kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

特選食材「郡上クラシックポーク物語」のご案内です。

「春のはじめだったために雪が深く、粉雪という動くものを透かして見ているせいか、悲しくなるほど美しかった。」司馬遼太郎 街道をゆく・二より

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 「日本でいちばん美しい山城があるはずだと登ったのは~」と司馬氏。登る最中で出会った山城の姿を仰ぎ見て、「街道をゆく」に綴った感想が冒頭の一文です。この時から、いかほど時が経ったことでしょうか。2014年(平成27年)、やはり粉雪がちらつく凍てつくような寒さ厳しい季節の頃の物語。

 郡上街道が郡上八幡に差し掛かると、右手に富山県へと向かう国道472号が姿を現します。この国道と並走するように吉田川が流れるも、雪に覆われる景色だからなのか、流れが止まっているかのようにも見える。上流へと向かうと、「明宝(めいほう)」という地名が目に入ってくる。その「畑佐」という地区で、国道を離れ山中へ入り込むと、何やら建物が見えてくる。「郡上明宝牧場」だ。車から下りたつ一人の男が、「仕上がった豚肉を送るので、みんなで食べてほしい」、そう農場長へ語りかけていた。

 「一生懸命育てた想いをわかっていただける商売をしたい」との強い信念のもと、販売ではなく「飼育」の分野に乗り出し、やっと結果がでたその時だった。数々の困難の中で、打開策がないか模索する日々が彼の日常であり、彼と彼の意志に共感した農場スタッフの弛まぬ努力によって成し得た美味なる豚が、豚を扱うプロの面々から高評価を受けたのは、ほんの前日のこと。今までの苦労の日々を想うと、どれほど嬉しかったことか。この日は農場スタッフの労をねぎらい、この喜びを分かち合いにきていたのだ。皆に安堵の表情が浮かび、喜びに変わる。しかし、この男は喜び勇む中で、身の引き締まる思いでいた。郡上の寒さではない、「より安心・安全な美味なる豚肉を皆様の食卓へ」加工者ではない生産者としての責任が双肩にのしかかってきたからだ。

 

 山の頂から流れ落ちたせせらぎが、谷間を縫うように落合いさらに落合い、悠然と流れゆく長良川。この清流の上流を目指し、山間(やまあい)に深く深く入り込むと、突如として姿を現す古き良き京都のような街並み。さながら「隠国(こもりくに)」のような。ここは、奥美濃の小京都と称される、郡上市にある「郡上八幡(ぐじょうはちまん)」です。この歴史深い美しい地のご紹介は、このメールの後半に書かせていただきます。この郡上八幡を目前にして、郡上街道を右手には、富山県へと向かう国道472号が姿を現します。美しき山城を目前に、ここで右手にハンドルを切る、なんとも後ろ髪を引かれる思いでいると、意外にもこの国道はなかなかに興味深い絶景の街道でした。

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 この国道は、吉田川と並走するようにするように走っているため、「せせらぎ街道」と名付けられています。カーブを曲がる度に、姿を変える山々と清流とが織り成す景色は、四季折々の美しさで我々を迎えてくれる。蒼翠とした山の姿も良いが、秋の粧(よそお)いに勝るものは無いかもしれない。上流へ上流へと向かい、「明宝(めいほう)」の「畑佐」という地区で、国道を離れ山中の峠道へと入り込むと、そこに「郡上明宝牧場」が広がる。ひょんなことから、この明宝牧場の持ち主である田中成典さんと出会えたことで、この地よりBenoitに「郡上クラシックポーク」が届くことになりました。この出会いは偶然というよりも、出会うべくして出会ったのかもしれません。

 郡上明宝牧場は、澄んだ空気に清らかな水という自然環境の中で、ストレスなく健やかに育った三元豚が「郡上クラシックポーク」なのだといいます。三元豚とは三元交配により生み出された種豚のこと。母豚は柔らかく美味しい肉質を持つ、全農ハイコープSPF種豚(「ランドレース種」と「大ヨークシャー種」の掛け合わせ)。父豚は良質な脂肪を蓄える、ゼンノーDこと「デュロック種」。この三元交配によって生まれた種豚が、「郡上クラシックポーク」です。商標登録は「クラシックポーク」と「郡上明宝三元豚クラシックポーク」です。

 

 「クラシック」とは?「伝統的な」という意味ではなく、クラシック音楽が流れる落ち着いた環境の下で育てているからです。特にモーツァルトは副交感神経を効果的に刺激し、交感神経優位の状態を改善してくれるなどリラックス効果があると言われ、ストレス解消にも良いとされています。そして、「この効果は豚だけではかなったのです」と教えてくれたのは、田中さんご本人から。「我々スタッフも心穏やかになり、ストレス少なく、いきいきと仕事をしています」と。

 なるほど、この類稀なる自然環境に加え、モーツァルトを聴かせて育てることでストレスを軽減させて育て上げる。さらに、徹底した衛生管理を維持しています。外部からの入場者を制限し、飼料・資材搬入入場者にも場内専用衣類、場内専用長靴の義務付けで疾病侵入リスクの軽減に努めています。そう、全ては「安全・安心な美味しい豚肉」を皆様にお届けするために。

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 「まずは試食してみてください」と、豚バラ肉がBenoitに届いたのが、8月末のことでした。届いた豚肉の艶やかな美しい色合いに、Benoitで食肉加工を担当しているスタッフからの驚嘆の声が漏れたといいます。ランチ営業最中、キッチンが全ての料理を供し終えたのを見計らい、送っていただいた豚バラ肉を1cmほどの厚さにカットし、フランス料理の手法でもある「休ませる」焼きを施し、シェフはもちろんキッチンスタッフで試食をしていた。

 キッチンが試食できる頃というのは、サービススタッフにとってはデザートを提供しようかという頃であり、何かと多忙である。それにもかかわらず、キッチンよりお呼び出しがかかる。何か問題なのかと一抹の不安を抱えながら向かう先に、シェフが待ち構えていた。無言のまま差し出されたステンレスのバットの上には、見事な色に焼き上げた尾田バラ肉がのっていた。「郡上クラシックポークだ!」と、お礼も束の間、豚肉を片手に勇む心を抑え込み、ホールに戻る。お客様へのデザートを伺いに行かなくてはならない。豚肉は気になる、お客様は待っている。この葛藤の中で、もがきながらお客様の待つホールへ赴く。恨めしいかな、自分のデザートの自慢話は長かった…。ホールが落ち着く頃を見計らい、シェフももう少し後で焼いてくれればと悪態をつきながら、いざ郡上クラシックポークの下へ。

 なぜ、シェフが忙しい只中に、自分をキッチンへ呼び、焼き上げた郡上クラシックポークを渡してくれたのか。この理由は、この豚肉が自分に教えてくれた。「うわ!美味しい!」と心の叫びが体中にこだまするかのようだ。冷めている上に、ただ塩だけの味付けで、何たる美味しさなのか。脂と肉のバランスが良く、特に脂の美味しさは甘く澄んでいる。美味(おい)しいとは、美しい味と書きますが、この郡上クラシックポークの味わいは、「美しい」とはかくなるものかと教えてくれている。後から聞けば、あまりの美味しさに、シェフを始めスタッフ一同が絶賛したのだという。

 そのまま焼いて食しても、かなりの美味なる逸品を前にして、フランス人の職人魂が黙っているとは思えない。「この豚肉で、自家製生ソーセージ作ったら美味しいのでは?」と問いかけてみると、不敵な笑みを浮かべて「考えてみる」との返事。難しいから諦めるという反応ではない、美味なる逸品を仕上げようとする職人気質を感じ取った瞬間だった。フランスには、食肉豚を無駄なく保存性をもたせながら美味しく加工する職人技が、綿々と受けつがれている。「シャルキュトリー」という伝統技です。テリーヌやパテなどはもちろん、豚の血のソーセージ「Boudin Noir (ブーダンノワール)」などは、無駄なく美味しくの典型ではないでしょうか。そして、忘れてはいけないのが、豚バラ肉のコンフィやソーセージです。

 さあ、ビストロBenoitの出番です。フランスの伝統「シャルキュトリー」の技にならい、美しいバラ肉に塩を振り、タイムの香草を添えた後にパックにします。それを湯の中に投入。脂の美味しさを維持しながら、肉の旨味をひきだすかのように、肉質を固くならないよう、ぐつぐつではなく、じんわりと低温にて熱を加えてゆきます。この旨味を馴染ませるかのように、いったん冷蔵庫で休ませた後、再度温め直し、表面をかりっと焼きを入れる、これぞBenoitの豚バラ肉のコンフィ。美しい脂をもっている郡上クラシックポークは、他の豚とは別格の美味しさに満ちています。

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 もうひとつ。シャルキュトリーという分類の中で、豚肉の塩漬けで我々でいうベーコン雄のような「Bacon(バコン)」、これと双肩を成すものが「Saucisse(ソスィス)とSaucisson(ソシィソン)」でしょう。前者はソーセージで後者は乾燥させたサラミのようなもの。ソーセージというと、我々日本人には馴染みの食材であり、2袋結束で売っているのを其処此処で見かけます。しかし、フランスでは加熱加工されたものではなく、「生ソーセージ」のこと。各店ごとの比率で、こだわりの香草が入った「生ソーセージ」が何種類も販売されているのです。確かに、加熱加工されたソーセージは便利ですが、生肉を詰めてあるだけのソーセージは、生肉なので扱いに注意が必要ですが、格別の美味しさがあります。この美味しさに慣れ親しんだBenoitシェフのセバスチャンが、前述したような高品質の豚バラ肉が手に入ることを知り、職人魂に火がつかないわけがありません。「これほどの豚バラ肉であれば、肩肉もまちがいなく美味しいはずだ」、手をこまねいていないで「肉こねよう」となるわけです。

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 このBenoitの試みを待っていたのは、自分だけではなかった。田中さんに打診すると、「選りすぐりを送ります」と即答です。しかし、肉のプロフェッショナルである田中さんから、こう要望が付け加えられました。「生ソーセージは肉の鮮度が大切です。そのため、ご不便をおかけいたしますが、Benoitへ納品する日を限定させてほしい。」と。シェフに伝えるも、すました表情で頷くのみ。プロ同士の多くを語らない阿吽の呼吸なるものを見せつけられた一幕でした。そして、見事なまでの肩肉がバラ肉とともにBenoitに届くのです。田中さんから「〇日に出荷できる」との報を受けると、キッチンは受け入れる体制を整え待ち受けます。

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 届いたクラシックポークは、営業の隙をみて、大ぶりの大きさにカットされたのちにPiment D’Espretto(フランス・エスプレット村特産のトウガラシのようなもの)少々に 塩・コショウを加えた後に、旅疲れを癒すように冷蔵庫で一日お休みさせます。翌日にミンチにし、イタリアンパセリとセージの香草を加え、よく混ぜ合わせます。そして、腸詰へ。クラシックポークの美味しさを十二分にお楽しみいただきたく、肩肉を6割以上加えてバラ肉とともに仕上げる、食品添加物を全く使用しない、自家製の生ソーセージがBenoitにお目見えしています。

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 ただ焼き上げたのとは一味も二味も違う美味しさがある反面、家ではなかなか仕上げるには技と手間暇がかかる。そのため、フランスではシャルキュトリーの専門店があるほどです。フランス料理伝統のシャルキュトリーの手法で導き出された、「郡上クラシックポーク」バラ肉のコンフィとソーセージが、美味しくないわけがありません。さらに、「Le Puy-en-Velay(ル・ピュイ・アン・ブレ)」の特産である「緑レンズ豆」を座布団のように下に敷きます。ワインと同じように、原産地を名乗ることのできる、政府保証付きのレンズ豆。この町は、ちょうどDijon(ディジョン)から西へ向かった先にある。同郷のよしみではないですが、Dijonの特産である「Mutard(ムタード)」、通称ディジョンマスタードとの相性は抜群。今回の付け合わせのレンズ豆にも、もちろんこのマリアージュです。

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 Dijonの町から、ワイン街道を南下るとLyon(リヨン)の街がある。フランスでも多種多様のシャルキュトリーに満ち満ちてるのが、この食の都リヨン。ともすると、全てが一堂に会した時、そこには伝統に裏打ちされた郷土のマリアージュが、我々を迎えてくれる。さらに、日本の美味なる逸品「郡上クラシックポーク」と「鮮度」というエッセンスが加味されたとき、皆様を「口福な食時」へと導いてくれます。プリ・フィックスメニューのランチ、肉料理の選択肢としてお選びいただけます。ディナーでご希望の方は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

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 さて、冒頭で登場した「郡上クラシックポーク」の生みの親ともいうべき「彼」とは、岐阜県下で有数の食肉メーカーの「株式会社養老ミート」の代表取締役社長である田中成典さんです。食肉への加工はもちろん、ハム工房まで備え、肉の扱いには長けている。県下には、他県よりもずっと恵まれた飛騨牛を筆頭に、奥美濃古地鶏や養老山麓豚といった特選食材が多く、彼がそれらを美味しくないと考えているわけではありません。美味しい食材が巷に溢れる中で、彼は考えた。「丹精込めて育てた想いが、更なる美味しさの高みへと導く」と。

 こうして、「郡上クラシックポーク」の生産プロジェクトの火蓋が切って落とされたのです。しかし、ことはそう易々とは進まないものです。県内はもちろん近隣県も、希望に叶う農場と出会うことはありませんでした。半ば諦めかけていた中での、1本の電話。

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 「建屋は古いが条件次第で私の理想の豚肉が生産出来そうな農家がある」と。場所は郡上市、飛騨高山の市場に行く途中でした。田中さんすら、こんな山の中に豚を育てている農場があることを全く知らなかったといいます。農場の持ち主は故畑佐敏夫さん(当時83歳)、「JAめぐみの」の農協参事を歴任され、県下畜産への功績は計り知れません。田中さんが畑佐さんとお会いした時、生産者としての想いを熱く語られたそうです。そして、今まで感じた事のない不思議な感覚にとらわれたといいます。きっと、予期せずに運命の歯車がかみ合ったときの感覚なのでしょう。

 急ぎ会社に戻り、父である会長にこの話をしたところ、「豚飼いはな(養豚事業)・・・」、しばしの沈黙の後「大丈夫か?」と。田中さんは、事の重大さに気づき、「今なら止められる」と考えたそうです。しかし、養豚にかける畑佐さんの想いと田中さんの想いが重なる。そして、託された願い、「一生懸命やったが、わしのこの年では…息子たちや働く村のもんを頼む」と。重責に押しつぶされそうな自分がいる中で、不思議な感覚に囚われていることに気付く。「なんだろう、失敗する気がしない」。経験が少ないがための無謀なのか?はたまた傲慢なのか?

 会長と対峙する中で、沈黙がゆっくりと時を刻む。なぜ、自分にこれほど自信があるのだろうか?実際には短かったと思うが、自分を顧みるためには十分すぎるほどの猶予を与えてくれたようだ。「そうだそうなんだよ、畑佐さんの農場で働く人々に失望感や喪失感が無いのだ。生き物を飼うということを前向きな気持で捉えていることが表情に表れているからか。」これを肌身で感じとっていたのだ。

 会社を長年切り盛りしてきた会長が、まして父親が、息子のである成典さんの機微を捉えないはずはない。「迷惑かけんで」という息子の控え目の一言とは裏腹な、確固たる信念と自信を感じ取り、息子の「郡上クラシックポークプロジェクト」の申し出に応じるのです。

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 代表取締役を担っている養老ミートと、「食材」を「食卓」に届ける最終目的は同じであっても、「生き物を飼う」ということは、全くの別の発想をもって運営していかなくてはなりません。会長に「迷惑かけんで」と約束した以上、失敗は許されない上に、ゼロから始まる全てのことを自らで行わなければなりません。銀行との借り入れ交渉や、事業計画も会計事務所と昼夜問わず打ち合わせ、資金繰りもろもろと、プロジェクトが進むにしたがい、難題がでるわでるわ。「大丈夫だ!」と自らを奮い立たせること、数知れず。

 畑佐さんの農場を引き継ぐと決めた後、すぐに相談に向かった先は全農岐阜県本部です。前部長川尻さんへ心意気を話したところ、「全面的にバックアップするで、東日本くみあい飼料の田中と話してくれ」と何と心強い返事をいただいたことか。ご紹介いただいた田中さんに教えを請い、ともに取り組むことが農場再建の基本となったのです。

 まずは衛生レベルの引き上げです。築30年以上の豚舎の徹底的な清掃を始めることになりました。そして、外部からの入場者を制限し、農場スタッフはもちろん、飼料・資材搬入入場者にも場内専用衣類、場内専用長靴の義務付けしたのです。徹底的な清掃とは、言うは簡単ですが農場スタッフ皆が周知し、徹底することは容易(たやす)いことではありません。郡上市明宝とは、遠く離れた地から「新社長」として就任した田中さんが、「掃除してください」「キレイにしてください」と言ったところで、「豚を飼った経験は数か月だという素人社長で、本当に大丈夫なのか?」という懐疑的な想いが農場スタッフの中で沸き起こることは疑いようがありません。

 そこで、事業計画の段取りの合間に、幾度となく農場へ足を運び、田中さんの熱い想いをスタッフに語り、ともに行動する時間を可能な限りもったのです。「安全安心な美味なる豚肉を皆様の食卓へ届ける」という想いは、田中さんも農場スタッフの皆さんも同じ。「最高に美味しい」という枕詞(まくらことば)を付けることを目指す田中さんは、その想いを皆に理解してもらえるように語ることに終始する。彼はスタッフが自分の想いを素直に受け入れてくれ、志一つになれたことを、「幸運でした」と語る。いやいや、人を動かすことは並大抵な努力ではできません。きっと田中さんの背中が、雄弁に語っていたのです。「とにかく、やろう!」、プロジェクトの屋台骨が堅牢に組みあがります。画像は、立役者の町田農場長と息子さんです。彼らいなくして、このプロジェクトは成し得ません。

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 1頭もいなくなった豚舎の清掃に明け暮れる日々が、はや半年が経とうとする頃、母豚の導入準備に入るとの一報を受けます。「いよいよか!」と田中さんはもちろん、農場スタッフも逸(はや)る気持ちを抑えつつ、清掃の日々。さあ、次の課題はどう育てたものか?どう育てたら美味しい豚肉を作るにはどうしたら良いのか?多くの方に相談するも、リンゴジュースやパイナップル、梅やヨーグルトなど、美味しくなりという根拠がない。母豚の来園までに決めなければならないが、田中さんに焦りが募るも解決の糸口は見つからない。ここまで、頑張ってきたのに…

 飼育のプロフェッショナルではないからの、柔軟な発想がある。アマチュアではないから、何かしらの根拠がある。「豚舎にクラシック音楽を流しては?」愛知県でスーパーマーケットを展開している㈱フィール・コーポレーション会長の蟹江さんの一言が、田中さんが日々思い悩んでいた問題に光明を照らしたのだ。今まで、飼育することに囚われてしまうことで見失ってしまっていたこと。複雑に絡み合うことで難解怪奇なものと思っていたが、実は解きほどくカギは根本にあった。「飼育」ではなく「育てる」のだ。「美味い物を与えるだけじゃ美味しいお肉にならない。リラックスさせる環境だ!豚の気持ちを忘れてしまっていた。」農場に戻り、すぐに音楽が流れるよう準備したことは言うに及ばず。

 12頭が試験導入され、経過観察の後に本導入が決まりました。今までの努力が報われたかのように順調に事は進みます。これと時同じくして、「クラシックポーク」の商標申請に入ります。そして、待望の仔豚の誕生を迎えるのです。「本当に嬉しかった」と当時を振り返る田中さん。ところが、この喜びもつかの間、1週間ほどで農場には暗雲が立ち込めるのです。何だか発育の良くない仔豚が生まれたと連絡が入ったのです。生きた心地がしないとはこの時の事です。家畜保健所に検査を依頼しても、ウイルスは発見されません。最悪の結果が脳裏をかすめます

 不安を抱える中でも、農場スタッフの日々の努力の甲斐もあり、仔豚が次々と誕生し、成長していきます。仔豚の発育問題の原因が分からないまま、育てることの不安はいかほどのものか。原因が分からない以上、対策のとりようがありません。「とにかくやるしかない!」

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 後日、今回の仔豚の発育不良を引き起こした原因が解明されました。豚舎が無菌すぎて、母親から大腸菌に対しての免疫が受け取れなかったというのです。衛生レベルを極限まで高めようと、徹底した清掃をしたことが、あまりにもキレイすぎる無菌状態の豚舎としてしまい、大腸菌の免疫を仔豚が得られないという結果をもたらしたのです。しかし、決して皮肉でもなく無駄なことでもありません。当時の田中さん、農場の皆様の心配は、並々ならぬものであったことでしょう。清掃を徹底する意識を継続していることで、今の「郡上クラシックポーク」の美味しさの評判が消えることはありません。

 「郡上クラシックポーク」として販売が始まる前に、いままでお世話になった方々に集まっていただき、お礼の意味も込めた試食会を催しました。豚に関わるプロフェッショナルが集(つど)い、さながら品評会の様相です。大御所が田中さんへ、「湯を沸かして、鍋ごと持ってきてみい」と。意味も分からず、熱い湯の入った鍋を彼の目の前に持ってくる。すると、おもむろにクラシックポークを湯の中へ、しゃぶしゃぶと。「見てみい、灰汁(あく)がでとらん。田中さん、いい豚を育てたな。」極度の緊張下にある田中さんに笑みがこぼれるも、理解に苦しんだ。それを察したのか、「若いもんに、そこいらで売っている豚肉を買いに行かせ」と。買ってきた豚肉をしゃぶしゃぶすると、我々がよく見かける灰汁が浮いてくる。そう、大御所は最大の賛辞を田中さんへ贈ったのだ。

 続々と伝えられる賛辞のコメント。今までの労が報われた時だ。ただ、自分だけの業績ではない。明宝牧場の皆が、自分の無理難題に果敢に取り組んでくれたおかげである。一刻も早く、この喜びを皆と分かち合いたい。翌日、まだ雪が降り残るせせらぎ街道をひた走る、喜びを噛みしめながら、逸(はや)る気持ちを抑え込みながら。農場に着くと、寒い中に農場長が待っていた。田中さん、どうやら控えめな性格のようで、この喜びをどう皆に伝え分かち合おうか思案するも、うまい言葉が見つからない。

 冒頭でご紹介した場面こそ、まさにこの時のこと。畑佐さんに出会い、皆で同じ目標をめざし、徹底的な清掃から始めた日々。苦悩も分かち合えた仲間だからこそ、余計な言葉は必要ないのかもしれません。「仕上がった豚肉を送るので、みんなで食べてほしい」、この田中さんの一言で、皆には十二分に伝わったことでしょう。「より安心・安全な美味なる豚肉を皆様の食卓へ」加工者ではない生産者としての重責で、身が引き締まる忘れえぬ日になった。郡上の寒さが、いくばくか心地良いとさえ感じたことでしょう。

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 雪解けを迎え、明宝牧場よりまだ先に進んだところ、山肌一面に咲き誇る「國田家の芝桜」に魅せられる心癒されたころ、皆が努力した成果が表れ始めます。岐阜県では毎年6月に「トラックロードショー」と名付けられた品評会が実施されます。これは、40年ほど前から始まった品評会で、当時はまだ舗装していない道にトラックを並べ、荷台の豚の良し悪しを競ったのが始まりなのだといいます。田中さんは初出荷の2015年と翌年に出品し、見事に「金賞」を獲得。さらに2017年には「、岐阜県畜産共進会の「肉豚の部」では、優秀賞の栄誉をえることに。「郡上クラシックポーク」の美味しさを、プロフェッショナルが認めた証です。

 どれほどの栄誉に輝こうが、おごり高ぶることがない。ひたに基本に忠実に育て上げることを心がける田中さんと、農場の皆さん。彼らに妥協という言葉はなく、飽くなき探求心と弛まぬ努力は今も変わらない。今日もまた、豚舎隅々の清掃から始まる朝を迎える。

 

 今回は、初となる三本立ての構成です。郡上クラシックポークが美味しいのには理由があり、十分にご理解いただけたのではないでしょうか。この特選食材「郡上クラシックポーク」とBenoitは、出会うべくして出会ったようなのです。「Benoitと郡上八幡」が、並々ならぬ縁があったとはどういうことなのか?「郡上八幡の物語」は、「はてなブログ」に記載しております。お時間のある時に、以下よりご訪問いただけると幸いです。キーワードは「梅窓院」です。

kitahira.hatenablog.com

 

 さらに、郡上八幡とはどのような地なのか?史跡を辿りながらご紹介させていただきます。「郡上八幡への旅物語」は「はてなブログ」に記載いたしました。以下よりお時間のある時にご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 このご案内を作成するにあたり、株式会社明宝牧場、郡上市役所、一般社団法人岐阜県観光連盟、長青山寶樹寺梅窓院それぞれのご担当者さまより、快く画像を提供いただきました。この場をお借りいたしまして、深く御礼申し上げます。さらに、郡上市役所より多くのご案内をお送りいただきました。どれほど自分の助けになったことか、重ね重ね御礼申し上げます。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoitシャンパーニュパーティ「DEUTZ(ドゥーツ)」のご案内です。

 猛烈な勢いを保ったまま台風19号が、静岡県から上陸し、暴風雨をまき散らしながら岩手県沖へと抜けていきました。前回の台風15号の教訓もあり、用心に用心を重ねたことと思います。しかし、自然の猛威にはなすすべもなく、ただただ何事もなく通り過ぎること祈るのみでした。皆様が台風の惨禍を被ることなく、無事息災であることを信じております。

 

 セリから始まりナズナに続く「春の七草」は、暗唱できる方も多いのではないでしょうか。では、「秋の七草」はというと、なかなか思い浮かばないものです。意外なことに、秋の七草の方が、先に世の中にお目見えしているのです。時代は万葉の時代まで遡ります。彼の時代に家屋から景色に、アスファルト舗装などあろうはずもなく、集落から少し歩み出れば大草原があり、その先には里山が広がっていたことでしょう。そこに、咲き誇る花々の中から、秋の風情にぴったりなものを数えてみると7種あったのでしょう。

秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七草の花 

萩の花 尾花(おばな)葛花(くずばな) なでしこが花 をみなへし また藤袴(ふじばかま) 朝顔が花

   山上憶良万葉集より」

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 秋の七草の筆頭に上がるのが、「萩(はぎ)」の花。しかし、ハギは草ではなく樹です。太い幹を持つわけではなく、低い背丈に枝垂(しだ)れる枝なみを見ると、草のように見えなくもない。これほど自然の機微を、見事なまでに歌いつづる山上憶良が、気づかなかったのか。はたまた、かつては草という概念の中に樹が存在していたのか。どんなに自分が詮索したところで結論が出るわけなく、彼が「萩を七草に加えた」ことは周知の事実。さらに、萩を筆頭においたことは、秋を彩る可憐で美しい花として、身近に目にすることができたからでしょうか。

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 二番手に名を上げるのは「尾花」。これは、芒(すすき)です。花のように見えませんが、立派な小さな花の集合体。稲穂に似ていることから、豊穣を祝う新嘗祭(にいなめさい)や十五夜のお月見などにも欠かすことのできない、今でも秋を代表する花ではないでしょうか。毛がふさふさの尾のように見えることから「尾花」とは、名付けの妙というものでしょう。

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 さて、草冠に秋と書くだけあって、万葉の時代から秋の代名詞的な花だった萩の花。この字は、日本人が考え出した「国字」と思いきや、実は「国訓」だったのです。国字とは日本人が作り出した漢字で、国訓は既に存在する漢字に日本人が新たな読みを加えたもの。中国には、キク科の多年草であるヨモギの類のことを指し示す「萩(しゅう)」という漢字がすでに存在していました。日本のハギはマメ科多年草であり別品種です。古人は中国から伝来してきた「萩」の漢字に、日本のハギの美しさを見出したのでしょう。「萩(しゅう)」に「はぎ」という読みを当てたのです。「中国の萩」と「日本の萩」は別物なのです。

 もう一つ、我々が間違えやすい漢字に、「荻(おぎ)」があります。「萩」と「荻」は、ついつい書き間違いや読み間違いをしやすいもの。「荻」はイネ科のススキ属に分類されています。自分を含め、あまりにも姿が似ているため、ススキとオギを混同している方も多いはずです。オギは湿地帯で地下茎を伸ばすように生息域を広げ、ススキは乾燥土壌を好み、株を大きくしていくように成長していきます。しかし、ススキは湿地にも生息しているという。あまりにも姿が似ている「荻(おぎ)と芒(すすき)」。ともに、今の時期になると、其処此処で目にすることができます。

 山上憶良が、七草に数える最初の「萩」と「尾花(芒)」。ここに「荻」を加えないところに、彼の我々への「問い」が隠されているのかもしれません。言うなれば、深まり行く秋を代表する「萩・芒・荻」の花々、この違いを問うている。昔懐かしいコマーシャルではないですが、「違いの分かる男(女)」の言葉遊びでしょうか。余談ですが、苗字で「萩原」「荻原」はありますが「芒原」は聞きません。萩も荻も野原一面に広がるようですが、芒は局地的に密集するようです。そんな先人たちの見識が、この苗字に隠れているのかもしれません。下の画は、「芒」か「荻」か、さてどちらでしょうか?

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 有史以前から存在していたであろうワイン。収穫したブドウを、保管しようと器の中に入れることで、果実が圧し潰される、すると、果皮に付着している天然酵母が発酵を行うため、人類が最初に口にしたアルコール飲料ではないかと言われています。ブドウは液果に分類されるほど果汁に富んでいます。そのほとんどが水で数%の成分の違いが、ワインの品質に左右するというのです。ワインの造り手は、飽くなき探求心と弛まぬ努力を、この数%の僅かな違いに、まさに心血を注いできたのです。どんなに醸造技術が発達したとしても、最高のブドウ果実を無くして最高のワインは生まれません。5の能力のブドウから10のワインは、魔法でもかけない限り醸せません。例外はありますが、何も加えずに造られるワインだからこそ、素材そのものが重要なのです。さらに、10の能力のブドウから5のワインが生まれることは往々にしてあること。そのため、ヴィンテージが云々、造り手が云々と語られる所以はここにあるのです。

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 1838年、ウィリアム・ドゥーツ氏とピエール・ユベール・ゲルデルマン氏によってピノ・ノワールの聖地、シャンパーニュ地方・アイ村に設立された、シャンパーニュ・メゾン「DEUTZ(ドゥーツ)」。テロワールを重んじ、自然との紙一重の攻防を繰り広げ、妥協のない手間暇をかけて見事なまでの果実を育て上げ、さらに厳しい選別を乗り越えた高品質のブドウが、シャンパーニュという至高の飲物へ醸される。そして、厳しい選別の末に、年ごとにDEUTZの名を冠するに値するものだけを世に解き放つのです。1993年には、大手メゾンのルイ・ロデレールの傘下に入ることで、積極的な設備投資が行われ、調和された完璧なフィネスと複雑性を持ったシャンパーニュとの賞賛を得るに至ります。この立役者となったのが、1996年にCEOに就任したファブリス・ロセ氏です。

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 所有する畑は42haに及び、シャンパーニュ生産量の35%が自社畑。それ以外のブドウは、優良な農家との長期契約により、毎年高品質のブドウを確保しています。特級畑の比率は、シャルドネ種98%、ピノ・ノワール種99%、ピノ・ムニエ種97%と、平均で97%にいたります。熟成に必須な地下セラーは、最深部で65mともなり3kmの長さを誇ります。温度11℃に湿度95%を通年にわたり維持しているこの地下セラーは、常に足元が濡れているのだといます。

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 このDEUTZのシャンパーニュを、皆様に十二分にお楽しみいただきたく、来たる10月29日にファブリス・ロセ氏をBenoitへお迎えし、皆様に美味なる理由を語っていただこうと思います。彼がコンセプトに大きく関わった「アムール・ド・ドゥーツ」は多くのシャンパーニュファン憧れの1本。それを含むドゥーツ社の誇る5種のシャンパーニュをご用意いたします。DEUTZの魅力を十二分にお楽しみいただける、またとない機会です。

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Benoitシャンパーニュ・メーカーズディナー「DEUTZ(ドゥーツ)

日時:20191029()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

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ラインナップ

NV Brut Classic

2012 Brut Vintage

2009 Amour de Deutz

2007 William Deutz

NV Brut Rosé

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 日本のテロワールテロワールとは、その土地をとりまく自然環境であり気候風土のこと。地方地方で違うのはもちろん、細かく言うと畑の場所場所で違ってくるといいます。斜面や平面、土壌や土壌微生物などもひっくるめて、間違いなく同じ環境などありえません。ブドウの品質に差異が生じるのは、このテロワールが大きな要因である、とはワイン愛好家の常套句でもある便利な言葉です。日本人の場合、「お米」が分かりやすいかもしれません。コシヒカリという品種は、日本全国津々浦々で栽培されていますが、地方ごとに味わいに違いがあります。米どころ新潟県に限定しても、各地区だけではなく、同地区でも田ごとに違いがあり、格付けがなされています。日本でもテロワールという概念は古来より存在していました。土があり、四季折々の風が吹く、テロワールとは「風土」ということなのではないでしょうか。そして「風土」が育んだ味わいが「風味」となるのです。

 ロセ氏の手の下でどのようなシャンパーニュへと醸されたのか。彼はどのような想いをシャンパーニュに込めたのか。ワインを通して、さらに彼の話の中に見出すことの楽しみをお届けしたいと思います。それぞれのシャンパーニュは、何を我々に語るのか?料理とのマリアージュが、お互いの美味しさをどれほど引き立たせるのか?綿々と受け継がれてきた伝統に、ロセ氏の弛むことのない努力と飽くなき探求心を、経験に裏打ちされた匠の技と感を、そして揺るがぬ自信と誇りを、この一夜限りのディナーを通して美酒に酔いしれながら実感してみませんか。10月29日は最高の出会いをお約束いたします。この夜を境に、DEUTZの「違いの分かる男(女)」とならんことを望みませんか?

 

 世界一の収量を誇る果物は、「ブドウ」です。もちろん、生食と加工用を含めてです。世界規模で栽培されているだけに、その歴史は深く、紀元前3000年前には、黒海カスピ海沿岸ではすでに栽培化が成されていたといいます。文明の伝播が、そのままブドウ栽培地という様相を見せる中で、ローマ帝国時代に加速度的に版図を広げたのだといいます。彼の帝国が崩壊すると、ブドウ栽培の伝道者としての役割を担ったのが「修道士」でした。

 キリスト教を布教する目的で、イタリアからフランスへ、プロヴァンス地方を境に、さらに北へ西へと向かっていきました。その際に、拠点となる教会を中心に街を造り上げ、周囲には神聖なる「ワイン」を醸すために葡萄を植え付けていきます。しかし、肥沃な土地は葡萄など植えることなく作物を育て、民に食を提供しなくてはなりません。自給自足のできる農業国フランスとはいえ、昔々はまだまだ未開の地。生きるための糧こそ、まず先に確保しなければなりません。嗜好品のワインは「二の次」だったはずです。そこで、他の作物に比べ屈強な葡萄は、斜面や他の農作物が育たないような不毛の地に植えられることになりました。これが、今のワイン産地の礎を築くことになります。

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 過酷な環境でこそ高品質の葡萄が育つとは、今でこそ周知の事実です。かつては、生きるために必要不可欠な食料を確保しなければならない、その糧が育てられない「不毛な地だからこそブドウしか植栽できなかった」。斜面や地盤の緩い危険な地もあったことでしょう、過酷な環境の中で開拓を進めていったのです。彼らは、試行錯誤を繰り返すも、情報が無い中で多くの生死を分かつ失敗もあったことでしょう。そして、確たる情報もない中で、土壌ごとに適した品種を選び植えつける。先人たちの苦悩と苦労は計り知れません。フランス中央のブルゴーニュ地方を過ぎ、さらに北へ北へと向かった修道士達が行き着いた地は、霜(しも)や雹(ひょう)などの冷害と紙一重の厳しい自然環境もった地、フランス最北の地、シャンパーニュ地方です。

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 ワインを作るのに不可欠なものがブドウです。厳冬を乗り越え、休眠していた樹が目覚め涙する。ほっこりと芽吹き、可憐な花を咲かし小さな緑色の実を成す。葉は緑美しく太陽の恩恵を受けようと広く大きく成長し、夏場の陽射しを十二分に浴びる。白ブドウは透明感のある黄金色に、黒ブドウは色濃く美しいルビーの色あいに、これぞ完熟の証。一年間の弛まぬ努力の成果が秋に収穫という形で訪れます。そのブドウ栽培が、どれほどの苦労と労力を費やし、天候に左右されることか。

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 フランスに限ってみてみると、南の地よりも北の地の方が植えつかれているブドウ品種数が少ないと思いませんか。「品種を選び」と書きましたが、昔は今のような品種の知識はなかったはずです。南より修道士が持ち込んだブドウの品種は、今でいう多種にわたっていたはずです。それを植栽するも、厳しい環境に適応できずに枯死することで淘汰されていきます。生き残った中から、さらに優良株を選別し植え付けていったはずです。結果的に、それが同じ品種であり、「それぞれの地に適応した品種」という形で今なお残っているのです。南に比べ北に向かうほど品種が少なくなる理由は、このあたりに理由があるのかもしれません。

 

 抗することのできない自然の災禍は、何も葡萄に限ることではなく、農産物、海産物全ての産物に当てはまること。古今東西を問わず、刻一刻と変わる天気に一喜一憂することばかりではなく、絶望の淵に立たされるほど自然に打ちのめされることもあったでしょう。それでも、人類は諦めることなく試行錯誤のなかで継続することを選びました。なぜでしょうか?全て美味しいものを育て上げること、手に入れること。その先に、皆様の「口福な食時」のひとときがあるからに他なりません。計り知れない苦労と心労の中で手に入れた産物は、どのような姿に変えようとも、美味しくないわけがありません。生きとし生けるものは、食べなければ生きてはいけません。誰かが丹精込めて育て作らなければ食物を食べることができません。「いただきます」と「ごちそうさま」に込められた感謝の気持ち。これがために人々は頑張れるのかもしれません。

 

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特選情報「10月ダイジェスト版」のご案内です。

花すすき まねく袂(たもと)は あまたあれど 秋はとまらぬ ものにぞありける  藤原元真(もとざね)

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 其処此処で我々に秋の到来を教えてくれる「ススキ」。月とは群を抜いた相性も見せており、過日の仲秋の名月では皆様のご家庭でも活躍したのではないでしょうか。たわわに実る稲穂に似ていることからも、五穀豊穣を祝う祭事でも欠かせない存在です。平安時代に生を受けた藤原元真の頃には、ススキの草原が広々と根を張っていたことでしょう。今では限られた地でしか見かけないものの、それでも自生している立派な秋の風物詩。風になびくように穂を垂れたような姿は、こっちこっちと、まるで我々を手招きしているかのようではないですか。ホラー映画にも出てきそうな場面でもありますが、ここは、秋晴れの下での清々しい光景を思い起こしてください。

 大海原を想わせるようなススキの群生が、我々を秋の玄関口へと手招きしている。それにもかかわらず、秋という季節は、そ知らぬふりをして立ち止まることなく足早に過ぎ去ってゆくものですね。移ろいゆく秋の景色は、一刻一刻と姿を変えてゆく。その変わりゆく美しさに心惹かれるも、もう少しゆっくりと秋を満喫したいものだよ。そのような幽愁(ゆうしゅう)の想いのこもった一句のような気がいたします。

 秋が我々をそ知らぬ顔で過ぎ去るのと同時に、秋の食材もまた待ってはくれません。降り注ぐ太陽の陽射しが万物を育て上げ、四季折々の風はその土地土地に味わいをもたせる。その風のもたらした美味しさこそ「風味」であり、我々はここに「口福な食時」を見出すのです。そして、旬を迎える食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べたものでできています。「美しい(令)」季節に秋食材が「和」する逸品に出会い、食することで無事息災に秋を過ごしていただきたい。この想いを込め、Benoitの10月のダイジェスト版を作成いたしました。

 

皆様にご紹介したい内容は、以下の17件です。

「特別プラン」のご案内 1件

「特選食材/料理/デザート」のご案内 15件

「イベント」のご案内 1件

 

「トレ・ボン!日本のテロワール 特別プラン」のご案内です

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 Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、日本のテロワールの魅力を「トレ・ボン!日本のテロワール」と銘打って、皆様にご紹介していこうと思います。日本の各地方が育んだ食材を通し、まるで彼の地を旅しているかのようにお楽しみいただけると幸いです。

 日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、さらにはこの長文レポートに目を通していただけている皆様の労に報いなければなりません。そこで、特別価格のご案内です。期間は、メールを受け取っていただいた日より、1130日までの平日限定。各コース料理の前菜とメインディッシュは、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

ランチ

前菜x2+メインディッシュ+デザート

4,800円→4,300円(税サ別)

ディナー

前菜x2+メインディッシュ+デザート

7,100円→6,100円(税サ別)

 ご予約は、Benoitへのメール、もしくは電話にてお願いいたします。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

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 秋風が育んだ風味豊かな食材は、他にも多数Benoitのプリ・フィックスメニューに名を連ねます。岐阜県を代表する「飛騨牛」はもちろん、「奥美濃古地鶏」や「郡上クラシックポーク」。香川県のハモや宮城県のサバなどなど。詳細は、このメールの後半でご紹介させていただきます。長い長いメールですが、そのままスクロールしていただけると幸いです。

  今回の「トレ・ボン!日本のテロワール第一回目を記念し、ディナーのプリ・フィックスメニューをお選びいただいた方の中で、岐阜県の特選食材をお選びいただいた方には、飛騨高山の民芸品「さるぼぼ」などの記念品をプレゼントさせていただきます。そう、「うしぼぼ」もあります!さあ今宵の旅路は、いざ岐阜へ!※数に限りがあるので、なくなり次第終了させていただきますこと、ご了承ください。

 

シャンパーニュ・メーカーズディナー「「DEUTZ(ドゥーツ)のご案内です。

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 1838年、ウィリアム・ドゥーツ氏によってピノ・ノワールの聖地、シャンパーニュ地方・アイ村に設立された、シャンパーニュ・メゾン。個性に富んだ魅力的な生産者で、骨格のしっかりとした洗練されたシャンパーニュとして知られています。1996年の社長就任以来、積極的な設備投資と着実なブランディングを行い、ドゥーツ社の名を確固たるものとしたファブリス・ロセ氏。当夜は彼をBenoitへお迎えし、皆様に美味なる理由を語っていただきます。

 彼がコンセプトに大きく関わった「アムール・ド・ドゥーツ」は多くのシャンパーニュファン憧れの1本。それを含むドゥーツ社の誇る5種のシャンパーニュをお楽しみいただく豪華シャンパーニュディナー。DEUTZの魅力を十二分にお楽しみいただける、またとない機会です。

 

Benoitシャンパーニュ・メーカーズディナー「DEUTZ(ドゥーツ)

日時:20191029()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

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ラインナップ

NV Brut Classic

2012 Brut Vintage

2009 Amour de Deutz

2007 William Deutz

NV Brut Rosé

 

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 日本のテロワールテロワールとは、その土地をとりまく自然環境であり気候風土のこと。地方地方で違うのはもちろん、細かく言うと畑の場所場所で違ってくるといいます。斜面や平面、土壌や土壌微生物などもひっくるめて、間違いなく同じ環境などありえません。ブドウの品質に差異が生じるのは、このテロワールが大きな要因である、とはワイン愛好家の常套句でもある便利な言葉です。日本人の場合、「お米」が分かりやすいかもしれません。コシヒカリという品種は、日本全国津々浦々で栽培されていますが、地方ごとに味わいに違いがあります。米どころ新潟県に限定しても、各地区だけではなく、同地区でも田ごとに違いがあり、格付けがなされています。日本でもテロワールという概念は古来より存在していました。土があり、四季折々の風が吹く、テロワールとは「風土」ということなのではないでしょうか。そして「風土」が育んだ味わいが「風味」となるのです。

 秋風吹き抜ける風土で育まれた風味は、旬そのものの味わいであり美味しくないわけがありません。それを、フランス料理という「技」をもって姿を変えた時、皆様の体の中に、得も言えぬ美味しさに満ちた風が吹き抜ける。「口福な食時」のひとときへとご案内いたします。それでは、10月の特選食材をダイジェスト版としてご紹介させていただきます。ランチ限定、ディナー限定とありますが、ご予約の際にご希望をお伺いできれば、ご用意が可能です。お気軽にお問い合わせください。

 

飛騨高山の伝統野菜「宿儺かぼちゃ」が届いています。

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 岐阜県の 飛騨高山に伝承される鬼神「宿儺(すくな)」の名を冠する伝統野菜がBenoitに届いています。大きなサイズになればなるほど栽培が難しくなると言われるなかで、この見事なサイズにまで育て上げられた逸品は、高山市で「かぼちゃ名人」と称される若林さんの手によるもの。シェフ曰く、「かぼちゃ個々にムラが無い」と。

薄い表皮を削ると、見事なほどの黄色がかったオレンジ色が姿を見せます。和かぼちゃの多くは、味わいが素朴であるのに対し、この宿儺かぼちゃはそれとは一線を画します。コクのある甘さを持ちながら、後引く旨さに和かぼちゃらしい優しさがあります。ここに、タマネギの甘さとバターのコクを加え、黄金色のとろりとしたスープに仕上げます。

 洋かぼちゃにはない和かぼちゃの美味しさに舌鼓を打つこと間違いありません。ランチのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。

 

≪フランス産「栗のスープ」が満を持しての登場です。≫

 この時期になると、必ず問い合わせがくるのが、「栗のスープ」です。ビロードのようなという意味の「ヴルーテ」という名前にてメニューに名を連ねます。滑らかでフランスの栗らしい甘さとコクがある。洋栗だけではちろん甘くなる。そこで、味わいを引き締めるために加えるのは、栗の渋皮です。赤ワインのタンニンと同じ「渋味」を加えることで、前菜として立ち位置を獲得したのです。なぜ、毎年秋にBenoitのメニューに登場するのか?あまりにも美味しいからです。お問い合わせをいただく理由をご理解いただけるのではないでしょうか。

 ディナーのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。

 

Benoitのサラダが秋バージョンです。

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 ランチは不動のスタイルを堅持している中で、ディナーは季節を追うようにBenoitサラダが様変わりしてきました。秋も深くなる昨今、ここはシェフのたっての希望もあり、山羊チーズをサラダの上に。フランスのロワール川の中流域は、言わずと知れた山羊チーズの名産地です。チーズ図鑑を紐解くと、出るわ出るわの山羊ミルクのチーズばかりです。その中から、シェフが選んだものが、Sainte Maure(サント・モール)という長細く筒状に整形し、型崩れしないように中央に藁を通した独特の姿。山羊ミルクは、他の牛や羊と違い、酸味が特徴の飲み口の良いミルク。そこで、この酸味を和らげるためにも、ポプラの炭を表面にまぶして熟成させるのです。しかし、今回は料理に使用するため、このミルクの酸味を生かしたい。そこで、炭のまぶしていない真っ白な種類を、シェフは選んだのです。

 このチーズを、2cm程の厚さの円柱状にカットしたあとに、コロッケのようにパン粉をまぶします。サラダを盛りつけると同時に、揚げ油の中へ。熱々を半分にカットしたものを盛りつけます。クルミの香ばしさと食感とのコントラストも、食欲をそそります。秋らしいBenoitサラダは、ディナーのプリ・フィックスメニューの前菜として、お選びいただけます。

 

≪「奥美濃古地鶏とフォアグラのプレッセ」が前菜として登場です。

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 昔も昔の物語。天照大神を岩戸の中に身を隠し、世は闇の中へ。これは一大事と多くの神々が天照大神を岩戸から引き出すために、試行錯誤した様子が古事記に書き記されています。その時に、肌もあらわに踊った天宇受賣命(あまのうずめりみこと)は、芸能の神様として飛騨市河合町の鈿女(うずめ)神社に祀られています。その鳥居の下には「金の鶏」が埋められた。この鶏は天照大神を自ら「天の岩戸」を開けさせるため、気を引くために鳴かせたという「常世の長鳴鳥」だと。そして、この鶏こそ「岐阜地鶏(天然記念物)」の祖先であると。岐阜県養鶏試験場が、この「岐阜地鶏」をもとに、「神代の味」の再現しようと研究を重ね、並々ならぬ努力の末に生み出したのが、「奥美濃古地鶏(おくみのこじどり)」なのです。

 雄大大自然のなかで、のびのびと育てあげられる奥美濃古地鶏。すべての生産者の鶏が、この名を名乗れるわけではありません。岐阜県では奥美濃古地鶏普及推進協議会を発足し、厳しい基準を順守する生産者のみに与えられるもので、定期的に調査を行うことで品質の維持に努めています。この徹底した管理のもとで育てられた鶏肉は、ほんのり赤みを帯びた歯ごたえのある肉質を生み出し、深みのある旨味に満ち満ちています。

 今回は、奥美濃古地鶏の美味しさを十二分にお楽しみいただきたく、シェフのセバスチャンは型の中で重ねていくように仕上げる「プレッセ」という前菜に仕上げました。コクがあり心地良い食感のモモ肉の小ブロックと旨味溢れる胸肉のミンチ、さらにはフランスから届いたフォアグラとトリュフを少々加えたものを、ミンチにしない胸肉で挟み込むように肩に詰めてゆきます。上から軽く押すようにゆっくりと低温で熱加え、冷ますことで完成です。いうなれば、奥美濃古地鶏の奥美濃古地鶏ばさみ。部位の違いは食感や美味しさの違いを生み出し、口に運ぶ場所場所によって、旨さの表情を変えてゆきます。鶏肉の持つ、美味しさを損なうことなくしっとりと仕上げたこの逸品は、「神代の味」を十二分にお楽しみいただけるはずです。時代を超えた神々の世界へ皆様を誘(いざな)うでしょう。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,200円にてお選びいただけます。

 

Benoitのシャルキュトリーに「フランシュ・コンテ地方のパテ」が仲間入りしています。

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 Benoitシェフのセバスチャンが、満を持してメニューに加えてきたシャルキュトリー(肉の加工品)の新作です。このカテゴリーはフランス料理ではなくてはならない伝統の逸品であり、地方地方で特産が加わることで、味わいも千差万別。今回はフランス中央から東部に向かった国境沿いに位置している、旧フランシュ・コンテ地方。彼の地の伝統にならって仕上げた「パテ」です。

 今までの「テリーヌ」と何か違うのか?このフランシュ・コンテ地方のパテは、鶏と鴨のレバーを主体に仕上げるため、柔らかい食感にレバーの旨いがねっとりとくる美味しさがあります。そこへ、豚バラ肉の塩漬けやモリーユ茸、忘れてはいけない彼の地の特産であるコンテチーズが加わるのです。ゆっくりと熱を加えた後に、1週間ほど冷蔵庫で休ませることで、味を落ち着かせ、皆様の下へ。カットした場所場所によって、口中に広がる美味しさの変化もお楽しみください。

 ディナーのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に加わっております。

 

宮城県志津川より南三陸産サバが届きました。

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 海水温が下がってゆき、美味しくなるのは秋鮭やサンマばかりではありません。サバをお忘れではないですか?今期は、「南三陸のマサバ」です。宮城県志津川漁港で水揚げされた鮮度抜群の逸品が、Benoitに直送されているのです。見事なサイズに加え、パンパンな胴回り。捌いているキッチンスタッフは、「脂の乗りも素晴らしいですよ」と話しています。これほどの鮮度の良いものが手に入るのであれば、とシェフが考えたのが、生食でした!生食?

 毎年話題になるのは、サバなどを生食することで起こる食中毒です。原因は「アニサキス」によるもの。もちろん、そんな危険なものをBenoitで皆様に供することはできません。では焼くのか?生とかいているが?ということなのです。この食中毒の対処方法は、60℃以上で1分以上加熱すること。と、もう一つ、-20℃で24時間以上凍らすこと。そうなのです、後者の方法をとるのです。24時間以上凍らせた後に、旨味を逃がさぬようゆっくり解凍します。そして、営業直前に表面をバーナーで焙り香ばしさを加えた後に、すぐに冷やすことで中は生のまま。オーダーが入った時に、このマサバの切身に、心地良い甘酸っぱさに仕上げたエスカベッシュのソースを絡めるのです。

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 鮮度抜群の南三陸の旬のマサバ、生でいただけるこの美味しさは、一食の価値あり。ディナーのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。ランチでご希望の方は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

 

千葉県勝山漁港の「キンメダイ」が届いています。

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 千葉県房総半島の先端から、少し内房に入ったところに位置している「勝山漁港」。東京湾への入り口に位置しているため、内房外房の豊かな漁場から、網で巻き上げられた魚、釣り上げられた魚と、多くの種類が水揚げされる名立たる漁港。しかし、過日の台風15号の惨禍は、例外なくこの漁港にももたらされたのです。漁船はひっくり返る、電気は止まる。早朝から続く暴風雨になすすべもなく、ただ過ぎ去るのを待つことしかできない漁港の人々の苦悩は想像を絶するものでしょう。その惨禍を目の当たりにしたときは…。しかし、勝山の人々の漁師魂は屈強なもので、彼らに諦めるという選択肢はありません。1週間もかからずに、漁船の出港を可能とします。後は通電を待つのみ。そして、この界隈でいち早く復興を成しえたのです。

 養殖業は、壊滅的なダメージを負うも、天然の漁場は豊かなまま。 その中から、Benoitが選んだ魚は「キンメダイ」です。夜中に千葉沖で釣り上げられた勝山漁港のキンメダイは、脂ののりがほどほどに、海流にもまれているからなのでしょう、プリっとする食感と旨味は抜群です。さらに、漁港よりBenoitへ直送するため、水揚げ無しというリスクはあるものの、それ以上に「鮮度抜群」という大きな大きなメリットがあるのです。Benoitへ届けられたキンメダイ大きな目の、吸い込まれそうなほどの透明感が全てを物語っています。

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 プリ・フィックスメニューのディナーのみ、魚料理の選択肢として追加料金なくお選びいただけます。以下に記載いたしますが、フランスより美味しいキノコと組み合わせます。あまりにもキンメダイもキノコも美味しさをうったえてくるため、白身のお魚料理にも関わらず赤ワインのソースです。いったいどのような味わいのマリアージュとなっているのか、気になりませんか?

 

フランスから「キノコいろいろ」が飛行機に乗って到着です。

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 秋の味覚の代表ともいえる「キノコ」。冬本番を迎えるにまえに、ぜひとも味わっておかねばなりません。今は、ピエ・ブルー(シメジの仲間)、プルーロット(ヒラタケの仲間)、ジロール(アンズ茸の仲間)とトランペット・ドゥ・ラ・モー(「死のトランペット」という名前ですが毒キノコではありません)の4種類が、フランスから飛行機に載せられBenoitへ届けられています。ひとつひとつは地味ですが、ちゃっちゃと熱を加えることで放たれる芳しい香りと味わいは、4種それぞれが個性豊かに奏でることで、得も言われぬ美味しさへと変貌いたします。

 メインディッシュでは、ランチはマダイと、ディナーは前述したキンメダイと組みわせ、追加料金なくお選びいただけます。「海の幸と森の幸」がどれほどの出会いを見せるのか。さらに、ともに白身の魚にも関わらず、なぜ赤ワインを使ったソースを組み合わせるのか。きっとこの解答を導きだせることでしょう。

 

香川県小豆島から「島鱧」がBenoit初登場です。

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 香川県小豆島(しょうどしま)。穏やかで温暖な瀬戸内海に浮かぶ県下最大の島です。オリーブ栽培で有名な地ですが、島だけに海産物も豊富。一見穏やかに見える瀬戸内海ですが、小豆島近海は海流が早い。そして、ここはエビが多い海域でもある。ということは、この小豆島近海のハモは、筋肉質で実が締まり、美味しい海老をたらふく食すことで、ハモ自らが旨味をもつことになるのです。そこで、島の北西に位置している四海(しかい)漁港では、乱獲を防ぎつつ、厳しい基準を設けることでハモの品質保持し、他に類を見ない美味なるハモとして、「小豆島・島鱧(しまはも)」の確固たる地位を得ることになるのです。

 では、この美味しい島鱧を、Benoitのシェフはどうするか?もちろん、フランスではお目にかからないハモは、シェフのセバスチャンにとって初めてのこと。焼いたり煮たりと試行錯誤の末、ふっと脳裏に浮かぶフランス伝統の逸品、「リヨンのクネル」だ!フランスでは淡水に棲むカワカマスを使用します。我々には馴染みのないこの魚は、小骨が多く、取り除こうとは微塵にも考えたくないもの。そこで、フランス人は考えたのです、「骨ごとミンチにしよう」と。そして、リヨンが内陸の地ゆえにエビはいない。では、代わりにザリガニで濃厚なソースに仕上げ、カワカマスと合わせようとなるわけです。この発想と同じく、小骨の多いハモは、ミンチにし、団子に姿を変えます。しかし、味わいは雲泥の差ほどにハモが勝る。そこで、海には海のエビでソースを仕上げようと。誕生!「島鱧のクネルBenoit風」です。

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 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,000円、ディナーでは+800円にてお選びいただけます。

 

郡上明宝牧場“クラシックポーク”で仕上げるバラ肉のコンフィと自家製ソーセージがランチに。

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 岐阜市から清流長良川を上流へと上がった先に、山間(やまあい)から突如姿を現す古京都を思わせるような街並み、これぞ奥美濃の小京都と称される「郡上八幡(ぐじょうはちまん)」です。県のほぼ中央、飛騨高地の南側に位置し、山々より湧きいずる美しきせせらぎが落ち合い長良川へ。郡上市のほぼ全域が長良川流域ということもあり、この豊富な水資源は、水路として街並みに引き込まれ、「水の町」としての名声は今でも健在です。

 この郡上市の片隅に、明宝牧場の広大な地が広がっています。澄んだ清らかな水と空気という、この類稀なる自然環境中で、さらにモーツアルトを聴きながら、ストレスなく健やかに育った「クラシックポーク」が特選食材です。最初にBenoitに届いたバラ肉が、あまりの美味しさに、シェフを始めスタッフ一同が絶賛。脂と肉のバランスが良く、特に脂の美味しさは「甘く澄んだ美しさ」です。そのまま食してもかなりの美味なるものを、フランスのシャルキュトリーの「技」にて、姿を変えさせていただきます。

 今回は、肩肉とバラ肉を使い、バラ肉は塩ふって一晩置いた後に塩抜きして焼き上げる。この塩でマリネする一手間が、バラ肉の美味しさを引き出すのです。さらに、肩肉を6割以上加えてバラ肉とともに仕上げるBenoit自家製の生ソーセージ。食品添加物を全く使用しない、クラシックポークそのものの旨味を、フランス伝統のシャルキュトリーの手法で引き出したバラ肉のコンフィとソーセージが、美味しくないわけがありません。

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 プリ・フィックスメニューのランチのみ、肉料理の選択肢としてお選びいただけます。

 

仔牛のバロタンが登場、いったいどんな料理?

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 バロタンとは、なんと馴染みのない名前でしょうか。簡潔明快に説明するならば、「肉の肉巻き」です。ゴボウやアスパラガスなどを豚バラ肉などで巻いて焼き上げた料理はよく見かけるのではないでしょうか。それの肉々しいバージョンとでも言いましょうか。

 仔牛のやさしい旨味に、コクと脂の旨味を足すかのように豚バラ肉を加えひき肉に。さらに、ジロール茸とトランペット・ドゥ・ラ・モーで秋らしい森の風味を加え、イタリアンパセリで緑の味わいを足します。全てまとめたものを、仔牛のバラ肉でくるくると巻き上げる。ゆっくりと低温調理の後に、焼き上げるという、なんと手間暇のかかる料理でしょうか。

 食感の違い、旨味の違いを、シェフによって見事なまでにまるめ上げた、仔牛の仔牛巻き。プリ・フィックスメニューのディナーのみ、肉料理の選択肢としてお選びいただけます。

 

フランスのシャランなる地から「鴨胸肉」が届いております。

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 自分が若かりし頃、フランス料理といえば「鴨料理」だったような気がいたします。鴨南蛮蕎麦などもありますが、あまり和食では馴染みのない食材だけに、絶妙なる火加減で焼き上げた鴨胸肉の美味しさに感動を覚えたものです。今では、鴨肉の美味しさを求めるあまりに、フランスのCharente(シャラント)県へ辿り着くまでになりました。ここは、フランスでも有数の美味なる鴨を育て上げる地域なのです。

 フランス中央から西へ向かい、大西洋に面した旧地方名であるPoitou-Charentes(ポワトゥ・シャラント)地方。2016年に地域圏が再編されることで、大都市Bordeauxを内包するNouvelle-Aquitaine地方に組み込まれました。この北部の中ほどにシャラント県が位置しています。豊かな自然の中で、広大な農地で放し飼いのように育てるブランド鴨。食するものもトウモロコシや麦などを与えることで、旨味が増しています。この鴨胸肉がBenoitに届いているのです。

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 低温調理を施した鴨胸肉を、焼きを入れてから休ませる。この断面のロゼ色の美しさこそ、職人技ともいえる鴨料理の醍醐味。Benoitでは、スライスせずに、このブロックのまま皆様の下へお持ちいたします。好きな厚さでカットすることで、お好みの食感を楽しみながら、噛むほどに溢れる鴨特有の旨味を味わうことができます。プリ・フィックスメニューのディナーのみ、メインディッシュの選択肢の中で+1,200円にてお選びいただけます。

 

Benoitに和牛ブランド「飛騨牛」のランプステーキが登場です。

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 「清流の岐阜」の自然が育んだ逸品。誰しもが知る日本が誇る「和牛ブランド」です。岐阜県の全ての和牛が名乗れるわけではなく、黒毛和種であることはもちろん、飛騨牛銘柄推進協議会の厳しい審査をのりこえた牛肉のみに与えられる称号なのです。その肉質はきめ細かくやわらかで、とろけるような旨味に、舌鼓をうっていただけることでしょう。

 今回は、ランイチという腰の部位を選ばせていただきます。適度に入るサシが肉の旨味を引きたたせる、赤身の多い部位で、ステーキとして楽しむには最適。フランス料理の技法として、特徴的なのが「休ませる」という発想ではないでしょうか。素材を焼き上げた後に、肉でも魚でも必ず「休息の時」を設けます。鉄板焼きの場合には、焼き立てほやほやが提供されますが、Benoitでは、表面を鉄板で焼き色を付けた後に、温かい肉の休息場所へと移されます。肉の中の温まった肉汁は、まさに旨味そのものであり、この休息部屋で過ごす時間は、この旨味をゆっくりと肉に馴染ませるのに必要なひとときなのです。これにより、肉にナイフを入れた時、肉汁があふれでるということが無くなります。カットした一口サイズの肉の塊の中に、美味しさが内包されていることを意味するのです。肉の状態を見極め、切ることなく中の状況を把握せねばならない、まさに職人技。食材の美味しさを、生かすも殺すも調理次第です。飛騨牛の美味しさに感嘆の唸りを上げると同時に、肉の扱いに秀でたフランス料理の真髄を感じ取っていただけるはずです。

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 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+2,500円、ディナーでは+2,000円にてお選びいただけます。

 

岐阜県老舗の和菓子処から“和栗”がBenoitへ、2019年版モン・ブランに姿を変えます。

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 毎年姿を変えるBenoitの栗デザート「モン・ブラン」。2019年はどうなるのか?和栗の収穫を待ち続けてしまったがために、全ての食材がBenoitに集結したのは9月30日、まさに直前だったのです。その2019年版Benoitモン・ブランは、いったいどのように仕上がるのか?今回はBenoitパティシエール田中真理と、アジアを統括するパティシエであるジュリアンのニュアンスが加味されました。ジュリアンはアルザス出身、彼の地は栗デザートです。モン・ブラン発祥の伝統の地でもあるのです。彼の中でイメージしてきたのは、アルザスの伝統的なスタイル「Torche de Marron(トルシュ・ドゥ・マロン)」でした。トルシュとはトーチのことで、トーチの先に輝かんばかりに揺らめいている炎の模した姿のデザートということです。

 昨年に引き続き、岐阜県恵那市の「恵那川上屋」さんより、和栗を炊きほぐしていただいた栗のペーストを送っていただきます。55年間もの間、栗に向き合ってきた彼らの慧眼は本物です。今年は、さらに同県内の大垣市に店を構えること260年という「御菓子のつちや」さんに白羽の矢が立つのです。岐阜県の美味なる栗をつかった「渋皮煮」 を図々しくお願いしたのです。長きにわたり店を盛り立てる和菓子の技術は伊達ではなく、さらりと送っていただいた渋皮煮の美味しいこと美味しいこと。この、岐阜県に綿々と引き継がれる「和の技法」をもって仕上げらえた栗菓子の逸品。この2つの和栗が、Benoitでフランスの栗と出会います。

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 「そのままが美味しいのでは?」と皆様はお思いだと思います。素材が美味しく、確立した技の為せる逸品であり、間違いはありません。しかし、そこのフランスのエッセンスが加味されたとき、和のお菓子とは、一味も二味も違った美味しさを我々に魅せてくれるはずです。2019年のBenoitのモン・ブランは?トルシュの姿だけお披露目いたします。皆様、気になりませんか。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

 

山形県朝日町大谷の遠藤農園さんからりんご「紅玉」」が届きました。

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 自分の 日本国内フルーツ探索が、とうとうリンゴにまで及びました。実りの秋・収穫の秋と言われるだけあり、他の食材に手を取られ、3年間もの期間、手付かずにいた食材です。リンゴはいともやたやすく購入できますが、「紅玉」という品種となると、栽培している方は、軒並み減少します。生食にて、しゃくっとした心地良い食感と甘みに満ちた新品種が続々と登場し、昔ながらの硬く酸っぱいりんごである「紅玉」は敬遠されているようです。しかし、ことデザートとしてリンゴを選ぶ場合、生食にて美味なる日本のリンゴでは、加熱した際に甘すぎて酸味がないため適しません。やはり、紅玉を探さねばなりません。

 今期は山形県朝日町大谷(おおや)の遠藤農園さんから直送していただけることになりました。10月6日に初収穫を迎えたばかりの初物です。この、可愛い小柄な紅玉を、1人2玉半ほど使用して、デザートに仕上げます。皮を剥き、スライスしたものを、ロメルトフというリンゴの形に模した素焼きの器にキレイに盛り込みます。リンゴ以外に加えるものはブラウンシュガーのみ。オーブンで焼くリンゴのそのものの美味しさは、紅玉の心地よい酸味無くして成しえません。今回いただいた遠藤農園さんの逸品を試食した田中は、「見事なバランスで素晴らしい!」と高評価です。過去何度となく直送に失敗した自分の念願が叶い、いよいよ遠藤さんが丹精込めて美味しく実らせた「紅玉をたっぷりつかったオーブン焼き」がBenoitデザートに登場します。

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 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。

 

 ススキの手招きにも応じず、立ち止まろうともしない「秋」への幽愁の想い。憂愁=幽愁と辞書に記載がありますが、ひねくれものの自分はどうしても調べずにはいられなく、我が家に鎮座する「漢字語源辞典」にて調べてみました。

 憂愁は、「悩み苦しむこと、悲しみ」とある。では、幽愁は「心の奥底の憂い、悲しみ」なのだと。分かったようで分からない、同じような気もします。両者に共通する「愁」は、「愁(うれ)い」とも読み、思い悩むことを意味します。また「憂」も「憂(うれ)い」と読み、同意です。そうすると、憂愁は、ダブルで思い悩むことで苦しい、日々の生活の中で起きうる人間関係や、金銭関係などで苦しみながら思い悩むこと。「幽」には奥深いという意があります。そうすると、自分ではどうすることもできない自然の摂理への、手の届かないどうしようもないことへ思い悩むことなのか。こう考えると、過ぎ去る秋への想いは、「幽愁」こそ相応しいのでしょう。

 Benoit特選食材で仕上げた美味なる料理の数々を逃してしまうことは、憂愁なのか幽愁なのか?ここは、皆様個々の判断にお任せいたします。よく見ると、「愁」の字は、秋に心と書いています。思い悩むことが多いのが秋なのかもしれません。ここはいっそのこと、足の赴くままにBenoitへお越しいただき、愁うことなく旬の食材をお楽しみいただく。そうすれば、憂愁でも幽愁でも、どちらもお構いなしという、全て万事解決に導かれるということでしょう。皆様との再会を、愁うことなく心待ちにしております。

 

いつもながらの長文、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸をお祈りいたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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トレ・ボン!日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴≫メニュー確定のご案内です。

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 秋が深まりゆく今日この頃。9月13日には、夕刻には雲多く、半ば諦めかけていた「仲秋の名月」も夜半には見事な美しい姿は、まるで我々を励ましているかのようです。里芋に見立てた団子を積み上げ、ススキを飾り、感謝の気持ちを伝えた方々も多かったのではないでしょうか。そして、23日に太陽の分岐点ともいえるに「秋分」を迎えました。

 日本の季節の目安として欠かすことのできないものが「春分」や「夏至」に代表される「二十四節気」と、さらにそれを細分化した「七十二侯」。詳しい説明は割愛させていただきますが、両者の語尾を並べて作られた言葉が、「気候」です。その二十四節気の中で、季節の基準となる重要な目安となるのが、昼夜の時間が同じになる「春分」と、対をなすのが「秋分」。太陽の周りを一周する期間を1年とすることは周知の事実。しかし、365日では、徐々にずれが生じてくるために、閏年という仕組みで調節します。そのため、春分秋分にもずれが生じてくるのです。

 そこで、国立天文台が太陽の通り道である黄道と、赤道の延長線上に当たる天の赤道が同じとなる時期、我々からすると太陽が真東から登り真西に沈む時期を、「春分点」を毎年算出し、公表します。これが基準となり、秋分はもちろん、それぞれの節気もカレンダーにあてはめられているようです。とうことは、春分秋分の両日は、変動する祝日というわけです。この春分秋分の日を中日に前後3日の7日間、が2019年は9月20日から26日までが「彼岸」です。そして、仲秋の名月が「お月見団子」であるならば、お彼岸は「おはぎ」が欠かせません。

 

 「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく耳にいたしますが、古人の言うとおりに、日中はまだまだ残暑を感じるものの、朝晩には「涼しさ」を感じ取れるようになりました。夏の疲れを「おはぎ」の甘さで回復した後は、食欲がもどってくるというものです。この「食欲の秋」の到来を待ちかまえていたかのように、其処彼処で目にする秋食材は、我々を魅了して止みません。そこで、日本の秋食材と、地方地方に眠る美味なる食材とを組み合わせつつ、フランス料理という「技」を駆使した特選料理の数々が、10月からBenoitメニューに登場いたします。Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、日本のテロワールの魅力を感じ取っていただけるはずです。

 その先駆けとして、皆様には10月1日に「一夜限りの特選メニュー」をご用意いたします。季節食材はもちろんですが、今回は「日本のテロワール」の素晴らしさも感じていただきたく、食を通して旅に出るかのように。日本全国津々浦々に特選食材を見出すことができる中で、今回の旅先は「岐阜県」です。飛騨牛奥美濃古地鶏や郡上クラシックポークが、そして岐阜伝統野菜の宿儺かぼちゃに和栗。岐阜県というひとくくりでは説明できない、育んだ地の魅力に満ち満ちた逸品の数々。フランス料理の技法によって仕上げられた料理に舌鼓を打つことで、まるで食を通して岐阜県へと旅をしているかのようなひとときを体験できるはずです。

 今回は10月にBenoitメニューに組み込まれるものの中から、10月1日のみの一夜限りの特選メニュー 「トレ・ボン!日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴≫」特別メニューを組み立てます。当夜は、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業なのですが、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして岐阜県は語れない」という地の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意です。もちろん、皆様から「選ぶ楽しみ」を奪ってしまうため、特別な価格でご案内させていただきます。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

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Benoit一夜限りの特選メニュー 「トレ・ボン日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴

日時:2019101()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、Benoitへメールをお送りいただくか、直接ご連絡(03-6419-4181)をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

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 さあ、いったいどのような饗宴となるのか。岐阜を代表する食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。食材がほぼ決まり、シェフのイメージするコース料理の流れ、料理内容が確定いたしましました。特選食材のご案内と、垣間見える料理を少しばかりご紹介させていただきます。食材の都合により、直前に変更になる場合もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

≪一口の前菜: 飛騨高山の伝統野菜“宿儺かぼちゃ”の温かいスープ≫

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 岐阜県の飛騨高山に伝承される鬼神「宿儺(すくな)」の名を冠する伝統野菜がBenoitに届いています。大きなサイズになればなるほど栽培が難しくなると言われるなかで、この見事なサイズにまで育て上げられた逸品は、高山市で「かぼちゃ名人」と称される若林さんの手によるもの。シェフ曰く、「かぼちゃ個々にムラが無い」と。

 薄い表皮を削ると、見事なほどの黄色がかったオレンジ色が姿を見せます。和かぼちゃの多くは、味わいが素朴であるのに対し、この宿儺かぼちゃはそれとは一線を画します。コクのある甘さを持ちながら、後引く旨さに和かぼちゃらしい優しさがあります。ここに、タマネギの甘さとバターのコクを加え、黄金色のとろりとしたスープに仕上げます。

 

≪前菜: 奥美濃古地鶏とフォアグラのプレッセ 黒トリュフ≫

 昔も昔の物語。天照大神を岩戸の中に身を隠し、世は闇の中へ。これは一大事と多くの神々が天照大神を岩戸から引き出すために、試行錯誤しる様子が古事記に書き記されています。その時に、肌もあらわに踊った天宇受賣命(あまのうずめりみこと)は、芸能の神様として飛騨市河合町の鈿女(うずめ)神社に祀られています。その鳥居の下には「金の鶏」が埋められた。この鶏は天照大神を自ら「天の岩戸」を開けさせるため、気を引くために鳴かせたという「常世の長鳴鳥」だと。そして、この鶏こそ「岐阜地鶏(天然記念物)」の祖先であると。岐阜県養鶏試験場が、この「岐阜地鶏」をもとに、「神代の味」の再現しようと研究を重ね、並々ならぬ努力の末に生み出したのが、「奥美濃古地鶏(おくみのこじどり)」なのです。

 雄大大自然のなかで、のびのびと育てあげられる奥美濃古地鶏。すべての生産者の鶏が、この名を名乗れるわけではありません。岐阜県では奥美濃古地鶏普及推進協議会を発足し、厳しい基準を順守する生産者のみに与えられるもので、定期的に調査を行うことで品質の維持に努めています。この徹底した管理のもとで育てられた鶏肉は、ほんのり赤みを帯びた歯ごたえのある肉質を生み出し、深みのある旨味に満ち満ちています。

 今回は、奥美濃古地鶏の美味しさを十二分にお楽しみいただきく、シェフのセバスチャンは型の中で重ねていくように仕上げる「プレッセ」という前菜に仕上げます。コクがあり地よい食感のモモ肉の小ブロックと旨味溢れる胸肉のミンチ、さらにはフランスから届いたフォアグラとトリュフを少々加えたものを、ミンチにしない胸肉で挟み込むように肩に詰めてゆきます。上から軽く押すようにゆっくりと低温で熱加え、冷ますことで完成です。いうなれば、奥美濃古地鶏の奥美濃古地鶏ばさみ。部位の違いは食感や美味しさの違いを生み出し、口に運ぶ場所場所によって、旨さの表情を変えてゆきます。鶏肉の持つ、美味しさを損なうことなくしっとりと仕上げたこの逸品は、「神代の味」を十二分にお楽しみいただけるはずです。時代を超えた神々の世界へ皆様を誘(いざな)うでしょう。

 

≪肉料理 1つ目: 郡上明宝牧場“クラシックポーク” バラ肉のコンフィと自家製ソーセージ レンズ豆の煮込み≫

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 岐阜市から清流長良川を上流へと上がった先に、山間(やまあい)から突如姿を現す古京都を思わせるような街並み、これぞ奥美濃の小京都と称される「郡上八幡(ぐじょうはちまん)」です。県のほぼ中央、飛騨高地の南側に位置し、山々より湧きいずる美しきせせらぎが落ち合い長良川へ。郡上市のほぼ全域が長良川流域ということもあり、この豊富な水資源は、水路として街並みに引き込まれ、「水の町」としての名声は今でも健在です。

 この郡上市の片隅に、明宝牧場の広大な地が広がっています。澄んだ清らかな水と空気という、この類稀なる自然環境中で、さらにモーツアルトを聴きながら、ストレスなく健やかに育った「クラシックポーク」が特選食材です。今回は、肩肉とバラ肉を使い、バラ肉は塩ふって一晩置いた後に塩抜きして焼き上げる。この塩でマリネする一手間が、バラ肉の美味しさを引き出すのです。さらに、肩肉を6割以上加えてバラ肉とともに仕上げるBenoit自家製のソーセージ。食品添加物を全く使用しない、クラシックポークそのものの旨味を、フランス伝統のシャルキュトリーの手法で引き出したバラ肉のコンフィとソーセージが、美味しくないわけがありません。

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≪肉料理 2つ目: 飛騨牛ランプポワレ 胡椒風味 自家製フレンチフライ≫

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 「清流の岐阜」の自然が育んだ逸品。誰しもが知る日本が誇る「和牛ブランド」です。岐阜県の全ての和牛が名乗れるわけではなく、黒毛和種であることはもちろん、飛騨牛銘柄推進協議会の厳しい審査をのりこえた牛肉のみに与えられる称号なのです。その肉質はきめ細かくやわらかで、とろけるような旨味に、舌鼓をうっていただけることでしょう。

 今回は、ランイチという腰の部位を選ばせていただきます。適度に入るサシが肉の旨味を引きたたせる、赤身の多い部位で、ステーキとして楽しむには最適。フランス料理の技法として、特徴的なのが「休ませる」という発想ではないでしょうか。素材を焼き上げた後に、肉でも魚でも必ず「休息の時」を設けます。鉄板焼きの場合には、焼き立てほやほやが提供されますが、Benoitでは、表面を鉄板で焼き色を付けた後に、温かい肉の休息場所へと移されます。肉の中の温まった肉汁は、まさに旨味そのものであり、この休息部屋で過ごす時間は、この旨味をゆっくりと肉に馴染ませるのに必要なひとときなのです。これにより、肉にナイフを入れた時、肉汁があふれでるということが無くなります。カットした一口サイズの肉の塊の中に、美味しさが内包されていることを意味するのです。

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 肉の状態を見極め、切ることなく中の状況を把握せねばならない、まさに職人技。食材の美味しさを、生かすも殺すも調理次第です。飛騨牛の美味しさに感嘆の唸りを上げると同時に、肉の扱いに秀で たフランス料理の真髄を感じ取っていただけるはずです。

 

≪デザート・: 岐阜県老舗の和菓子処から“和栗” モン・ブラン ブノワ風≫

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 毎年姿を変えるBenoitの栗デザート「モン・ブラン」。2019年はどうなるのか?和栗の収穫を待ち、待ち続けてしまったがために、いまだその全貌は明らかになっておりません9月も最後の30日に、2019年モン・ブラン用の全ての食材がBenoitに集結するのです。前日ですが、Benoitシェフパティシエールの田中を知るものは、皆様にご案内できないという焦りの中で、任せていれば大丈夫という、何か安心感のようなものを覚えるのです。今までのデザートを知る皆様も、期待感の方が大きいのではないでしょうか?

 昨年に引き続き、岐阜県恵那市の「恵那川上屋」さんより、和栗を炊きほぐしていただいた栗のペーストを送っていただきます。55年間もの間、栗に向き合ってきた彼らの慧眼は本物です。今年は、さらに同県内の大垣市に店を構えること260年という「御菓子のつちや」さんに白羽の矢が立つのです。岐阜県の美味なる栗をつかった「渋皮煮」を図々しくお願いしたのです。長きにわたり店を盛り立てる和菓子の技術は伊達ではなく、さらりと送っていただいた渋皮煮の美味しいこと美味しいこと。この、岐阜県に綿々と引き継がれる「和の技法」をもって仕上げらえた栗菓子の逸品が、Benoitに集うのです。

「そのままが美味しいのでは?」と皆様はお思いだと思います。素材が美味しく、確立した技の為せる逸品であり、間違いはありません。しかし、そこのフランスのエッセンスが加味されたとき、和のお菓子とは、一味も二味も違った美味しさを我々に魅せてくれるはずです。2019年のBenoitのモン・ブランは?皆様、気になりませんか。

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※苦手な食材や、アレルギー食材が組み込まれている場合には、お教えいただけると幸いです。アレンジするか、別の料理を提案させていただきます。

 

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパーニュ、白・赤ワインの計4杯のセットで、お一人様6,000(税サ別)にてペアリングをご用意しようと思います。数量に限りがあるため、当夜では承れないことがございます。ご希望の方は、ご予約の際に、「ワインとのマリアージュ」希望とお伝えいただけると幸いです。今回のワインのラインナップは以下を参照ください。

2012 Louis Roederer rosé vintage

2009 Riesling grand cru Schlossberg Albert Mann

2015 Chassagne-Montrachet 1ercru Les Caumées François D’Allaines

2004 Château Quinault L’Enclos

 

 山の頂から流れ落ちたせせらぎが、谷間を縫うように落ち合い、やがて岐阜市内を悠然と流れゆく。世界農業遺産に認定されている長良川は、まさに天からの贈り物ではないでしょうか。この豊かな自然が育んだ食材の数々はあまりある魅力にあふれ、我々を魅了してやみません。世界無形遺産に登録されたフランス料理の「食の技」によって姿を変えた時、新たな美味しさの感動を、歴史と伝統がつくりあげる食のマリアージュをお楽しみください。

 

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  冒頭でも書きましたが、秋の彼岸には「おはぎ」をお供えすることで、五穀豊穣と家族を見守ってくれているご先祖様への感謝の意を伝えます。何度となく自分の長文レポートに登場する「秋の七草」。筆頭に上がるのは「萩(はぎ)」の花です。そう、「おはぎ」は、秋に咲き誇る「萩の花」に見立てたものといいます。では、「春の彼岸」の時は、何をお供えするのか?春は「ぼたもち」、牡丹餅と書く通り、牡丹の花に見立てた丸い形だそうです。幸せを呼ぶ赤い色の小豆(あずき)は、赤飯を代表するように祝い事には欠かせません。その小豆も、収穫したての外皮が柔らかいものは、そのまま「粒あん」となり「おはぎ」へと姿を変えます。ながらく時を過ごして乾燥した小豆は、漉すようにして「こしあん」となり「ぼやもち」へと。諸説はあるかと思いますが、ついつい「なるほど」と頷いてしまいます。

 その「秋のお彼岸」も終わりを迎えました。それと同時に終わりを迎えるものがあると古人は遺しています。七十二侯で区分けされた秋分初侯は「雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)」といい、春分末侯の「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはっす)」と、これまた対をなすかのように始まった、雷鳴轟かす時期が終了するというのです。もくもく入道雲にピカピカゴロゴロの光景は、夏の風物詩そのもの。そう、「雷」は「神鳴り」とも書き、人が抗することができない神の怒りの象徴「神業」といい、夏の季語になっています。しかし、その象徴ともいうべきイナズマは、なんと秋の季語です。なぜでしょうか?

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 イナズマは、漢字で書くと「稲妻」。古語の「妻」は夫と妻の共用、ということは、稲にとって欠かせない役割を担うもの。稲に実りを導く神の一手というのです。古人は、夏場は怒りの矛先が向かぬようひたに祈り、秋は豊作をいざなうために祈念する。ピカリと照らされた田は、見事に稲穂の頭を垂れるというのです。

 もちろん何の因果関係もありません。しかし、過酷な労働に加え、自然の気まぐれに翻弄されながらの農の営みは、何か目に見えるものに、実り多き収穫を約束してもらいたいと願うものなのではないでしょうか。それが神の成せる業の神鳴りへ向かい、出会いたくない畏怖の雷から、招き寄せたい感謝の稲妻へ。これがひとつのゲン担ぎとなり、迎える収穫という一大イベントを乗り越える力となり、来季への活力へとつながる。其処彼処で執り行われる「お祭り」は、五穀豊穣を神々に感謝するものであり、新嘗祭などの規模の大きさは、人々が不安の中で切に願うその気持ちの表れなのでしょう。

さあ、Benoitで秋の収穫祭を楽しみましょう。すべてに感謝の気持ちをこめて、「いただきます」と。

 

いつもながらの長文、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸をお祈りいたします。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特選食材「新潟県白根 山田さんの≪白根白桃≫」満を持しての登場です。

野分(のわき)する 野べのけしきを 見るときは 心なき人 あらじとぞ思ふ  藤原季通(すえみち)

 野分(のわけ/のわき)とは、野を分けんばかりの暴風雨、今でいう台風のこと。野分の暴風がふきすさぶ光景を目の当たりにした時、抗しがたい自然の猛威になすすべなく、ただただ恐れおののくのみ。野分が過ぎさり、耐え抜いた樹々の中で、無念であったろう老木は裂け、若枝もまた。自然への畏怖の念をいだかずにはいられない。そう、思わない人はいないのではないだろうか。伊勢の船乗りは、暴風が吹き荒れることの多い日を、長年の経験から「二百十日(にひゃくとうか)」と「二百二十日(にひゃくはつか)」の雑節として、後世に残し船出を控えたといいます。立春から数えて210日目と220日目、2019年は、9月1日と11日です。

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 台風15号が関東に上陸し、千葉県を中心に甚大なる被害をもたらしました。かつては、空の機微を、はたまた動物たちの本能からの行動を読み取り、野分の到来を予測していたことでしょう。知らず知らずのうちに忍び寄る自然の猛威は、どれほどの恐怖であったでしょうか。今や、天気予報の精度は格段に向上し、台風の進路も状況も多少の誤差こそあれ把握できる時代となりました。今回の災禍は、人々が自治体が決して油断していたわけではなかったはずです。しかし、古今東西を問わず自然の猛威の前には、どんなに準備万端でも、なすすべはありません。

 皆皆様におかれましては、無事息災であることを願うと同時に、いまだ不自由な生活を強いらっしゃる方々には、いち早く平穏な日々を迎えることができるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。台風一過の鉄道の運転再開予定時刻が時と進むと同時に遅れ続けていったことや、千葉県の停電回復のめどについては、錯綜する情報の中で、少しでも我々に希望の兆しを届けようとの想いがあったものと思います。9日未明より不眠不休の、文字の如くに「必死」の復旧対応を続けてくださる方々には感謝の言葉しかございません。今のBenoitが営業できることは、彼らの尽力なくしてありえません。重ね重ね御礼申し上げます。

 

 ここ数年の世界規模での異常気象は、日本も例外ではありません。いままで逸れていた台風の進路が北上し、本州に上陸し続ける理由も、一因はこのことに関係しているかもしれません。和歌山県桃農家の豊田さんは、「亜熱帯化しているようで、桃の栽培方法を考えなければいけない時にきている」といい、千葉県の勝山漁港の漁師さんは、「海水温が上がっているようで、海流が読めない」といい、「野菜の高騰」がニュースとなることも、毎年の恒例のようになってきています。日本津々浦々より食材が集まる豊洲を代表とする「市場」のシステムが、あまりにも素晴らしいために、多少の過不足はあるものの欲しい食材が手元に揃います。ところが、原産地の良さを生かそうと指定した地より手に入れようとすると、この自然がこう教えてくれます。「人間が自然の産物をカレンダーにあてはめるとは、なんとおこがましいことよ」と。

 Benoitでは、今期に「白桃前線を追え!」と勝手に銘打って白桃の購入先を選んでいました。山梨県、次いで福島県、長野県の日本に於ける三大銘産地からではなく、他地域の美味しい桃を皆様に紹介していこうと考え、7月は「和歌山県桃山町の豊田さん」、8月は「岐阜県飛騨高山の亀山さん」へ、9月は「新潟県白根の山田さん」へと繋いでいく計画をたてたのです。収穫予想カレンダーと品種を鑑みた今回の計画には自信がありました。ところが、所詮は素人が立てた、机上の空論だったのです。皆様周知の、昨年の台風の傷が癒えぬ中で、今夏の長雨と日照不足が、大きく大きく影響を及ぼしたのです。和歌山県の豊田さんから岐阜県の亀山さんへは、薄氷を踏むような感じですが、何とか繋ぐことができたのです。そして、9月の新潟県の山田さんへと引き継ごうとした。ところが

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「白根白桃の収穫が遅れた」

この「白根白桃」とは新潟県の果樹の一大産地である白根(しろね)の地名を冠する、新潟県が生み出した白桃の品種名です。新潟県の桃栽培の最後を飾る晩生の桃で、通常は8月後半から収穫が始まり、暑さ穏やかになる時期にあたるため、熟すのがゆっくりとなり、9月半ば過ぎまでと意外に長い期間の収穫が見込めるのです。なぜ、Benoitが桃のデザートを3か月もの期間続けるのか?この白根白桃の美味しさを皆様にお伝えしたかったのです。関東では、この時期に「福島県」という大御所が君臨しているため、収量少なく桃のイメージの少ない新潟県の白根白桃は、北海道の方向へと出荷されるというのです。自分が昔ながらに親しんだ新潟県の桃の美味しさをして知っていただきたい、この強い想いから「白根白桃」の収穫を待っていたのです。しかし、「遅れた!」

 8月も半ば過ぎ、朝8時ほどに電話がかかってきた。「申し訳ない、今期の白根白桃の収穫は遅れそうだわ」と。今回の「白桃前線を追え!」の話を新潟県白根の山田さんに話していたため、この白桃の継投を危ぶんだ山田さんの心遣いだ。いつも思う、どの生産者も、出荷量が確保できない時や収穫が終了する時などに、「申し訳ない」と本当に申し訳なさそうに伝えていただける。確かに、美味なる食材が手に入れることのできない寂しさはある。しかし、自然産物である農産物・海産物が、そんな人間の勝手気ままに合わせてくれるわけではない。お気持ちを嬉しい、ただ一生産者の方から購入するということは、このようなリスクがつきものであることは十分に理解しています。今までも多くのお客様に、「収量が少なくて」と謝罪するも、誰一人として怒り出すようなお客様はBenoitにはいらっしゃらない。このお話は、山田さんにも話していた。彼が危惧していたのは、Benoitの桃デザートに、空白を作り出してしまうことだった。

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 この早い段階での山田さんの一報が、どれほどBenoitにとっての救いとなったことか。豊洲経由で桃を購入することで、繋ぐこともできる。この素晴らしい市場システムは、自分へ安心感を与え、「諦めずに白桃前線を追い続けろ!」と叱咤激励しているようだ。今回は岐阜県飛騨高山の亀山さんから、飛騨桃の晩生の品種「昭和白桃」購入させていただくことにし、新潟県の白根白桃を待つことにすると心に決めた。いったいいつから収穫できるのか?小野不安が日々脳裏によぎるも、全ては「自然の産物」、つべこべ山田さんと話をしても始まらず「時を待つ」しかない。山田さんも生粋の農家さんだけに、逸(はや)る気持ちを抑え桃が熟すのを待つのみ。

 待ち遠しいと思うほど、時の流れは緩やかに長く長く感じるもの。山田さんからの連絡は、9月初旬まで待たなければなりましでした。「初収穫を送り出すよ!」と、待ち遠しかったこの時が、ついに訪れたのです。翌日に届いた段ボールを、パティシエチームとともに、焦る気持ちを抑えながら、箱を開けると美しい白桃が丁寧に納められている。優しい白桃の香りが広がり、美しい桃色。産毛の輝きは鮮度の良さの証でもある。とうとうBenoitデビューと手にした時、大事なことを忘れていたことを、この白桃は自分に教えてくれた。そうだ、山田さん言っていた

「白根白桃は追熟させる桃です」と。

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 白根白桃が熟した今、期は熟しました。皆様、お待たせいたしました。桃次第ではありますが、17日前後から、この「白根白桃のピーチ・メルバ」が、Benoitに登場します。2019年Benoitのピーチ・メルバは、甘さを控えることで、白桃の美味しさを十二分に感じることのできる、過去10年間では最高の仕上がり。今期、和歌山県から岐阜県を抜け新潟県へと傾倒していった、「白桃前線を追え!」もとうとう最後の品種を迎えました。「ところ変われば味わいも変わる」ことを知ることができます。すでに、Benoitで、7月・8月とこのデザートをお召し上がりいただけた方にも、ぜひお勧めしたい逸品です。「白桃」という食材を通して、旅行をするかのように、美味しさの違いをお楽しみいただけます。

 白桃の風味を損なうような煮込みは一切行いません。食感と繊細な風味を生かすために、ラズベリーを利かせたジュースとともに、そのまま半日ほど漬けるようにした桃半実。妥協のないバニラビーンズを使った軽やかな生クリームと濃厚なバニラアイスクリーム、アーモンドのパリパリの食感と香ばしさを出したポリニャックを飾り、カラントの甘酸っぱいジュースをともに。食感と甘さ・酸味のバランスを意識した伝統を踏襲しつつも、新たなピーチ・メルバの世界へ皆様をご案内いたします。かつて天才料理人エスコフィエ氏が、オペラ座で奏でたソプラノのメルバ女史に心打たれたことで誕生したというデザートが、今度は「甘み・酸味・食感」のハーモニーを奏でることで皆様の心にうったえかけてきます。

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 ランチでもディナーでも通常のプリ・フィックスメニューの選択肢の中で+800円でお選びいただけます。しかし、日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、さらにはこの長文レポートに目を通していただけている労に報いなければなりません。そこで、特別プラン延長のご案内です。期間は、メールを受け取っていただいた日より、白根白桃が終わるまでの平日限定。各コース料理の前菜とメインディッシュは、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

 

ランチ

前菜+メインディッシュ+桃デザート

4,600円→4,000円(税サ別)

ランチ

前菜+メインディッシュ+桃デザート+もう一つデザート ※

4,800円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+桃デザート

6,900円→5,520円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+桃デザート+もう一つデザート ※

6,400円(税サ別)

※夢のダブルデザートプランの復活です。デザートはピーチ・メルバx1でいいから、前菜x2がご希望の方も、同価格で承ります。

 

 ここ最近の動向の読めない暴風雨の数々、過去に和歌山県を直撃した際に、桃の収穫ができずに終了を迎えたことがございます。なにゆえ自然のことゆえ、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。ご予約の際に、「ピーチ・メルバ希望」とお伝えいただければ幸いです。ご予約は、このメールへの返信、土日や急ぎの場合には、

www.benoit-tokyo.com

よりお願いいたします。もちろん電話でもご予約は快く承ります。

 

新潟県で桃?米どころで名を馳せる越後が、美味しい桃を産するのか?皆様の率直なご意見かと思います。そこで、「白根物語」としてなぜ桃を栽培しているのかを「はてなブログ」に書いてみました。お時間のある時に、ご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

 「白根白桃」。新潟県出身の自分だからこそ知りえる、白根の白桃の美味しさ。甘いだけではない、味わいのバランスの良さとしゃくっとした心地良い歯ごたえ、後引くの旨味をもっています。新潟県の方々は郷愁の念にかられることでしょう。そして、他県の方々には、新潟の自然が育んだ白根白桃が、美味しい桃というページに刻み込まれることになると思います。野分のような暴風雨は別として、その地方地方を吹く風は、雨を呼び、病害を減らす役割を担い「風土」を形成します。その風土で育まれた産物は、同じ品種であっても千差万別。その美味しさは「風味」という。そう風が地の美味しさをもたらすのでしょう。 

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

新潟県白根 山田さんの≪白根白桃≫のご案内です。

 其処此処(そこここ)に秋を感じることのできるこのごろ。樹々は秋の実りの準備すすめ、足元では秋草が花開く。見上げれば入道雲は影を潜め、うろこ雲やいわし雲がうっすらと広がる。この「行き合いの空」を吹き抜ける風もまた、朝晩には「涼風(すずかぜ)」となり、虫の音を響かせているかのよう。この秋を待っていたかのように、「白桃前線を追え!」はアンカーの新潟県白根代表品種「白根白桃」へとバトンが渡されました。

 米どころで有名な新潟県ですが、白根という地域は、知る人ぞ知る県下最大の果樹栽培地なのです。いったいどのような地なのか?今回は、過ぎし夏の盛りのころのお話です。

 

 東海道中山道などの五街道日本橋を起点にしているのに対し、日本の中枢を担う鉄道は「東京駅」から広がります。乗降者数は新宿に及ばないものの、堂々たる第3位。しかし、悲喜こもごもの感傷が、他の駅との違いを鮮明にしています。暑さ盛りの頃ともなると、悲しみを抱えている人よりも、期待と希望に満ちている人々が満ち溢れています。特にこのホームでは、暑さに疲弊している感は否めませんが、里帰りや旅行に出かける人と、東京に旅行に来ている人が交錯する場所となります。これが、他の駅とは一線を画するところなのではないでしょうか。子供たちの喜びの雄叫びがこだまする夏は、「なにごとも楽しみなさい」という童心を思い出しなさいと大人に促しているかのようです。

 東京駅から四方八方に向かう新幹線乗り場。緑色のご案内に従い向かった先に辿り着くホームで待ち受けるのが上越新幹線です。東海道新幹線が「青いライン」、上越新幹線が「緑のライン」という懐かしい姿が特徴でしたが、今やどの新幹線もハイカラなお姿に変わり、まるでカモノハシのよう。この感想を抱く時点で、自分も年を取ったのでしょう。今回は上越新幹線に乗り込み、9月のBenoitの特選食材が育まれた地へ向かいます。東北や関西ではありません。上越新幹線ですから、越後の国「新潟県」です。

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 上越新幹線が越後トンネルをくぐり抜けると、川端康成の小説「雪国」の舞台「湯沢」、さらに進むと幕末時代に繰り広げられた北越戦争の舞台、時代の趨勢に翻弄された「長岡」へ。さらに過ぎると、世界に誇る銀器を作り出す「燕・三条」、その次は終点の「新潟」です。今回ご紹介したい地は、燕三条駅を過ぎてすぐ、進行方向右手に見える「白根(しろね)」と呼んでいる地域です。新幹線の車窓からは、「米どころ」の名声を勝ち得ただけあり、見事なまでの田園風景が広がります。その中にあり、この白根地区は稲作も行っていますが、新潟県人であれば知らぬ者はいないほどの「フルーツ」の産地なのです。今では市町村合併により、白根市新潟市に加わり、新潟市南区白根へと名を変えました。

 今から300年ほど前、江戸時代も中期にさしかかろうとする頃には、すでに新潟県での「ナシ」の栽培が始まっていたといいます。越後平野を流れる2大河川、信濃川阿賀野川。この流域で頻繁に見舞われる水害は、人々を疲弊し、水に強い他の農作物を模索するということは自然の成り行きだったのでしょう。そこで白羽の矢が立ったのが「ナシ」でした。すでにこの時代にあり「越後のお国自慢」として、幕府に献上していたという記録が残されています。もちろん、今馴染みの「ナシ」とは別物で、「類産(るいさん)」という品種だったようです。しかし、他の食味に優れた今の和梨によって淘汰されることになり、日本に残る唯一の原木が新潟県の月潟(つきがた)に残っているのみ。1941年に国指定天然記念物「月潟の類産ナシ」です。新潟市南区別当(おおべっとう)に今もその雄姿を見ることができます。皆様気付かれましたか、白根も大別当(合併前は月潟村大別当)も新潟市「南区」です。

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 信濃川長岡市を過ぎ、三条市に入ると、二手に分かれます。本流が信濃川であれば、支流は画像にある「中ノ口川(なかのくちがわ)」です。この並行するように流れる2つの河川が、新潟市の西区で再び落ち合います。分流する地域が「月潟」、両河川に挟まれた中州のような地の中心に「白根」です。さて、総延長は日本一、と小学校で習った信濃川です。ひとたび大雨によって増水した場合、どれほどの規模で氾濫したことか。まして、下流域が晴れていても、上流で大雨だった場合などは、情報の伝達に時間のかかる昔であれば、日々の生活の中でいかほどの恐怖が付きまとうことでしょうか。実際ご覧いただくと、本流の信濃川も支流の中ノ口川も、日本最長なのかと疑いたくなるほどの川幅です。中州である白根地域は、ひとたび信濃川が暴れ出すと手の施しようもないほどの冠水に見舞われるということも、納得していただけるのではないでしょうか。戦国時代に活躍した直江兼続が、この惨状を見かね、中ノ口川の治水に取り組むも、一定の効果を生み出しましたが、並々ならぬ自然の力に抗することはできませんでした。肥沃な地ながら、水との戦いを余儀なくされ、自然堤防の決壊に幾度となく辛酸を舐めること幾度となく。この難題を解決に導くのに、1922年の大河津分水路の完成まで待たねばなりません。

 大河津分水路によって、低湿地帯や沼地の多かった白根地域が飛躍的に発展していきました。しかし、白根の人々が完成まで手をこまねいていたわけではありません。試行錯誤の治水事業に取り組み、先祖代々受け継がれてきたこの肥沃な地を生かしたいとの切なる想いのもと、彼らは少しでも河川氾濫の被害に見舞われない地には稲を、それ以外の地には少しでも水害に強い農作物をということで、「類産ナシ」を選んだはずです。さらに、大河津分水路の完成の前後には、類産ナシから、品種改良された食味のいいナシへ。時同じくして、夏の果樹の代表ともいうべき「桃」という選択肢が出てきました。古来、中国より持ち込まれた桃は、北方系の品種だといい、桃太郎の絵本に出てくる先のとがった形の桃でした。 南方系が日本に持ち込まれ、偶発実生(意図的ではない自然の交雑から生まれた品種)によって生まれたのが、今の「まん丸の桃」の原型だと言われています。意外に歴史は浅く、時は明治に入ってからです。この美味しさに着目したのでしょう。

 新潟の冬は、シベリア高気圧が日本海を通過する際に、「北西の季節風」を導き、対馬海流(暖流)の蒸発した水分を大量に含んだ大気を越後山脈にぶつけるため、冬の間は厚い雲に覆われ雪深くなるのが新潟です。だからこそ豊かな水資源を得ることができるのですが、空は雲に大地は雪に覆われてしまう冬の間は、如何せん作物を育てるには不向きです。そして夏は、日本海の低気圧に吹き込むような南風が、日本海側の特徴的な夏の気象現象であるフェーン現象引き起こし、猛暑になる厳しさはあるものの、光合成に十分な日照時間を獲得できます。特に美味しい桃になるには、5~6月の陽射しが不可欠といい、果物王国の山梨県、長野県や福島県よりもこの期間の平均日照時間が長いのです。では、新潟県全土で最高品質の桃が育つのか?この豊富な日照時間は、新潟全土を「米どころ」にしているのは間違いありません。しかし、果実王国にはしていない。理由は、「季節風」が思いのほか強いのです。

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 桃農家さんにとって避けては通れない、「モモ穿孔(せんこう)細菌病」。この細菌病は、風雨によって感染していくうえに、枝に感染し越冬したものは春に枝を枯らし、春の小さな青果に感染したものは、熟していく果実の果皮を穿(うが)つ。美味しいにもかかわらず、1級品としての商品価値を失い、果汁が豊かなフルーツだけに、表皮の裂け目から果汁が漏れ、別の病原菌を誘引することにもなります。感染経路が「風・雨」なだけに防ぎようがなく、どうやって被害を最小限に抑えるかのみ。強い風は、この病気を蔓延させ、無風は他の感染症を導く。適度な風が健全で美味しい桃を育て上げるのです。先に添付した新潟県の地図をご覧いただきたいです。夏の南風は越後山脈が防ぎ、フェーン現象の影響で、山越えは乾燥した空気となり勢い削がれた風が平野を覆う。新潟県の地形上、春の西風、さらに海沿い特有の強い浜風を防ぐものはありません。しかし、「白根」に注目していただくと、西には、弥彦山が聳えています。麓に弥彦神社を据え、このスカイツリーと同じ標高634mを誇る山塊全てが神域。この霊峰が、白根を新潟屈指の桃の産地にしているというわけです。

 

 新潟県南区白根地域、清水という地に居を構える山田信義さん。清水という地は、前述した「月潟の類産なし」が現存している地から、中ノ口川を挟んだ向かいにあります。まさに白根地域の中州の中。果樹に関しては県下一の品質と収量を誇る地域です。彼の地で桃栽培のほかに、新潟県なので稲作はもちろん、日本一を誇るチューリップ栽培も行っている、代々農を生業としているプロ中のプロ。山田農園さんではあるのですが、特に小売りをしているわけではない栽培の専門職で、今期Benoitに特別にご協力いただいたのです。自分の夏の帰郷に際し、どうしてもお会いしてお礼を伝えたく、訪問させていただきました。「今から伺ってもよろしいですか?」という自分の無計画な要望を、快く受けてくれるほどの寛大さです。本当にありがとうございます。

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 住所を聞いての、白根地域の清水に到着したときが、ちょうど農協への納品に行っており、民家のなら部小道の中で待つこと5分ほど、ライムグリーンのお洒落な軽トラックでさっそうと登場した山田さん。選果場では、母様もおり、「親戚け?」と信義さんに質問が飛ぶ。そう、まさに個人宅の訪問です。お母様も交えての桃談義は、昨今の現状を知る上で、大いに貴重なものでした。近代化された選果場で目にする「糖度センサー」なるものに頼らず、代々引き継いできた経験に裏打ちされた厳しい目で選果される現場。選果に漏れた桃は、確かに傷がついてはいるが香り高く、産毛が痛々しい。そして、新潟県の猛暑の中、桃畑まで案内していただきました。

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 樹々の間に十分間をとり、程よく生い茂る下草。生い茂る色濃い緑の葉が、樹の健康状態を物語っています。 「安心・安全な美味しい桃」とは、言うは易く行うは難し。新潟県白根のブランドを背負う以上は、栽培者皆が共通の志を持ち、実践しなければなりません。有機栽培の徹底は、肥沃な土地に加え微生物による理想的な生態系サイクルを作り上げます。さらに、病気の蔓延を防ぐうえで、畑への適度な風通しを実現すべく、山々を抜けてくる畑の風の通り道を考へ植樹していく。甘くて大きく、深みのある桃に仕上げるため、1本の樹での収量を抑えるための徹底した摘果、収穫適期を見極め健全な完熟での収穫へのこだわりは、傷みやすい桃だけに、細心の注意が払われ丁寧に摘みとられます。桃を、まるで我が子のように丹 精込めて愛深く育て上げる。さらに、「白根は昔から味で勝負してきた産地だ」、という白根魂を頑なに守り続けた父・母の背中を見て代々引き継いできたからこそ、妥協という文字はない。彼の仕事の丁寧さは、畑に現れ桃の美味しさに反映される。

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 少しでも美味しい桃を長い期間提供できるようにと、収穫時期の違う白桃の品種を選び植栽しています。山田さんの桃カレンダーには「なつっこ」、順に「山根白桃」「川中島白桃」「ゆうぞら」、そして最後は「白根白桃」と名を連ねます。桃の品種は数え切れず、各地で生み出されたものはその地名を名に冠する、桃とはいえまさに食味は千差万別。ここでも白根魂が。上記の品種は、生産性の高い(作りやすい)品種ではなく、栽培が難しくても食味のいい品種を選んでいるのです。晩生の「白根白桃」は、その名の通り白根が発祥の品種です。

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 彼のカレンダーでは、「白根白桃」は、8月末から収穫が始まり、9月末までの期間が記されていた。しかし、自然はそう簡単にカレンダー通りに事を進めてくれないものです。今期の白根白桃の収穫は、9月初旬に始まり、先日の14日をもって終了したのです。「え?終わりなの」という問いに対して、収穫は終わりましたが、この白桃は追熟タイプなので、Benoitのパティシエルームで大切に保管されています。本格的にBenoitに届いた白根白桃が、デザートにデビューするのは、17日前後と予想しています。それほどまでに、追熟を要するのです。美味しい桃だけれども、関東では見かけません。その理由は、追熟させなければならないという気難しさが、最大の要因なのでしょう。

 あまりにも新潟県が「米どころ」として全国にその名を轟かしているため、他の農産物のイメージがつきにくいかと思います。今回の特選食材の「桃」の日本全土での収穫量を見てみると、岡山県に次いで第7位が新潟県です。しかし、新潟県に「桃」のイメージが無いため、ほとんどが地産地消ということは前述しました。大消費地である関東に桃を出荷する場合、全国収穫量ダントツ1位の山梨県、2位の福島県、そして第3位の長野県と競合ひしめく中で勝負をしなければなりません。この状況の中で知名度の低い「新潟の桃」を送り出しますか?普通に考えれば出荷しないでしょう。そこで、直接に桃栽培のプロフェッショナルから購入することにしたのです。地産地消で十分にもかかわらず、山田さんがBenoitへ桃を送ってくれる理由は、「新潟白根の桃」に大いなる自信があればこそ。この新潟白根の威信にかけた桃が美味しくないわけがありません。

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 桃畑の上空を颯爽と飛んでいるのは鷹の案山子(かかし)です。上空で赤くは根を広げている姿で、桃を食い散らかす小動物たちを警戒する役割を担う、最近の流行りなのだといいます。「流行りということは、効果抜群なのですね」と語る自分に、山田さんは「それほどの効果はないですよ」と。ないよりは良いのかもしれないと思いつつ、周りを見渡すと凧ばかりではなく、クジラも優雅に空を泳いでいました。人間と動物との攻防は、騙し騙されつつ、いまだ終わりを迎えようとはしていません。我々が美味しいと思う桃は、動物にとっても美味しいということなのでしょう。

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 山梨県、埼玉県さらには長野県の県境にそびえる甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)を源流に、長野県内では千曲川(ちくまがわ)と呼ばれた清流が、新潟県に入ると名を信濃川と名を変えます。越後山脈谷川岳によりもたらされる豊かな水脈を源に発する魚野川(うおのがわ)は、長岡市のあたりで信濃川に落ち合います。さらに、信濃川の北には阿賀野川(あがのがわ)、北は荒川で南は関川と並行する何本もの大きな川が、豊かな水資源を約束し、この水の流れは山々で培われた肥沃な土が流域へもたらすこととなり、越後平野を形成します。新潟県を「米どころ」たらんとする理由はここにあります。しかし、この豊かな水の流れは、時として牙を剥き我々に襲いかかります。今年の西日本豪雨による未曽有の惨禍は記憶に新しいものではないでしょうか。多くの人々を養うことのできる肥沃な地は、人々が集まり村を形成していく。自然の脅威を甘受するうえで成り立っていることを忘れてはいけません。この越後平野も例外ではありません。

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 古来より多くの賢人が水害対策に挑むも、信濃川龍神にことごとく蹴散らされること数知れず。前述したように、直江兼続でさえ中ノ口川の暴れまわる流れの軌道を整えることのみ、洪水を防ぐまでには至っていません。1896年に本流の信濃川三条市横田で300m破堤した未曽有の大水害(横田切れ)では、遠く河口近くの新潟市中心部まで水が達したといいます。この終わりなき水との戦いに疲弊しつつも、畏怖の念を忘れずにいる。全てを飲み込み、根こそぎ流してしまう水の力。ひとたび勢いがついた時には、人々は成すすべなく運命に身を任せるのみ。これほどのリスクがありながら、この地に居を構えることは無謀なことのように思えます。しかし、今や「越後平野」として日本有数の穀倉地帯としての名声を博するまでになりました。そこには、先祖代々守り続けた地を離れることを良しとしない越後人の心意気、そして必ず成しえるという強靭な精神力、弛まぬ努力があったればこそなのでしょう。

 昔々の信濃川が穏やかだったわけではなく、幾度となく氾濫していまた。だからこその肥沃な地となり、人々が移り住むようになります。今回の白桃の出身地の「白根」は、本流の信濃川と分流の中ノ口川に挟まれた中州のような地域です。皆様のご想像の通りの氾濫頻発地帯、だからこそ、低湿地や沼地が多かったといいます。治水に知恵を凝らしながら開拓し耕作地を増やしていくのですが、自然堤防沿いに居を構え、比較的標高の高いところに新田を開拓していきました。新田といっても「湛水田(たんすいでん)」といい、冬季にも水が残っている田のことです。自然生態系には恵まれるも、収量と品質に少々問題があるのでしょう、今ほとんどの田が「乾田」であることが物語っている気がいたします。しかし、「冬季湛水田」という栽培方法が見直されていきているようで、一概に粗悪と決めつけるわけにもいかないようです。このあたりは農のプロフェッショナルにお任せし、話を進めます。そう、悪戦苦闘しながらの開拓の間も、幾度となく洪水に見舞われていたようです。

 相手が日本最長河川である信濃川だけに、生半可な治水などは焼け石に水なのでしょう。考え抜いた末に計画されたのが「大河津分水路(おおこうづぶんすいろ)」でした。分流しようという発想です。そう簡単な工事ではありませんでした。簡単に書いてしまうと、前述した信濃川から中ノ口川が分流するよりも、上流に位置する燕市に大規模な可動堰を設け、弥彦山の南西と寺泊の間を通し、日本海へと注ぐ、全長9.1kmの分水路を作成しようというもの。この着想は、現長岡市の豪商が江戸幕府将軍徳川吉宗に請願するところから始まりますが、この時に許可はされていません。後年、幕府も計画調査に乗り出しますが、莫大な費用と周辺集落の反対があり着手に至っていません。

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 幾度となく大洪水が発生する中で、明治維新後に白根の庄屋が越後府請願したことが受け入れられ、1870年に工事に着手するも、信濃川の流量が減ることで新潟港の水深が浅くなり、船の航行に支障が出るという政府が雇った外国人技師による報告を背景に大河津分水は廃止され、治水事業は堤防強化を中心としたものに移行しました。それでも地域の人々は大河津分水が必要であると考え、田沢実入など多くの人々が大河津分水の必要性を訴え続けました。そうこうしている中で、前述した未曽有の大水害「横田切れ」に襲われます。燕市を始め長岡から新潟まで、越後平野一帯が泥の海と化し、床上・床下浸水した建物は43,684戸、水をかぶった田畑は58,257ヘクタール、被害総額は当時の新潟県の年間予算とほぼ同額にまで達しました。低地では3ヶ月以上も水が引なかったといいます。

 これを契機に政府も重い腰を上げ、分水路の建設が再開されたのが1909年。当時「東洋一の大工事」と言われた大河津分水路が完成の日をみたのが1922年です。分水地点から河口までは約50km、この距離を分水路では約10kmで日本海に。この流水エネルギーは予想を超えるものでした。当時の分水点は「自在堰(せき)」でした。底に流れを止める障害物を築き、周りよりも低く設定した壁の上を、過剰な水が分水路に流れ込む仕組みです。信濃川龍神のエネルギーは、堰の土台を穿つことになり、堰は陥没。多量の水が分水路に流れ込むことで、本流河口にはほとんど水が流れないという事態に。自在堰の復旧工事での対応が不可能であったため、内務省は自在堰を撤去し、自在堰に代わる新たな可動堰の建設と川底の侵食を防ぐ床留・床固の建設を行う補修工事の実施を決定し、新潟土木出張所長としてパナマ運河の測量設計に携わった技術者・青山士(あおやまあきら)氏を、現場事務所責任者として宮本武之輔(みやもとたけのすけ)氏を派遣しました。補修工事は、高い技術力と信念をもった技術者たちの活躍により、陥没から4年後の1931年に終了しました。

 大河津分水路の完成は、劇的にまでに水害のリスクを減らしました。さらに、燕から新潟港へかけての平野の水はけ問題も改善され、腰まで漬かりながらの作業の多かった「湛水田」が、今お馴染みの「乾田」へ。白根で栽培されていた果樹についても、水害に強い品質という考えが、肥沃な地を利用しての食味重視の品種の選択へ。代々受け継がれてきた、白根の人々に「果樹から田へ」という考えはなく、先人のノウハウを生かしながら、さらなる品質向上を目指す。美味しいが栽培が難しく敬遠されてきた品種への取り組み、この白根の人々の心意気と弛まぬ努力が結実し、県下一のフルーツの産地(梨・桃・ブドウ・洋梨ル・レクチェ)の名声を獲得することになります。新潟県が「コシヒカリ」名産地となったこともしかし、肥沃な地があったという利はあったものの、常に水との戦いを強いられ辛酸を舐めさせられ、それでも諦めない我慢強さが成した偉業なのでしょう。冬は寒風の吹く過酷な環境で育まれた新潟県人の気質なのかもしれません。

 今回の白根地区には、江戸時代から続く伝統の祭りがあります。新潟県無形文化財に指定されている、「白根大凧合戦」、中ノ口川に沿って北風が吹く6月に開催されます。江戸の中頃、中ノ口川の堤防改修工事を終えたお祝いに、白根側の人々が大凧を揚げたところ、西白根側に落ち田畑を荒らしてしまった。これに腹を立てた西白根側は、大凧を揚げ白根側に落とし返した。これがこの祭りの発祥といいますが、もちろん諸説ありです。今では両岸から順に大凧を揚げ、川の上空で凧を絡ませ両岸から引き合う、相手の綱を切った方が勝者になります。それぞれの大凧は、対岸に揚がるよう工夫が凝らされ、各組に伝わる伝統的な揚げ方、紐の掛け方があり、今なお改良を重ねながら伝承しているといいます。

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 東側に本流・信濃川、中央に分流・中ノ口川を有する地です。今までの話の流れからお察しかと思いますが、水との過酷な戦いを強いられ、尊い犠牲を伴い恨み辛みもあったはずです。しかし、先人たちは両河川と向き合い、共生できる道を模索してきたという歴史を持っています。同じ地域に居を構えることは、多少の違いこそあれ水害に悩まされることに違いはありません。昔話にでてくる「意地悪爺さん」のように、対岸が氾濫したときに笑いながら見物していることはなかったはずです。同じ釜の飯ではないですが、故郷を同じくする仲間同士の意識が強いはず。ひとたび引きこされる水害は全てを流し去る、だからこそお互いに助け合いながら日々頑張ってきたのです。その仲間の結束を確かめ、伝統技術を後世に伝える。これを誇りとし、大凧という形で対岸に知らしめることで、相手を鼓舞する。大凧を絡ませ引きあうことで、手にひしひしと感じる相手の力強さに、頼もしさを感じていたのではないでしょうか。「有事の際には安心しろ、俺たちがいる!」、だからこそ白根に人々が集まり、彼らの弛まぬ努力の結果が「米どころ」「果樹の産地」へ導いたのでしょう。「報復で大凧を落としあう」という起源説は、本当の話かもしれません。しかし、感情表現の苦手は新潟県人らしい相手への感謝の表れなのではないでしょうか。

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 この臨場感あふれる大凧合戦の写真は、新潟県在住の加藤さんよりご提供いただきました。この場をお借りして、御礼申し上げます。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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Benoit特選情報「9月ダイジェスト版」のご案内です。

残暑お見舞い申し上げます。

 過日「立秋」を迎え、日ましに秋めく今日この頃。日中の気温こそ、まだまだ残暑を感じますが、朝晩の心地良い涼やかなる風が吹き抜けます。「涼風(すずかぜ/りょうふう)」とは、秋の季語。さらに空を見上げると、もくもくとした夏を代表する入道雲が少なく、淡い雲が増えてきました。我々の手の届かない空高くでは、すでに季節の引継ぎが行われているようです。この季節が交錯する空模様を、「行き合いの空」というようです。まだまだ暑い日々が続くようですが、木陰で一息つきながら空を眺めると、年に一回しかない夏と秋の出会いを感じることができると思います。

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 日本の夏を代表する花といえば、やはり「アサガオ」ではないでしょうか。小学生の頃に、夏休みの課題として栽培絵日記があり、遠い記憶を呼び覚ましながら、8月末に描いていたのは、自分だけではないはずです。朝早くに咲き、昼には花しぼむ。古来は、桔梗(ききょう)や木槿(むくげ)を「朝顔」と呼んでいた時代もあったようですが、今はこのアサガオが、「朝顔」の名をほしいままにしています。幼き頃の思い出を含め、夏のイメージが強いアサガオですが、季語は「初秋」です。暦の上では、8月早々に「立秋」を迎えるためなのでしょう。

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 自分のような職業を生業としていると、帰路に着くのは夜半となってしまうものです。足早に出勤するのとは違い、涼風を感じながらの夜の帰り路は、なかなかの趣深いものがあります。満点の星空とまではいきませんが、やはり日増しに姿を変える月には、なんともいえぬ感慨を覚えます。どなたかの家の庭木に植栽されている木槿は、花を落とし膨らんだ蕾は朝日を待っているかのよう。子供たちの育て上げたアサガオが立ち並ぶ小学校脇に差し掛かると、柵越しに見えるのは花閉じたアサガオの植木鉢。柵の外側には、街灯に照らされ、艶やかに美しい花が咲き誇っているのです。あまりの美しさに魅せられ、足を止める。アサガオに似ているけれども、もちろん夜半に咲いていることはまずありません。アサガオの仲間はヒルガオ科に分類され、花咲く時が名前に入ります。「朝顔」「昼顔(ヒルガオ)」「夕顔(ユウガオ※ウリ科の植物です。)」、夜半に花咲くこの植物の名は、「夜顔(ヨルガオ)」です。

 この夜顔が植わっているのは、小学校の柵外側の狭い花壇です。自分の記憶が正しければ、この場は新宿区から委託を受けた庭師の方々が植栽し、四季折々の姿を我々に楽しませてくれています。ふと思う。小学校脇という場所、朝の登校時に小学生がヨルガオを目にするときは、すでに花閉じています。プロの庭師は、なぜこの場所にこの花を植えたのでしょうか?初秋を飾るにふさわしい美しい花というには、何とも腑に落ちません。夏休みを終え、子供たちの夏の宿題に付き合わされた両親への慰労の気持ちが込められている気がするのは、自分だけではないのではないでしょうか。ヨルガオの花が咲くのが闇の中であるのとおなじように、真相も闇の中、庭師さんに聞くしかありません。

 このヨルガオとの美しい「出会い」も、翌朝には「別れ」を迎えることになります。この刹那(せつな)さがまた、花の美しさを際立たせるというものです。「出会い」が無ければ、「別れ」もありません。人世には悲喜こもごもありますが、「出会い」の無い人生は全く平凡なもので、つまらないものだと思いませんか。食の世界でも同じことで、季節折々で旬を迎える食材の無い、食事では飽きてしまうことでしょう。旬の食材の美味しさを知っていために、旬の短い「ひととき」を待ち焦がれ、大いに楽しみます。いずれは終わりを迎える食材の美味しさを見逃さないように。そして、我々はここに、「口福な食時」を見出すのです。

 

 「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に秋を過ごしていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできていいます。この想いを込め、Benoitの9月のダイジェスト版を作成いたしました。

皆様にご紹介したい内容は、以下の12件です。

「特別プラン」のご案内 1件

「特選食材/料理/デザート」のご案内 9件

「イベント」のご案内 2件

 

≪大好評のデザートを組み込んだ「桃プラン」を今月末まで延長いたします。

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 2019年Benoitのピーチ・メルバは、甘さを控えることで、白桃の美味しさを十二分に感じることのできる、過去10年間では最高の仕上がり。予定では新潟県の「白根白桃」の予定でしたが、今期は遅れており、今は飛騨高山の「昭和白桃」です。今期、和歌山県から岐阜県を抜け新潟県へ。この「白桃前線」を追うことで、同品種であっても、「ところ変われば味わいも変わる」ことを知ることができます。「白桃」という食材を通して、旅行をするかのように、美味しさの違いをお楽しみください。

 ランチでもディナーでも通常のプリ・フィックスメニューの選択肢の中で+800円でお選びいただけます。しかし、日頃より並々ならぬご愛顧を賜っている上に、さらにはこの長文レポートに目を通していただけている労に報いなければなりません。そこで、特別プラン延長のご案内です。期間は、メールを受け取っていただいた日より、930日までの平日限定。各コース料理の前菜とメインディッシュは、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。ご予約人数が8名様以上の場合は、ご相談させてください。

 

ランチ

前菜+メインディッシュ+桃デザート

4,600円→4,000円(税サ別)

ランチ

前菜+メインディッシュ+桃デザート+もう一つデザート ※

4,800円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+桃デザート

6,900円→5,520円(税サ別)

ディナー

前菜+メインディッシュ+桃デザート+もう一つデザート ※

6,400円(税サ別)

※夢のダブルデザートプランの復活です。デザートはピーチ・メルバx1でいいから、前菜x2がご希望の方も、同価格で承ります。

 

 ここ最近の動向の読めない暴風雨の数々、過去に和歌山県を直撃した際に、桃の収穫ができずに終了を迎えたことがございます。なにゆえ自然のことゆえ、いつ桃が岐阜県から新潟県へ変わるのかは、桃に聞くしかありません。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどなにとぞよろしくお願いいたします。ご予約の際に、「ピーチ・メルバ希望」とお伝えいただければ幸いです。ご予約は、このメールへの返信、土日や急ぎの場合には、

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よりお願いいたします。もちろん電話でもご予約は快く承ります。

 

飛騨高山の伝統野菜「宿儺かぼちゃ」が届いています。

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 岐阜県の 飛騨高山に伝承される鬼神「宿儺(すくな)」の名を冠する伝統野菜がBenoitに届いています。大きなサイズになればなるほど栽培が難しくなると言われるなかで、この見事なサイズにまで育て上げられた逸品は、高山市で「かぼちゃ名人」と称される若林さんの手によるもの。シェフ曰く、「かぼちゃ個々にムラが無い」と。

 薄い表皮を削ると、見事なほどの黄色がかったオレンジ色が姿を見せます。和かぼちゃの多くは、味わいが素朴であるのに対し、この宿儺かぼちゃはそれとは一線を画します。コクのある甘さを持ちながら、後引く旨さに和かぼちゃらしい優しさがあります。ここに、タマネギの甘さとバターのコクを加え、黄金色のとろりとしたスープに仕上げます。

 洋かぼちゃにはない和かぼちゃの美味しさに舌鼓を打つこと間違いありません。ランチのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。ディナーでご希望の方は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

 

Benoitのシャルキュトリーに「フランシュ・コンテ地方のパテ」が仲間入りです。

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 Benoitシェフのセバスチャンが、満を持してメニューに加えてきたシャルキュトリー(肉の加工品)の新作です。このカテゴリーはフランス料理ではなくてはならない伝統の逸品であり、地方地方で特産が加わることで、味わいも千差万別。今回はフランス中央から東部に向かった国境沿いに位置している、旧フランシュ・コンテ地方。彼の地の伝統にならって仕上げた「パテ」です。

 今までの「テリーヌ」と何か違うのか?このフランシュ・コンテ地方のパテは、鶏と鴨のレバーを主体に仕上げるため、柔らかい食感にレバーの旨いがねっとりとくる美味しさがあります。そこへ、豚バラ肉の塩漬けやモリーユ茸、忘れてはいけない彼の地の特産であるコンテチーズが加わるのです。ゆっくりと熱を加えた後に、1週間ほど冷蔵庫で休ませることで、味を落ち着かせ、皆様の下へ。カットした場所場所によって、口中に広がる美味しさの変化もお楽しみください。

 ディナーのプリ・フィックスメニューで、前菜の選択肢に入っています。

 

千葉県勝山漁港の「キンメダイ」が届いています。

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 千葉県房総半島の先端から、少し内房に入ったところに「勝山漁港」があります。東京湾への入り口に位置しているため、内房外房の豊かな漁場から、網で巻き上げられた魚、釣り上げられた魚と多くの種類が集められています。その中から、Benoitが選んだ魚は「キンメダイ」です。夜中に千葉沖で釣り上げられた勝山漁港のキンメダイは、脂ののりがほどほどに、海流にもまれているからなのでしょう、プリっとする食感と旨味は抜群です。さらに、漁港よりBenoitへ直送するため、水揚げ無しというリスクはあるものの、それ以上に「鮮度抜群」という大きな大きなメリットがあるのです。Benoitへ届けられたキンメダイ大きな目の、吸い込まれそうなほどの透明感が全てを物語っています。

 プリ・フィックスメニューのディナーのみ、魚料理の選択肢として追加料金なくお選びいただけます。以下に記載いたしますが、フランスより美味しいキノコと組み合わせます。あまりにもキンメダイもキノコも美味しさをうったえてくるため、白身のお魚料理にも関わらず赤ワインのソースです。いったいどのような味わいのマリアージュとなっているのか、気になりませんか?

 

フランスから「キノコいろいろ」届き始めました。

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 秋の味覚の代表ともいえる「キノコ」。冬本番を迎えるにまえに、ぜひとも味わっておかねばなりません。今は、ピエ・ブルー(シメジの仲間)、プルーロット(ヒラタケの仲間)、ジロール(アンズ茸の仲間)とトランペット・ドゥ・ラ・モー(「死のトランペット」という名前ですが毒キノコではありません)の4種類が、フランスから飛行機に載せられBenoitへ届けられています。ひとつひとつは地味ですが、ちゃっちゃと熱を加えることで放たれる芳しい香りと味わいは、4種それぞれが個性豊かに奏でることで、得も言われぬ美味しさへと変貌いたします。

 メインディッシュでは、ランチはマダイと、ディナーは前述したキンメダイと組みわせ、追加料金なくお選びいただけます。「海の幸と森の幸」がどれほどの出会いを見せるのか。さらに、ともに白身の魚にも関わらず、なぜ赤ワインを使ったソースを組み合わせるのか。きっとこの解答を導きだせることでしょう。

 

岐阜県郡上より「クラシックポーク」が届きました。

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 岐阜市から 清流長良川を上流へと上がった先に、山間(やまあい)から突如姿を現す古京都を思わせるような街並み、これぞ奥美濃の小京都と称される「郡上八幡(ぐじょうはちまん)」です。県のほぼ中央、飛騨高地の南側に位置し、山々より湧きいずる美しきせせらぎが落ち合い長良川へ。郡上市のほぼ全域が長良川流域ということもあり、この豊富な水資源は、水路として街並みに引き込まれ、「水の町」としての名声は今でも健在です。

 この郡上市の片隅に、明宝牧場の広大な地が広がっています。澄んだ清らかな水と空気という、この類稀なる自然環境中で、さらにモーツアルトを聴きながら、ストレスなく健やかに育った「クラシックポーク」が特選食材です。今回は、肩肉とバラ肉を使い、バラ肉は塩ふって一晩置いた後に塩抜きして焼き上げる。この塩でマリネする一手間が、バラ肉の美味しさを引き出すのです。さらに、肩肉を6割以上加えてバラ肉とともに仕上げるBenoit自家製のソーセージ。これがまた美味なり。

 食品添加物を全く使用しない、クラシックポークそのものの旨味を、フランス伝統のシャルキュトリーの手法で引き出したバラ肉のコンフィとソーセージ。美味しくないわけがありません。ランチのプリ・フィックスメニューで、メインディッシュの選択肢に入っています。ディナーでご希望の方は、ご予約の際にお伝えいただけると幸いです。

 

仔牛のバロタンが登場、いったいどんな料理?

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 バロタンとは、なんと馴染みのない名前でしょうか。簡潔明快に説明するならば、「肉の肉巻き」です。ゴボウやアスパラガスなどを豚バラ肉などで巻いて焼き上げた料理はよく見かけるのではないでしょうか。それの肉々しいバージョンとでも言いましょうか。

 仔牛のやさしい旨味に、コクと脂の旨味を足すかのように豚バラ肉を加えひき肉に。さらに、ジロール茸とトランペット・ドゥ・ラ・モーで秋らしい森の風味を加え、イタリアンパセリで緑の味わいを足します。全てまとめたものを、仔牛のバラ肉でくるくると巻き上げる。ゆっくりと低温調理の後に、焼き上げるという、なんと手間暇のかかる料理でしょうか。

 食感の違い、旨味の違いを、シェフによって見事なまでにまるめ上げた、仔牛の仔牛巻き。プリ・フィックスメニューのディナーのみ、肉料理の選択肢としてお選びいただけます。

 

フランスのシャランなる地から「鴨胸肉」が届いております。

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 自分が若かりし頃、フランス料理といえば「鴨料理」だったような気がいたします。鴨南蛮蕎麦などもありますが、あまり和食では馴染みのない食材だけに、絶妙なる火加減で焼き上げた鴨胸肉の美味しさに感動を覚えたものです。今では、鴨肉の美味しさを求めるあまりに、フランスのCharente(シャラント)県へ辿り着くまでになりました。ここは、フランスでも有数の美味なる鴨を育て上げる地域なのです。

 フランス中央から西へ向かい、大西洋に面した旧地方名であるPoitou-Charentes(ポワトゥ・シャラント)地方。2016年に地域圏が再編されることで、大都市Bordeauxを内包するNouvelle-Aquitaine地方に組み込まれました。この北部の中ほどにシャラント県が位置しています。豊かな自然の中で、広大な農地で放し飼いのように育てるブランド鴨。食するものもトウモロコシや麦などを与えることで、旨味が増しています。この鴨胸肉がBenoitに届いているのです。

 低温調理を施した鴨胸肉を、焼きを入れてから休ませる。この断面のロゼ色の美しさこそ、職人技ともいえる鴨料理の醍醐味。Benoitでは、スライスせずに、このブロックのまま皆様の下へお持ちいたします。好きな厚さでカットすることで、お好みの食感を楽しみながら、噛むほどに溢れる鴨特有の旨味を味わうことができます。プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,200円にてお選びいただけます。

 

新潟県白根より「白根白桃」」が届きましたが。

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 2019年は、「白桃前線」を定め、7月の和歌山県桃山町の豊田屋さんを皮切りに、8月半ばには岐阜県飛騨高山の亀山果樹園さんへ、そして9月は新潟白根の山田農園さんへと、北上してきました。食材を選ぶにあたり、栽培者の顔の見えるものをとのこだわりから、この無謀とも思える一地域一個人の食材リレーに挑戦してみたのです。もちろん、自分一人では成しえず、多くの方のご協力を賜りました。順当に北上するなかで、やはり自然相手の農産物ゆえに、一筋縄ではいかないものです。

 桃農家さんは、少しでも美味しい桃を長い期間提供できるようにと、収穫時期の違う白桃の品種を選び植栽しています。「なつっこ」「なつおとめ」と始まり、順に「山根白桃」「川中島白桃」「ゆうぞら」と続き、8月末に晩生の「白根白桃」。桃の品種は数え切れず、各地で生み出されたものはその地名を名に冠する、桃とはいえまさに食味は千差万別。生産性の高い(作りやすい)品種ではなく、栽培が難しくても食味のいい品種を選んでいるのです。今期、どうしても皆様にご紹介したかったのが「白根白桃」、その名の通り白根が発祥なのです。なぜ9月にまで桃のデザートを提供するのか?新潟県白根魂の生み出したこの品種をお楽しみただきたかったからです。

 ところが、この品種は珍しい「追熟タイプの白桃」だったのです。遅れ気味で始まった白根白桃の収穫、第一便がBenoitの届くも、デザートに調理するにはもう少し待たねばなりません。そこで、岐阜県の亀山果樹園さんの「昭和白桃」の助けを借り、白根白桃が美味しく追熟するのを待つことにさせていただきます。白桃が切り替わるタイミングは、facebookを通してご案内させていただきます。ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

長野県富士見町の「ルバーブ

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 日本が世界に誇る霊峰「富士山」と八ヶ岳を眺めることのできる地、長野県諏訪郡富士見町。彼の地の段々畑の片隅に居を構えるエンジェルさんご夫妻、彼らが丹精込めて育て上げた逸品食材が、「真っ赤なルバーブ」です。「え?ルバーブは春の食材ではないの」という質問を多く受けます。確かに、日本で栽培されている品種のほとんどが、春先に旬を迎えます。ところが、エンジェルさんルバーブは、今まさに旬なのです。

 2019年は、このルバーブを、相性抜群のラズベリーのジュースでくたくたとじっくり煮込んだものと、しゃくっと食感を残すように軽く煮たものの2種類のスタイルに調理していきます。これを、アーモンドのナッツ香ばしいアイスクリームと、ラズベリーのかき氷のようなグラニテとともにお楽しみいただきます。プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+500円にてお選びいただけます。

 このルバーブの詳細は、昨年にブログへ思いのたけを記載させていただきました。お時間のある時に、以下のURLより訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

一夜限りの特選メニュー 「トレ・ボン!日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴のご案内です。

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 Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、日本のテロワールの魅力を「トレ・ボン!日本のテロワール」と銘打って、皆様にご紹介していこうと思います。日本の各地方が育んだ食材を通し、まるで彼の地を旅しているかのようにお楽しみいただけると幸いです。

 今回は10月にBenoitメニューに組み込まれるものの中から、10月1日のみの「岐阜県を旅しよう特別メニュー」を組み立て、皆様にご案内させていただきます。当夜は、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業なのですが、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして岐阜県は語れない」という地の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意です。もちろん、皆様から「選ぶ楽しみ」を奪ってしまうため、特別な価格でご案内させていただきます。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

Benoit一夜限りの特選メニュー 「トレ・ボン日本のテロワール≪岐阜食材の饗宴

日時:2019101()17:30より(21:00LO)

Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、自分へメールをお送りいただくか、Benoitへご連絡(03-6419-4181)をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

 さあ、いったいどのような饗宴となるのか。岐阜を代表する食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。食材がほぼ決まり、シェフのイメージするコース料理の流れは、まだ料理内容が確定はしておりませんが、特選食材のご案内と、垣間見える料理を少しばかりご紹介させていただきます。食材の都合により、直前に変更になる場合もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

≪一口の前菜≫

飛騨高山の伝統野菜“宿儺かぼちゃ”の温かいスープ

≪前菜≫

(仮称) 奥美濃古地鶏のバロティー

≪肉料理①≫

郡上市“クラシックポーク” バラ肉のコンフィと自家製ソーセージ レンズ豆の煮込み

≪肉料理②≫

(仮称) 飛騨牛ランプポワレ 胡椒風味 自家製フレンチフライ

≪デザート≫

(仮称) 中津川市“恵那栗”モンブラン ブノワ風

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※苦手な食材や、アレルギー食材が組み込まれている場合には、お教えいただけると幸いです。アレンジするか、別の料理を提案させていただきます。

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパーニュ、白・赤ワインの計4杯のセットで、お一人様6,000(税サ別)にてペアリングをご用意しようと思います。詳細は、後日にご案内させていただきます。

 

シャンパーニュメーカーズディナー「「DEUTZ(ドゥーツ)のご案内です。

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 シャンパーニュ地方ドゥーツ社・社長のファブリス・ロセ氏をお招きして豪華シャンパーニュディナーを開催いたします。シャンパーニュ地方アイ村を拠点に、完成度の高いエレガントなシャンパーニュを常に世に供給しているメゾンです。ドゥーツの名を世界に轟かせた「アムール・ド・ドゥーツ」は、今回来日するロセ氏の提案により完成した最高峰のシャンパーニュであり、もちろん当夜に登場いたします。特にミュズレーに描かれた天使がダイヤモンドを持っている姿はとても美しくシャンパーニュファンの中でも別格の人気を誇ります。

 ライナップの詳細は、後日HPにてご報告いたします。

 

Benoitシャンパーニュメーカーズディナー「DEUTZ(ドゥーツ)

日時:20191029()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、皆様の新たな門出が幸多きことを、遠く青山の地よりお祈り申し上げます。書くだけでは効果は不十分でしょう。続きは皆様と再会した際に、お会いできる時を、心待ちにしております。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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