kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

2022年2月3月 Benoitお勧めデザート「瀬戸内レモンのタルト」のご紹介です!

 広島県大崎上島(おおさきかみじま)の風土は、瀬戸内海ならではの温暖な気候に加え、北の中国山地、南の四国山地が強風を妨げています。さらに、島ならではの穏やかな浜風や海面の照り返し。この風土で健やかに育まれた農産物は、間違いなく美味しいでしょう。特に柑橘は、島の中央に聳(そび)える神峰山(かんのみねやま)の周囲を柑橘畑が占めていることからも分かるように、大崎上島の特産になっています。なかでも、この柑橘は、他の地域の追随を許さないようです。

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「瀬戸内レモン」

 すでにブランド化してるため、皆様ご存知かと思います。太陽をさんさんと浴びて育った瀬戸内レモンは、まろやかな酸味の中にほのかに甘ささえ感じる果肉と、心地良いほろ苦さのある果皮、このバランスが素晴らしい。特に露地栽培のものは果皮が薄く風味豊か。大崎上島の岩﨑農園さんが手塩に掛けた逸品がBenoitに届いています。

 レモンは誰もが知っている柑橘でありながら、カクテルや料理で主役をはることがほとんどないため、思いのほか収穫される時期があいまいなもの。確かに、用途万能なため、ハウス栽培や海外産を含め、一年中八百屋さんやスーパーでお目にかかれてしまうため、いたしかたないとは思いますが…国産のレモンの収穫期間は、他の柑橘と同じように、晩秋から初春まで、そう今なのです。

 

 今回は、岩﨑さんレモンが主役のデザート、「瀬戸内レモンのタルト」のご紹介です。

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 一昨年に、Benoitのメニューに夏に「レモンタルト」として姿をみせました。美しいレモンイエローに爽やかな香りに酸味のある果汁は、確かに夏のイメージがつきものです。これだけ旬と国産食材にこだわっていながら…海外産のレモンを使って…と思いながら試食した時、悔しいほどに美味しかった…そして我思う、これは旬の瀬戸内レモンで作ったら、さぞや美味しいだろうに…と。

 この思いは、Benoitシェフ・パティシエールの田中も同じでした。自分が岩﨑さんのレモンに出会ったころからすでに、彼女はその品質の高さを知っている。昨秋のこと、田中と12月からのデザートの構想を練るとき、お互いにいの一番に口から漏れでたのが「瀬戸内レモン」だったのです。こうなると話は早いもの。露地栽培レモンの収穫開始時期を聞くために、岩﨑さんに連絡を入れる…即決でした。そして、満を持して昨年12月からBenoitプリ・フィックスメニューのデザートに、その名を連ねたのです。

 すでにリピートされているお客様がいらっしゃるほどの美味しさを誇りながら、「瀬戸内レモンのタルト」とはなんとも簡素な名称ではないかと思う。デザートの名前なので致し方ないとは思うのですが、この表記ではお伝えしきれないBenoitパティシエールチームの技が組み込まれているのです。そう、美味しいには理由がある!

 

 アーモンドを加え、ほのかにバニラが香るBenoitのタルトは、思いのほか繊細で軽やかなもの。やわらかくサクッと崩れんばかりに焼き上げます。ここへ瀬戸内レモンのマルムラードを加えていく。果物の果肉で作るのがコンフィチュール(ジャム)であれば、マルムラードとは柑橘の果実と果皮を使ったコンフィチュール。ワックスを塗っていない瀬戸内レモンだからこそ、ワックスを除く必要がない。さらに、この一手間が無い分、レモンそのものの香りを逃さない。

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 瀬戸内レモンの果皮と果肉をたっぷり使い、甘さを極力控えて仕上げたBenoitのマルムラード。口へ運んだ時のまろやかな酸味とレモン特有甘さの後に、果皮を咀嚼(そしゃく)するほどに心地よいほろ苦さが口中に広がる。お客様からは、このレモンのマルムラードを譲ってほしいとの声を多数いただきます。それほどに美味しい!

 ここに、Benoitが露地栽培にこだわる理由があります。ハウス栽培では、早い時期にレモンを手に入れることができ、美しい姿のレモンが収穫できます。しかし、果皮とその内側の白皮に厚みがあり、果皮の苦みが強くでる。露地栽培では、暴風雨に晒されるため、確かに傷がつきやすいもの。しかし、この自然の試練と降り注ぐ直射日光が、程よい厚みとなる果皮のまろやかなほろ苦さ、心地良い酸味の果肉を育むのでしょう。

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 タルトにレモンのマルムラード…さらにその上に、アーモンドとヘーゼルナッツを加えたフイヤンティーニュ(クレープのような生地を焼き砕いたもの)をのせます。色が焦げているかのようですが、これは日本橋に工房のあるアラン・デュカスの75%カカオ含有のチョコレートをたっぷりと加わっているからです。さらに、カカオニブ(カカオ豆の胚乳部分を砕いたもの)を加えることで、サクサクにガリッとした食感とカカオらしいほろ苦さが加味されるのです。

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 さあ、目にも美しいレモンクリームをのせてゆきます。もちろん、ここにも瀬戸内レモンを搾ったジュースと、果皮を削り入れたもの。低温とはいえ3時間ほど熱を加えて仕上げたマルムラードとは違い、フレッシュのレモンがもつ美味しさと香りが、ここに生かされている。

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 岩﨑さんが手塩にかけて育て上げた瀬戸内レモン。この思いに応えるため、Benoitパティシエールチームに「妥協」という文字はない。レモンのタルトを形作るパーツの一つ一つを、丁寧に手際よく仕上げ組み立ててゆく。簡単そうに見える工程でも、温度であり、加えるタイミングであり、混ぜ加減など、多くの職人技を要求してくるのです。

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 最後に、軽やかなメレンゲを絞り込みバーナーで表面に焼き色を付ける。このメレンゲは、表面が軽やかなパリっとした食感、優しい甘さがふわっと消えてゆきような美味しさを、レモンタルトに与えてきます。この工程をもって、やっと完成を迎えるのです。皆様のテーブルには、レモンジュースを搾った中にショウガを加えたグラニテ(大粒のかき氷のようなもの)とともに、この瀬戸内レモンのタルトをお持ちいたします。

 

 アラン・デュカスの料理哲学は、「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること。」です。さらに、さらに、彼はデザートに「食感・甘さ・温度の違い」を求めてくる。岩﨑さんの瀬戸内レモンがなければ、今回ご紹介したレモンタルトはありません。そして、Benoitパティシエールチームの職人技がなければ、やはりこのレモンタルトの美味しさはありません。

 外見とは裏腹に、層をなすかのように組み立てることで、食感と甘さ/ほろ苦さの違いを生み出す。爽やかなレモンの香りが我々を瀬戸内海に浮かぶ島々に誘(いざな)うかのよう。一口お召し上がりいただければ…瀬戸内の心地良い浜風が吹き抜け、遠く潮騒(しおさい)が聞こえる…かもしれない…

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Tarte au citron

広島県岩崎さんの瀬戸内レモンのタルト

 ランチ/ディナーのプリ・フィックスメニュー、デザートの選択肢として追加料金500円でお選びいただけます。一営業でご用意できる数に限りがあるため、ご予約時にご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 

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 岩﨑さんが手がける露地栽培レモンは、昨年11月後半から収穫が始まりました。旬お走りのレモンは緑色の果皮のグリーンレモン。完熟に向かうにつれてイエローレモンへと姿を変えてゆきます。グリーンレモンは、はつらつとした香りと酸味がある。それがイエローレモンとなると、爽やかな香りとまろやかな酸味へ。

 季節は巡り、そして去ってゆきます。旬の食材もまた同じであり、我々を「待ってくれる」という優しさはありません。Benoitのように、一栽培者の方より食材を購入していると、時が経(た)つことで美味しさもまた変ってゆくことを知ることができます。すでにお楽しみいただいた方も、今のレモンタルトをお試しいただきたいです。

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 今回の特選食材である「瀬戸内レモン」。Benoitとの出会いも含め、皆様に岩﨑農園さんをご紹介させていただきます。

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 立春とは名ばかりで、まだまだ寒い日は続くことでしょう。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

 

2022年2月3月 Benoitお勧めデザート「ヘーゼルナッツのスフレ」のご紹介です!

 オーブンの扉を開けると、むわっとした熱さに目をそばめるも、優しい甘さに満ちた香りの誘惑がために顔をそむけることもままならない。オーブンの中には、焼き上がったばかりスフレがある…ほわほわのスフレを、スプーンで口へ運ぶ…熱々であることは分かってはいるけれども、徐々にしぼんでくるため待つことはできない。はふはふとしながら口福なひとときを噛みしめる…噛む必要もないほどほわほわだけれども…

 スフレは、普通に美しく焼き上げるだけでも職人技を要求してきます。しかし、単調な食感と味わいは飽きがきやすいのも確か。そこで、シェフ・パティシエールの田中が、Benoitのスフレに手を加えるのです。メニューに記載がある「ヘーゼルナッツのスフレ」です、と一言で終わるようなデザートではありませんでした。

 

 耐熱のココットの内側にバターを塗り、砂糖をまんべんなくまぶします。ここで手を抜くと、焼き上がりが美しく盛り上がらないのだという。ヘーゼルナッツをたっぷりと加えたスフレ生地を少し絞り入れ、そこへビスキュイ・ジョコンドというものを沈めます。

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 このビスキュイ・ジョコンドという聞き慣れない食材は、たっぷりのアーモンドを加えて焼き上げた硬めのスポンジ生地のようなもの。もちろん、今回はアーモンドの代わりにヘーゼルナッツです。このジョコンドだけ食べても美味しい…これをスフレ生地の中に沈めることで、土台となるような食感と香ばしさがスフレに加味される。

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 少しばかりスフレ生地を足した後に、グレープフルーツのマルムラードを加えます。国産を愛してやまない自分だけに、ここのグレープフルーツで海外の助けを借りることに抵抗がありました。しかし、国産の柑橘は、あまりにも美味しすぎた…これがために今回は使えないのだと田中は教えてくれた。そう、グレープフルーツの果肉と果皮の「苦み」こそが、まったりとしがちなヘーゼルナッツの美味しさを引き立てる!

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 最後に、こんもりとスフレ生地をのせて、下ごしらえが終わります。冷蔵庫で休憩をとりながらスフレは皆様からのご要望が入るのを待つ…待望のお声がけから10分間、オーブンの中で荒行を遂げ、見事なまでに成長した美しい姿で皆様のお手元へ赴きます。スフレの表面はパリッとしながら、中はほわほわ…グレープフルーツのマルムラードのあたりはとろり…と。

 お供をするのは、これまたヘーゼルナッツをたっぷりと加えて仕上げたアイスクリーム。スフレと交互でも、スフレの中の落とし込んでも美味しいです。しかし、中に加えた場合は、ゆっくりと会話を楽しみながらお召し上がりいただくわけにはまいりません。なぜか?アイスクリームがみるみる溶けてゆく…

 

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Souffl é à la noisette

ヘーゼルナッツのスフレ

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニューのデザートとしてお選びいただけます。スフレ生地をたてねばならないため、一営業内での準備数に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にお伝えください。

 

 立春とは名ばかりで、まだまだ寒い日は続くことでしょう。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2022年2月 季節のお話「雪間の草に春を見る」

花をのみ 待つらん人に 山里の 雪間の草の 春をみせばや  藤原家隆(いえたか)

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 藤原家隆のいう花とは、桜のことなのか梅のことなのか。彼は、まだ雪積もっている中で地面が顔をのぞかせる場所に目をやった。そこには、雪解けを待ち望んでいるかのように地から草が健気な姿をみせていたのでしょう。花が咲くことだけを待っているであろう人に、山里の雪間から姿を見せる草の春をみせることができたらな~と詠っている。

 桜は日本固有種であり、暦が周知されていない時代にあり花咲く頃が「田起こし」の目安となっていたという。お馴染みのソメイヨシノが江戸時代に育種された品種であることを考えると、「ヤマザクラ」の類だったのでしょう。万葉の時代になり、唐風文化と共に渡来した「白梅」は、漢文が宮中を席巻したように、花といえば「白梅」を指し示すようになりました。そして、時が下り平安時代「桜」が花の地位に返り咲いたのです。花だけに…山里には雪が残る時期だけに、この花は梅であるような気もします。まあ、梅でも桜でも、家隆にとってはどちらでもよく、彼が歌に込めた思いは別にあると思う。

 家隆は、花鳥風月のもつ「美」とは違うのだ!という思いを、「花をのみ待つらん人に」の「のみ」と「らん」に込めた気がします。「らん」とは平安時代の中期ごろに使われていた表現で、現在推量の「らむ」と同義だと古語辞典は教えてくれる。「(今頃は)~ているであろう」という意味になるのですが、ここに含みがあるのがこの言葉でした。視界外現在推量といい、目に見えていない現在の事柄について推量しているということ。

 梅も桜も美しい花を咲かせ、我々に愛(め)でる楽しさを与えてくれることは、間違いありません。寒々とした冬の期間を過ごしたからこそ、待ち望む春の兆しが梅であれば、春の到来を確信するのが桜なのでしょう。誰しもが春の花開くのを待ち望むのは、今も昔も変わりません。しかし、時代の潮流に流されている人々は梅や桜に執着することとなり、いまだ見えないこれらの花だけを待っている。花鳥風月を愛でる風流人は、其処彼処(そこかしこ)に見る春の兆しを見過ごしてはいけない。そう家隆は教えてくれている気がします。

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 「観梅の心 観桜の目」とは、自分が座右の銘としているものです。どこでいつ目にしたのか定かではないのですが、何か気になって調べたものの、いまだ明快な解説に出会っていません。「おまえはそれを座右の銘にしているのか?」とお叱りを受けそうなものです…四季折々のメッセージを皆様に送り続けるために、四季の移ろいを古人に教わるようになったからなのかもしれませんが、心に深く印象づいた文章でした。いったい何を言いたいのだろうか?

 そこで、考えてみました。梅の花は、まるで春という季節に問いかけるように一輪一輪と順に花開きます。桜の花は、春の到来を待ってましたといわんばかりに、いっきに満開を迎えます。この両花の特徴から思うに、「観梅の心」とは、花一輪の美しさを愛でるかのような心、そう細やかな心配りを持ちなさい。「観桜の目」とは、満開となる桜の堂々たる美しさを望む目、小さなことにとらわれない大局を見据えることのできる目を鍛えなさい。そして、花開く機を逸するな…

 勝手気ままな解釈ですが、そう大きな間違いはないような気もします。「観梅の心 観桜の目」とは、自分のようなサービスマンばかりではなく、人生を豊かにし人間社会で生きてい行くために欠かせない素質であると思うのです。さあ、皆様はどうおもわれますか?座右の銘にお悩みの方、ぜひ採用のほどなにとぞよろしくお願いいたします。

 

 立春とは名ばかりで、まだまだ寒い日は続くことでしょう。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

 

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2022年2月 Benoit 「新春特別プラン」「去りゆく食材と迎えし食材」のご案内です。

すぎぬるか 年の通ひ路 いかならむ (ひま)ゆく駒は あとだにもなし  守覚法親王(しゅかくほっしんのう)

 守覚法親王は、父を後白河天皇にもつ、平安時代後期から鎌倉時代にかけて活躍した皇族です。この歌意は、過ぎてしまったな~一年という時が通う路はどのようなものであろうか。「隙ゆく駒」は形跡を残さない…なんとなく分かるようで分からない歌なのですが、なかなかに奥深いものでした。

お時間のある時に、以下よりブログをご訪問いただけると幸いです。「隙ゆく駒」とは?気になりませんか…

kitahira.hatenablog.com

 

 時(とき)が「隙(ひま)ゆく駒」の如く駆け抜けてゆくように、春夏秋冬もまた迎えては去ってゆきます。そして、各季節に美味しさ極まる旬の食材も、我々を待ってくれるという優しは持っておらず、何食わぬ顔で過ぎ去ってゆく。

 Benoitでは、旧年12月から始まった冬食材が、とうとう1月末をもって終わりを迎えます。そして、2月4日に立春を迎えることもあり、春の食材がメニューに姿を現します。寒さ厳しい最中ではありますが、皆様がBenoitへお運びいただけることを、隙間をめいっぱい広げてお待ちしております。

 

初春特別プランのご案内です。

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 草木の花々は移りゆく季節の機微を捉え、順を追って咲き誇るもいずれは散りゆきます。食材も同じように「旬」という期間は限られたものであり、「待つ」という優しさはありません。そこで、全ての旬食材は無理でも、Benoitに少しだけ顔を向けてくれた食材で、「口福な食時」のひとときをお過ごしいただきたく、「初春特別プラン」と銘打って、皆様にご紹介させていただきます。

 

  初春特別プラン

期間:土日を含めた2022228()まで

ランチ: 前菜x2+メインディッシュ+デザート

6,000円→5,000円(税込/サービス料別)

ディナー: 前菜x2+メインディッシュ+デザート

8,600円→6,800円(税込/サービス料別)

 ご予約はもちろん、何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなく自分へメール(kitahira@benoit.co.jp)をお送りください。お急ぎの場合には、Benoitメール(benoit-tokyo@benoit.co.jp)より、もちろん電話(03-6419-4181)でもご予約は快く承ります。

 

 コロナウイルス禍によって、我々の日常が停滞したとしても、季節は巡り去ってゆきます。各季節には、旬を迎える食材があり、我々を待ってくれるという「優しさ」は持ち合わせていません。旬の食材でこしらえた料理の数々は美味しいばかりではなく、いま我々が欲している栄養をも持ち合わせており、「見過ごす」という選択は、あまりにももったいないものです。

 そこで、「去りゆく(131日までの)晩冬お勧め料理/デザート」と「迎えし初春(21日から)の特選食材/料理」と銘打ってご紹介させていただきます。

 

去りゆく(131日までの)晩冬お勧め料理/デザート

 もっと早くにご案内をしなければいけなかった…そう反省しながら、今更ではありますが1月末までの自慢の料理をブログにてご案内させていただきます。

kitahira.hatenablog.com

 

迎えし初春(21日から)の特選食材/料理

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 どうですか!この見事な食べっぷり。上野動物園にお住いのスマトラトラです。美しい毛並みに魅かれるのですが、お肉を嗜んでいる姿を間近で見ると、筋肉隆々とした体つきに恐怖すら覚えてしまいます。確かに大きな猫だといえなくもないですが、獲物を押さえる前足の先から肩までのなんとたくましいことか…肉を食らい、骨のまわりの肉を舐め削ぐ。最後は、ガリガリ、ボリボリと骨を喰らう。本能が食材を無駄にしてはいけないと訴えているのかもしれない。

 寅年だからこそ、肉食なり! …ネコ科なので、魚食もいいよ!

 

≪待望のオニオングラタンスープが登場です!

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 牛のすね肉から、じっくりと2日間かけて旨味を煮出すこのブイヨンこそが、Benoitのオニオングラタンスープの美味しさの決め手です。たっぷりのタマネギを飴色になるまで火にかけ、このブイヨンを注ぎ入れる…ほどよく煮込み、味を馴染ませるように冷やし休ませる。

 オーダーをいただいた後、スープを温め耐熱のスープボールへ注ぎ入れ、パンを浮かべ、グリュイエールチーズをパラパラと。そして、オーブンへ。チーズがとろけ、ふつふつとしたところで、皆様の元へと運ばれてゆきます。素材に何か奇をてらうわけではない、素材そのもの美味しさを十二分に引き出した、まさに時(とき)をなせる美味しさの極みとでもいうのでしょうか。

 このオニオングラタンスープが2月3月の限定でメニューに名を連ねます。下ごしらえに時間を要するため、大量に準備することができません。ご予約の際に、ご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 ライオンの顔があしらわれたスープボール…今年はトラに見えなくもない…

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GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜の選択肢としてランチ+1,000円ディナー+800円でお選びいただけます。

 

≪仔鳩がフランスから飛んできます!≫

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 この画像は日本のキジバトであくまでもイメージ画像です。今回の特選食材は、フランス南西部に位置してるLandes(ランド)県から、空港へ運ばれ、飛行機に乗って飛んでくる仔鳩です。とうとう、Benoitに仔鳩料理が姿を見せるのです。シェフの野口は、あえて「Pigeon(ハト)」ではなく「Pigenneau(仔バト)」を選びました。身質が柔らかい上に、優しい旨味に満ちているのです。

 丁寧に下ごしらえをし、胸肉ともも肉とを低温でゆっくりゆっくりと焼き上げます。このままでも十分に美味しさを堪能できます。しかし、フランスで伝統ある食材だからこそ、シェフはサルミソースというものを仕込みます。ハトを捌いたガラの部位から、じっくりと旨味を引き出すようにジュと呼ばれるソースをとります。そこへ、ハトのレバーを加えることで得も言われ美味しさが加わるのです。

 さあ、この機会にBenoitで仔鳩料理を!

PIGEONNEAU en cocotte, polenta crémeuse, sauce salmis

フランス産鳩のロースト クリーミーなポレンタ サルミソース

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜の選択肢としてランチ+1,500円ディナー+1,200円でお選びいただけます。飛んでくる(飛行機で…)量に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にお伝えいただけると幸いです。

 

Benoitの初春を飾る、旬の特選食材は?

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 「風」は季節を導き、彩りばかりではなく、喜怒哀楽をも表現しているかのような美しい「風景」を我々に見せてくれます。そして、四季折々の「風」は国内各地方にその地ならではの「風土」を作り出すことになる。その多様な「風土」で育まれた食材は、同じ野菜であっても味わいに些細な違いがあり、それが「風味」となる。太陽の恩恵を十二分に受け、風味豊かに育ったものこそ、旬の食材です。

 自分の常套句でもある「旬の食材には、今我々が欲している栄養が満ち満ちている」ことに大いに納得です。一年中食したほうが良いとは思うのですが、季節が過ぎ去ってゆくように、旬も去りゆきます。さあ、グリーンピースとグリーンアスパラガスという春を代表する食材を、Benoitで「美味しく」「楽しく」摂りませんか?心身共に満たされることで、皆様が持ちうる免疫力を堅持することを約束してくれることでしょう。

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 2月と3月に、Benoitのメニューに彩りを与えるかのように届く旬の食材の数々。メールでは書ききれないため、ブログでご案内させていただきます。お時間のある時に、以下よりご訪問いただけると幸いです。

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Benoitで共に働いてくれる仲間を探しています。

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 Benoitは、ウイルス対策を継続しつつですが、賑やかなビストロらしい活気を取り戻すべく、スタッフの増員をすることにいたしました。皆様のお知り合いの中で、飲食の仕事にご興味のある方がいらっしゃったら、ご紹介いただけないでしょうか。ごの場でお願いすることではないことは重々承知しております。ご理解いただきますこと、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

北平のBenoit不在の日

 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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 過ごしやすい日々ではありますが、まだ「寒中」です。厳しい寒さはまだまだ続くことでしょう。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、コロナウイルスばかりではなく、風邪やインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら快適にお過ごしください。

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 最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2022年2月 Benoit「迎えし初春(2月1日から)のお特選食材/料理」のご案内です。

 コロナウイルス禍によって、我々の日常が停滞したとしても、季節は巡り去ってゆきます。各季節には、旬を迎える食材があり、我々を待ってくれるという「優しさ」は持ち合わせていません。旬の食材でこしらえた料理の数々は美味しいばかりではなく、いま我々が欲している栄養をも持ち合わせており、見過ごすという選択は、あまりにももったいないものです。

 そこで、「迎えし初春(21日から)の特選食材/料理」をご紹介させていただきます。

 

迎えし初春(21日から)の特選食材/

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 どうですか!この見事な食べっぷり。上野動物園にお住いのスマトラトラです。美しい毛並みに魅かれるのですが、お肉を嗜んでいる姿を間近で見ると、筋肉隆々とした体つきに恐怖すら覚えてしまいます。確かに大きな猫だといえなくもないですが、獲物を押さえる前足の先から肩までのなんとたくましいことか…肉を食らい、骨のまわりの肉を舐め削ぐ。最後は、ガリガリ、ボリボリと骨を喰らう。本能が食材を無駄にしてはいけないと訴えているのかもしれない。

 寅年だからこそ、肉食なり! …ネコ科なので、魚食もいいよ!

 

≪待望のオニオングラタンスープが登場です!

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 牛のすね肉から、じっくりと2日間かけて旨味を煮出すこのブイヨンこそが、Benoitのオニオングラタンスープの美味しさの決め手です。たっぷりのタマネギを飴色になるまで火にかけ、このブイヨンを注ぎ入れる…ほどよく煮込み、味を馴染ませるように冷やし休ませる。

 オーダーをいただいた後、スープを温め耐熱のスープボールへ注ぎ入れ、パンを浮かべ、グリュイエールチーズをパラパラと。そして、オーブンへ。チーズがとろけ、ふつふつとしたところで、皆様の元へと運ばれてゆきます。素材に何か奇をてらうわけではない、素材そのもの美味しさを十二分に引き出した、まさに時(とき)をなせる美味しさの極みとでもいうのでしょうか。

 このオニオングラタンスープが2月3月の限定でメニューに名を連ねます。下ごしらえに時間を要するため、大量に準備することができません。ご予約の際に、ご希望数をお伝えいただけると幸いです。

 ライオンの顔があしらわれたスープボール…今年はトラに見えなくもない…

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GRATINÉE À L'OIGNON

オニオングラタンスープ

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜の選択肢としてランチ+1,000円ディナー+800円でお選びいただけます。

 

≪仔鳩がフランスから飛んできます!≫

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 この画像は日本のキジバトであくまでもイメージ画像です。今回の特選食材は、フランス南西部に位置してるLandes(ランド)県から、空港へ運ばれ、飛行機に乗って飛んでくる仔鳩です。とうとう、Benoitに仔鳩料理が姿を見せるのです。シェフの野口は、あえて「Pigeon(ハト)」ではなく「Pigenneau(仔バト)」を選びました。身質が柔らかい上に、優しい旨味に満ちているのです。

 丁寧に下ごしらえをし、胸肉ともも肉とを低温でゆっくりゆっくりと焼き上げます。このままでも十分に美味しさを堪能できます。しかし、フランスで伝統ある食材だからこそ、シェフはサルミソースというものを仕込みます。ハトを捌いたガラの部位から、じっくりと旨味を引き出すようにジュと呼ばれるソースをとります。そこへ、ハトのレバーを加えることで得も言われ美味しさが加わるのです。

 さあ、この機会にBenoitで仔鳩料理を!

PIGEONNEAU en cocotte, polenta crémeuse, sauce salmis

フランス産鳩のロースト クリーミーなポレンタ サルミソース

 ランチとディナーのプリ・フィックスメニュー、前菜の選択肢としてランチ+1,500円ディナー+1,200円でお選びいただけます。飛んでくる(飛行機で…)量に限りがございます。ご希望の際は、ご予約時にお伝えいただけると幸いです。

 

Benoitの初春を飾る、旬の野菜は?

 「風」は季節を導き、彩りばかりではなく、喜怒哀楽をも表現しているかのような美しい「風景」を我々に見せてくれます。そして、四季折々の「風」は国内各地方にその地ならではの「風土」を作り出すことになる。その多様な「風土」で育まれた食材は、同じ野菜であっても味わいに些細な違いがあり、それが「風味」となる。太陽の恩恵を十二分に受け、風味豊かに育ったものこそ、旬の食材です。

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 日本でもお馴染みの春食材、「グリーンピース」。ところが、缶詰の普及がこの食材への偏見を導き、好き嫌いの多い食材になってしまったことは否めません。しかし、鮮度の良いグリーンピースの美味しさは格別で、春にしか楽しむことができない旬の味わいです。国産の食材を愛する自分ですが…地中海性気候の中で、太陽をさんさんと浴びて育ったイタリア産に席を譲るしかありません。

 鮮度を犠牲にしてまでもイタリア産にこだわるのは、その豆特有の香りがなく、やわらかい甘み。生の鞘(さや)を口にすると、鞘の筋が口中に残るものの、春らしい甘さを堪能しながらポリポリと食べることができるのです。鞘がそれほどまでに美味しいということは、中の粒粒はいかほどのものか。グリーンピースは、鞘から粒をとってしまうと劣化が激しくなるため、鞘の中に納まっている姿でイタリアから届きます。船便では間に合わないため、もちろん飛行機で。

 地中海沿岸の風土が育んだ、イタリア産グリーンピースの風味は格別です。今までグリーンピースが苦手な方の、ほぼすべての人の「嫌い」を「お!美味しい」と変えてきた逸品。いよいよBenoitに登場です。

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 鮮度を犠牲にしてはいけない旬食材が、これグリーンアスパラガスです。この野菜は、植栽してから地下に根を張り巡らせるように育てあげ、その根に栄養を蓄えたものが春の陽射しに誘われるかのように地面からにょきにょき伸びてくる新芽をいただきます。十分な美味しさと大きさに至るまで、ゆうに3年はかかるというのです。日々の土壌管理を怠ると努力が水泡と帰するため、栽培するには相応の心構えが必須です。露地栽培が少なく、ハウス栽培が主流な理由は、この徹底した土壌管理をしなければいけないためです。

 グリーンアスパラガスは、平均気温が15℃を超えないと姿を見せません。そこで、ハウス栽培では、どのタイミングで加温するのかで収穫時期が変わります。ヒーターで加温することで、北の地方でも早い時期に収穫は可能です。しかし、コストのことを考えると、太陽の陽射しを利用し効率よくハウス内を温めた方が、無理な販売価格にする必要もなくなります。そうなると、北海道が栽培地として有名ですが、初春はやはり西日本からということになるのです。

 地の利を生かし、初春に名が挙がる地が佐賀県です。Benoitもこの地から始め、香川県へと産地を映していこうと考えています。香川県?あまり農産物では馴染みのない県名ですが、讃岐平野が広がる古からの農産地。美味しい野菜を育むも、都道府県の中で一番面積が小さいため、農産物の県別ランキングでは上位に位置することは稀です。この地では、独自品種であるグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が栽培されているのです。

 毎年のように話題となる「桜前線」。自分はそれよりも「アスパラガス前線(自分の勝手な命名です)」に一喜一憂してしまいます。さあ。今年はどれほどの速さで南から北上してくるでしょうか。随時、この「アスパラガス前線」をご案内させていただきます。

 

 翡翠(ひすい)のようなグリーンピースの粒は、完熟すると「えんどう豆」です。未熟だから栄養が貧弱かと思いきや、このグリーンピースの栄養価はまさにエリート級です。豊富なビタミンB群は糖質や脂質の代謝を盛んにし抵抗力を、さらにビタミンCとの相乗効果で感染症から守ってくれます。特筆すべきはカリウムと食物繊維の豊富さです。便秘解消、生活習慣病の予防にも最適。まさに春の美容と健康のためにあるような食材です。

 対するグリーンアスパラガスは、抗酸化作用が高く、老化防止、ガン抑制、美容に効果を発揮します。特筆すべきは、野菜の名を冠するアスパラギン酸が豊富に含まれることでしょう。この成分は、体内でのエネルギー生成を促進し、疲労を回復させ、毒性を持つアンモニアを体外へ排出する働きがあります。また、カリウムマグネシウムなどのミネラルを細胞に運び込むというのです。スタミナドリンクの成分に名が挙がることも、このような理由から。確かに、ぐんぐんと伸ばす新芽の成長を思うと、アスパラギン酸がただものではないことがわかります。

 自分の常套句でもある「旬の食材には、今我々が欲している栄養が満ち満ちている」ことに大いに納得です。一年中食したほうが良いとは思うのですが、季節が過ぎ去ってゆくように、旬も去りゆきます。さあ、グリーンピースとグリーンアスパラガスという春を代表する食材を、Benoitで「美味しく」「楽しく」摂りませんか?心身共に満たされることで、皆様が持ちうる免疫力を堅持することを約束してくれることでしょう。

 

≪大海原から戻ってきたサクラマス!≫

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 北海道の雄大な河川で生まれた稚魚が、1年ほど母なる川で育まれた後に、川を下り大海原へと泳ぎ進みます。この時、川に居残る河川滞在型と海に向かう降海型に分かれるのです。サクラマスは降海型であれば、この種の滞在型はヤマメと呼ばれます。どうゆう理由で2つの型に分かれるのか?いまだ謎のまま…これがサケ目サケ亜科に分類される「鱒(マス)」の面白いところ。仲間にイワナがいるのですが、これは一生を川で過ごすため陸封型などだといいます。

 鮭はサケ目サケ科であり、鱒のサケ亜科との違いは何なのか?簡潔に言ってしまうと、川で孵化した稚魚が、稚魚のままもれなく全てが海に下るものが鮭で、稚魚が川に居残り成長してゆくのが鱒。前述したように、鱒の一部は海に降り立ちますが、鮭が3年を要して戻ってくるのに対し、鱒は1年であること。そして、共通しているのは、頑(かたく)なな母川回帰であること。鮎はきれいな川を選んで遡上するのに対し、鮭の仲間はどんな困難が待ち受けようとも生まれ故郷(母川)に帰ってくるのです。

 海に降り立ったサクラマスの向かう先は、ベーリング海峡です。荒れ狂う海でありながら、餌となるオキアミが豊富であることで、多くの魚を呼び込むようです。このオキアミや小魚をパクパクと食し、河川滞在型とは雲泥の差ほどの体格へと大きく成長し、1年後に戻ってくるのです。この行動は範囲と、食してるものの違いこそが、天然と養殖との差を生み出すのでしょう。

 

≪旬を迎える柑橘…agrumesそれともcitrus?

 皆様に、地方に埋もれる日本食材の魅力を伝えるべく、Benoitでの食材探しをはじめて、はや8年目です。ここまでくると、フルーツを使ったデザートの年間計画でパティシエチームの会話に入ることになります。そこで、気づいたのが「柑橘」の捉え方でした。

 アラン・デュカスグループでは、デザートに同じフルーツを使うことを避けます。よほどの事情がない限り、桃のデザート「ピーチ・メルバ」がメニューに入っている時に、例えば「桃のヴァシュラン」という調理方法が違っていても、並列することはありません。年間計画を立てるにあたり、この点を十分考慮したうえで、フルーツの提案を行います。

 え?昨年12月から今年の1月まで「レモンのタルト」と「和栗とミカンのモンブラン」があったじゃないか?とお思いではないでしょうか。この柑橘の範疇が、日本人とフランス人とでは異なっているのです。フランス人は、ミカンやオレンジ、グレープフルーツなどを「agrumes (アグリューム)」で、レモンやライムを「citrus (シトリュス)」であるという。分からないこともない…

 

 さて、2月3月でBenoitのメニューに登場する、旬の柑橘のご紹介です。

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 熊本市から南西に向かうと、天草へと導かれるかのように宇土半島が伸びています。この半島のつけねあたりの南側にあるのが、「不知火(しらぬい)地区」。八代海(やつしろかい)に面した丘陵な沿岸部は、一年を通して温暖。海に面した山の斜面は、太陽の恩恵を十二分に受けることができるうえに、柑橘のとって快適な水はけをももたらします。さらに、海からの養分たっぷりの汐風、阿蘇の伏流水である熊本の水、澄んだ空気で育まれた果実が美味しくないわけがありません。

 この地で代々にわたり果樹栽培を続けている「のむちゃん農園」は、若き園主である野村和矢さん早苗さんに受け継がれました。彼らは、天の恵みである不知火の地の利に甘んじることなく、飽くなき探求心のもとで、さらなる安心安全・美味しい果実を育て上げるため、農薬に頼ることを可能な限り避け、細心の注意を払いながら手間暇をかけることを惜しみません。柑橘の美味しさを追究するがために、彼らは露地栽培のみに徹しています。

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 「不知火」という地名から、我々を魅了して止まない柑橘を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。柑橘「不知火」の中で、一定基準を満たしたものが「デコポン」です。農業試験場で育種されたものの、栽培が難しいがために皆が二の足を踏む中で、果敢に挑戦し成功を収めたのが、不知火の人々でした。そして、その柑橘を「不知火」と名付けたのです。

 その柑橘「不知火」が、Benoitに届いています。さらに、のむちゃん農園からはもう一つ。これはBenoit東京史上初の食材で、自分も出会えることを心待ちにしたいた柑橘、「ブラッドオレンジ」です。

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 ブラッドオレンジのタロッコ種です。よく見かける真っ赤なブラッドオレンジと違い、果肉の果皮に接する部分に赤い果汁が集中している品種です。オレンジのようでありながら、ほのかな苦さが心地よい。赤い果汁は、抗酸化作用のあるアントシアニンの色素という。あまりにも美味しかったので、Benoitは樹に実る果実の全量を確保!すでに第一便が届いています。

 

 広島県、瀬戸内海に浮かぶ離島「大崎上島(おおさきかみじま)」。サンサンと降り注ぐ陽光に温暖な気候という恵まれた環境の中、飽くなき探求心と努力を積み重ね、類まれなる品質のレモンを育て上げているのが、岩﨑さんご一家です。陽射しばかりでなく、愛情もたっぷり受けて育ったレモンは、まろやかな酸味が特徴で、そのまま食すると皮のほろ苦さと相まって、なんと美味しいことか。すっぱさに顔をしかめる必要はありません。

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 露地栽培の瀬戸内レモンを摘んだそのままを届けていただくため、表皮のワックスを取り除く必要もありません。この輝かんばかりの輝かんばかりの黄色が美しい。レモン同士をこすった時の透きとおった爽やかな香り。そのまま目を閉じると、遠く潮騒(しおさい)が耳に届き、レモン畑から一望できる瀬戸内海に浮かぶ島々の美しさが脳裏に浮かぶ。

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≪西の「あまおう」、東の「とちおとめ」、やはりBenoitは「紅ほっぺ」。

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 多くのイチゴ品種が誕生する中で、1980年代には≪東(栃木県)の「女峰」、西(福岡県)の「とよのか」≫」という二大勢力が台頭するも、ここに「章姫」が割り込んできます。時が過ぎ、2000年前後ともなると、≪東(栃木県)の「とちおとめ」、西(福岡県)の「あまおう」≫へと移り行く。そして、ここに章姫と「紅ほっぺ」が姿を見せます。日本のイチゴ生産量の1位栃木県2位福岡県に負けじと健闘しているのが、地理的にも中間に位置している静岡県(4位)。イチゴ勢力図を二分する中に、割って入るかのように登場する≪章姫≫と≪紅ほっぺ≫という品種を生み出したのも、静岡県。甘さでは「あまおう<とちおとめ」、酸味では「あまおう>とちおとめ」。「紅ほっぺ」はどちらも中間に位置しているのだといいます。甘みと酸味を兼ね揃え、酸味があるからこそ甘みも冴えるのです。

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 静岡県掛川の「赤ずきんちゃんおもしろ農園」の赤堀さんが丹精込めて育て上げた「紅ほっぺ」は、みずみずしくしゃくしゃくの食感であることはもちろん、心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てています。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まる。Benoitに送っていただいているイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。豊潤な香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる豊潤な甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」であることか。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と納得の逸品です。

 さて、今年はどのようなデザートになるのでしょうか?

 

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ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2022年1月「年の通い路いかならむ…」どのような年になるのでしょうか?

すぎぬるか 年の通ひ路 いかならむ (ひま)ゆく駒は あとだにもなし  守覚法親王(しゅかくほっしんのう)

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 守覚法親王は、父を後白河天皇にもつ、平安時代後期から鎌倉時代にかけて活躍した皇族です。この歌意は、過ぎてしまったな~一年という時が通う路はどのようなものであろうか。「隙ゆく駒」は形跡を残さない…なんとなく分かるようで分からない歌なのですが、なかなかに奥深いものでした。

 元久二年(1205年)、歌帝と称される後鳥羽院の勅命によって「新古今和歌集」の編纂がはじまりました。鎌倉幕府に反旗を翻(ひるがえ)した「承久(じょうきゅう)の乱」で敗れ、隠岐の島に配流されながらも編纂し続けるほど。その想いがこもった勅撰和歌集だけに、今もその輝きが褪(あ)せることはありません。歌帝は、優れた和歌を集めるために、歌合を幾度となく開催しています。その中で最大規模を誇るのが、正治(しょうじ)二年(1200年)に開催された「三百六十番歌合(さんびゃくろくじゅうばんうたあわせ)」です。

 歌帝が、名立たる36名の歌人を選び、春夏秋冬雑の5テーマのもと、各々が期限内に出詠歌を選び抜く。それを同テーマで2首を歌合のように披露し、優劣を競うというもの。その歌合が360番あるということは、出詠歌は最低でも720首あるということに。その冬の掉尾(とうび)に登場するのが冒頭の歌です。

 日付が一日変わるだけで、新年が始まります。時の流れが途絶えるわけでもなく、境があるわけでもないのですが、1月1日には、昨日は去年となり、なにやら新たな人生の門出を迎える心地を覚えます。「去年今年(こぞことし)」とは、この不思議な人間ならではの感覚が込められている気がします。守覚法親王は、この新年を迎えた頃に詠ったのでしょうか。それとも立春を迎えた頃なのでしょうか。

 旧年を顧みた時、楽しかった辛かったなど多くの思い出が、脳裏を走馬灯のように過ぎていきます。歳暮(としのくれ)を迎えた時、誰しもが「あっというまの一年だった…」と感慨深さを覚えることと思います。どんなに文明が発達しようが、日々の生活が便利になろうが、宇宙へ旅行に行けるようになろうが、「時の流れ」を止めることはできず、この流れるスピードは今も昔も変わりません。

 あっという間に過ぎてしまった旧年を懐かしく思う中で、「如何(いか)ならむ」と今年一年はどのような世相になるものかと思案する。歌合に出詠したことを考えると、「承久の乱」以前に詠まれたもので、鎌倉幕府による一定の治世下にあった時代です。野心家の後鳥羽院は幕府に不満を持ってはいたものの、多くの貴族は平穏がもたらす文化の興生を謳歌していたのではないかと思うのです。今年の世相は如何ならむ…不安を抱きながらというよりも、何か希望ある未来を見据えての言葉なのではないかと思うのです。

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 「隙(ひま)ゆく駒」とは、なんとも面白い表現。「隙」は隙間(すきま)のことを意味します。家屋の内外を隔てる障子が少しばかり開いている、その隙間から垣根越しに通りを眺めると、馬(駒)が駆け抜けていった。隙間だからこそ、馬の姿は一瞬であり、跡形もなく過ぎ去ってゆくかのよう。この表現には、「速い」という意味が込められているという。

 さらに、「隙」には、時間的な「あいだ」や「ゆとり」という意味もあります。煩雑な仕事に追われる中でも「憩いのひととき」がある。その時間の長さは個人個人で異なるものの、時が流れるスピードは変わらない。「馬(駒)」が「時の速さ」であれば、「隙(ひま)の間隔」は、各々の持つ「ゆとりの長さ」ということなのか。

 世相は思いのほか速く流れてゆきます。長いようであっというまに過ぎ去ってゆく一年を思うと、時と有限なものであり、大切に思わなければならない。各々もつ「心のゆとり」が障子の隙間であるならば、それが狭ければ、時(馬)を見過ごしてしまうもの。大きく隙間を開けることで、馬が過ぎることを目にすることができる。跡形もなく去りゆく世相であっても、人世の機を捉えることができる。そう守覚法親王は、日々のひとときひとときを大切にすることで明るい未来が待っている、そう言祝(ことほ)いでいる気がいたします。皆様は、どう思われますか?

 

 「時の通ひ路 いかならむ」ということで、今年の干支を「壬寅(みずのえとら)」を語源辞典片手に、古人の想いを読み解こうと思います…12年目の挑戦です。漢字とは、一文字が実質的な意味を持つ表意文字です。古代中国の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしました。この漢字の組み合わせが「干支」です。賢人は、漢字に何を託し、我々に伝えようとしたのでしょうか?

※自分は占い師ではありません。

kitahira.hatenablog.com

 

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

 

2022年2月 「北平がBenoitを不在にする日」のご報告です。~8日更新

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 私事で恐縮なのですが、自分がBenoitを不在にしなくてはならない2月の日程を書き記させていただきます。滞りがちだったご案内を充実させるべく、執筆にも勤しませていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

25()

9()

12日(土)

18()

24()25()26()

 自分への返信でのご予約はもちろん、BenoitのHPや、他ネットでのご予約の際に、コメントの箇所に「北平」と記載いただけましたら、自慢の料理の数々を語りに伺わせていただきます。自分が不在の日でも、お楽しみいただけるよう万全の準備をさせていただきます。何かご要望・質問などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

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 「一陽来復」、必ず明るい未来が我々を待っております。そう遠くない日に、マスク無しで笑いながらお会いできる日が訪れることを願っております。皆様のご健康とご多幸を、一刻も早い「新型コロナウイルス災禍」の収束ではなく終息を、青山の地より祈念いたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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