います。なかでも皆様から賜ったお言葉が、どれほど励みとなったことか。Benoitは皆様のご温情のもとに成り立っていたのだと感じ入っております。誠にありがとうございます。

 そこで、全ての旬食材は無理でも、Benoitに少しだけ顔を向けてくれた食材で、「口福な食時」ひとときをお過ごしいただきたく、「新春特別プラン」と銘打って、皆様にご紹介させていただきます。さらに、2023年が素晴らしき年となるよう、特選シャンパーニュを特別価格でご案内させていただきます。

新年はBenoitから始まる…

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

  「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2022年12月 「北平がBenoitを不在にする日」のご報告です。

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない12月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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 自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

2022年11月ADT 「二人のシェフが織りなす、一夜限りのトリュフの饗宴」のご案内です。

 最初に。Benoit北平からのご案内ですが、内容は11月22日に自分が赴くアルティザン・ド・ラ・トリュフへのお誘いです。会場はBenoitではございません。

 

 都内にある雑木林ではクヌギミズナラなどが、街路樹でよく見かける「イチョウ」が、美しい黄葉を見せ始めています。そして、これらの黄葉の樹々を追いかけるかのように、カエデやツタ、サクラにニシキギ(下の画像)と紅葉の樹々が、ほのかに色付いてきた感じがいたします。

 「黄葉(こうよう)」と「紅葉(こうよう)」とは、色付きが違うだけなのかと思っていました。ところが、学術的には全くの別物の葉色の変化だったのです。樹々の葉には、クロロフィルという緑色とカロチノイドという黄色の色素が介在しています。ともに陽射しにあたることで力強さを発揮するため、「夏山蒼翠(そうすい)として滴るが如く (郭煕・臥遊録より)」と言われように、夏は深緑の美しい姿です。秋深くなり、陽射しが弱まることで、この両者が葉の中で分解されてゆくといいます。

 ところが、クロロフィルが先に消えてしまうために、今までクロロフィルの濃緑に潜んでいたカロチノイドが姿を現すのです。これが「黄葉」です。この最中に、アントシアニンを生み出す樹々があります。赤ワインで聞き覚えのある単語でしょう、赤い色素の成分です。弱弱しくなるクロロフィルとカロチノイドとは対照的に、活発なアントシアニン。これが「紅葉」です。老後の余生を楽しもうかとする「黄葉」と、なにをなにをと一念発起している「紅葉」とでもいうのでしょうか。

 

 さて、毎月のようにfacebookinstagramで、自分のBenoit不在日を公開しています。今月の不在日の中で、11月「22日(火) ※六本木のアルティザン・ド・ラ・トリュフへ出向」と、ご案内いたしました。どうやら、「いよいよ北平がBenoitを去る時がきたのでは?」と思われた方が多かったようなのです。多々、問い合わせをいただきましたが、今のところ自分の意思でBenoitを去ることはありません。では、22日は、どうしてアルティザン・ド・ラ・トリュフへ赴くのか?

 スタッフのトレーニングなどとは、自分なんぞではおこがましいことで、まして他店舗での研修でもありません。かつて、ホテル・ソフィテル東京時代から多くを教わり、さらに神楽坂で独立するという時にサービススタッフとして声をかけていただき、怒涛のオープニングを経験させていただいた、恩師ともいえるシェフ、クリストフ・ポコ氏がアルティザン・ド・ラ・トリュフでイベントをするというのです。そこで、一念発起している「紅葉」に触発されたか、特に何ができるというわけではないのですが、自分が馳せ参じることにしたのです。

 Benoitの親会社である「株式会社スティルフーズ」には、六本木にアルティザン・ド・ラ・トリュフという、その名の通りトリュフを専門に扱うレストランがあります。ここで、リヨン出身でリヨン料理を神楽坂で切り盛りしているポコシェフが、一夜限りのコラボディナーを開催します!

 

一夜限りの饗宴 ≪Collaboration TRUFFE Dinner

開催地: アルティザン・ド・ラ・トリュフ

日時: 20221122()18:30より受付開始 19:00開演

【コース料理のみ】

お一人様 19,800円 → 17,800 (税込)

【コース料理+ワインペアリング※】

お一人様 27,500円 → 24,750 (税込)

※今回、ポコシェフがお越しいただけるイベントということと、自分がアルティザン・ド・ラ・トリュフへ出向するということで、Benoitの総支配人兼シェフソムリエである永田が一肌脱いでくれました。料理に合わせて、彼がワインペアリングを監修しています。Benoitからもっていくものも含め、料理に合わせて6種のグラスワインを用意いたしました!

 

店舗情報

〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガーデンテラス1F

03-5413-3830

artisandelatruffeparis.jp

※質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。ご予約はこのメールへの返信、もしくはアルティザン・ド・ラ・トリュフ(03-5413-3830)にご連絡いただけると幸いです。お電話でのご予約の際は、「北平のメールを見ました」とお伝えください。

 

 さて、今回の料理を簡単にご紹介させていただきます。ルグドゥノム・ブション・リヨネ(以下Lugdunom)のポコシェフと、アルティザン・ド・ラ・トリュフ(以下ADT)の白川シェフが交互に料理を担当し、それぞれ五感にうったえるかのような渾身の一皿をこしらえます。

 やはり!これですよこれ、ADT白川シェフが手掛ける「ブイヤード」から始めます。なにやら聞き慣れない名前ですが、アルティザン・ド・ラ・トリュフのパリ本店のスペシャリテです。トリュフと抜群の愛称をみせるのが卵!丁寧にとろりと仕上げたスクランブルエッグにトリュフを少々…卵の甘い香りに芳(かぐわ)しいトリュフ…これを卵の殻に詰め、秋の味覚の代表ともいえ栗を添えお持ちいたします。

 2つめは、Lugdunomポコシェフのテリーヌ。彼は、修業時代にシャルキュトリー(豚肉加工屋さん、ソーセージやテリーヌなどの専門店)での苦労話を、笑いながら話してくれたことを思い出します。ソフィテル東京時代に、彼のテリーヌの美味しさに、自分が感動したのを覚えています。そして、Lugdunumをオープンしてからは、さらなる高みを目指すため営業後に夜半まで仕込みを繰り返していたのを思い出します。

 今回は「豚足とフォアグラのテリーヌ」です。リヨンには豚足に詰め物をする伝統料理があります。それをもとに、テリーヌの形に仕上げるというのです。豚足にフォアグラ、さらに豚肉のファルス(香味野菜と共にミンチにしたようもの)が、層になるように組み立ててゆく。添えるのが、Lugdunmで欠かせないレンズマメのサラダ、ここにトリュフ!

 3つめは、「ホタテとトリュフのタルティーヌ」を、ADT白川シェフがこしらえます。タルティーヌとはスライスしたバケットの盛り付ける料理のこと。ホタテには、食感の違うケシの実と胡麻をまとわせ、ハモン・デ・テルエルという美味なる生ハムとともに。もちろんトリュフを忘れてはいけません。

 トリュフのタルティーヌは、映画「大統領の料理人」にも登場する料理です。パンにトリュフを刻みいれたバターを塗り、トリュフを削り加えた、なんとも贅沢なひとしな。これをほおばりながら、ミッテラン大統領は、料理人のオルタンスに心中の苦労を吐露してゆく…世界が全く違う二人の心が通いあう…

 「料理が人と人とを出会わせ、心を紡ぐのです。」と、ADT白川シェフが教えてくれました。今回は、世界は同じでも、それぞれのこだわりを持ちながら、真摯に料理に向かい合っている2人のシェフ。だからこそ、相手へのオマージュを込めてこの料理を、今回のコラボディナーに組み込んだという。だからこそ、美食の街「リヨン」の南に位置するローヌ地方の銘酒、「コンドリュー」でソースを仕上げます。

 4つめは、説明の必要もない「トリュフのリゾット」なり。もちろん、ADT白川シェフが担います。

 5つめは、Lugdunmポコシェフ。「北海道のサケ」が登場です。リヨンは内陸の街で、もちろん海はありません。しかし、ローヌ川中流域にある街だけに、上流域から美味なる川魚が届くのです。サケではなくマスなのです。ある意味、同じような仲間なので、馴染み深い食材なのです。しっとり、しっとりと熱がはいるように低温調理、なんと50℃以下で20分!

 このサケを、トリュフを加えたふわとろのマッシュポテトの上へ。マッシュルームのサラダにイクラをパラパラ、忘れてはいけないトリュフを削ります。いやはや、なんとも贅沢な親子丼…いやいや親子プレートではないですか。

 6つめは、ADT白川シェフのスペシャリテ、「栃木県の下野牛(しもつけぎゅう)フィレ肉の藁(わら)焼き」です。藁を使うことで、めらめらと立ち昇る豪快な炎で表面を焼き上げることができるのです。さらに、肉には燻製のような香りを少しばかりもたせることができる。しかし、炭火でじんわりではなく、まさに炎でぼうぼうと焼くために熟練を要します。

 下野牛のステーキには、同県のジャンボしいたけ「さくら天恵菇(てんけいこ)」のベニエ(洋風天ぷらのよう…)を添えます。まさに同郷だからこその相性をみせるという。さらに、トリュフ香るギンナンが、まるで翡翠(ひすい)のようにお皿の上で輝いている。トリュフを削りかけることを忘れてはいけない…

 デザートは、Lugdunumのポコシェフが担います。説明を聞いたのですが、あまりにもパーツが多く、いったいどのような美味しさになるのか…自分には想像がつかない。ドーム状に焼き上げたメレンゲ、ヘーゼルナッツオイルで香りづけしつつ焼き上げたリンゴ「紅玉」、自家製のカリンのマルムラード、エスプレッソとコーヒーリキュール「カルーア」が浸ったババ生地、蕎麦の実のクリーム、さらに豆乳チョコレートクリーム…

 あ!トリュフがない。組み立てる中に、がしゅがしゅっとした食感のガナッシュが加わる。ガナッシュだけにがしゅ…?アーモンドにヘーゼルナッツ、さらにペカンナッツで作るのですが、ここにトリュフが加わりる!チョコレートとトリュフという組み合わせに甘んじない、ポコシェフらしい組み合わせの妙で、我々を魅了するのでしょう。そういえば、ソフィテル時代も美術館とのコラボで、想像もつかない美味しく面白いデザートをこしらえていた…

 

 皆様、Benoitのイベントではありません!自分がこの日だけ赴くアルティザン・ド・ラ・トリュへのお誘いです。一夜限りの美味なる料理の数々は、あらためて世界三大珍味であるトリュフに魅せられることでしょう。黒を基調にした店内とスタッフ制服の中に、突如姿を現す赤いエプロンに赤いマスク…まるでシャア専用ザクのように…Benoitでは物知り顔に大いに語っている自分が、全く知らない地で右往左往してる姿を見ることのできる貴重な機会です!彼の地でお会いしましょう!

 末筆ながら、紅葉に見とれてしまったがために、一念発起することが遅れてしまい、ご案内が直前になってしまいましたこと、深く深く反省しております。

 

 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

終息の見えないウイルス災禍です。皆様、油断は禁物です。十分な休息と睡眠、「三密」を極力避けるようにお過ごしください。「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、笑いながらお会いできることを楽しみにしております。

 皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より切にお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com