kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoit特選情報「2月ダイジェスト版」のご案内です。

 「木」へんに「冬」を添えると、「柊(ひいらぎ)」。一年中、緑濃く美しい葉が生い茂る常緑小高樹。ギザギザの葉と、その先端にあるちくりとするほどの棘の様な歯牙が、あまりにも特徴的でしょうか。そのため、防犯目的で垣根に植栽している方も多いと聞きます。多くの草木は、花を咲かす頃が季語となっているのですが、柊の花がなかなか珍しく、見かけたことがある方が少ないのでないでしょうか。いつ花開くか?ヒイラギの漢字が教えてくれるように、立冬のあたり11月前後です。そのため、柊の花の季語は初冬です。

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 柊の花が散って久しい今に至り、なぜ話題として取り上げたのか。2月3日の「節分」ですよ、皆様。柊の枝にイワシの頭を刺した「柊鰯(ひいらぎいわし)」。これを門戸に飾り、邪鬼を追い払う。今ではあまり見かけないですが、昔ながらの風物詩です。柊は「鬼の目突き」とも呼ばれ、なにやら神聖な想いが込められている樹のようです。純真無垢な子供たちが、親から伝え聞いたこの鬼退治の話を信じ、保育園や幼稚園で鬼と対峙する。「赤鬼や青鬼をこの葉で追い払うんだ」と真っ先に名前を覚えたこの樹を手に、果敢にも鬼に挑むも、あまり恐怖に涙をこぼしながら逃げ惑う節分の日。

 さて、先日迎えた「節分」は、季節の分岐点ともいうべきもので、年に4回存在します。天では、前に季節から次の季節への引継ぎが行われていうのでしょう。強烈な寒波に覆われ、都内でも降雪がありました。季節の引継ぎの最中だからこそ、不安定な天気になる。人間も季節の変わり目は健康を崩しやすいといいます。体の中で行われる季節に対応する防御力が不安定な天気ゆえに脆弱になってしまう。そこで、古人は全ての「節分」の頃に、注意喚起を促す意味も込め、「邪鬼が姿を現す」としたのでしょう。

 前述した「柊鰯(ひいらぎいわし)」も、「豆まき」も効果のほどは分かりません。しかし、「病は気から」という通り、気の持ちようで、多少なりとも避けることのできるものもあります。災いを招く鬼が来る、天候も体調管理も不安定な時期だからこそ、普段以上に気を付けなさい、そう先人は教えてくれているのです。科学的に何か証明できるわけではありません。ただ、全てが科学で証明できるわけではありません。ここはひとつ、童心に還るように柊を眺めてみてはいかがでしょうか。其処彼処で、庭木に、垣根に柊を植えている光景を目にします。植樹を決めた家主は、柊に防犯というよりも、きっと「邪鬼祓い」の想いを込めているはずです。

 このような想いの詰まった柊を探しながらの散策も一興ではありませんか。しかし、前述したように、不安定な天気に加え、寒暖の差が知らず知らずのうちに体力を奪ってゆくものです。十分な防寒対策をお忘れなきように。そして、寒さが身に染み入った際には、Benoitへ。病は気から、健康は食事から。旬の食材を使った自慢の料理の数々で、皆様をお迎えいたします。気の赴くまま、足の赴くままに、Benoitへ。万全の準備をもってお迎えいたします。

 

 2月3日の節分までが「寒中」、翌日は「立春」で暦の上では春が始まりました。寒が明けたとはいえ、まだまだ寒さが厳しい時期です。四季を愛する日本人気質とでもいうのでしょうか、手紙でのご挨拶では「寒中お見舞い」から、「余寒お見舞い」へ。三寒四温といわれる時期です。まだまだ続く寒さと上手にお付き合いいただきながら、旬を迎える食材を食することで、無事息災に春を過ごしていただきたい。旬の食材には、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできている。この想いを込め、Benoitの2月のダイジェスト版を、いまさらですが、作成いたしました。皆様にご紹介したい内容は、以下の15件です。

「特選食材/料理/デザート」のご案内 13件

「ミュージックディナー」のご案内 1件

「余談」 1件

 

≪フランスから黒いダイヤモンド「黒トリュフ」、削り納めのご案内です。≫

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 2019年新春を飾るBenoitの特選食材は、フランスから届いた黒いダイヤモンド、「黒トリュフ」です。独特の風貌に似合わず、シャリシャリとした食感と、何物にも代えがたいあの芳醇な香り。高級食材としての不動の地位を確立している所以が、ここにあるのでしょう。

 そこで、旧年より皆様から賜りましたご愛顧に感謝の気持ちを込め、Benoitの新春恒例イベント「フランス産黒トリュフの破格値での量り売り」を開催いたします。いつものプリフィックスメニューよりお好みのお料理をお選びいただき、目の前でご希望の分量(多少の誤差はお許しいただきたい)の黒トリュフを、160/1g(215日の販売価格)で削らせていただきます。参考までに、3gで十分堪能できるかと思います。可能な限り継続いたしますが、なにぶん農作物なので、ご予約の日程次第では、ご用意できない可能性もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 

Benoit伝統の逸品、「Notre PÂTÉ EN CROÛTE (パテ・アン・クルート)」が復活です。≫

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 「Benoit Paris」が、フランス で開業したのが107年前のこと。時代に翻弄されながらも、いまだ老舗の雰囲気と味わいは健在です。同じ名を冠する「Benoit東京」の歴史はまだまだ足元には及ばないものの、味への訴求に妥協はありません。本家のパリBenoitに習い、フランスの伝統を昇華させることを日々心掛けております。

2019年、待望の「Notre PÂTÉ EN CROÛTE (パテ・アン・クルート)」が復活いたしました。鶏・鴨・豚・仔牛肉、豚の背油、フォアグラにトランペット・ドゥ・ラ・モー(きのこ)を、食味良く丁寧に合わせ、生地で包んでゆっくりと焼き上げたものです。それぞれの奏でる味わいを、曖昧にならないよう心明けることで、口に運ばれるパテは、一口一口と表情を変えていきます。さらに、熱を加えることで肉よりしみ出でる旨みの肉汁を、生地が逃さないよう包み込む。これぞ、パテ・アン・クルートの最大の特徴でしょう。

プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチ+1,000円、ディナー800円にてお選びいただけます。

 

≪下関唐戸市場の「トラフグ」が、美味しすぎるので2月末まで延長です。≫

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 山口県下関を代表する海の食材は、異論の余地なく「トラフグ」です。美味なる食材であるにもかかわらず、随所に猛毒をもつため、日本人ですらうかつに手を出せない食材。シェフのセバスチャンに話を聞いたところ、地中海でもフグは生息しているようですが、「フグには猛毒がある」ことが周知されているため、調理されることはないようです。確かに、フレンチではきいたことがありません。

 今回、下関の唐戸市場に昭和24年に創業したフグの老舗「道中」さんによって競り落とされた鮮度の良いトラフグを、道中さん率いるフグの職人チームに捌いていただき、「身がき」の状態でBenoitに送っていただきます。これをシェフが「グジョネット」という揚げ物のようなスタイルに仕上げ、皆様のテーブルへ。フグの味わいを生かすように改良したタルタルソースとの相性は抜群。それと、トラフグの骨より引き出したコンソメスープもまた美味なり。和食とは一味も二味も違うトラフグの魅力を、Benoitを通して皆様にお楽しみいただこうと思います。

 ふぐ物語の第一話「下関よりふく来たる」をはてなブログにて公表しております。お時間のある時に、以下のURLよりご訪問いただけると幸いです。第一話?そう、只今第二話「唐戸市場物語」を執筆中、ご期待ください。

kitahira.hatenablog.com

 2019年2月末までの期間、プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチ+2,000円、ディナー1,500円にてお選びいただけますが、ブログにて特別価格をご案内しております。唐戸市場より直送するため数に制限がございます。そこで、ご希望の場合は、ご予約の際に「トラフグの前菜希望」とお伝えいただけると幸いです。Benoit史上初、いやアランデュカスグループで初となる「フレンチでフグ」の逸品をお楽しみください。

 

≪千葉県保田漁港より「ナナメノヒラメ」が直送されています。≫

 千葉県房総半島の先端から、少し内房に入ったところに「保田漁港」があります。東京湾への入り口に位置しているため、内房外房の豊かな漁場から、網で巻き上げられた魚、釣り上げられた魚と多くの種類が集められています。その中から、今回皆様にご紹介する魚は「ヒラメ」です。

 日本最大の漁獲量を誇る北海道が群を抜いていますが、千葉県は第6位と、なかなかの好位置に名を連ねます。房総半島の内房外房と最高の漁場に恵まれ、さらに都心に近いことで鮮度が抜群。その千葉県で、Benoitが白羽の矢を立てたのが、「保田漁港」です。ここで水揚げされるヒラメが、知る人ぞ知る「ナナメノヒラメ」。いったい何が「ナナメ」なのか?画像に見える斑点のような「目が七つ」あるからか?それとも性格が「ナナメ」なのか?

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 すでにご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、「ナナメノヒラメ」は「七目のヒラメ」という意味で、魚の模様でもなく性格でもありません。網の目が「七つ目」ということなのです。砂地にたたずんでいるヒラメの漁獲方法は、底引き網漁か刺し網漁です。前者は、袋状の網を海の底に這わせるように船で曳き上げる漁法。ヒラメに限らず。多くの魚が網にかかることになり、船上に揚がるまでの間に、多くの魚が押し合いへし合い、まるで通勤時の満員電車のような状態。さらに水面近くでは、網の袋状が小さくなるので、魚たちのストレスは計り知れません。その時に、お互いがぶつかり合ことで、傷つくことになるのです。対する、保田漁港で採用している刺し網漁は、網を海の底に沈めヒラメが網に絡まるのを待つ方法。底引き網漁にくらべ、ヒラメにとってはストレスフリーなのです。この刺し網の「目が七つ」といいます。素人の我々には分かりにくいのですが、簡単にいうと「網の目が大きい」ということなのです。この漁は、大物のヒラメを対象にした仕掛け網なのです。確かに効率は悪い、しかしストレスフリーの美しく美味しいヒラメを漁獲できるのです。

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 丁寧に船上に引き上げられた「ナナメノヒラメ」は、保田漁港の生簀にて心落ち着かせた後に、〆られます。有名な「関サバ」や「岬(はな)サバ」もそうなのですが、網にかかることで受けるストレスを、少しでも軽減するためにも、生簀に放たれるのです。そして、ヒラメはBenoitへ直送されます。画像から、どれほどの大きさかお分かりいただけるかと思います。このヒラメを捌いた時の断面の厚さは、まるでフッコ(小ぶりのスズキ)と変わらないのではと思うほど。

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 話は変りますが、ヒラメとカレイの見分け方を少し。目を上にして「左向きがヒラメ、右向きがカレイ」です。しかし、人間界同様、ヒラメの世界にもひねくれものがいるようで、右向きヒラメもいるのだとか。そこで、口を開いていただけると、カレイはイソメやゴカイなどを食す分、歯が細やか。対するヒラメは、魚食だからこそのキバキバしい歯を持っています。悩まれたときには口をあんぐりとさせ、ご確認ください。

 タラの食感がぷりぷりであるならば、ナナメノヒラメはブリブリです。さらに、あまりの鮮度の良さもあり、焼こうものなら身が弾けるのです。そのため、シェフ・セバスチャンは、中骨を付けたまま、分厚い切り身とし、表面の焼きをいれてから、休ませるようにゆっくりと熱を加えていきます。ポロっと身がほぐれ、見事なまでの弾力のある食感に、溢れんばかりのヒラメの旨味。バターに卵を加え、さらにヴィネガー酸味を小気味よくきかせ、ふんわりと泡立てるように仕上げたオランデーズソースが、ナナメノヒラメの美味しさを際立たせます。皆様を至福の時へとご案内いたします。

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 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,200円にてお選びいただけます。保田漁港より直送するため数に制限がございます。そこで、ご希望の場合は、ご予約の際に「ナナメノヒラメ希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

≪北海道より「アンコウ」が届いています。≫

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 「東のアンコウに西のフグ」とは、冬を代表する美味なる食材の代表をうたったものです。アンコウはつぶれたように平たく、表面ぬるっと触るとぶよぶよ。大きな「がまぐち」のような口には鋭い歯が並びます。深い海に生息しているからなのか、この独特の風貌は、およそ食材とは遠い存在かと思いきや、「東のアンコウ」と評されるほど美味。柔らかい巨体を自由に動かす筋肉部位は、見事なまでの身の締まりよう。画像は豚の棒フィレよりも大きなサイズ。一口淡白な味わいかと思いきや、旨味は抜群。さらにコラーゲンたっぷりといいます。

 厚めにカットしたアンコウの身を、蒸し焼くように熱を加えることで、旨味逃がさずぷりぷりの食感へ。ここへBourride(ブーリッド)にように仕上げたソースを合わせます。ブーリッドとは、Languedoc(ラングドック)地方Montpellier(モンペリエ)群の「Sète(セット)町」の伝統料理なのだといいます。魚の旨味を香味野菜とともに煮出すように仕上げた「Soup de Poisson(スープ・ド・ポワソン)」にニンニクマヨネーズのようなアイオリでのばす。今回はさらに、「あん肝」をこのソースに潰し入れることで、コクと肝の旨味を加え、日本の食材「アンコウ」と、フランスの伝統料理「ブーリッド」とを引きあわせ、相乗効果を生み出します。このマリアージュは一食の価値あり。

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 プリ・フィックスメニューのディナーのみ、魚料理の選択肢として追加料金なくお選びいただけます。前菜をトラフグで始めて、メインディッシュをアンコウへ。東西の冬の味覚をBenoitで食べ納める、これもまた一興なり。

 

≪ビストロ料理の王道、「鴨モモ肉のコンフィ」がランチに加わりました。≫

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 フランスのビストロ料理で、欠かすことのできない王道の逸品は、間違いなく「Cuisse de CANARD confite(鴨モモ肉のコンフィ)」ではないでしょうか。なぜBenoitのメニューに登場しないのかと不思議に思っていたのは自分だけではないはずです。そこで、ランチのみ、肉料理の選択肢としてプリ・フィックスメニューに、追加料金なく加わりました。

 ニワトリと違い、普通に焼くと固くなる食材です。そこで、鴨の油を使い、高温では揚がってしまうので、70℃といいう低温を維持しながら煮るように仕上げる、コンフィという伝統方法で調理していきます。鴨特有の旨味を逃がさず、ほろっとした食感を生み出し、仕上げに表面をパリっとオーブンで焼き上げます。そのままでも美味ですが、添えるディジョンマスタードとの相性は抜群、さらに、別でお持ちする鴨の旨味を凝縮したようなソースと合わせれば、三度もお楽しみいただけます。

 

≪フランスのラングドック地方の伝統料理、「カスレ」がディナーに登場です。≫

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 南フランスProvence(プロヴァンス)地方の左隣に位置している、Languedoc(ラングドック)地方。彼の地を代表する伝統料理といえば、異論の余地なくCassoulet(カスレ)です。簡単に言ってしまうと、お肉いろいろを白インゲン豆とともに煮込んでいった料理。では、カスレに使うのは何の肉なのか?実は、これほどの伝統料理にも関わらず、町々によってレシピが違うという困った逸品なのです。参考までに、我々がカスレの発祥の地だと主張している3つの街は、Castelnaudary(カステルノーダリー)、Carcassonne(カルカッソンヌ)、そしてToulouse(トゥールーズ)。

 どのレシピが正解か?全てが正解というカスレ。それでは困るので、Benoit東京では、Benoitパリの伝統を踏襲することにいたしました。仔羊の肩肉、鴨のモモ肉のコンフィ、プラチナポークのソーセージ、そして塩漬けにした豚バラ肉を塩抜きしたもの。全てを白インゲン豆と煮込んでいきます。それぞれの肉よりしみ出る旨味。これをインゲン豆が吸い上げる。肉が主役か?豆が主役か?という質問には、豆が主役ですと即答する逸品です。どこからどう撮ってもインスタ映えしない、Benoitらしい美味しい「茶色」の料理です。

 プリ・フィックスメニューのディナーのみ、肉料理の選択肢として追加料金なくお選びいただけます。フランスの歴史を感じながらいただく伝統の茶色の逸品。フランスのレシピより豆の量は1/2、安心してお楽しみいただけるのではないでしょうか。

 

≪北海道のフレッシュチーズ「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)のご案内です。≫

 寒さ厳しい地、北海道から届く特選食材はフレッシュチーズ、それもフランスのフロマージュ・ブランに習い誕生した至高の逸品、「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)」。フランスNormandie(ノルマンディー)地方からノルマンド種と呼ばれる牛5頭が、北海道の根釧地区に移住し、広大な地でのびのびと生活しているそうです。ストレスフリーで元気な牛たちのミルクが美味しくないわけがありません。そして、そのミルクで仕上げたフレッシュチーズは言うに及ばずでしょう。どれほど特選食材なのか?以下のブログに思いのたけを記載させていただきました。

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 仔牛も誕生しているようです。親子三代東京で生まれ育てば「江戸っ子」なのだといいます。ということは、もう数年も経てば「北海道の国産牛」のBrise de mer Faisselleが登場することに。

 さらに、このフレッシュチーズと抜群の相性を誇るのが、 長野県の茅野(ちの)市で信州ナチュラルフーズを営む青木和夫さんが手がけた「日本ミツバチの蜂蜜」です。狩猟解禁ともなると、ジビエを求め山深くに入り、イノシシやクマ・シカを追い求める日々。山を知り抜いた青木さん管理の下、山の恩恵を十二分に受け育まれた、いまや激減している日本ミツバチの貴重な蜂蜜です。

この日本ミツバチの蜂蜜とフレッシュチーズのセットを1,000円で昼夜問わずご用意しておりますが、このblogを読んでいただけた方には800円でのご案内です。フレッシュチーズの入荷数には限りがございます。ご予約の際に、「フレッシュチーズ希望」とお伝えいただけると幸いです。

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≪「Pulpe de CACAO(ピュルプ・ドゥ・カカオ)」がBenoitに届きました。≫

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 長らくこの飲食の業界に身を置いていますが、 この食材を口にしたのは初めてです。この名前を耳にした時も、味わいがどんなものか全く想像がつかなかったことはもちろん、ホロホロなのかペタペタなのかすら分からず。ただただ、試食した時、想像とのギャップに、さらにあまりの美味しさに言葉を失いました。それは、何か?

「Pulpe(果肉) de CACAO(カカオ)」

 カカオフルーツはラグビーボールよりも一まわりほど小さな大きさで、画像のように樹から花梨のように実をつけます。外皮はご想像の通り、ガチガチです。この種(たね)は、発酵させ、さらに乾燥させることでチョコレートの原料になることは、すでに皆様ご存知のことと思います。今回は「種」ではなく「果肉」です。カカオの果実から5%ほどしか取れず、通常はチョコレートの風味を作る一要素として「種子」とともに発酵させてしまいます。その果肉がBenoitにブラジルから届いたのです。この希少フルーツの詳細は後日に皆様へお送りいたします。

 このカカオフルーツそのものの美味しさをお楽しみいただきたい。そこで、上記の「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)」とともに、皆様にお楽しみいただこうと考えました。爽やかなフレッシュチーズとカカオピュルプが、お互いに美味しさを引き立て合う、まさに「未知なる世界へ誘(いざな)うマリアージュ」を皆様には体感していただきたいと思います。このセットは1,000円で昼夜問わずご用意しておりますが、このblogを読んでいただけた方には800円でのご案内です。フレッシュチーズの入荷数には限りがございます。ご予約の際に、「フレッシュチーズとカカオ希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

≪「ル・ショコラ・アラン・デュカス 東京工房のショコラ ブノワ風」が満を持してメニューに登場です。≫

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 2013年2月、アラン・デュカスの長年の夢であった「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の工房がパリにオープンいたしました。彼の料理哲学は、素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること。そのため、カカオ豆の粉砕から、ショコラができるまで、全ての工程をショコラティエ(チョコレート職人)が手造りしています。

 この熱い想いを世界にも。そこで、アラン・デュカスが選んだ地が日本だったのです。2018年4月、東京日本橋の脇に、海外初の工房が登場したのです。

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 同じアラン・デュカスを冠する仲間が、近くで美味しいショコラを作りあげておきながら、Benoitが手をこまねいて見ているだけでは名が廃ります。そこで、日本橋の工房が軌道に乗った今、待ちに待ったショコラの逸品がBenoitに届いたのです。購入はカカオ含有率75%と45%のショコラブロックと、カカオ豆をローストして砕いたGrué de Cacao(グリュエ・ドゥ・カカオ)。このショコラを贅沢に使い、8年もの間、Benoitの重鎮のごとくメニューに君臨していた「BENOIT CHOCOLAT/CARAMEL(ショコラとキャラメルのブノワ風)」が、ついに変貌を遂げたのです。

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 食感の異なる4層は、下からアーモンドやヘーゼルナッツを加えて仕上げたプラリネをカリっと焼き上げたもの、さくっとショコラのビスキュイ、カカオの風味豊かながら甘さ控えめ濃厚なショコラにクリーム、ほのかに甘さを感じるように艶やかなショコラのシロップ。それぞれが異なる美味しさのヴァリエーションが、口中で奏でられる。さらに、一番下のカリっとしたプラリネの中には、2種類のパリパリとした食感がアクセントを加える。グリュエ・ドゥ・カカオは得も言えぬカカオのほろ苦さを、蕎麦(ソバ)の実は香ばしさをもたらします。ショコラは濃厚だが、全体的に甘さを抑えている分、風味豊かに軽やかささえ感じるように仕上げています。そして口休めに、蕎麦の実をふんだんに使ったアイスクリームを。

 Benoitはビストロなのか?これがビストロのデザートなのか?そのような疑問が脳裏をよぎる逸品に仕上がっています。最後の判断は、皆様ご自身で。ランチでもディナーでも、プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢として、追加料金なくお選びいただけます。

 

≪長野県戸隠より、探し求めた最高の「蕎麦の実」がBenoitに。≫

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 新しいBenoitのショコラデザート が、満を持して今月からプリ・フィックスメニューに加わりました。「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の工房からBenoitへ納品されたのは、昨年末でした。え?今までの1月ほど何をしていたのか?決してサボっていたわけではありません。シェフパティシエールの田中がフランスのエグゼクティブ・シェフパティシエと協議を重ね、レシピが固まりつつある中で、自分に対して指令が発せられたのです。デュカスショコラに相負けない逸品を探してほしいと。何を?

「蕎麦(そば)の実」

 長野県の戸隠といえば、岩戸伝説で知られている通り、神話の里です。平安から鎌倉時代には、日本三大霊場として栄え、五穀断ち(難行苦行)の修験者たちの体力を支えたのが、栄養豊富な「蕎麦」だったといいます。この地に居を構え、自らも戸隠高原に蕎麦畑を所有し、信州内に契約している農家さんは多数にのぼる。国産の蕎麦の扱いに関してはプロ中のプロです。この時期にあり、画像の蕎麦の実を見ての通り、美しく緑がかった色合いは、鮮度の良さの証です。香り高く蕎麦本来の風味を損なっていない、美味しく食感の心地よさ。この逸品をBenoitへおおくりいただいているのが「おびなた」さんです。

 この「蕎麦の実」無くして、今回のBenoitのショコラデザートは成しえなかったことでしょう。

 

静岡県掛川から直送、「紅ほっぺ」がデザートに登場です。≫

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 栽培地域は、ほぼ日本全土を網羅し、新品種育成を目指し、各都道府県が鎬(しのぎ)を削る。美味なるものであれば、彼の地を代表する品種となります。しかし、この熾烈を極める戦いの中で、全国に名を馳せるにいたるものは、ごく僅か。毎年どれほどの新種が生まれ、淘汰されていったことか。それもこれも、誰しもが愛してやまない「イチゴ」だからなのでしょう。

 みずみずしく、しゃくしゃくの食感。心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てる。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まるように思います。鮮度を維持することが難しいため、収穫は随時行わなくてはなりません。さらに、水分が多いからこそ輸送に耐え得ないフルーツでもあります。Benoitの席数を考えると、一農家さんからの購入では、イチゴの確保がかなり厳しいのです。

 シェフパティシエールの田中が、フランスとのやり取りの中で決まりつつあるレシピを知った時、あまりの驚愕に言葉を失いました。デザートに使用するイチゴの量、一人分がMサイズで約20粒ほど必要であること。さらに、イチゴの品質がそのままデザートの味わいに反映してしまうこと。つまり、高品質のイチゴを、定期的に過不足なく購入し続けなければなりません。

 この難問を、いとも簡単に解決へと導いてくれたのが、静岡県掛川市にて広大な農園を構えている「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんでした。Benoitへ送っていただく品種は、誰しもが知る静岡県を代表する「紅ほっぺ」。サイズ指定も購入量も、担当してくださった方の「大丈夫です」という一言に、どれほど安堵したことか。さらに、届いたイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。豊潤な香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる豊潤な甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」か。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と納得の逸品です。

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 紅ほっぺMサイズを、お一人様10粒分は半分にカットしてオオリーブオイルと塩少々。もう10粒分は、広島県大崎上島の岩﨑さんの瀬戸内レモンとともに、軽く火にかけザルの上に。ゆっくりと滴り落ちる紅ほっぺのジュース。ザルに残ったイチゴは、そのままマルムラードへ姿を変え、ジュースはオリーブオイルが加えられてソースへ。そのままを盛り付ける中に、心地良い酸味とほろ苦さを演出する瀬戸内レモンの皮のコンフィ。さらに爽やかなミルクの風味を生かしたフレッシュチーズのソルベを一番上に。イチゴの調理方法を変えることで、それぞれ違った魅力を引き出すように。

 皆様お察しの通り、「イチゴそのもの美味しさ」が、今回のデザートのポイントになります。だからこそ、彼の地を代表する品種を選び、その中でもこだわりの農園から直送しなければならなかったのです。違った表情をみせるイチゴに、レモンとソルベが加わり、オリーブオイルを加えたイチゴジュースをそそぐ。一つの器の中で、それぞれが奏でられた時、このデザートが皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことになるでしょう。

プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

 

熊本県天草より「不知火」直送。パンデピスとのデザートは今月が最後です。≫

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 熊本県の天草の島々を横断する道のりは、別名「柑橘ロード」とも呼ばれ、周辺では多くの柑橘フルーツが植樹され、美味なる逸品を世に送りだしています。その中でも、画像のフルーツこそ、彼の地を代表する柑橘でしょう。「デコポン」と皆様お思いかもしれませんが、これは「不知火(しらぬい)」です。

 不知火とデコポンは、これほどまでに酷似している姿にもかかわらず何が違うのか?実は同じといえば同じもの。「不知火」の品種の中で、JAが定めた糖度と酸度をクリアしたものが「デコポン」です。では「デコポン」が優良品種なのか?そうとも言えますが、そうでないとも言えます。この2つの名称を、数値によって分けることは、我々消費者には分かりやすく、斬新な試みだと思います。だからといって「不知火<デコポン」ではありません。消費者から見れば、デコポンの方が品質に安定感がある。しかし、不知火の中には、デコポンを凌駕する品質のものもある、ということです。

 熊本県の天草は、「不知火」発祥の地。数々の失敗を繰り返し、自然の辛酸を舐め、淘汰され、生み出された品種です。彼らには不知火を世に生み出したプライドがある。だからこそ、中途半端な不知火は出荷いたしません。天草の柑橘を購入し始めたのは3年前。これほど暖秋暖冬の影響下で、毎年安定感のある「天草の不知火」の美味しさには、ただただ驚くばかりです。熊本県産「デコポン」も市場にあります。ここで、ひねくれものの自分がふと思う。「不知火」発祥の地でもある熊本県天草で、「デコポン」を名乗る理由が見つからない。言い換えると、熊本県産で「デコポン」名乗るには、何か理由がある。不知火として勝負する自信がないためにデコポンの名を利用するのか?何はともあれ、天草の不知火は美味であることに間違いはありません。

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 この不知火をアルザスの伝統の焼き菓子である「パン・デピス※」と組み立てます。コショウ・生姜・チョウジ・ナツメグを絶妙なバランスで 絶妙なバランスでブレンドされた、フランスを代表するキャトル・エピス。さらに蜂蜜にオレンジとレモンと加え、パウンドケーキのように焼き上げたもの。独特な風味ながら、なんとも懐かしさのある味わいに仕上がります。このパン・デピスでアイスクリームを、そして小さなクルトンを。キャラメルをまとったアーモンドをパラパラと。忘れてはいけない「不知火」は、フレッシュはもちろん、皮のコンフィにマルムラードの3種へ姿を変えます。※アルザスの伝統菓子だと思っていたら、実はチンギス・ハーンが、ヨーロッパまで遠征したときの「置き土産」。兵士たちの携帯食なのだとか。いつもフランスの伝統や文化を教えて下さる、フランス人のお客様よりお教えいただきました。目から鱗が落ちることばかり。

 なんともバラバラな味わいで、混沌としたデザートに仕上がっているのではないか、そう危惧される方も多いのではないでしょうか。特にパン・デピスの風味を想うと、疑問しかなかったのが自分です。以前の「栗とレモン」もそうでしたが、「百聞は一見に如かず」ならぬ「一食に如かず」です。パン・デピスの独特な風味が、なんと不知火のマルムラードと皮のコンフィとの相性は抜群です。なんと言葉にしたらよいのか分からないほど。ただ、ありあまる陽射しの恩恵を授かって育まれた「熊本県天草の不知火」の果皮、味わいのコクと濃密さがなければ、成り立たないマリアージュであることは、一口瞭然です。個性あふれるそれぞれのパーツが奏でる食感と味わいが、パティシエによって一つの作品に仕上げられた時、驚きとともに見事なまでの「美味しさのハーモニー」を、我々に教えてくれることになるでしょう。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。不知火とパン・デピスの組み合わせは、2月末までのご用意です。3月からは、不知火は継続しますが、と同郷のパール柑がBenoitの届くため、姿を一変した柑橘デザートが登場いたします。

 

≪ミュージックディナー「三味線プレイヤー 史佳」のご案内です。≫

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 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。

Benoitミュージックディナー 「三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi ≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

≪史佳Fumiyoshi プロフィール≫

kitahira.hatenablog.com

 

 

≪余談ですが、2019年の「干支」のお話です。≫

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 古代中国の賢人の英知の結晶でもある「干支」。なぜこの漢字なのか?もちろん、自分は占い師ではなく、漢字の語源から読み解いてみたものです。添付の画像は、今年早々に撮影したものです。そして、ブログの中には昨年の初夏の画像。なぜ「ユズリハ」を干支の話で選んだのか?この理由も理解していただけるはずです。

kitahira.hatenablog.com

https://kitahira.hatenablog.com/entry/2019/01/04/1

 

 四季折々の移りようは、風に運ばれてくる芳しい薫りによって、感じとることもできます。初春は梅も捨てがたいですが、やはり、ジンチョウゲでしょう。夏はクチナシ。秋にいたっては金木犀(きんもくせい)と銀木犀(ぎんもくせい)であることは、誰しもが納得いただけると思います。この秋を代表する芳しい香りは、芳香剤のようで好みが分かれるところです。しかし、芳香剤に使用されるほど愛される香でもあるのです。この花が終わりを告げたと思っていた頃に、同じような香りがそよいでいる。その方向へ歩を進めてみると、そこで柊の花を目にすることができるでしょう。咲き遅れた銀木犀かと思ったほどそっくりな花の形と香り。しかし、その葉の姿は、間違いようのないほど特徴的な柊です。「香」が導いてくれたこの出会いは、多くのことを教えてくれました。柊は金木犀と同じ仲間のモクセイ科。だから、花の形も似ていれば香もそっくりなのです。

 芳しい香り漂わせる花開く頃と、2月の節分のちょうど半ば頃でしょうか。ヒイラギが脚光を浴びる時を迎えます。12月のビックイベント、クリスマスです。赤い実を成し、とげとげの葉の飾りを其処彼処で目にしたのではないでしょうか?キリスト教徒にとって、ヒイラギはキリストが磔にされたときのいばらの冠であり、刺さり流れ落ちたキリストの血が赤い実なのだと言い伝えられています。サンタクロースの色合いに、コカ・コーラ社が影響したとはいえ、冬でも緑美しい葉と赤い実は、まさにクリスマスカラーそのもので、欠かせない飾りなのでしょう。さて、なぜ「柊」を「ヒイラギ」と書いたのか?

 クリスマスに飾られる樹は、セイヨウヒイラギと呼ばれています。柊(以下ヒイラギ)とセイヨウヒイラギは似ていますが、ヒイラギは前述したようにモクセイ科、ところがセイヨウヒイラギはモチノキ科と別種なのです。ヒイラギもセイヨウヒイラギも、枝の節ごとに葉をつけます。ところが、ヒイラギは対性とよばれ2枚ずつ、セイヨウヒイラギは互生で1枚ずつ。ヒイラギは黒っぽい地味な実ですが、セイヨウヒイラギは真っ赤な実を付けます。クリスマス時期によく見かけるイミテーションのセイヨウヒイラギの飾り物ですが、実は赤いですが葉の付き方がヒイラギになっているものを多く見かけます。製作者が混同してしまったのでしょうか?ちなみに、パンダのぬいぐるみで尻尾が黒いものを見かけますが、実際は白。思い込みというものの怖さでしょうか。

 さらに、セイヨウヒイラギはEuropean hollyと英語で書きます。モチノキ科の植物を英語圏ではhollyというようなのです。ということは、hollywoodは「モチノキ科の樹」のことで、アメリカのハリウッドに自生しているから地名として名を残しているのか!と思いたくなりますが、葉のギザギザと赤い実はモチノキ科のhollyと似ていますが、hollywoodはバラ科です。愛らしさが似ているからついつい同じ仲間のように呼んでしまっているようです。そういえば日本人も、美しく美味しい魚を~鯛(たい)と。アマダイもイトヨリダイも、およそタイ科に属さない別品種。確かに、言葉が先で分類学は後世の産物であるとは理解しつつも。ああややこしや、ややこしや。

 

立春」を迎えましたが、まだまだ「余寒」です。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、風邪ばかりではなくインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。心の潤いも保ちながら、快適にお過ごしください。

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」北平敬

www.benoit-tokyo.com

「山口県下関より≪福≫来たる」これ食せずして2019年は始まりません!

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 まだ夜が明けぬ中、本州最西端の地に人が集まり出す。日中の陽射しによって温められた地表が気温を上げるも、陽のかげりとともに下降の一途をたどり、闇が深くなる頃には身震いするほどの寒さに包まれる。夜が明ける直前が一番冷え込むことになるが、この地は三方を海に囲われているため、冬の時期の北風が、さらに体感温度を下げていく。時計に目を落とすと、午前3時ほど。研ぎ澄まされた寒空に輝く満月が、西の海へと沈みゆくを楽しむために集まった、ようには思えない。特に着飾っているわけでもない。車を降りた人は、出会う人へ物静かに挨拶をすませたかと思うと、まるで何かに導かれているかのように、海に面した建物の中へと姿を消してゆく。建物内は、外の月夜と比すれば明るいが、眩いわけでもなく豪華絢爛な飾りつけもない。集いし者は、ひとつの部屋へと足早に赴く。夜も明けぬ時間だというに、人々の目に気だるさはなく、俯瞰(ふかん)するかのように部屋を一望している者、瞑想するかのように真剣に考えこんでいる者、鋭い眼差しで足元を見ている者、笑い声のこだまする和気あいあいというとは全く異質の雰囲気をこの部屋にもたらしている。

 この静寂の終焉を告げるかのように、部屋にベルが鳴り響く。時は午前3時30分ほど。ざわつく中に、張り詰めた、何とも言えぬ緊張感みなぎる空気感へと一変。「ええが、ええが」と小さく声を掛ける男が歩み寄る。彼のいでたちが、一風変わっている。右手には筒のような袋をかぶせているのだ。ドラえもんでいう「空気砲」のように。そして、足元に並べてある「トロ箱」を順に廻り始める。各トロ箱の前で、数人がその男の袋で隠れた右手に握手をするかのような行動に出るも、ものの数十秒で隣のトロ箱へと移ってゆく。安堵する者、一喜一憂する者、この想いが交錯するこの部屋は、独特な雰囲気に包まれる。「トロ箱」とは、魚を運搬する時に使うケースのことをいい、もちろん今回のトロ箱の中には、この地の特産でもあり、代名詞的な魚「フグ」。日本で唯一の「フグ専門市場」であり、豊洲とは違う「競り」方法で執り行われているのが、この「フグ」にしか行わない「袋セリ」。

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 この本州最西端の地とは山口県下関市です。本州と九州とがもっとも近づく地であるからこそ、中継地として栄えた地。その下関市の南端に位置しているのが「彦島(ひこじま)」です。今では3つの橋からこの島に渡ることができるため、離島という印象こそ薄れてきてはいますが、日本海と瀬戸内海を結ぶ海上交通の要。昔々の源平合戦において、瀬戸内海の覇権を握った平家にとっては需要な拠点だったために、壇ノ浦の戦いでは平家が本陣をおいています。少し分かりにくいですが、添付した地図の左下、海の上に描かれた「フグの絵」の右下の島。この島の最西端に位置しているのがフグ専門の「南風泊市場」です。

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 かつて、北前船海上輸送を担っていた頃、夏前に北海道で海産物を積み込んだ廻船が対馬海流に逆らうように日本海側を南下していき、本州最西端の関門海峡から瀬戸内海に入り、いざ大阪へと向かう。その関門海峡を通る際に、時として吹き付ける強い「南風(はえ)」は、帆を張る船にとってはゆゆしき事態。そのようなときは、無理はせず港に入って停「泊」しようじゃないかというわけで、名付けられたのが「南風泊(はえどまり)港」であり、隣接する「南風泊市場(はえどまりしじょう)」だというのです。言われてみると、なるほどと感じますが、初見で読むことができる人はいるでしょうか。

 この南風泊市場で、冬の「北風(あなじ)」が吹く頃から春の「東風(こち)」吹く頃まで活況を迎えるのが「フグの競り」です。日本広しといえど、フグを専門にしているのはこの地のみ。人命にかかわる猛毒を持っている魚だけに、うかつには手を出せないが、比類なき美味しさ。「フグが食いたし命は惜しし」、だからこそ職人がこの地に集まり、近隣のフグも一堂に会する。フグの水揚げ量は日本一を誇ります。その美味しさは唯一無二のため、価格高騰を抑える意味でも独特な競りの方法が生まれました。豊洲では「マグロ」が良い例です。人々が合図や掛け声で競り落とすのではなく、マグロは「札競り(ふだせり)」と呼ばれるもので、買い付けのプロが、マグロの見極め、札に入札金額を記入して伏せてマグロの脇に置いていきます。そして、その中での一番高額な札を出した人が購入とするもの。では、フグはどうするのか?この競りの方法が、「袋競り(ふくろせり)」というもので、いまだこの伝統が踏襲されているのです。

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 2019年1月4日未明に、新春の初競りの様子が報道陣に公開されました。ご覧になられた方は、なんと素早く競り落とされていることか、いや競り落とされていることすらよく分からなかったのではないでしょうか。前述した通り、フグは他で代用ができないため、かつては喧嘩になることもあったと。そこで、値段の駆け引きが分からないよう、競り人(売る側)の右手を袋で覆いかぶせるようにしたのだといいます。画像の中央の赤いキャップの競り人の右手が、その「袋」です。

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 では、手を隠してどうするのか?仲買人(買う側)はその袋に手を突っ込み、購入希望額を競り人に伝えるというのです。買値の基準はその日の相場で決まれており、そこから対象となるフグの入った「トロ箱」の増額を伝える。ポーカーフェイスで淡々と競りが行われているかのようで、実は袋の中では、お互いの右手によって駆け引きが行われているのです。人差し指を1本握れば「1」、握る指の本数で「2」や「3」、全部で「5」。親指だけで「6」、親指と人差し指で「7」という具合に。どうしても欲しい時には、つねっている、そんなわけはないと思いますが、こればかりは当事者にしか分かりません。通常の競りでは、最後の一人になるまで値が上がってゆくものが、袋競り(マグロの札競りも)は競り上げが無く、1回勝負。一つのトロ箱が数十秒ほどで競り落とされてゆくため、仲買人には、箱のフグの価値を素早く見定める力量と、競り勝つための経験が問われることになるのです。

 この独特の世界に身を置くことを心に決め、1949年(昭和24年)創業の老舗の暖簾(のれん)を引き継いだ職人、道中哲也さん。トラフグの水揚げ日本一を誇る下関に生まれ、自ら競りに赴きます。父親譲りの鋭い目利きによって競り落とす。皆様に安全なフグを安心してお召し上がりいただくために、「ふぐ処理師免許」を持つ熟練の職人の手によって、除毒された「身欠き」へと、すぐさま捌かれます。もちろん、冷凍などは一切なし。そして、この鮮度抜群のフグを、唐戸市場(からといちば)の中にある、店舗で販売しています。

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 唐戸市場の話は只今執筆中です。今少しお時間の猶予を、なにとぞよろしくお願いいたします。特別プランとともにご紹介させていただきます。

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 世相は時として優しさを見せてくれるようです。きっと何かを強く想う時に、出会いを用意してくれるのかもしれません。道中さんとの出会い無くして、今回の特選食材は登場しなかったことでしょう。競り落とされた鮮度の良いトラフグを、道中さん率いるフグの職人チームに「身欠き」へと捌いていただき、除毒した全ての部位をBenoitに送っていただいております。美味なる食材であるにもかかわらず、随所に猛毒をもつため、日本人ですらうかつに手を出せない食材。Benoit史上初、いやアランデュカスグループで初となる「フレンチでフグ」のご案内です。

 シェフのセバスチャンに話を聞いたところ、地中海でもフグは生息しているようですが、「フグには猛毒がある」ことが周知されているため、調理されることはないようです。確かに、フレンチでは聞いたことがありません。もちろん、セバスチャンも初めての食材です。試食の際に、もちろん、セバスチャンも初めての食材です。道中さんより送っていただいたトラフグを、生で、焼きでと試食した際に、「美味しい、食感はドーバーソールに似ているかな」と。ドーバーソールとは、フランスとイギリスの間にある海域「ドーバー海峡」で育った舌平目です。日本で見かける舌平目は薄っぺらいのですが、よほど潮の流れが速いのか、肉厚で身の締り具合はヒラメを凌ぎます。身質は似ていても、旨味はフグに軍配が上がります。初めて出会う食材を、シェフはどうするのか?

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 いろいろと試作し、シェフの中でトラフグという食材が、「猛毒の魚」から「美味なる魚」へと変わった瞬間、ひとつの料理が脳裏をよぎったようです。熱を加えた時の身の弾力と、なんともいえぬ食感。得も言えぬ旨味を逃がさないように。ドーバーソールで仕上げる伝統料理をアレンジしよう、と。そう、シェフがイメージしたのは「グジョネット」という揚げ物のようなスタイルでした。衣をつけることで、水分と旨味を閉じ込めるように。さらに、フグ独特の身質を生かすように、揚げる時間は30秒ほどという短かさ。プリっとした食感を楽しみながら、トラフグ特有の旨さが口中に広がる。このままでも美味しい。しかし、シェフは、トラフグのために、エシャロットは控え目で、卵の優しさとまろやかさを生かしたタルタルソースを用意いたしました。この相性も抜群です。

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 さらに、道中さんより送られてくる「身欠きのトラフグ」で、忘れてはいけない骨と皮、さらに頭部と口まわり。食べにくい部位ですが、美味しいダシが引き出せます。そこで、和食では焙って食べるプルプルの皮の部分も贅沢に加え、洋風に煮出した「トラフグのコンソメスープ」、これがまた美味。シェフが、揚げ物だからこそ、「お口直し」のように添えたいのだといいます。正直にお口直しは必要ないほどグジョネットが美味しい。さらに、このコンソメスープがこれまた美味しい。和食とは一味も二味も違うトラフグの魅力を、Benoitを通して皆様にお楽しみいただけるはすです。

 

 2019年2月末までの期間、プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチ+2,000円、ディナー1,500円にてお選びいただけます。しかし、新春を迎え、皆様のBenoitへのご期待にお応えすべく、特別プライスをご案内させていただきます。期間は、メールを受け取っていただいた日より、228日までの、平日限定です。各コース料理の内容は、プリ・フィックスメニューからお選びいただけます。唐戸市場より直送するため数に制限がございます。そこで、ご希望の場合は、ご予約の際に「トラフグのブログを見たよ」とお伝えいただけると幸いです。

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≪2019年Benoitの新春は、下関より「福」来たる!≫

ランチ

プリ・フィックスメニューの追加料金

2,000円→1,000円(税サ別)

ディナー

プリ・フィックスメニューの追加料金

1,500円→29円(税サ別)※

※決して打ち間違いではありません。29円です。

他のプラントの併用はできません。 ご不便をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

 大阪ではフグのことを「てっぽう」と呼んでいます。「当たったら死ぬ」というわけで「鉄砲」に由来するようなのです。この「てっぽうのしみ(刺身)」が「てっさ」。しかし、下関では「てっぽう」などというおどろおどろしい名では呼んでいません。彼の地では、「ふく」なのです。天然トラフグ取扱量日本一なことに加え、ふぐ禁食の歴史があるものの、一般家庭では美味しい食材として馴染みのあったものだからこそ、フグは「口福な食事」をもたらすものだからこそ、「ふく」なのです。だからこそ、ディナーでの追加料金が、2(ふ)9(く)円。あら、お後がよろしいようで。

 

 日本全国津々浦々、自らの足をつかって食材を探すのが一番良いとは十分に分かってはいるものの、やはり「時間」がそれを許しません。「豊洲」という素晴らしいシステムは、電話1本で翌日には食材が届く素晴らしい流通システムです。しかし、この状況に甘んじたがために、我々飲食にたずさわる者が、食材の旬や食材の地方色を忘れてしまうことになりました。どんなに腕の立つ料理人でも、食材以上の美味しさはだせません。アラン・デュカスの料理哲学は、素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること。であれば、自分の役割は料理の美味しさを皆様に伝えること。そのためには、食材を識らなければなりません。もう一度、料理の原点を考え直そうと、食材探しに勤しむことにいたしました。

 言語は、その言語の生まれた国の特徴を色濃く反映しているものです。フランス料理の世界に入り、いかに多くの「調理用語」、「食材」の単語が存在することか。例えば、poêler(ポワレ)、sauter(ソテー)とrisoler(リソレ)は、フライパンを使って「焼く」ことを意味しますが、火加減やどのような仕上がりにしたいかによって使い分けているようです。さらに、 lapin(ウサギ)と lièvre(野ウサギ)は日本語では「野」しか違いわないですが、フランスではそもそもの単語が別物です。フランス料理の伝統では、「肉」のほうに特化しているのです。では、日本はどうなのか。最近では焼肉屋さんの影響で、肉の部位の名前が表舞台に登場しています。しかし、日本は四方が海に囲まれている海洋国家。馴染みのある魚の名前の数の多いこと多いこと。四季折々、地方地方によってなんと特色豊かなことか。ただ残念なのは、自分が魚介類には素人同然だということです。

 そんな自分が偶然に道中さんに出会うわけがありません。Benoitの食材探しを助けていただいていた立役者がいらっしゃいます。以前、「美味しいイチジク探し」で福岡県糸島半島の高橋さんを紹介してくださった方。グルメレポーターの菊田あや子さんです。彼女の紹介無くして道中さんとの出会いはありません。いうなれば、彼女なくして、Benoitの今回の特選食材「トラフグ」はなかったでしょう。この出会いが、昨年末に、菊田さんと道中さんがともにBenoitを訪問していただくということに結び付き、シェフとの語らいの時が実現したのです。下関に育ち、地の食材で育ったがゆえに愛情深い、さらに食材への造詣が深い菊田さん。下関近海の海産物を扱い、特にトラフグの目利きは父親譲りの道中さん。フランスのプロヴァンス育ちゆえに魚介に思い入れがあり、アラン・デュカスからBenoitを任されたシェフのセバスチャン。Benoitにて一堂に会したのです。どれほど有意義なひと時であったことか、皆様のご想像にお任せいたします。

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 菊田さんから皆様へのメッセージをいただきました。

「本州最西端の山口県下関市は三方を海に囲まれ、多くの海産物や特産野菜に恵まれ、そしていま明治維新150年(今年は151年)に沸く歴史の地です。活きの良い魚介が並ぶ下関市、唐戸市場のそばで育った私は、この市場が遊び場でした。ピチピチ跳ねるシャコや青魚、もちろん河豚(ふぐ)!が並ぶ場内を、ルンルンとスキップしていたものです。当たり前に見ていた海の物がどんなに宝の食材だったかは、世のグルメブーム1990年以降に身に染みて感じました。下関って凄い、と。私がグルメリポーターとなり、その先頭で全国を駆け回ってきたのは、間違いなく唐戸市場の新鮮な本物の味で舌が育っていたから!でしょう。脈々と続く唐戸市場の魚屋さんの目利きと自慢の宝物!山口県から東京Benoitさんの檜舞台で!食通の皆様に唸っていただけることは間違いありません。」

 

 2019年、下関より「ふく」きたる。「百聞は一食に如かず」、どれほど自分が語ろうが、皆様の「一口」が勝ります。そこで、この特選食材を、皆様にどうしてもお楽しみいただきたく、特別価格でのご案内です。皆様が、「ふく」で「口福な食事」を過ごすことができるように、2019年が「ふく」で満ち溢れるように、万全の準備をもってお迎えいたします。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなく返信ください。インフルエンザ対策と美容のためにも適度な湿気をお忘れなきように。それと、1月29日(い~ふくの日)も。

 

以下は余談です。

  「フグには猛毒がある」ことは、日本人であれば誰しもが知っていることでしょう。実はすでに5000年も前に、すでに猛毒の存在が分かっていたようなのです。それにもかかわらず食していたといい、縄文時代貝塚からフグの骨が出土していることが何よりの証です。しかし、今のようにフグ毒の基礎知識がなかった時代は、「河豚は食いたし命は惜しし」を、自らの身をもって実践していたことになるのです。この猛毒はテトロドトキシンいう猛毒で、青酸カリの約1000倍も強力なのだとか。わずか0.5~1.0mgの接種で致死量に至り、解毒剤もなく、300℃以上で加熱しても分解されません。それでも、フグの美味しさに魅せられた調理人は、経験と伝え聞いた知識をもとに、フグをさばいていたのだといいます。これほどの猛毒にもかかわらず、時の権力者は放っておいたのか?昨年がフグ食解禁130周年でした。そう、かつて「フグ食禁止の時代」があったのです。

 豊臣秀吉の治世下で、朝鮮出兵の際、肥前(佐賀県)の名護屋城に駐屯していた兵士がフグ毒によって中毒死が多数出たといいます。日本全国から馳せ参じる兵士たちにとって本州と九州の中継地点でもある下関は、格好の休憩地だったことでしょう。出征までのしばしの余暇に釣りなどをして下関で過ごす、そこで釣り上げられた魚の中に「フグ」がいた。地方出身の何も知らない兵士がそれを食べてしまうことは、想像に難くないことす。そこで、豊臣秀吉は、其処彼処に「この魚喰うべからず」と御触書を立て、注意喚起というレベルではなく禁止令を発したのです。その看板に描かれていた絵が「ふぐ」だったのです。徳川の治世になってもこの禁制は解かれることはありません。

 転機を迎えたのは明治に入ってからです。1887年、時の内閣総理大臣伊藤博文公が下関にある春帆楼(しゅんぱんろう)を訪問したといいます。海が時化(しけ)続きで魚がまるで捕れない日々の中で、悩みぬいた末に女将の藤野ミチさんが導きだした答えは、「お手打ち覚悟で、ご禁制のフグを供すること」。下関では、フグ食禁止の期間であっても、美味しいがゆえに、手料理として馴染みの魚だったようなのです。下関出身の伊藤博文公も、かつては食していたのではないかとも言われていますが、その真相はわかりません。ともあれ、食した後に誰一人としてフグの毒にあたらなかったことに感銘を受け、翌年に下関限定でフグ食を解禁したのだといいます。「ふぐ料理公許第一号」が、この春帆楼さんです。

 

 時同じくして、日本でフグ毒の研究が始まっています。フグの猛毒は「テトロドトキシン」と呼ばれていますが、名付け親は日本人なのです。時は下り1909年、当時の内務省東京衛生試験所所長、薬学博士である田原良純さんが、フグの卵巣からこの猛毒を抽出することに成功しました。そして、フグ科の学名「Tetraodontidae(テトラオドンティダエ)」から「テトロド」、「Toxin(毒素)」から「トキシン」を合わせて、「テトロドトキシン」と命名したのです。彼の研究はこれで終わらず、この猛毒の薬用作用を解明し、鎮痛効果があることを実証するに至ります。

  しかし、いまだ謎多き猛毒な上に、熱でも分解せず、さらに解毒方法が見つかっていない危険極まりないテトロドトキシン。唯一の防御方法は摂食しないこと。そこで、フグ毒中毒を未然に防ぐことを目的に、「ふぐ処理師免許」制度が発足することになります。さらに各都道府県の条例により、除毒され「身欠き」となった状態で受け取った側(飲食店や食品販売店)では、多少の違いこそあれ申請が必須で、猛毒がある食材だっただけに講習会を受けなければなりません。

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 かつては免許制度などありませんでした。そのため、フグを食すのも命懸けだったことでしょう。それでも食したいほど美味しい。そこで、人々はフグに詳しい人に習い、もしくは伝聞によって除毒していたようです。歴史が物語るように、フグ食が解禁になった地が「下関」でした。なぜなのか?

 下関周辺は、天然のトラフグにとって住み良い海域であり、時代によって総量の違いこそあれ、水揚げ量は日本一であることは、今も昔も変わりません。命と美食を天秤にかけることで得ることができる、まさに命を賭した経験こそが、フグの除毒を可能としていたのです。このノウハウが綿々と受け継がれてゆき、下関に根付いたのでしょう。住んでいる人にとっては「馴染みの食材」であり、フグ食禁止期間でも何気兼ねなく食していたようです。だからこそ、フグ食解禁の立役者である伊藤博文公が、「下関のフグに毒は無し」と言い切ったのだと思います。フグの除毒は経験者からの伝聞以外になかった時代であり、この技能を学ぼうと彼の地に職人が集う。美味なるフグが多く水揚げされる地だからこそ、職人が育ち集う。経験豊かな職人が多いからこそ、日本全国から良質のフグが集う。だからこそ、下関の「南風泊市場」が、フグ流通の玄関口のような役割を担うことになったのです。

 フグ毒であるテトロドトキシンは猛毒です。しかし、フグが生まれながらにこの毒を有しているわけではありません。生きていく上で、貝やヒトデなどの毒をもつ生き物を「捕食」することによって、徐々に体内に蓄えられていくというのです。もちろん、フグはこれらの猛毒に耐性があるため、なんら支障はありません。この偶然の産物は、フグ食を愛する我々には厄介極まりないものですが、フグにとってはする体内の寄生虫を撃退できるという素晴らしい効能をもたらしています。さらに、このフグ毒は、捕食の有毒具合によってフグの毒性が変わり、さらに1年を通して秋から春先までは毒性が弱まるのだといいます。季語にもなっている「菜種フグ」とは、4月の菜の花が咲く頃のフグは猛毒ゆえに気を付けろと教えてくれています。とはいえ、今は知識と経験豊富な「フグ処理師」が除毒するので、1年中なんら問題なくお召しいただけます。もちろん禁漁期間を除いては。

 

 なんとか1年中欠かすことなく、皆様にトラフグの美味しさをお楽しみいただけないものか。思案の末に始まったのが、「トラフグの海上養殖」です。トラフグを捕ることから育てることに。

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 多々苦難の末に、確立した養殖技術も、逆らうことのできない自然の猛威に、幾度となく辛酸を舐めさせられる。普段は澄んだきれいな海も、夏場のように海水温が上がった時には植物プランクトンが大量発生し、死をもたらす潮と呼ばれる「赤潮」を生み出す。迫りくる赤褐色の海面に生簀が覆われていく様を、無念にもただ眺めるのみ。養殖場でエサとして与えられる中には、海にいる生物以外のものも含まれ、その食べ残しが海中で腐敗し、植物の栄養となる窒素やリンがエサから溶け出す。川が海へ流れ込む地では、生活排水が含まれ、それが植物プランクトンにとっては豊富な栄養ともなる。

 「人災なのか」、そう自分を問い詰める日々もあったことでしょう。それでも諦めなかったことが功を奏し、1年を通して安定供給を可能としました。脈々と受け継がれてきた「フグの除毒の技」に加え、安定供給を目指し、トラフグの養殖心血を注いだ方々の並々ならぬ努力があったればこそ、今の「下関のトラフグ」の地位を確固たるものにしたのです。山口県以外からも、下関に養殖のフグが集うにことの理由の一つが、「下関のトラフグは、美味で安全」というブランド力です。

 捕食によって毒を得るということは、餌を徹底的に管理すると、「無毒のフグ」を育て上げることが可能ともいえます。しかし、海上養殖では、有毒プランクトンであり網に付着する貝類などの自然の産物が生簀に入り込むために、完全な無毒フグを育て上げることはできません。しかし、陸上であれば余計な海産物が入り込まないために、可能なのではないか。フグは淡水では育てられないため、大量に必要な海水をどうするのか?まさに机上の空論に思えるのですが、塩分を含む温泉を利用することで陸上養殖を可能とし、無毒のフグを育てたという実例があります。しかし、皆様お察しの通り、コストが高すぎるために、なかなか市場での地位を得るには至りません。

 海上養殖によって、トラフグの安定供給を成しえたことは、別の効果を生み出しました。トラフグに大量の良質コラーゲンが含まれことに着目したのです。そう、サプリメントや食事などで摂取し、肌に弾力やハリをもたらす「美容」の分野です。このコラーゲンという成分は人間にもあるのですが、年齢を重ねるごとに減っていき、肌荒れや肌が垂れてしまうというお肌トラブルの原因の一つと考えられています。多くの方が経口摂取に頼るものの、なかなか体内に吸収されないため、想像以上のコラーゲンを食さなければなりません。トラフグには豊富なコラーゲンが含まれ、さらに上質だときます。海上養殖によって安定供給が可能となったことで、大手の化粧品メーカーが「トラフグからコラーゲンを得る」ことに。彼らが銘打ったのが、「トラコラ」です。身近な化粧品の成分表を覗いてみて下さい、トラコラを見つけることができると思います。

 

 トラフグ養殖が全盛を迎える中で、海の中では「ゆゆしき問題」が起きていました。天然フグの雑種化です。通常、トラフグはトラフグ、カントフグはカナトフグと交配するのですが、違う種と交配が確認されているのです。7年ほど前から増えてきたという、ゴマフグとショウサイフグの交配種。日本海側が生息域のゴマフグ、太平洋側のショウサイフグ。日本海側と太平洋側では海水温に違いがあるため、自然界でうまく住み分けができていたこの2種の生息域が交わったのです。地球温暖化によって、海水温が上昇し、両海域の水温が同じようになってきたからだと言われています。そのため、ゴマフグとショウサイフグの生息域が交わるようになり、交配し卵が孵化したことで、新たな品種が登場したのだと。

 これの何が問題かというと、「フグだからこそ大問題」なのです。フグには内臓に毒を含んでいるもの、筋肉以外に毒をもつもの、体内全てに毒をもつものが存在しています。フグの雑種化によって、有毒部位が異なる新種が生まれる可能性がある。外見はトラフグでも、有毒部位が内臓だけではなく皮や筋肉まで猛毒を含むようになってしまう可能性があるのです。外見では判断が難しい、まして命に係わるため生半可な判断はご法度です。毎日のように多くのフグに対峙しているからこそ成しえることのできる、経験に裏打ちされた「目利きの技」と「ふぐ処理師の技」。内臓の違いに気付き、有毒部位を除去する。はたまた「疑わしき」は廃棄する。フグの取り扱いに長けたプロフェッショナルがいかに大切か。今後ますます重要度を増すことでしょう。

 

 垣間見てきた「フグを取り巻く世界」。自分はもちろんですが、シェフを含めたBenoitキッチンスタッフ皆がフグの素人、とても入れる世界ではありません。道中さんとの出会い無くして、特選食材「トラフグ」はありませんでした。本当にありがとうございます。そして、シェフのセバスチャンとトラフグとの出会い無くして、「トラフグのグジョネット」はありませんでした。Benoit史上初、いやアラン・デュカスグループで初めての逸品。下関の道中さんよりお送りいただいた「福」は、皆様を口福な食事のひとときへと導きます。

 

 まもなく「立春」を迎えますが、まだまだ「寒中」です。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。適度な湿気もお忘れなきように。いつもながらの長文、今回は特に「猛毒」「猛毒」と物騒な言葉を羅列しておきながら、最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

  

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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2019年1月 特選情報≪ダイジェスト版≫のご案内

 新年を迎えることを「新春」「初春」や「迎春」と表現します。暦の上では、旧年に冬至を迎え、年を越す。2019年1月6日が「小寒」で、「寒の入り」。1月20日に「大寒」を迎え、この終わりが2月3日。この日は、季節を分ける日なので「節分」と呼ばれ、次の日から新しい季節が始まります。2月4日が春の始まり「立春」です。1か月も前に「新春」とは、少し気が早い気がいたします。

  明治の改暦以前は、太陰太陽暦を日本は長年採用していました。今のグレゴリオ暦とは違い、月齢を基準にしたものです。今の暦では、太陽の運行と暦の誤差を、4年に一度の閏日(うるうび)として調整していますが、旧暦(太陰太陽暦)では、閏月として、1月増えていました。今の生活の中で、「一日」ではなく「一か月」増えようものなら、どれほどの混乱をきたすでしょうか。しかし、明治以前の日本では、この閏月を当然の如く過ごしていたのでしょう。この旧暦の特徴は、1・2・3月を春とし、「立春」を元旦の前後に設定していました。我々のDNAには、「新年は春から始まる」と刻まれているのかもしれません。季節の変わり目は、邪鬼(気)を生みやすいため、それを追い払う儀式を執り行います。立春前の節分での「豆まき」は、我々に馴染み深い行事として今なお健在です。四季というだけあり、「節分」は年4回あるのですが、「春」を一年の始まりとしているからこそ、とくに重要視しているその証。だからこそ、寒さ厳しい「寒中」でありながら、我々は年始に「春」を語り、待ちわびるのでしょう。

  しかし、暦と実際の季節とは間違いなく誤差が生じるものです。そこで、古人は目に見えるもの、耳に聞こえるもの、肌で感じるものなどで、春の到来を実感したようです。何をもって春の初めとするかは十人十色であり、梅の開花か、ウグイスの初音か。それと「霞(かすみ)」も忘れてはいけないでしょう。「霧(きり)」と「靄(もや)」、そして「霞(かすみ)」の違いは、話が長くなるので次回にいたしますが、「霞」は春で、「霧」は秋の季語です。さらに、「春は曙(あけぼの)」と詠い「ようよう著(しる)くなりゆく山ぎは、すこし明(あか)りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」と続く、清少納言枕草子はあまりにも有名です。

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  東の空に陽が昇り始める刻限、「あさつき」「あけぼの」「あさぼらけ」の順で夜が明けてゆきます。厚雲に覆われる日もあるますが、「曙」は毎日訪れ、決して春だけのものではありません。陽が昇る光景には、なんともいえぬ希望を感じるもので、心躍る心地がいたします。猛暑日は恨めしく思うも、どの季節においても美しいものです。しかし、「春は曙」なのだと。遠くの山ぎわ、もしくは遠くの街並みに、霞がかかったかのようにもやっとした中に、陽が昇りゆく光景は、まさに清少納言が表現しているかの如く。確かに美しい。そこに、春を切望する想いが加味されることで、さらなる魅力を見出すからなのでしょうか。いち早く感じ入る「春の訪れ」は「曙」なのかもしれません。

山の端(は)の かすむけしきに しるきかな 今朝よりやさは 春のあけぼの  西行(さいぎょう)

 「さは」は、注目強制の働きをもつという間投助詞。今では「あのさー」や「それでさー」の「さ」と同じ。西行はこの語を加えることで、待ちに待った春の到来に歓喜の気持ちを込めたのでしょうか。「山ぎわに霞がかる中に陽が昇りゆく。ほのぼのと明けてゆく東の空に、切望する春の到来を見た。今朝からだよ今朝から。」という意味なのか。後は皆様のご想像にお任せいたします。寒さ厳しいこの時期の早起きは、なかなか布団の誘惑から脱することはできませんが、たまには意を決して外に出てみるのも一興なのでは。しかし、まだまだ「寒中」です。十分な防寒対策をお忘れなきように。もう少し時が過ぎるころには、其処彼処に春の兆しを見ることができるのではないでしょうか。

 

 「木枯らし」もなく、暖冬のため冬の始まりを感じ取りにくい昨年より一転、「寒中」迎えると、その名の如く寒さが身にしみる日々が続いております。まだまだ続く冬の寒さと上手にお付き合いいただきながら、冬に旬を迎える食材を食することで、無事息災に春を迎えていただきたい。旬の食材には、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできている。この想いを込め、Benoitの1月のダイジェスト版を作成いたしました。皆様にご紹介したい内容は、以下の11件です。

「特選食材」のご案内 7件

「料理・デザートの耳寄り情報」のご案内 2件

「ミュージックディナー」のご案内 1件

「余談」 1件

 

≪フランスから黒いダイヤモンド「黒トリュフ」がBenoitに届いています。≫

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 2019年新春を飾るBenoitの特選食材は、フランスから届いた黒いダイヤモンド、「黒トリュフ」です。独特の風貌に似合わず、シャリシャリとした食感と、何物にも代えがたいあの芳醇な香り。高級食材としての不動の地位を確立している所以が、ここにあるのでしょう。

 そこで、旧年より皆様から賜りましたご愛顧に感謝の気持ちを込め、Benoitの新春恒例イベント「フランス産黒トリュフの破格値での量り売り」を開催いたします。いつものプリフィックスメニューよりお好みのお料理をお選びいただき、目の前でご希望の分量(多少の誤差はお許しいただきたい)の黒トリュフを、210/1g(113日の販売価格)で削らせていただきます。参考までに、3gで十分堪能できるかと思います。可能な限り継続いたしますが、なにぶん農作物なので、ご予約の日程次第では、ご用意できない可能性もございます。ご理解のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

 では、Benoitのメニューで、どこに黒トリュフを削るのが良いのか?抜粋してみました。以下、ご参考にしていただけると幸いです。

【ショートパスタ「コキエット」と「黒トリュフ」とのマリアージュ

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 Benoitのプリ・フィックスメニューの中で、知る人ぞ知る、地味ながら美味しいとの評判のショートパスタ「コキエット」です。緑も赤も何も飾らず、自家製のハムとコンテチーズの美味しさをシンプルにからめるように仕上げた逸品です。そして、其処彼処に小粒の黒い物は「黒トリュフ」です。

 このままでも十分に美味しい。しかし、今月の特選食材は「黒トリュフ」の量り売りです。前菜の選択肢の中で、このパスタ以上の選択肢は見当たらず、ここへ削り足さずして2019年は始まらないのではないのでしょうか。

画像は削り足したものですが、2gないぐらいです。気持ちはもっと削り足したいところですが、トリュフの価格を考えると、撮影時はここでstopでした。皆様は心ゆくまで削り足し、香り立つトリュフをご堪能ください。

【世界一美味と評されるフランス「ブレス鶏」と「黒トリュフ」のマリアージュ

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 「世界一美しく、世界一美味しく、世界一値段の高い鶏」と評されているのが、フランスの「ブレス鶏」です。美しく白い羽毛をまとい、トサカは真っ赤、足は青い色という、まるでフランス国旗のような鶏肉は、厳しい審査の下に、一羽一羽に番号があてがわれ、飼育者はもちろん、エサの状況まで把握できるといいます。ワインと同じように、原産地地を名乗ることのできる唯一のAOPの鶏肉なのです。肉質は締まっており、ほどよい脂は、その筋肉に入り込むため、調理に失敗すると肉がぱさぱさという無残な結果に。そのため「調理人を選ぶ食材」とも呼ばれています。

 2019年1月末までの期間、プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチ+2,000円、ディナー1,500円にてお選びいただけます。フランスの唯一無二の食材を、これまたフランスの伝統に習い、相性抜群の軽めのクリームのソースを絡めるように仕上げたフリカッセのスタイル。この逸品に「黒トリュフ」を削り足す。味わいの相性は抜群な上に、魅惑な香り。全てはブレス鶏の美味しさを、十二分にご堪能いただくためにです。ご希望の場合は、ご予約の際に「ブレス鶏希望」とお伝えいただけると幸いです。

福井県の「六条大麦」と「黒トリュフ」とのマリアージュ

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 自然食品への回帰が叫ばれている昨今にあり、食文化を築き上げているフランスももちろん例外ではありません。フランスのアランデュカスグループのレストランでも「スペルト小麦」や「キヌア」などの食材が多用されています。その潮流の中、Benoitのシェフであるセバスチャンは、四季折々の食材が豊かな日本での食材探しが始まったのです。彼のこだわりは「国産」。そこで出会うことができたのが、福井県の「六条大麦」です。

 麦茶はもちろん、白米とともに炊き上げ食感と栄養を補う役割を担う「六条大麦」。もちろん、ビールや焼酎の原料となる「二条大麦」とは別品種です。二条種は穂を実らせたときの粒の配列が「2列」、ということは六条種は「6列」。六条大麦は二条種よりも小ぶりで、食すのには最適です。食物繊維を含めた栄養価も抜群であり、「グルテン」を含まないことも特筆すべきでしょう。この六条大麦の生産量日本一を誇るのが、福井県です。そこで、その主産地である福井県の「大麦倶楽部」さんよりBenoitへ送っていただいております。

 プリ・フィックスメニューの魚料理の「大海老」でランチ・ディナーともにご用意しております。美味しいお料理ですが、もっと多くの方に「六条大麦」の美味しさを楽しんでいいただきたいと考え、シェフとの相談の結果、ランチ・ディナーともに、800円でリゾットのようなスタイルでご用意いたします。大麦そのものの美味しさを生かすため、ほぼ透明に近い鶏から引き出したブイヨンで炊き、ほんの少しのパルメザンチーズとオリーブオイルで仕上げたものです。プチプチとした食感と、大麦由来のとろみに旨味、チーズとオリーブオイルとの相性は抜群です。さらに今月の特選食材「黒トリュフ」とともにお楽しみいただくこともお勧め。メインディッシュのサイドメニューとして、仲間内で分けてお楽しみいただくも良いかと思います。

 

Benoit伝統の逸品、「Notre PÂTÉ EN CROÛTE (パテ・アン・クルート)」が復活です。≫

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 「Benoit Paris」が、フランス で開業したのが107年前のこと。時代に翻弄されながらも、いまだ老舗の雰囲気と味わいは健在です。同じ名を冠する「Benoit東京」の歴史はまだまだ足元には及ばないものの、味への訴求に妥協はありません。本家のパリBenoitに習い、フランスの伝統を昇華させることを日々心掛けております。

 2019年、待望の「Notre PÂTÉ EN CROÛTE (パテ・アン・クルート)」が復活いたしました。鶏・鴨・豚・仔牛肉、豚の背油、フォアグラにトランペット・ドゥ・ラ・モー(きのこ)を、食味良く丁寧に合わせ、生地で包んでゆっくりと焼き上げたものです。それぞれの奏でる味わいを、曖昧にならないよう心明けることで、口に運ばれるパテの場所場所によって、表情を変えていきます。さらに、熱を加えることで肉よりしみ出でる旨みの肉汁を、生地が逃さないよう包み込む。これぞ、パテ・エン・クルートの最大の特徴でしょう。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチ+1,000円、ディナー800円にてお選びいただけます。

 

≪下関唐戸市場の「トラフグ」が、美味しすぎるので継続いたします。≫

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 山口県下関市関門海峡のたもとに位置している唐戸市場。下関を代表する海の食材が「トラフグ」です。美味なる食材であるにもかかわらず、随所に猛毒をもつため、日本人ですらうかつに手を出せない食材。シェフのセバスチャンに話を聞いたところ、地中海でもフグは生息しているようですが、「フグには猛毒がある」ことが周知されているため、調理されることはないようです。確かに、フレンチではきいたことがありません。

 今回、下関の唐戸市場に昭和24年に創業したフグの老舗「道中」さん全面協力のもと、Benoit史上初、いやアランデュカスグループで初となる「フレンチでフグ」の逸品をご用意いたします。競り落とされた鮮度の良いトラフグを、道中さん率いるフグの職人チームに捌いていただき、「身がき」の状態でBenoitに送っていただきます。これをシェフが「グジョネット」という揚げ物のようなスタイルに仕上げ、皆様のテーブルへ。フグの味わいを生かすように改良したタルタルソースとの相性は抜群。それと、トラフグの骨より引き出したコンソメスープもまた美味なり。和食とは一味も二味も違うトラフグの魅力を、Benoitを通して皆様にお楽しみいただこうと思います。

 2019年2月末までの期間、プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチ+2,000円、ディナー1,500円にてお選びいただけます。唐戸市場より直送するため数に制限がございます。そこで、ご希望の場合は、ご予約の際に「トラフグの前菜希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

≪千葉県勝山漁港の「キンメダイ」を忘れていませんか?≫

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 千葉県房総半島の先端から、少し内房に入ったところに「勝山漁港」があります。東京湾への入り口に位置しているため、内房外房の豊かな漁場から、網で巻き上げられた魚、釣り上げられた魚と多くの種類が集められています。その中から、Benoitが選んだ魚は「キンメダイ」です。夜中に千葉沖で釣り上げられた勝山漁港のキンメダイは、脂ののりがほどほどに、海流にもまれているからなのでしょう、プリっとする食感と旨味は抜群です。さらに、漁港よりBenoitへ直送するため、前述した寒サワラ同様に、水揚げ無しというリスクはあるものの、それ以上に「鮮度抜群」という大きな大きなメリットがあるのです。Benoitへ届けられたキンメダイ大きな目の、吸い込まれそうなほどの透明感が全てを物語っています。

 プリ・フィックスメニューのディナーのみ、魚料理の選択肢として追加料金なくお選びいただけます。以下に記載いたしますが、フランスより美味しいキノコと組み合わせます。あまりにもキンメダイもキノコも美味しさをうったえてくるため、白身のお魚料理にも関わらず赤ワインのソースです。いったいどのような味わいのマリアージュとなっているのか、気になりませんか?

 

≪フランスより「キノコいろいろ」秋の食べ納めです。≫

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 秋の味覚の代表ともいえる「キノコ」。冬本番を迎えるにまえに、ぜひとも味わっておかねばなりません。今は、ピエ・ブルー(シメジの仲間)、プルーロット(ヒラタケの仲間)、ジロール(アンズ茸の仲間)とトランペット・ドゥ・ラ・モー(「死のトランペット」という名前ですが毒キノコではありません)の4種類が、フランスから飛行機に載せられBenoitへ届けられています。ひとつひとつは地味ですが、ちゃっちゃと熱を加えることで放たれる芳しい香りと味わいは、4種それぞれが個性豊かに奏でることで、得も言われぬ美味しさへと変貌いたします。

 プリ・フィックスメニューの前菜では、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,000円にて、サン・フェリシアンというチーズとジャガイモと組み合わせます。アランデュカスがデザインしたCOOKPOT(クックポット)という器で、焼き上げた、この3つのマリアージュ。牛乳から仕上げるとろりとしたミルクのコクを楽しめるチーズのサン・フェリシアンが、ふつふつとオーブンで焼きあがる。下にはジャガイモが並び、この相性は間違いなし。さらに下に敷き詰められたキノコとの組み合わせが美味しくないわけがありません。

 メインディッシュでは、ディナーのみ、前述したキンメダイと組みわせます。「海の幸と森の幸」がどれほどの出会いを見せるのか。さらに、ともに白身の魚にも関わらず、なぜ赤ワインを使ったソースを組み合わせるのか。きっとこの解答を導きだせることでしょう。

 

≪北海道のフレッシュチーズ「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)のご案内です。≫

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 寒さ厳しい地、北海道から届く特選食材はフレッシュチーズ、それもフランスのフロマージュ・ブランに習い誕生した至高の逸品、「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)」のご紹介です。暑さに弱い「牛」だけに、すでに寒さ厳しい根釧台地では、牛たちが元気いっぱいに牧草を食んでいることでしょう。秋までに牧草を刈り、牧場の代名詞的な建造物であるサイロに貯蔵されることで、牛にとっては(きっと)美味しく、栄養を吸収しやすく仕上げたもの。これを夏バテを解消した元気な牛たちが食む。そのミルクが美味しくないわけがありません。そして、そのミルクで仕上げたフレッシュチーズは、これは言うに及ばずでしょう。

 どれほど特選食材なのか?以下のブログに思いのたけを記載させていただきました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

≪長野県の青木さん「日本ミツバチの蜂蜜」がBrise de mer Faisselleには必須です。

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 長野県の茅野(ちの)市で信州ナチュラルフーズを営む青木和夫さんが手がけた逸品。狩猟解禁ともなると、ジビエを求め山深くに入り、イノシシやクマ・シカを追い求める日々。山を知り抜いた青木さん管理の下、山の恩恵を十二分に受け育まれた「日本ミツバチの蜂蜜」です。

 いまや激減している日本ミツバチの貴重な蜂蜜を、北海道の酪農家が仕上げた、コクのあるミルクの風味豊かな至高のフレッシュチーズ「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)」と組み合わせます。いつもであれば、この日本ミツバチの蜂蜜とフレッシュチーズのセットを1,000円で昼夜問わずご用意しておりますが、このblogを読んでいただけた方には800円でのご案内です。フレッシュチーズの入荷数には限りがございます。ご予約の際に、「フレッシュチーズ希望」とお伝えいただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

https://kitahira.hatenablog.com/entry/2018/12/24

 

岐阜県恵那川上屋さんの和栗」デザートが今月最後です。≫

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 毎年この時期になると登場する栗のデザート。2018年は、「モンブラン」とはメニューに表記したくはない、まったくの別次元のデザートに仕上がっております。栗は岐阜県中津川に居を構える老舗の「恵那川上屋」さんから。栗の収穫は9月半ばから始まるのですが、Benoitのメニューに栗のデザートが登場するのは11月からでした。なぜか?広島県大崎上島の岩﨑さんの路地物ノーワックス「瀬戸内レモン」を待っていたからです。

 恵那川上屋さんの栗がどれほどのこだわりのものであるか?このマリアージュがどれほどのものか?以下のブログに思いのたけを記載させていただきました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 

BENOIT CHOCOLAT/CARAMEL(ショコラとキャラメルのブノワ風)が変貌を遂げます。≫

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 2013年2月、アラン・デュカスの長年の夢であった「ル・ショコラ・アラン・デュカス」の工房がパリにオープンいたしました。彼の料理哲学は、素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること。そのため、カカオ豆の粉砕から、ショコラができるまで、全ての工程をショコラティエ(チョコレート職人)が手造りしています。

 この熱い想いを世界にも。そこで、アラン・デュカスが選んだ地が日本だったのです。2018年4月、東京日本橋の脇に、海外初の工房が登場したのです。

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 仲間内で美味しいチショコラを作りあげておきながら、Benoitが手をこまねいて見ているだけでは名が廃ります。そこで、日本橋の工房の生産がのりにのっている今のこのチャンスを逃さず、購入することが決まりました。8年もの間、Benoitの重鎮のごとくメニューに君臨していた「BENOIT CHOCOLAT/CARAMEL(ショコラとキャラメルのブノワ風)」が変貌を遂げます。ショコラ以外の食材がそろい、仕込み次第なのでいつとは確定できませんが、今月後半を予定しています。

 

≪ミュージックディナー「三味線プレイヤー 史佳」のご案内です。≫

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 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さんが、Benoitで奏でます。

 

Benoitミュージックディナー 「三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi ≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 

≪史佳Fumiyoshi プロフィール≫

kitahira.hatenablog.com

 

≪余談ですが、2019年の「干支」のお話です。≫

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 古代中国の賢人の英知の結晶でもある「干支」。なぜこの漢字なのか?もちろん、自分は占い師ではなく、漢字の語源から読み解いてみたものです。今のカバー画像は「ユズリハ」です。この理由も理解していただけるのではないでしょうか。

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 新春を迎えましたが、まだまだ「寒中」です。皆様、無理は禁物、十分な休息と睡眠をお心がけください。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、風邪ばかりではなくインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら、快適にお過ごしください。

 いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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三味線プレイヤー「史佳 FUMIYOSHI」さんのプロフィール

三味線プレイヤー史佳 Fumiyoshi」

 津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っています。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動中。

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 1974年新潟市生まれ。津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始めたのは、9歳からといいます。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に、ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等での演奏はもちろん、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露しています。この時には、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。

 国内外で積極的に演奏活動を行うと同時に、2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求。2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっています。

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 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了。

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さらに、2019年の秋には、ニューヨークのカーネギーホールでの演奏会も決定しており、世界席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

shamisenplayer.com

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬
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2019年干支「己亥(つちのとい)」のお話です。

 2019年は、亥(いのしし)年です。お釈迦様への新年の挨拶に赴いた動物たちの順番が十二支となった、とはある一説のお話。己をよく知る牛は足が遅いことを理解しているために前日早いうちから出発し、一番先に門先に到着するも、その背に乗っていた賢いネズミがひょいと先に門をくぐる。順を追ってぞくぞくと主役が到着する中で、犬猿の仲といわれる両者の仲裁に入ったがためにニワトリは10番目。猫はなぜ登場しないのか?猫はお釈迦様への新年の挨拶の日を忘れ、ネズミに聞いたところ2日だと。翌日に事実を知った猫は怒り、これ以降ネズミを追いかけ続けるのだと。

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 では、イノシシはどうだったのか?このお釈迦様の住んでいる館までは、「ほぼ」1本道なのだとか。猪突猛進が相応しいイノシシなだけに、この動物達の列の最前列を独走していたようです。ところが、森から続く1本の長い道のりを進む中で、館の入り口で曲がらなければならない。勢いあまってまっすぐ駆け抜けてしまい、戻った時には12番目だったとか。いや、間に合って良かった良かった。と、よくできた話ですが、これは十二支に動物を配当するのは、多くの人に理解してもらうために考えられたといいます。ちなみに、イニシシの駆けるスピードは抜群ですが、急停止に急方向転換は可能だそうです。山中で追い立てられた時には、十分ご注意ください。

 

 さて、今年の干支は「己亥(つちのとい)」です。古の賢人は、毎年の世相を分析し、時代時代を表現する漢字一文字をあて、後世に伝えようとしました。その英知の結晶が「干支」です。甲・乙・丙…と続く「十干(じっかん)」と、馴染みの子・丑・寅…と十二支。この10と12という数字が、我々の生活の中でどれほど溶け込んでいるか。算数を学ぶ上で、数字の区切りとなるのが10。そして、半日は12時間、1年は12ヶ月。10と12の最小公倍数は「60」。還暦のお祝いとは、この漢字の通り「暦が還(かえ)る」人生60年目の節目を迎えたことを祝うもの。そして、あてがわれた漢字は、それぞれに樹の成長を模したものだというのです。

 人が抗しがたい時世の勢い、世相には10年というサイクルを見出し表現したものが、「十干」。昨年の2018年は「戊(つちのえ)」、漢字の語源辞典にみると、「戊」は「茂」だともいう。かたい殻に覆われた状態の「甲 (きのえ)」、芽が曲りながらも力強く伸びる様「乙(きのと)」、芽が地上に出て、葉が張り出て広がった姿、「丙(ひのえ)」。そして、4番目の「丁」は、重力に逆らうかの如く、ぐんぐんと勢いよく天に向かい成長する、そして「戊」は大いに茂る。時世は円熟期に達し、抗しがたい勢いの中に包み込む優しさをも持ち合わせていたようです。

 

 今年は「己(つちのと)」です。「説文解字(せつもんかいじ)」によると、万物が土中にしまいこまれて、湾曲した形に象(かたど)る。さらに、「釈名(しゃくみょう)」によると、「己」は「紀」であり、みな定形があって紀識(=識別)できる。十干の中で、1番目の「甲(きのえ)」から始まり、6番目の「己(つちのと)」までは、樹そのものの成長を、7番目の「庚(かのえ)」から最後の「癸(みずのと)」それ以降は花を咲かせ種を生み出すことを象っているといいます。朔円の「戊(つちのえ)」で、勢いよくぼうぼうに生い茂った樹が、理路整然と体裁を整え、効率よく光合成をおこなうことで養分を蓄えてゆく。「紀」は糸の一方の端といい、一定の数の極限・終わり、さらには日・月の交わるところも意味します。

 人世における栄枯盛衰は世の常であり、繰り返すもの。古人はここに12年を見出します。人生もまた、樹の成長になぞった漢字1文字をあてがいました。「亥(い)」、部首の「なべぶた」を「二」とし、一つの「人」は男性を、もう一つの「人」は女性であり、彼女が子を抱きかかえて体をくねらせている「咳う」形に象(かたど)る、そう「説文解字」は教えてくれる。「咳」はセキの意味もありますが、「幼児」のこと。「咳う」は「わらう」と読み、幼児が笑うこと。樹が葉を落とし、種に生命を引き継いだ状態なのだと。さらに「釈名」は、「亥」は「核」であり、百物を収穫して、その良し悪しの真偽を核(えら)びとる。ものが成ってみな堅核(=しっかりしたさま)だという意味であるとも。

 

  たびたび出てくる「説文解字」と「釈名」という名前。本というよりも辞典と言い表した方が良いかもしれません。しかし、これらが編纂されたのは、古代中国でした。「説文解字」は紀元後100年頃、六書(りくしょ)の区分に基づき、「象形」「指事(指示ではないです)」「会意」「形声」に大別され、さらに偏旁冠脚(へんぼうかんきゃく)によって分類されています。「指事文字」とは、絵としては描きにくい物事や状態を点や線の組み合わせで表した文字をいい、「上」や「下」が分かりやすいと思います。十干の「己」は指事文字です。そして、「会意文字」は、既成の象形文字指事文字を組み合わせたもの。例えば「休」は、「人」と「木」によって構成され、人が木に寄りかかって休むことから。干支の「亥」は会意文字です。「偏旁冠脚」は、漢字を構成するパーツのこと。そのパーツの主要な部分を「部首」と定め、現在日本の漢和辞典は「康熙字典」の214種類を基本にしています。しかし、偏旁冠脚では、漢数字、十干や干支もこのパーツに含まれ、その分類区分は、「一」から始まり「亥」で終わる、総数が540です。気づかれましたか、数あるパーツの中から、殿(しんがり)を担ったのが「亥」です。

 この後、さらに時は流れ紀元後200年頃、音義説によった声訓で語源解釈を行い編纂されたものが、「釈名」です。

 

 万物を陰と陽にわける陰陽説と、自然と人事が「木・火・土・金・水」で成り立つとする五行説が合わさった考え方が、陰陽五行説です。兄(え)は陽で弟(と)は陰。陽と陰は、力の強弱ではなく、力の向く方向性の違いのこと。陽は外から内側へエネルギーを取り込むこと、陰は内側から外側へ発することだといいます。運の良い人とは、陽の人であり、外側から自分自身へ力を取り込んでいる人のこと。「運を呼び込め」とはよく耳にいたします。陰の人とは、運が悪いわけではなく、自分自身のみなぎるエネルギーを外に発している人のこと。一方が良くて、他方が悪いわけではなく、すべては陽と陰の組み合わせです。陰陽の太極図を思い浮かべていただきたいです。2つの魂のようなものが合わさって一つの円になる。一方が大きければ、他方は小さくなり、やはり円を形成するのです。森羅万象全てがこの道理に基づくといいます。

 

 昨年の「戊戌」の場合、戊は「つち(土)のえ(兄)」で「土」、戌もまた「土」をさす。同じ土の気同士、ますます盛んになることを暗示する「五行比和」。今年は、己は「つち(土)のと(弟)」で昨年に引き続き「土」、亥は「水」を指し示します。土は水をせき止める、相手を抑え込む「五行相克」。十干が「時世」を十二支が「自世」を表すのだとすると、2018年は、時世が円熟期を迎えるなかで、人世は成熟期にあたっていました。ともに勢いの方向が同じだったため、時世が人生の背中を力強く押し続けてくれた、陽の時世のエネルギーを受け入れることで、ますます力強くなる。諦めることなく努力し続けることが、大いなる結果をもたらす年だったのではないでしょうか。2019年は、人世(水)のがむしゃらな勢いを、時世(土)が止めなに入るのだと、古人は教えてくれている。時世は人世の勢いを断ち切るのではなく、己(紀)が教えてくれるように、ひとつの区切りとして人倫の道を外さぬよう、なりふり構わず頑張ったことを省み、紀識(きしき/しるすこと)し紀念(きねん/こころにとどめて忘れないこと)することを促すのだと。忘れ去るのではなく、真摯に受け止め真実の核心となし、次へ引き継いでゆくこと。引き継ぐ先は、今一度訪れる自らの人世である「子(ね)」の時へ。

  1984年の「甲子(きのえね)」に幕開けした60年の世相のサイクル。「世」の字には30年という意味が込められていると聞きます。60年の中に30年の2つの世相。2014年「甲午(きのえうま)」からはすでに後半の世相が始まっています。還暦の中には6つの時世と5つの人世。人世における栄枯盛衰は世の常であり、「亥」というひとつの区切りを美しく終るための、1年なのではないでしょうか。説文解字では、「亥」は前述したように会意文字とする中で「二」から構成されたものなのなのだと。さらに偏旁冠脚の分類では最後に位置しています。これは、「終わり」を意味するのではなく、「二」へと続くために繰り返すこと教えてくれている。世相が、我々を次の高みへと誘(いざな)うため、人世1サイクルの「終活」を求めている気がいたします。宝の地図(人世のさらなる高み)が、きっと見つかるはずです。

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 今年の初春のご挨拶に「ユズリハ」を載せさせていただきました。この添付画像は初夏のものです。まさに新旧の語らいの姿です。なぜ「ユズリハ」なのかは、もうおわかりいただけたのではないでしょうか。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

150-0001 東京都渋谷区神宮前5-51-8 ラ・ポルト青山10階

TEL 03-6419-4181

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寒中お見舞い申し上げます。

寒中見舞い申し上げます。

 初春のご挨拶が遅くなり申し訳ありません。旧年中は並々ならぬご愛顧を賜り、誠にありがとうございました。本年は皆様のご期待にお応えできるよう、さらに口上を磨き、「観梅の心、観桜の目」を座右の銘とし日々研鑽に励みます。2019年も、変わらぬご愛顧のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。皆様が、そして皆様のご家族ご友人の方々が、幸多き年となりますよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 時の流れに、何も歪みがあるわけではなく、ただ淡々に過ぎ去るのみ。とくに時を体感できるわけでもなく、陽が上り沈むことで流れを感じることができます。その流れを把握しようと、人類の英知の結晶でもある「暦」を生み出しました。太陽を中心とした地球の周期を数字にあてはめただけのもの。古人は惰性に流されることのないよう、1年を12の月に分け区切りを作りました。12月31日と1月1日には、太陽が沈みまた昇る、他の日と何も変わらない時の流れにも関わらず、何かが違う。だからこのような言葉が生まれたのでしょう。

去年今年(こぞことし)

 

 旧年から始まる新年を迎える準備は、12月半ばの山野に松を取りに行く「松迎え」をから始まりました。神様を「待つ」からなのでしょう、神が下りてくる依代(よりしろ)として、門松を代表するように家々に「松飾り」が。そして、災いの神が入ってこないように「注連縄(しまなわ)」が飾られました。「煤払い(すすはらい)」としての大掃除は、気を引き締め新たなことを始めるための心の準備をするのに役立ち、邪気を払い長寿の願いを込め屠蘇(とそ)をたしなむ。shして、今回皆様にご紹介したい縁起物がこの「ユズリハ」です。

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  初夏に姿を見せ始める「今年の葉」。これが生え終わるのを見届けるようには、「昨年の葉」が垂れ下がり散ってゆく。樹の上では、昨年の悲喜こもごもが伝えられているのか、「あとはよろしく」とでも言っているのでしょうか。常緑樹は、どれもがこのような世代交代が密かに行われているはずなのですが、この樹だけは葉の世代交代が分かりやすかったので名付けられたのでしょう、「譲り葉」と。代々、家系が絶えることなく続いていくことを願い、正月飾りにも用いられているようです。なぜ、この樹を今年最初のメールにしたためたのか。今年の干支が、まさに「ユズリハ」を意味しているからです。今年の干支の話の中で、理由を書かせていただきました。お時間のある時に、以下のURLアドレスよりご訪問いただけると幸いです。

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 そして、もう一つ忘れてはいけない縁起物の花、自然への畏敬の念が込めるのでしょう。閑散としているこの時期にあり、異彩を放っている、アイヌ民族の伝説でいう女神クナウの化身の花、「福寿草」です。

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 冬至を過ぎたとはいえ、畳の目ほどと表現されるほどにしか日照時間が伸びない時期、太陽を待ち望んでいるのは人も花も同じ。閑散とした山眠る景色の中で、太陽の如く黄金色の花は「福」に、花期の長さを「長寿」に、目にした時の喜びと輝かしい希望を、古人はその名「福寿」に託したのでしょう。朝の陽射しを十二分に集めるかのように花開き、昼過ぎには閉じてしまう。地下茎に蓄えられた養分を利用し、飾りっ気のない地から、まとまって顔を出す。閑散とした冬景色の中で、輝かんばかりに黄金色の花が咲き誇る光景は、何か心に温さを覚えるものです。

 残念なことに、都内では福寿草を目にすることが難しいようです。だからこそ目にした時の喜びは一入(ひとしお)、暖かな陽射しに誘われるがまま、福寿を求め散策するのも趣があるのではないでしょうか。飴細工のような淡い黄色の花を咲かす樹、この蝋梅(ろうばい)の甘い香りに誘われた際には、ぜひ周囲の足元をご覧ください。庭であれ公園であれ、ひょっこりと地面から顔を出しているやもしれません。そして、心底体の冷えた際には、足の赴くままにBenoitへお越しください。温かく美味しい料理で、皆様をお迎えいたします。

 

 過ごしやすい日々が続くなかで、とつぜんに日本列島が寒気に覆われました。疲労・ストレスなどが原因で免疫力が下がっている時に、乾燥が加わると、風邪ばかりではなくインフルエンザにも注意が必要です。さらに、肌荒れやかゆみの原因にもなり、体感温度も下がります。健康のためにも、美容のためにも、程よい湿気お忘れなきように。そして、心の潤いも保ちながら、快適にお過ごしください。 

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

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年末を迎えて

 師走も終わりを迎えようとしております。地球が太陽の周りを1周する、その区切りとして定められた1年の終わりの日が、12月31日。陽が西の稜線に姿を消し、静まり返る闇夜に迎える1月1日午前零時に新年を迎えるも、やはり、陽が顔をのぞかせた時に「新年を迎えた」という実感がわくものです。生きとし生けるものに欠かせない「陽の光」、もちろん我々にとっても。皮膚に太陽が当たらないとビタミンDが形成されないなどと言われますが、それ以上に「心に与える影響」が大きいのではないでしょうか。世界各国に太陽信仰が存在するということが如実に物語っています。

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 なんとも懐かしさを感じる「日向ぼっこ」という言葉。冬は太陽が天高くまで昇らず、陽射しが低い角度で部屋の奥まで差し込むため、寒々しい中に暖かい「陽だまり」ができています。屋外でも、日当たりの良いところでは陽だまりが。まだまだ、今年にやり残したことがあるかと思いますが、ここはひとつ「割り切る」ことで区切りをつけ、太陽の恩恵を十二分に享受いたしませんか。陽だまりでほっこりと温まるひとときは、何か心まで満たされる気になってしまいます。今年一年の自らを省みる時、暗闇よりも「陽だまり」のほうが、何か明るい未来を見出すことができるような気がいたします。時世の波を乗り切るためには、挫けない心の強さが必要不可欠であり、その根本は自らの展望に希望があるかどうかということなのでないでしょうか。

 12月の大雪の初侯は「閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)」。空が閉ざされ、本格的な冬になると教えてくれています。ここ数日、東北地方や日本海側では、寒波に覆われ大雪となり、年末年始に郷里は帰る方々はご苦労されたのではないでしょうか。天を塞ぐかのように、厚い雲に覆われた重苦しい空。陽だまりなど求めることはできません。古人は、冬に陽射しが降り注ぐ日を、恋しいからでしょう「愛日(あいじつ)」と呼んでいます。春秋左氏伝の「冬の日は愛すべし」からできた言葉のようです。年末年始に「陽だまり」を期待することは難しいやもしれません。しかし、愛日には「時を惜しむ」や「親に孝行する日々」という意味もあるようです。「陽だまり」の代わりに、「家族の絆」が心の拠り所となり、時世の波を乗り切る活力へとなることでしょう。

 

 2018年は「戌」年です。犬は、有史以来、時代と地域によって対応に違いがあるものの、人類と共存しているだけに全世界規模であることは間違いありません。日本でも、歴史書の中に、絵巻物の中に数多く登場することが、よほど馴染みの動物だったことを物語っています。さらに、一般に犬は出産が軽いことから、これにあやかって戌の日に安産を願い、犬張子や帯祝いの慣習が健在です。今では、盲導犬聴導犬として、厳しい訓練を乗り越え、パートナーとして人生ならに犬生を生きるものもいます。愛玩動物としていまや確固たる地位を築き、家族の一員として欠かせない存在になっている犬もいます。しかし、多くの外来種のなかで、日本固有の犬を忘れてはいけません。今や天然記念物の指定を受けている日本犬(にほんいぬ)です。

 先日、長野県茅野市の青木和夫さん「日本ミツバチの蜂蜜」ご紹介させていただきました。

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その中で登場する「愛犬」、青木さんから伺ったので2018年は戌年の締めくくりとして書かせていただきます。まずは、青木さんの山のパートナーをご紹介です。

 

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 青木さんの愛犬軍団を率いる高知県生まれの6歳の四国犬(しこくいぬ)「リン」。2018年の2月に150kgのイノシシに勇猛果敢に挑み、みごと止めるも前足を噛まれ骨折という名誉の負傷。今や、この達観したかのような表情は、多くの修羅場を乗り切ってきたからこそなのでしょう。

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 そして、大先輩に続けと若手の登場です。和歌山県生まれの2歳半、熊野犬(くまのいぬ)の「マル」※画像上。同郷の1歳ちょいの熊野犬「タロウ」※画像下。凛とした熊野犬らしい風格を感じますが、まだ少しあどけなさを残しているでしょうか。しかし、猟犬の血を引き継ぐからでしょう、「噛みついたら放しません」とのことです。

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 イノシシの狩猟では、猟犬がイノシシを寝床から起こし、徐々に距離を詰めるように進み、隙があれば噛みつき留めます。そして、最後は猟師が撃ち獲ります。猟犬が噛みつき留めると、いとも簡単に書きましたが、相手は野生のイノシシだけに、そう簡単なことではありません。相手が強いと、イヌは強靭な牙をもって切られ、噛まれ、放り飛ばされる。ケガで済めばよいですが、一命を失うこともある。なぜ自分よりも数段体のでかい獲物に果敢に挑むのか?紀州犬・熊野犬の本能であり、猟犬として生まれた宿命なのでしょう。

 青木さんからのコメントに加筆させていただいたものです。「イヌが噛みついているときに撃つことはできません。撃つと、衝撃で犬の歯が折れたり、顎の骨が割れたりするのです。もちろん、跳弾によって負傷する危険がある。さらに至近距離での発砲は、銃癖(銃を見ると逃げてしまう)になります。だから、イヌが離れるのを待つしかありません。理想的な猟犬は、イノシシの周りで吠えて逃がさない、吠え留めをする犬です。最初からこのような芸当を成す猟犬はおらず、何度かイノシシから傷を負わされなければなりません。そして、そのたびに獣医さんのお世話になるのです。」と。

  狩猟目的に限らず、日本ミツバチの採蜜や様子見、四季折々の変化を確認するために、日に3度は山に入るという青木さん。「バディ」のように付き添う犬たちとは、我が子のような思いでいるのでしょう。犬がイノシシに噛みついているとき、どれほどの危険な状況であるかは、経験豊富な青木さんには十分わかっていること。イノシシから離れなければ、撃つことはできない。時に撃たなければイヌの生死にかかわる。しかし、その後の犬生に禍根を残すことになるかもしれない。この重責を、青木さん双肩に担っている。そして、こう話を締めてくれました。「マルとタロウの若手犬はどのような仕事をするのか?獲物を得ることの喜びだけではなく、犬たちの成長の過程、良い仕事をするかどうかを見ることが、狩猟の楽しみでもあります。」

 

 「冬日」は一日の最低気温が0℃未満の日。「冬日」は最高気温が0℃未満の日のこと。天気予報での言葉の変化に注意し、日々お過ごしください。イヌがイノシシを追いかけるお話でしたが、時代は「イノシシ(亥)がイヌ(戌)」を追いかけています。そして、まもなく亥の年が幕開けいたします。「難を転じる」、ナンテンを実をもって、今年最後のご挨拶とさせていただきます。

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皆様が無事息災に新年を迎えることができるよう、お祈り申し上げます。

  

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