kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2021年2月Benoit ≪お勧め!フランス伝統の料理とデザート≫のご紹介です。

 パリの4区、サン・マルタンと名付けられた脇道の一角に、1912年にBenoitさんが店舗を構えました。そう、Benoitという店名は、創業者の名前です。彼はフランスの伝統料理に、さらに料理上手であったというマリー伯母さんのノウハウを加味することで仕上げられた料理の数々を世にはなってゆきます。美味しかったのでしょう、今なおその場所に健在であり、約110年という長い歴史を誇ることがその証なのではないでしょうか。

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 「Benoitほどビストロらしく、またパリらしい店はありません。味わい深い歴史と盛りだくさんの美味しさに溢れるこの店に私は特別な愛着を感じています。Benoitで感じられる心地よさと懐かしさは、いつの時代にもあり続ける食文化でありまた伝統でもあるのです。」と、アラン・デュカスも語っています。

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 同じ名を冠する東京のBenoitは、この本店に連綿と受け継がれてきた料理への想いを引き継ぎます。フランス伝統料理を踏襲しつつも、アラン・デュカスの料理哲学を追究し続けた料理の数々が、プリ・フィックスメニューに名を連ねているのです。その中に、フランスの古き良き伝統料理の代表ともいえる2つが、メニューに姿を現しました。

オニオングラタンスープ

パリ・ブレスト

 

 オニオングラタンスープほど、フランスのビストロを象徴するような料理はないのではないでしょうか。知名度は群を抜いており、家庭でも作ることができあくもありません。しかし、Benoitのオニオングラタンスープは、一味も二味も違います。その美味しさをご存知の方より幾度となくご要望をいただきながら、久しくメニューに登場していませんでした。下ごしらえに、思いのほか手間暇を要求してくる料理だからです。

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 美味しさの秘訣は、時をかけて牛すね肉から旨味を煮出すかのようにしたブイヨンにあるのでしょう。肉と香味野菜を「ことこと」というよりも「こと、こと」と煮てゆくこと2日間です。じっくりと丁寧に旨味を引き出した輝かんばかりの美しいブイヨンへと仕上げます。

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 オニオングラタンスープですから、欠かせない食材はたっぷりのタマネギです。ゆっくりと優しい熱加減は、タマネギの持つ甘みとコクを十二分に引き出すかのよう。タマネギが飴色へと変わり、甘い香りが漂うようになったときに、先ほどのブイヨンを加え、馴染ませるように1時間ほども煮込んでゆきます。この時点で、すでに美味しさを感じとれます。

 Tête de Lion(ライオンの頭)と名付けられたスープ用の器は、オニオングラタンスープ以外に使わないのではないかと思えるほど、相性を見せます。時をかけて仕上げたオニオンスープを注ぎ、オーブンへ。そののスープの上に、Benoit自慢のパン・ド・カンパーニュの厚切りに小さな短冊状に削ったグリュイエールチーズをたっぷりとのせ、熱々スープ液面に浮かべ再度オーブンへ。

 皆様の前にオニオングラタンスープが見せた時、ふつふつとしたチーズに目を奪われ、はなたれる甘い香りに魅せられるはずです。「熱く食べにくいですが、熱い時にこそオニオングラタンスープの美味しさをお楽しみいただけます。」とシェフは言う。冷めてくると、塩っ気が姿を現してくるのだと。「熱っ」と小声をこぼしながら、はふはふしながら楽しむのが、オニオングラタンスープの醍醐味なのかもしれません。「語らい」を楽しむ暇(いとま)を与えないほどのこの美味しさは、「黙食」をお勧めいたします。

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GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

 ランチでは+1,000円、ディナーは+800円でプリ・フィックスメニューの前菜としてお選びいただけます。ご用意できる数に限りがあるため、予約の際にご希望数をお伝えいただけると幸いです。今期は3月31日(水)までのご用意です。

 

 フランス料理が我々の生活に馴染まない理由の一つに、「難解な料理名」があるかと思います。伝統料理の数々は、その歴史に裏打ちされた名前となり、今もその名を遺しているのです。フランス人であれば誰しもが知っている料理であり、説明を必要としないものです。これは、海外から見た日本料理も同じこと。この難解さが料理の魅力の一つともいえなくもありません。

 とはいえ、フランス料理のデザートに関しては、無法地帯とも思えるほどの名づけがされているものです。Benoitの御三家にデザートの一つ、「ババ」は千夜一夜物語に登場する「アリババ」から。「サントノーレ」は、創作者に店舗がサントノーレ通りに面しているから。「ピーチ・メルバ」はオペラ歌手メルバさんへのオマージュから、などなど。諸説ありながら、不思議なことにデザートとしてはフランスの方々には周知されていつのです。

 今回ご紹介するデザートの「パリ・ブレスト」は、2つの地名です。一つは誰しもが知る「Paris(パリ)」、もう一つはブルターニュ半島の西端に位置している港湾都市「Brest(ブレスト)」。この2つの都市を結ぶ一大イベントが「Paris-Brest-Paris(パリ-ブレスト-パリ)」と呼ばれている、個人参加は5年ごと、団体は4年ごとに開催されている自転車レースです。往復1,200kmにも及ぶ距離を自転車で走破する過酷なもので、1891年に初開催から今も継続中です。1951年開催がプロレース最後となり、今では一般の人も参加できるイベントになっているのです。

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 この自転車レース初開催にあたり、記念すべきデザートとして考案されたのがデザート「Paris-Brest(パリ・ブレスト)」だというのです。誰が発案者なのかは諸説あるため、断言することはできません。シューの生地をドーナツ状にした理由は、自転車のタイヤに模したのだといいます。さて、信じるかどうかは皆様のご判断にお任せいたします。

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 このフランス伝統のデザートを、Benoitらしく再現いたしました。シュー生地をドーナツ状に絞り込み、ヘーゼルナッツと「あられ糖」を散りばめ焼き上げます。このあられ糖とは、その名の通り米菓子の「あられ」のような食感のある優しい甘さの砂糖のこと。粗熱を取るように休ませて、横から半分に切り分けます。

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 切り分け下半分に、ヘーゼルナッツのプラリネを加えて仕上げたムースリーヌを丁寧に絞り込んでゆきます。いとも簡単にこの絞り込みをこなしてゆくのですが、なかなかな技を要求してくる作業であることは、素人目で見ても明らか。再度ヘーゼルナッツを散りばめ、生地の上半分をのせると、Benoitのパリ・ブレストの全貌が明らかになります。

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 これだけでも美味しいと思うのですが、Benoitパティシエールは美味しさへ追及の手を緩めません。何かが足りない…そこで、白羽の矢が立ったのが、今期モンブランで登場した「笠置ゆず」だったのです。このたっぷりのヘーゼルナッツのムースリーヌの下に、ひっそりとユズのマルムラードを絞り込んでいるのです。このユズがどれほどの特選食材であるかは、以前ブログに綴ったご案内を参照ください。

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 シュー生地だからこそのの心地よい食感。たっぷりとヘーゼルナッツを使うことで、芳しい香りとナッツの美味しさをたっぷり内包したムースリーヌ。このヘーゼルナッツの独特のほろ苦さが、ユズの心地よい柑橘のほろ苦さと相まった時、なぜレモンではなく、ユズを使ったのかの答えが導き出されます。フランス伝統のデザートが、新たなマリアージュの下でBenoitに「登場です。

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PARIS-BREST

パリ・ブレスト

 ランチでもディナーでも、プリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。ご用意できる数に限りがあるため、予約の際にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、自分よりご案内している長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いるため、「美しい(令)」季節に春食材が「和」する料理をお楽しみいただくことで、無事息災に日々を過ごしていただきたく、「余寒特別プラン」をご案内させていただきます。そして、岐阜県飛騨高山地方のカボチャ名人と称される若林さんより「飛騨の花もち」をいただきました。この花もちに託された若林さんの想いとは?併せてご紹介させていただきます。

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 かつて暖房器具が乏しい頃にあり、暖を取る方法は薪(たきぎ)を燃やすことでした。しかし、屋内では火災の危険が付きまといます。昔の日本は住居が密集しているため、一歩間違うと町自体が焼け野原となり消滅してしまう可能性すらありました。そこで、先人たちは、「炭」という画期的な逸材を発明したのです。

 今回の季節の話は、「埋み火(うずみび)」について書いてみました。便利に快適になった今の生活によって、失ったものがそこにはある、そのような気がいたします。お時間のある時に以下よりブログをご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

今年の辛丑が始まりました。その「辛」の字の如く優しい年ではないかもしれません。しかし、時は我々に新地(さらち)を用意してくれている気がいたします。思い思いの種を植えることで、そう遠くない日に、希望の芽が姿をみせることになるでしょう。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご多幸とご健康を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com