kitahira blog

徒然なるままに、Benoitへの思いのたけを書き記そうかと思います。

Benoitミュージックディナー「三味線 ≪史佳 Fumiyoshi≫のご案内です。」

春風の のどかにふけば 青柳の 枝もひとつに あそぶいとゆふ  寂蓮(じゃくれん)

f:id:kitahira:20190414140925j:plain

 柳の花が咲き終わり、若葉が萌えている「青柳」。枝一つ一つが糸すだれのようであり、春風にあおられることで、もつれあう。「いとゆふ」は漢字で「糸遊」と書きます。春風にあおられる柳のしなやかな枝一本一本が、まるで風と遊んでいるかのようであり、まさにこれこそ「糸遊」なのだと我々に伝えているのでしょうか。

 「糸遊」とは、春晴れの日に蜘蛛の子が自らの糸を風に流し、それに乗じて空を飛びながら移動する光景のことをいうようです。蜘蛛の糸が、陽射しの加減で見え隠れする様から、「陽炎(かげろう)」とも。陽によって熱せられた地より立ち上る温かな空気は、冷えた空気との密度にムラが生じることで、そこを通過する光が不規則に屈折し、その先の光景がゆらゆらと歪んで見える。この光学的現象が「陽炎」です。

 さらに、「陽炎」はトンボに似ている(トンボとは別種)「蜉蝣(かげろう)」へ通ずるのです。ゆらゆらと空を飛ぶ姿が陽炎のようだからなのでしょうか。それとも、あるかないかもわからない不可思議な「陽炎」と、成虫になるも、その日の晩を待たずに一生を終える「蜉蝣」の「はかなさ」に共通点を見出したからなのか、もちろん自分に知る由はありません。

 「いとゆふ」という4文字が、調べるほどに深みを帯びてきます。「青柳の枝が遊ぶ糸遊」、あえて漢字で表記しないところに、歌心があるのでしょう。著名な研究者が分析することで、他を異端として排除するのではなく、自分のように読むままに感じ入ることこそ、古き良き歌を理解するには良い気がいたします。今も四季それぞれに美しい姿を見せてくれる中に、古人の想い描いた情景をあてはめる、各々の感じ入るままに楽しむこと。これが31文字に込めた、古人からのメッセージなのではないでしょうか。

 

 今回、皆様にご紹介したいイベントは、Benoitの「糸遊」です。「蜘蛛の糸」でも、「陽炎」でも「蜉蝣」でもありません。絹糸が紡がれ「弦」となり、それが弾かれ音を成す。それが、遊ぶかのように旋律を奏でる時、音に色を帯び人々を魅了します。この音色というのは形を成さないため、確かに陽炎のようなものかもしれません。はかなく消えゆく音色なれど、まやかしや幻想ではなく、しっかりと我々の心に響いてきます。文字ではなく、音色に込める奏者の想いに共感を覚え、人世になぞり、笑みをこぼすか涙するか、受け取る人の感じ様は十人十色。音色はデータ化することで色彩を失い、単色へ。なぜ、コンサート会場へ足を運ぶのか?データ化できない、生き生きとした色彩の深さや移ろいの「音色」を感じ取りにゆくのでしょう。

 2019年、Benoitの初音(はつね)は、三味線の音色から始まります。音を聞き、奏者の想いを込めた音で応える弾き三味線。史佳さん「糸遊」の音色を皆様にお楽しみいただこうと思います。

 f:id:kitahira:20190414141105j:plain

Benoitミュージックディナー 「~際会(さいかい) 三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

 f:id:kitahira:20190414141154j:plain

 

 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生しました。なぜ?新潟県に。自分なりに解釈した理由を書いてみました。お時間のあるときに以下よりご訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。今回のメンバーをご覧いただければ納得いただけるのではないでしょうか。

 

三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi

f:id:kitahira:20190414141311j:plain

 ふるさと新潟に拠点を置き、三味線プレイヤーとして国内外で演奏活動・講演活動を行っている。音の響きを大切にする“弾き三味線”奏法を得意とし、津軽三味線のスタンダード曲はもちろんのこと、近年は作曲家/アレンジャーの長岡成貢氏とともに新しい三味線の楽曲作りにも取組んでおり、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しいニッポンの音楽を目指して活動している。

 1974年新潟市生まれ。9歳より津軽三味線の師匠であり母でもある高橋竹育より三味線を習い始める。 2000年よりプロ活動をスタートし、新潟を拠点に国内外で演奏活動を行っている。ホールコンサートの他、国指定重要文化財等の日本建築等でも演奏会活動を行っており、2011年にはルーブル美術館にて日本人として初めて演奏を披露。 2001年に1stアルバム「新風」を高橋竹秀の名で、2003年には本名である小林史佳としてオリジナル曲を含む2ndアルバム「ROOTS TABIBITO」をリリース。 2006年リリースの3rdアルバム「Ballade」では弦楽四重奏との融合にも取り組み、三味線の楽器としての新たな可能性も追求している。 2010年には津軽三味線の名人・初代高橋竹山とかつて共に全国を廻った、民謡の生きる伝説・初代須藤雲栄師とのライブを収録した4thアルバム「風の風伝」(かぜのことづて)、2012年にはそれに続く5thアルバム「続 風の風伝」を“fontec” レーベルよりリリース。同年よりアーティストネームを“史佳Fumiyoshi”と改め、故郷新潟をテーマにしたオリジナル曲「桃花鳥-toki-」を発表。 2013年には自主レーベル“penetrate”を立ち上げ、全曲オリジナル楽曲のアルバム「宇宙と大地の詩」をリリース。2015年2月には、通算7枚目となるニューアルバム「糸際 ITOGIWA」を“fontec” レーベルよりリリース。初代高橋竹山津軽三味線の継承者として挑んだ、奥深いアルバムとなっている。

 2016年1月1日に、三味線ユニット「Three Line Beat(スリーラインビート)」を結成。幅広い年齢層からファンを獲得しており、そのライブパフォーマンスで観客を魅了する。

www.tlb.jp

 津軽三味線瞬間芸術という領域に昇華させる独自の世界観を持つ、初代高橋竹山津軽三味線正統継承者。2011年フランスパリのルーヴル美術館にて、日本人として初めて演奏を披露し、現地の聴衆から「ブラボー」の大歓声が上がったといいます。さらに、2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決定しており、世界席巻するであろう、新進気鋭の三味線プレイヤーです。

 

和田啓 ~レク~

f:id:kitahira:20190414141413j:plain

 幼少の頃から学んだ江戸里神楽をもとに独自の世界を表現するアジア系ハンドドラム奏者であり、作曲家、演出家。タンバリンの原型とも言われるアラブの打楽器「レク」をエジプト・カイロにてハニー・ベダール氏に師事。海外での演奏活動も多く、主なものには、95年能楽と民族楽器とによるヨーロッパ5カ国公演、96年奄美島唄とのジョイントグループ「天海」でのキューバ公演、2002年大津純子(バイオリン)オセアニアツアーに参加、佐藤允彦氏(ピアノ)と共にベトナム、オーストラリアなどで公演を行う。2005年ルーマニアポルトガルより招聘を受け国際交流基金助成事業としてRabiSari欧州コンサートツアー、2006年国際交流基金派遣事業として常味裕司氏と共にエジプト・アラブ音楽院でのエジプト音楽家との共演による古典音楽コンサートをともに成功させた。2009年ノース・シー・ジャズフェスティバルに佐藤允彦氏率いる「Saifa(サイファ)」のメンバーとして出演。2010年レバノンベイルートUNESCOホールにて常味裕司氏と演奏。

 1997年に、バリ仮面舞踊家たる小谷野哲郎とともに仮面舞踊劇団「ポタラカ」を結成、作演出を手掛ける。毎月一本の新作を書き下ろし、ライブハウスで約2年間上演していた。1999年江戸東京博物館にて「冥途の飛脚」(近松門左衛門作}の上演をきっかっけに「南洋神楽プロジェクト」として再編成し、中野シアターポケットなどで定期公演を重ねる。2001年にはジャワ島・バリ島のアーティストらと日本人による「真夏の夜の夢」をバリアートフェスティバルにて上演、好評を博す。

 作曲家としても数多くの演劇・映画音楽を手掛けており、2015年以降の主な作品は,、2015年「新・復活」(劇団キンダースペース、原作/トルストイ、脚本演出/原田一樹)、16年「静寂の響き」(船橋文化創造館きらら主催事業)。さらに演出作品が多数あるほか、2009年度より船橋市文化芸術ホール芸術アドバイザーも務めている。

 

吉野弘 コントラバス

f:id:kitahira:20190414141700j:plain

 1975年に東京藝術大学音楽学部器楽科(コントラバス専攻)に入学、江口朝彦氏に師事。1980年、坂田明(sax)トリオに参加、以後、富樫雅彦加古隆山下洋輔板橋文夫塩谷哲など数多くのグループに参加する。 また現代音楽の分野での活動も活発で、故・武満徹プロデュースの" MUSIC TODAY "や「八ヶ岳高原音楽祭」に参加、2006年の東京オペラシティでの"SOUL TAKEMITSU"にも出演した。また2009年には間宮芳生書き下ろしの新作オペラ「ポポイ」、2011年には「間宮芳生の仕事」コンサートにも出演する。

 現在は、ベース・ソロと『彼岸の此岸』(太田恵資violin,鬼怒無月guitar,吉見征樹tabla)、『環太平洋トリオNEO』(津嘉山梢piano, 大村 亘drums &tabla)を活動の中心にしながら、大ベテランの中牟礼貞則guitarや渋谷毅pianoとのデュオも行なっている。 また下北沢レディージェーンでの作家の山田詠美奥泉光との " 朗読と音楽 "のセッション(太田恵資violin,小山彰太drums)は、毎回熱心なファンの待望するところとなっている。リーダー作品に「泣いたら湖/吉野弘志・モンゴロイダーズ」(2002年/ohrai)と、ベース・ソロアルバム「on Bass」(2004年/ rinsen music)、「吉野弘志 彼岸の此岸/Feeling the Other Side」(2013年/AKETAS DISK)が有る。

 

庄司愛 ~バイオリン~≫

f:id:kitahira:20190414141800j:plain

 桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。演奏活動を行うほか、新潟市ジュニアオーケストラ教室、桐朋学園大学附属「子どものための音楽教室」、新潟中央高校等で後進の育成にも力を注いでいる。これまでに山宮あや子、奥村和雄、辰巳明子の各氏に師事。「トリオ・ベルガルモ」メンバー。

 

際会(さいかい)

~ 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。~

 「際会」の「際(さい)」には「きわ」という読みもあり、「境界」や「~のあいだ」、さらには「ある情況生まれる時期」という意味が込められています。球技においてよく使われる「球際(たまぎわ)」の良し悪しは、野球でもサッカーでも、ボールとの絶妙なる距離が生み出す「際」に求められる処理能力の良し悪しのこと。一流の選手になればなるほど、「際」が小さく、さらにどのような球種でも対応できる高度の技術をもっているものです。

糸際(いとぎわ)

 史佳Fumiyoshiさん自身が造った言葉です。三味線は、撥(ばち)を扱う右手と弦をはじく左手のコンビネーションで音を奏でていく楽器だと、彼はいいます。右手の弦への撥のあて方、左手の弦のはじき方、この微妙な差が音色を左右する。フレットレスな三味線の奏でる至高の音への追求は、1mm単位での調整を瞬時に行うことを求められます。弦と撥、弦と指との際(きわ)を見極め奏でる瞬間芸術が三味線だと。糸際が奏でる三味線の音色は、きっと古典曲によって我々の魂に問いかけてくることでしょう。

 さらに、今回のカルテットのアンサンブルも忘れてはいけません。コントラバスバスやバイオリンもまた、糸際がなせる音色を放ちます。左手で弦を押え、右手で弦を弾くコントラバス。同じく左手で弦を押え、右手の「弓」で音を奏でるバイオリン。どちらも、三味線同用に弦(糸)を使って至高の音を極めんとするもの。そこに、アラブの打楽器「レク」が加わります。タンバリンの原型ともいえるこの楽器は、奏者の腕により、我々の想像をはるかに超える多彩な表情を見せてくれます。左右の手の絶妙なコンビネーションが打ち鳴らす音色に、驚愕されるはずです。

 指揮者のいないカルテットでは、各々が魅惑の音色を奏で、奏者それぞれがメンバーの音色を聞きながら音やリズムをあわせ、ひとつの曲を紡いでいきます。まさに譜面のない音楽会。即興で曲を奏でる三味線史佳さんの腕の見せどころです。さらに、相手をさらなる高みへと導くかのようなそれぞれの楽器。プロとしての「遊び」心なくして成しえない、今までに体感したことの無い世界観を我々に見せてくれるはずです。三味線を含めた弦楽器が「糸遊(いとゆふ)」であるのであれば、レクは「打遊(うちゆふ)」というのでしょう。三味線という楽器の常識が変わる無限響の世界へ、皆様をご案内いたします。

 

 ナズナアブラナ科の植物で、「春の七草」にも登場するなじみ深い植物です。どのような過酷な環境でも順応できるのではないかと思えるほど丈夫なため、田畑はもちろん、荒れ地や道端でもよく目にします。子供のころには、画像のように果実がついたナズナの茎をもち、でんでん太鼓のようにくるくると回し音を楽しんで遊んだ方も多いのではないでしょうか。このネタは厳しいでしょうか…でんでん太鼓も…ご存知の方が少ないやもしれません。

f:id:kitahira:20190414141903j:plain

 このナズナ、別名が「ぺんぺん草」です。そう「~の後にはぺんぺん草も生えないよ」などという言い回しができる理由は、環境適応能力が強いからです。この別名の「ぺんぺん」とは、果実を打ち鳴らしたときの音から「ぺんぺん」なのかと自分は思っておりました。ところが、果実のハート形が三味線の「撥(ばち)」に似ていることから名付けられたのだそうです。そう、「ぺんぺん」は三味線の音色に由来していたのです。そのため、「三味線草」という別の名ももっています。

 都内でも其処彼処で見て取れるナズナ。童心に帰り、三味線を想いながら打ち鳴らしてみてはいかがでしょうか。「糸遊」ならぬ「打遊(うちゆう)」をお楽しみください。※ひとり「にやにや」しながらの「打遊」は、周りから冷ややかな眼差しを受けることがございます。楽しむ際には、十分ご注意ください。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますが、皆様のご多幸とご健康を、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

新潟県の三味線文化

 音楽とは、人類が言葉以前に手に入れることができた、意思疎通を図る手段だったはずです。何かを何がしかで打ち叩くことで音を発する、それがリズムを刻み、吠え声ともとれる声や踊りが加わる。音を楽しむことが音楽であるのであれば、これもまた立派な音楽。そして、人々は「音を奏でる」ことを欲し地方色豊かな楽器を創作することに。叩く、弾く、吹く、さらに素材由来の音色が加わり、まさに千葉の彩(せんようのいろどり)のごとく。

 

 13世紀の中国(時の王朝は元)に誕生したといわれている中国の伝統楽器「三弦(さんげん)」。その名称の通り、弦が3本あり、弦をはじく音を出します。これが、琉球王国に持ち込まれ、「三線(さんしん)」として宮廷音楽に取り入られることになりました。さらに16世紀には、今の大阪府に位置している「堺」の町に伝わり、平家琵琶の要素を取り入れた楽器が日本全国に伝播していくことになります。この伝播(でんぱ)の行方は、南は琉球王国にまで及び、今の三線が完成を見るにいたったといいます。そして、北は本州最北端へ。日本の楽器の中では、比較的歴史の浅い楽器、「津軽三味線」が生まれました。

 f:id:kitahira:20190414135006j:plain

 大阪の堺に生まれた三味線が、地方に持ち込まれることで、さらなる改良を加え加え北へ北へと。徒歩というよりも、江戸時代に活況した北前船が一役を担ったといいます。堺を発した北前船が寄港する地域に三味線を持ち込み、さらに地域地域で育まれた芸能に地唄が北へ北へと移ることでさらなる発展を遂げることに。それが津軽地方で大成されたものが津軽三味線でした。棹(さお)と呼ばれる、ギターでいうネックの部分は細棹から太棹へ、音を響かせ複雑かつテンポの速いものを求めるがゆえに、より高度な技術を必要としました。そのため、他とは違い、叩くかのように弦をはじく「叩き三味線」の真髄ともいえる「津軽三味線」というひとつの音楽が誕生したのです。時が経つにつれて、多くの流派が生まれるも中で、叩き三味線を踏襲するも、「弾き三味線」という一味違った音を奏でる人物が登場することになります。地方の一つの音楽であった津軽三味線を全国に知らしめた人物でもある、高橋竹山(たかはしちくざん)師です。

 

 初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、昨年夏までは二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。さて、三味線界の大御所である竹山師の拠点は青森県です。なぜ、新潟県なのか?実は、津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるというのです。

 

 山梨県、埼玉県さらには長野県の県境にそびえる甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)を源流に、長野県内では千曲川(ちくまがわ)と呼ばれた清流が、新潟県に入ると名を信濃川と名を変える。総延長は日本一、と小学校で習ったのではないでしょうか。越後山脈谷川岳によりもたらされる豊かな水脈を源に発する魚野川(うおのがわ)は、長岡市のあたりで信濃川に落ち合います。さらに、阿賀野川(あがのがわ)、北は荒川で南は関川が並走することで、形成されたものが越後平野です。この豊かな水資源は、時に自然の猛威となり甚大なる水害をもたらす一方、肥沃な大地を約束いたしました。かつて、街道が二つの大きな街道に分かれる地点を「追分(おいわけ)」と呼び、そして、川が合流する地を「落合(おちあい)」といいました。この落合が形成した雄大な流れが、海に落ち合う地が、新潟市です。

 f:id:kitahira:20190414135145j:plain

 自然の厳しさを甘受するという条件ながら、この肥沃な越後平野は、人々に広大な稲作をもたらしました。その収量の豊かさゆえに、人々が集い町を成してゆく。新潟の「潟」は、塩分を含んだ土地のことであり、干潟などのように、浅海の一部が砂州などによって外海から切り離されてできた湖沼を意味します。そう、海岸に越後砂丘が広がるため、海の玄関口は信濃川が海に注ぎ込む地に港が作られました。これが新潟港です。

 物流・人流ルートは、古より船舶により大量輸送を主とし、京都を目指す日本海側の地域は、若狭湾から陸に揚がり琵琶湖を経由して淀川で下る道のりでした。これが江戸時代に入り山口県の下関を廻り瀬戸内海に入る航路に加え、秋田県の酒田を拠点に西廻り航路と東廻り航路が確立することで、北前船の全盛期を迎えることになります。これにより、三味線が持ち込まれ、人流と同時に文化芸能が北へ北へと運ばれていくことになります。そして。青森県で「津軽三味線」が大成するにいたるのです。

 新潟県は京都から見て、上越中越下越と続き、越後平野が広がるように長く続く海岸線が特徴です。それゆえ、要所要所で港町が形成され、北前船の中継地として栄えました。その中でも、新潟港(今の新潟西港)は別格です。ペリー率いる黒船が神川県の浦賀に姿を現した5年後の1858年に締結された日米修好通商条約の中で、アメリカが開港を求めた5つの港のひとつに指定しているほどです。多くの人々が行き交い、農を生業として生活をしていたことか。人が多く人々が居住しているということは、そこに文化芸能が育まれることになります。

f:id:kitahira:20190414135505j:plain

 越後平野が日本有数の「米どころ」となり、多くの人々を養うことができた理由は、対馬海流を語らずして、説明できません。北前船にも大いに関係するこの暖流は、フェーン現象により夏が猛暑になる厳しさはあるものの、十分な日照時間を約束し、東北地方の太平洋側に流れる千島海流(寒流)による「やませ」の冷害はありません。しかし、冬は一変し、極端に日照時間が無くなります。シベリア高気圧が日本海を通過する際に、北西の季節風を導き、対馬海流(暖流)の蒸発した水分を大量に含んだ大気を越後山脈にぶつけるのです。湿気を含み厚い雲で覆われる冬のため、厳しい冷え込みこそないものの、世界有数の豪雪地帯へと変貌します。

 この豪雪こそ、稲作に必要な豊富な水資源となることは十分に理解できるのですが、一面白銀の世界となった時の生活が、どれほど厳しいものか。さらには太陽に恩恵に授かれない日々が、どれほど気持ちに悪影響をおよぼすのか。「新潟県の出身です」というだけで、スキーやスノーボードが達者だと思われがちですが、日々雪との格闘を強いられていると、雪遊びをすることをついつい疎んじてしまうものです。降り積もる雪が数mなどに及べばなおのこと。この過酷な環境を打破すべく、人々が冬を乗り切るために考えだしたものが、塩引き鮭や漬物、さらには日本酒などの食文化であり、皆で祝う祭りごとであり、芸能なのだと考えています。人々を勇気づけ、日々の生活の活力となるべく奏でられる三味線の音色が、弱弱しくてはいけません。津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にある。この理由はこのあたりにあるのではないでしょうか?

f:id:kitahira:20190414135303j:plain

 昨年、佳史Fumiyoshiさんが、珍しいものをお見せしますよ、とBenoitで三味線を組み立てました。棹が三分割となり収納されていたのです。棹が長い一本だと、曲がってしまうと音色が変わるからといいます。豪雪地帯だからこそ、持ち運びしやすく、湿気によって棹の曲がりを防ぐのか、なんという古人の知恵なのか。そう感じたひと時でした。もちろんその後に奏でられる彼の「弾き三味線」の音色に酔いしれたことは言うに及ばず。

 さあ、「新潟高橋竹山会」二代目会主の高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入り、音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー、史佳(Fumiyoshi)。皆様に、Benoitで「際会」していただこうと思います。

イベントの詳細はこちらを参照ください。

kitahira.hatenablog.com

 

際会(さいかい)」 出会うこと。優れた人物などにめぐり合うこと。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選食材「静岡県掛川のイチゴ≪紅ほっぺ≫」のご案内です。

f:id:kitahira:20190405182651j:plain

 現在、日本のイチゴ消費量は世界一です。一年中見かけることのできるフルーツですが、やはり初春に想う「旬の美味しさ」は、老若男女を問わず、人々を魅了して止みません。「あまおう」や「とちおとめ」が世を席巻するも、さらなる美味なる品種を生み出そうと、各都道府県がしのぎを削り、ブランド化を目指している昨今。まさにイチゴの世界では群雄割拠の様相を見せています。ここで、一つの疑問が頭をよぎります。

日本初の「イチゴの品種」が誕生したのはどこなのか?

 そもそもが、イチゴには、今主流をなしている「オランダイチゴ」のグループと、「キイチゴ」のグループに分かれるようです。キイチゴに関しては、ヘビイチゴも含めた野生種であり、にローマ時代には食用として栽培されていたといいます。日本では10世紀に書き記された「本草和名」に「以知古」という名を見ることができるのですが、栽培までにはいたっていません。まさに当て字のような、「以知古」とは、ひらがなの誕生は平安時代まで待たなくてはならないため、万葉仮名で名を残しているのです。では、今のイチゴの起源ともなる「オランダイチゴ」はというと、その名の通り、18世紀にオランダで育種されたのです。それが、大航海の後に日本に辿り着いたのは、江戸時代のこと。鎖国していた日本が、例外的に交易していた「オランダ」からもたらされたのです。日本ではなかなか広まらず、本格的に栽培が始まるのは明治に入ってからとのことです。

 では、最初の問いでもある、「日本初品種」はどこで誕生したのか?

f:id:kitahira:20190405174526j:plain

 東京都新宿区にある「新宿御苑です。

あまりに意外な答えに、皆様、驚かれたのではないですか。しい宿場町である「新宿」と、「新宿御苑」の話は、以前「青木さんの蜂蜜」の話で触れました。お時間のある時に訪問いただけると幸いです。

kitahira.hatenablog.com

 新宿御苑は、かつて内藤家の下屋敷でした。その地が、明治初めに名を「内藤新宿試験場」へと変え、農作物や園芸植物の栽培試験場として稼働することになります。海外からさまざまな樹木や野菜を導入し、栽培研究がなされていました。今でも、新宿御苑にその片鱗を垣間見ることができます。そして、1879(明治12)年に、内藤新宿試験場の地が皇室に献納されることになり、皇室の御料地として「新宿植物御苑」が動き出しました。1906(明治39)年に国民公園として開園され、今に至ります。この御料地となっていた1898(明治31)年、福羽逸人(ふくばはやと)農学博士が、フランス産イチゴの「ゼネラル・ジンジャー」種の種を譲り受け、発芽・結実に成功。そして、待望の国産初品種「福羽苺(ふくばいちご)」を生み出したのです。しかし、当時が皇室の御料地であったことから「御料イチゴ」と呼ばれ、しばらくは門外不出とされていました。1919(大正8)年に解禁され、全国へと伝播してゆくことになります。今でこそ、覇を競い合っている数々のイチゴ品種全てが、この「福羽苺」から始まっているのです。彼が、「イチゴの父」たる所以がここにあります。

 f:id:kitahira:20190405175007j:plain

 多くのイチゴ品種が誕生する中で、1980年代には≪東(栃木県)の「女峰」、西(福岡県)の「とよのか」≫」という二大勢力が台頭するも、ここに「章姫」が割り込んできます。時が過ぎ、2000年前後ともなると、≪東(栃木県)の「とちおとめ」、西(福岡県)の「あまおう」≫へと移り行く。そして、ここに章姫と「紅ほっぺ」が姿を見せます。日本のイチゴ生産量の1位栃木県2位福岡県に負けじと健闘しているのが、地理的にも中間に位置している静岡県(4位)。イチゴ勢力図を二分する中に、割って入るかのように登場する≪章姫≫と≪紅ほっぺ≫という品種を生み出したのも、静岡県。甘さでは「あまおう<とちおとめ」、酸味では「あまおう>とちおとめ」。「紅ほっぺ」はどちらも中間に位置しているのだといいます。甘みと酸味を兼ね揃え、酸味があるからこそ甘みも冴えるのです。

f:id:kitahira:20190303092902j:plain

静岡県掛川から直送、赤ずきんちゃんおもしろ農園さんの「紅ほっぺ

 Benoitシェフパティシエールの田中が、フランスとのやり取りの中で決まりつつあるレシピを知った時、あまりの驚愕に言葉を失いました。デザートに使用するイチゴの量、一人分がMサイズで約20粒ほど必要であること。さらに、イチゴの品質がそのままデザートの味わいに反映してしまうこと。つまり、高品質のイチゴを、定期的に過不足なく購入し続けなければなりません

 みずみずしく、しゃくしゃくの食感。心地良い酸味がイチゴの優しい甘さを引き立てる。甘いだけではない、イチゴの優劣はこのバランスによって決まるように思います。鮮度を維持することが難しいため、収穫は随時行わなくてはなりません。さらに、水分が多いからこそ輸送に耐え得ないフルーツでもあります。Benoitの席数を考えると、一農家さんからの購入では、イチゴの確保がかなり厳しいのです。

f:id:kitahira:20190405174828j:plain

 この難問を、いとも簡単に解決へと導いてくれたのが、静岡県掛川市にて広大な農園を構えている「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんでした。看板に偽り無し、まさに日本最大級の畑を有しているからこそ、一度も滞ることなく、Benoitへ「紅ほっぺ」のみを送り続けていただいています。サイズ指定も購入量も、担当してくださった方の「大丈夫です」という一言に、どれほど安堵したことか。さらに、届いたイチゴの品質にはただただ脱帽するのみ。豊潤な香りをはなちながら、美しい輝かんばかりの赤い色、口中いっぱいに広がる豊潤な甘さに心地よい酸味、いかに丁寧に育てられた「紅ほっぺ」か。自分のみならず、パティシエチーム皆が「美味しい」と納得の逸品です。

f:id:kitahira:20190405174854j:plain

 

静岡県掛川の「紅ほっぺ」をつかった真っ赤なデザート

f:id:kitahira:20190217113311j:plain

 紅ほっぺMサイズを、お一人様10粒分は半分にカットしてオリーブオイルと塩少々。もう10粒分は、広島県大崎上島の岩﨑さんの瀬戸内レモンとともに、軽く火にかけザルの上に。ゆっくりと滴り落ちる紅ほっぺのジュース。ザルに残ったイチゴは、そのままマルムラードへ姿を変え、ジュースはオリーブオイルが加えられてソースへ。そのままを盛り付ける中に、心地良い酸味とほろ苦さを演出する瀬戸内レモンの皮のコンフィ。さらに爽やかなミルクの風味を生かしたフレッシュチーズのソルベを一番上に。イチゴの調理方法を変えることで、それぞれ違った魅力を引き出すように。

 皆様お察しの通り、「イチゴそのもの美味しさ」が、今回のデザートのポイントになります。だからこそ、彼の地を代表する品種を選び、その中でもこだわりの農園から直送しなければならなかったのです。違った表情をみせるイチゴに、レモンとソルベが加わり、オリーブオイルを加えたイチゴジュースをそそぐ。一つの器の中で、それぞれが奏でられた時、このデザートが皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことになるでしょう。4月末まで、プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

 

 栽培地域は、ほぼ日本全土を網羅し、新品種育成を目指し、各都道府県が鎬(しのぎ)を削る。美味なるものであれば、彼の地を代表する品種となります。しかし、この熾烈を極める戦いの中で、全国に名を馳せるにいたるものは、ごく僅か。毎年どれほどの新種が生まれ、淘汰されていったことか。それもこれも、誰しもが愛してやまない「イチゴ」だからなのでしょう。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選情報「4月のダイジェスト版」のご案内です。

待てというふに 散らしで止まる ものならば 何を桜に 思ひまさまし 「古今集より」よみ人しらず

f:id:kitahira:20190404162223j:plain

  「待ってくれ」と言うことで、散らないでいてくれる花であれば、誰がこれほどまでに桜に対して思いを募らせようか。夏から秋にかけて葉を茂らせ、越冬するための栄養を蓄える。冬の間は、余計なエネルギーを使わないようにと葉を落とし眠りにつく。春の陽射しが桜の目覚めを誘(いざな)い、花開く。桜の花ひとつの開花の期間は2~3日だといいます。実を食用としない花桜の場合は、このいっときの開花のために1年間を費やすといってもいいのではないでしょうか。この潔く散ってゆく「はかなさ」こそ、人々がこれほどまでに花開く時を待ち焦がれ、花散る時を惜しむのでしょう。

 満開の桜は、人々に笑顔をもたらし、かつては農作業の始まりを教えてくれました。今では新しい人生の門出を演出してくれています。日本の学校の卒業と入学の時期が、桜花咲く時期の前後に位置していることは、世界の多く初秋であるのために、海外に目を向ける学生たちには不自由なものです。それでも、日本では変えることがありません。「桜」という花の存在が、どれほど我々日本人にとって大切であるのか。もちろん、理由はこれだけではないはずですが、理屈ではない「日本人の心」のなかでは密接に関係している気がいたします。「別れ」があるからこそ「出会い」がある。逆もまた真なり。

 「出会い」が無ければ、「別れ」もありません。人世には悲喜こもごもありますが、「出会い」の無い人生は全く平凡なもので、つまらないものだと思いませんか。食の世界でも同じことで、季節折々で旬を迎える食材の無い、食事では飽きてしまうことでしょう。旬の食材の美味しさを知っていために、旬の短い「ひととき」を待ち焦がれ、大いに楽しみます。いずれは終わりを迎える食材の美味しさを見逃さないように。そして、我々はここに、「口福な食時」を見出すのです。

 「美しい(令)」季節に春食材が「和」する逸品は、令和元年にこそふさわしい。そこで、皆様に旬の食材に出会い、食することで無事息災に春を過ごしていただきたい。旬を迎える食材を旬の食材は、人が必要としている栄養に満ちています。そして、人の体は食べのものでできていいます。この想いを込め、Benoitの4月のダイジェスト版を作成いたしました。

皆様にご紹介したい内容は、以下の15件です。

「特選食材」のご案内 8件

「料理/デザート」のご案内 4件

「イベント」のご案内 2件

「余談」 1件

 

香川県まんのう町と香南町からグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」が届いています。≫

f:id:kitahira:20190327103153j:plain

 Benoitの春は「讃岐から目覚める」、香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガスが「さぬきのめざめ」と名付けられました。

 香川県仲多度(なかたど)郡まんのう町と高松市香南町より届けられる逸品は、春を代表する食材「グリーンアスパラガス」です。国内で栽培されている多くは「ウエルカム」という海外育成品種です。香川県では、県農業試験場で試験栽培を重ねた末、2005(平成17)年にオリジナル品種として誕生したのが「さぬきのめざめ」。他の品種に比べ春の萌芽が早く、まさに「春一番の美味しいめざめ(萌芽)」な特選食材です。

 アスパラガスは、種をまいて数ヶ月で収穫できる野菜ではなく、植えてから収穫までに3年間を要します。この期間、アスパラガスはわさわさとした葉を成し、香川県ならではの陽射しを十二分に受けることで、根に栄養を蓄えていき枯れてゆく。これを毎年繰り返すことで、根を大地に広げてゆくのです。香川県の気候風土が育んだ逸品。穂先がきゅっと締まった美しい姿、根元までやわらかいが歯ごたえはシャクキシャク。鮮度が良いので、みずみずしいのはもちろん、にじみ出でるアスパラガスのジュースには野菜特有の甘さを感じます。瀬戸内に降り注ぐ太陽の恩恵を十二分に受け、まんのう町そして香南町の皆様が守り抜いた自慢の大地があるからこそ、この美味しさを生みだすのです。

 香川県の自然と、栽培にあたる人々の弛まぬ努力が育んだ、「春一番の美味しいめざめ」がBenoitに届きます。この特選食材を、Benoitシェフのセバスチャンが「Benoitの美味なるめざめ」となるよう、もう一つの特選食材と出会うことで、さらなる高みへと導くのです。

 

≪春に旬を迎える珍しいキノコ「モリーユ茸」が届いています。≫

f:id:kitahira:20190327102840j:plain

 多くのキノコが秋に旬を迎えるのに対し、このモリーユ茸は春に旬を迎える珍しいキノコです。ご覧のように、キノコの傘の部分が網のような姿のため、日本では「あみがさ茸」と名付けられました。そう、日本にも自生しているのです。都内でも見ることができるのですが、素人がキノコに手を出すことは、あまりにも危険極まりないこと。それらしい姿のキノコを見かけても、鑑賞するにとどめてください。なぜ、国産が流通しないのか?和食では美味しさを見出せなかったのでしょう。

 対するヨーロッパでは、春を代表する高級食材の位置付けにあり、モリーユ茸食せずして春は終われないのです。これほどの食材のため、多くの人が「栽培」に取り組むも、いまだ成功例はなく、大自然が育んだ天然のものしかありません。そのため、天候に左右されることはもちろんですが、天気にも大きな影響を受けるのです。適度な雨は大地よりモリーユ茸が顔を出すことを促すも、キノコゆえに雨が降り続くことで、子供の手ほどにいっきに成長してしまうのです。大人の親指の指先ほどの大きさが、食感はもちろん味わい深く美味しいサイズ。大きくなると大味になってしまうのです。この気難しさもまた、この茸の価格を上げてしまう要因のひとつなのです。

 なぜ、日本では見向きもされないキノコが、ヨーロッパではこれほどまでに珍重されるのか。やはり、相性の良い調理法になるのです。生の時にはうんともすんとも美味しさの「お」の字も香らないモリーユ茸が、バターやクリームによって熱を加えられることで、豹変するのです。この驚嘆すべき芳しさと美味しさだからこそ、春を代表する食材の地位を確固たるものにしているのです。

 

≪日欧の春を代表する食材が一堂に会する「アスパラガスとモリーユ茸のフリカッセ」が前菜に。≫

f:id:kitahira:20190308181452j:plain

 前菜ではありますが、今回の主役たりうる一皿であり、自分が心待ちにしていた料理が、「モリーユ茸とグリーンアスパラガスのフリカッセ」です。日欧の春を代表する食材が一堂に会する、フランスと日本との育ちの違いこそあれ、ともに太陽の恵みを十二分に受けた春の食材が一堂に会する。2019年の春は「讃岐で目覚め」た「さぬきのめざめ」が、東京Benoitで、ヨーロッパの山々で目覚めた「モリーユ茸」と出会います。

 香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」は、瀬戸内海を想わせる塩分の湯の中で、職人ならではのしゃくっという心地よい食感を残すように湯でられます。さらに、モリーユ茸はもちろんフレッシュが届きます。生の時にはパッとしない香りが、熱を加えることで豹変するのです。芳しい香りを放つこの茸に、相性の良いクリームを加え、旨味を十二分に引き出した中に、フランスのSavoie(サヴォア)県の特産でもあるVin Jaune(ヴァン・ジョーンヌ)と呼ばれる黄色いワインを香りづけに使用。なかなか独特な風味のワインですが、モリーユ茸とクリーム、さらにグリーンアスパラガスとを全て調和させる力を持っている山のワインです。

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+2,000円、ディナーでは+1,500円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの2つの春食材のため、ご希望の場合は、ご予約の際に「アスパラガスとモリーユ茸希望」とお伝えいただけると幸いです。春が萌えてくる山を想い描きながら、この美味しさのマリアージュをご堪能いただきたいと思います。

 

≪千葉県勝山漁港より「桜鯛」が直送です。≫

f:id:kitahira:20190404162353j:plain

 千葉県房総半島の先端から、少し内房に入ったところに「勝山漁港」があります。東京湾への入り口に位置しているため、内房外房の豊かな漁場から、網で巻き上げられた魚、釣り上げられた魚と多くの種類が集められているその中から、今回皆様にご紹介するのは「真鯛」。天然の真鯛であることはもちろんですが、今の時期ならでは選ばれし真鯛が、「桜鯛(さくらだい)」です。

 「腐っても鯛」といわれるほど美味しい魚のため、日本では真鯛は魚の王者として君臨し続け、料理の食材としてはもちろん、お祝い事にも欠かすことのできない逸品です。だからなのでしょう、季節のよって愛称がつけられ、産卵後から夏にかけての期間は、特になし。秋は「紅葉鯛(もみじだい)」、冬は「寒鯛(かんだい)」、そして春が「桜鯛(さくらだい)」です。

 言葉というものは、話し手である人々の生活習慣や趣味嗜好が密接にかかわっているようです。今でこそ焼肉ブームの影響から、肉の部位の細かな名称が馴染みになっていますが、肉食が伝播していった時期が明治のことなので、そこまでの歴史がありません。これに対して魚食文化は、四方を海に囲まれ、長細い形をしている日本だからこそ、多種多様雄海産物に恵まれていることもあり、地方色豊かな特産を生みだし、ひいては調理法までをも確立していくことに。さらに、魚が季節を表現することも。だからこそ、学名ではない魚の名前が、我々の生活の中で確固たる地位を得ることになります。

 生活に根付いた魚文化に加え、魚の王者「真鯛」が美味しいがために、日本人は姿が似ていて美味しい魚を「~鯛」と名付けています。今でこそ、魚類図鑑で細かな分類がなされていますが、美味しい魚は美味しい魚であり、細かな学術的な分類など野暮というもの。「イトヨリダイ」や「アマダイ」など、美味しいけれども「マダイ」の仲間ではありません。後に鯛の仲間ではないとわかっても、名を変えることはなく、「もどきダイ」だと一蹴するところが、世界に誇る魚食文化の日本人気質というのでしょう。日本には「サクラダイ」という名の付いた魚がいます。これも「もどきダイ」であり、「桜鯛」とは全く別物。混乱をきたすようですが、このあたりの違いが分かる人が、粋(いき)というもの。

f:id:kitahira:20190404162433j:plain

 さて、今回は正真正銘の天然真鯛で「桜鯛」です。海深く、美味しい海老をたらふく食べている真鯛が、産卵に向けて浅瀬に姿を現す時期が「春」。エビをむしゃむしゃいただいているということで、身の色がピンク色になるのだといい、まさに春色。日本人の心に花咲く「桜」にぴったりという、古人の名付けのセンスに感服です。縦横無尽に大海原を泳いでいるため、身が締まり格別な旨味をもち、運動不足と飽食の養殖とは違い適度な脂によって美味しさを増しています。今この「時」を逃しては、来年を待たねばなりません。4月いっぱいの特選食材です。

 

≪フランスのロワール地方から「ホワイトアスパラガス」が飛行機で旅立ちました。≫

f:id:kitahira:20190308181255j:plain

 春を迎えると、なんとなく山菜を口にしたくなるのが 日本でるならば、ヨーロッパの人々にとって、ホワイトアスパラガスを食せずして春尽きることはないのでしょう。マルシェ(朝市)に山積みにされるこの食材が、人々がいかに待ち望んでいた食材であるかを物語っています。

 アスパラガスの原産は地中海東部。3000年前のエジプト文明の時すでに野生のアスパラガスが食されていたといいます。古代ギリシャ古代ローマ時代には栽培が始まり、フランスがルネッサンスを迎えると同時に、イタリアから持ち込まれたのだといいます。この時代に、丘陵地での栽培方法が確立したことで、ホワイトアスパラガスが世に登場したのだとか。

 アスパラガスの栽培には軽い砂地が適しており、フランスではパリ北西に位置しているArgenteuil(アルジャントゥイユ)町から始まりました。今でも栽培されている最古参の品種にその名を遺しています。そして、Val de Loire(ロワール地方)、Aquitaine(アキテーヌ地方)、そしてBassin Méditeranéen(南フランス)へと栽培ノウハウが伝わっていきます。

 今回、Benoitに送っていただく地は、ロワール地方のロワール河の中流域に位置しているIndre et Loire(アンドル・エ・ロワール)県です。旧地方名はTouraine(トゥーレーヌ)。この地に居を構えるBellorr(ベルオール)研究所は、地元の栽培者を選抜することで、高品質のアスパラガスを栽培し続けています。そこで、彼らが出会った栽培者が、フレデリック・プーパー氏でした。この地の生まれで、70ヘクタールの農地を引き継ぎ、2009年からオーガニック栽培を実践している新進気鋭の若者です。先祖代々続いた栽培ノウハウを踏襲しつつ、積極的に最新技術を取得する。多品種のアスパラガスを選別して植栽し、地熱をうまくコントロールすることで、2月から6月までの長期間、高品質のアスパラガスの供給を可能にしています。彼の年間収穫量は250トンにも及びます。

 ホワイトアスパラガスは、陽射しに当たらない状況で収穫しなければなりません。遮光フィルムを使って栽培することも可能ですが、やはり健全な土壌を維持するには、陽の光は欠かせません。そう、ホワイトアスパラガスはまだ表土から顔を出さない状態で収穫するのです。熟練した者は、見事なまでに土中にあるアスパラガスを見つけるといいます。そして、グージュという特殊な器具ひとつきで、横の芽を傷つけることなく収穫するのです。

 アスパラガスの芽の勢いは強く、日に10cmも伸びるのだといいます。そこで、収穫した後すぐに冷たい水で冷やすことで勢いを止めると同時に、新鮮さを維持しながら穂先がピンク色になるのを防ぐ。傷は酸化によって品質を著しく損なうため、専任のプロフェッショナルが厳しい目で選別を行い、木箱へ納められ、すぐに世界に向けて旅立ちます。

 フランス国王として全盛を極めた太陽王ルイ14世は、ヴェルサイユ宮殿の庭師に、「一年中収穫できる栽培方法を模索するように」と命じたという。それほどまでに愛してやまないアスパラガス。いつの時代もどの国も、権力者はいいたい放題です。旬があるからこそ美味しいのであり、収穫が待ち遠しい。時期が決まっているからこそ、失う前に楽しもうと。まさに桜と同じ、「終わるなよ」といって素直に聞いてくれるようでは、食す楽しさも美味しさも半減するというものでしょう。冒頭の句のいう、「思いまさまし」です。

 

勝山漁港直送「桜鯛」のグルノーブル風とロワール産ホワイトアスパラガス≫

f:id:kitahira:20190404162508j:plain

 千葉県勝山漁港直送の「桜鯛」は、表面に焼き色を付けるようにし、オーブンを使ってふんわりと焼き上げます。大海原が育んだ真鯛は、身質の見事なまでの食感に加え、海深いところで美味しいものを食べているのでしょう、溢れんばかりの旨味に満ちています。さらに、この時期らしいきれいな脂を持ち合わせているため、火入れには細心の注意を払わなければなりません。Benoitキッチンスタッフの焼きの職人技が、桜鯛の美味しさを十二分に引き出すのです。

 そして、フランスからは春食材の代名詞的な逸品、ロワール地方Indre et Loire(アンドル・エ・ロワール)県から送られてくる「ホワイトアスパラガス」です。フランスの大地が育んだ独特の春の苦みと優しく甘い味わい。これこそ、日本でなかなか内包できないフランスのホワイトアスパラガスの美味しさです。この特徴を生かすように、シンプルに茹であげたものを真鯛の下に。

 バターを火にかけ、香り立つ一瞬を見極めた後に、レモンの心地良い酸味とケッパーの旨味を加り。日仏を代表する2つの特選食材が、Benoitで一堂に会した時、お皿の上でどのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。最後に、Benoitシェフのセバスチャンが、味わいのアクセントとして選んだ「ラディッシュ(はつか大根)」。まるで、満開に咲き誇る桜の花々の中に、次なる出番の桜の深い紅色の若葉を想わせます。いや、幹(桜鯛)に枝(ホワイトアスパラガス)が伸び、そこに桜(ラディッシュ)が咲くイメージなのか。はたまた、別か。これは、皆様の判断にゆだねようと思います。

 プリ・フィックスメニューのメインディッシュの選択肢の中で、ランチは+1,500円、ディナーでは+1,200円にてお選びいただけます。天気・天候に左右されやすいこの2つの春食材のため、ご希望の場合は、ご予約の際に「桜鯛とホワイトアスパラガス希望」とお伝えいただけると幸いです。

 

愛媛県宇和島より「樹成完熟デコポン」」が届きました。≫

f:id:kitahira:20190217113334j:plain

 不知火(しらぬい)という品種の中でも、甘味と酸味が基準値を超えたもののみに与えられる名称のため、この名を名乗ることができるだけでも、美味しさは保証されたようなもの。日本屈指のミカンの産地である愛媛県の中にありながら、海より隆起した地形ゆえにミネラル分を多く含み、急斜面だからこそ水はけの良さを誇ると同時に、恵まれた日照条件を満たす地。温暖だからという理由以外に、数々の条件を兼ねそろえた、愛媛県の西側に位置する宇和島市の吉田町の産物です。

 今回は愛媛県東部、瀬戸内海に面している西条市、JA周桑(しゅうそう)のもと、県下最大級の直売所として2006年にオープンした「周ちゃん広場」。他の直売所と異なることは、地元の食材のみならず、県内の素晴らし食材を探し集めていること。いうなれば、愛媛県の農について知らぬことはないプロ中のプロが選んだ逸品がそろう直売所なのです。前述した宇和島吉田町の多種にわたる柑橘を育む山ひとつ分の全量を買い取り販売しているといいます。この柑橘フルーツを指揮しているのが、皆より柑橘のプロと称された武田さんです。

 彼女の見立てにより、吉田町で完熟まで収穫せずに樹に実らせておく「樹成完熟デコポン」がBenoitに届いています。完熟に向かえば向かうほど、糖度が上がり酸味が減るため、劣化・腐敗というリスクが高まります。その危険を冒してまでも、美味しさを追求することを求めたのが「樹成完熟」なのです。天気との駆け引きの中で、どこまで耐えることができるのかを見極めることは、経験なくして成しえないもの。彼らがここまで求めるにはそれなりの理由が存在します。どれほどの美味しさなのか、この機会にぜひご賞味ください。来週いっぱいご用意できるかどうかは、このデコポンに祈るのみ。

 

愛媛県宇和島の「樹成完熟デコポン」と熊本県天草の「不知火」「パール柑」で至高の柑橘デザート≫

f:id:kitahira:20190303093054j:plain

 デザートは、これを以外に春を語るものは無いのではないでしょうか。今まさに旬を迎えている、熊本県を代表する柑橘「不知火」と「パール柑」を惜しげもなく使用し、冬眠気味の我々の体を目覚めさせてくれる今の時期ならではの至高の逸品。不知火とデコポンはパール柑、それぞれ色味の違う果肉と果皮は、見た目にも美しいばかりではなく、味わいや香りの違いを生み出します。果実はそのままに、果皮は甘さ控えめのシロップで煮るようにコンフィへ、さらに果肉と果実をつかって甘ほろ苦いマルムラードへ。さらに、果汁を絞り、そこへ果肉と果皮を加えて仕上げた、輝かんばかりに美しいオレンジ色を放つシャーベットは、今回の特選食材2種類の柑橘の魅力を凝縮したかのよう。さらに愛媛県から「樹成(きなり)完熟デコポン」が加わることになりました。

 余計な甘さは一切なし。旬の柑橘のもつ「甘さ」「酸味」「苦さ」が、見事なまでのハーモニーを奏でることで、ひとつの作品へと仕上がります。アーモンドのシャーベットを添え、イタリアンメレンゲを軽やかにぱりっと焼き上げたものを飾る。メレンゲを使うことで、デザートの名称は「ヴァシュラン」です。熊本県天草と愛媛県宇和島がはなつ「春の魅力」を我々に教えてくれることになるでしょう。

 樹成完熟デコポンでのご用意は、時間との勝負です。この機会をお見逃し無きように。プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+800円にてお選びいただけます。

 

≪イタリアの「グリーンピース」が飛行機でBenoitに。≫

kitahira.hatenablog.com

 

≪フランス・ロワール地方、モローさん「Selles-sur-Cher (セル・スュル・シェル)のご案内です。≫

f:id:kitahira:20190303091709j:plain

 ロワール河の中流域は、古城が多くある観光名所。その周りに広がるブドウ畑と広大な牧草地が、彼の地を風光明媚なものへと演出しているかのようです。その牧草地で放牧されているのが山羊(やぎ)。この地域は、フランスで抜群の品質と美味しさ、種類の多さを誇る山羊チーズの一大産地です。

 多々ある山羊チーズの中でも、最高傑作だといわれているのが、なんとも発音の難しい「Selles-sur-Cher (セル・スュル・シェル)」。その産地にあり、山羊のスペシャリストとして名を馳せるのがMOREAU(モロー)さんです。

 山羊ミルクらしい優しさの中に心地よい酸味、チーズに仕上げた時の、しっとりとした水分を含みながら、きめの細やかな食感。一口ほおばると、かすかな甘みと程よい塩加減が、きれいな余韻となって続きます。切った時の断面の美しさは必見です。さらに、若草が牧草地を輝かんばかりに美しい緑色に染める春。山羊がその春の草を食むことで生み出されるミルクは、一年で一番爽やかな味わいをもっています。そのミルクでモローさんが仕上げたセル・スュル・シェルがBenoitに届いています。

 

≪「Pulpe de CACAO(ピュルプ・ドゥ・カカオ)」がBenoitに届きました。≫

kitahira.hatenablog.com

 

静岡県掛川特産「紅ほっぺ」の真っ赤なデザートは4月末までです。≫

f:id:kitahira:20190303092902j:plain

 静岡県を代表するイチゴの品種「紅ほっぺ」を、Mサイズ指定でBenoitへ送っていただいております。これを、一人20粒ほど使用。10粒分は半分にカットしてオリーブオイルと塩少々。もう10粒分は、レモンとともにスチームオーブンんにかけザルの上に。ゆっくりと滴り落ちる紅ほっぺのジュース。ザルに残ったイチゴは、そのままマルムラードへ姿を変え、ジュースはオリーブオイルが加えられてソースへ。そのままを盛り付ける中に、心地良い酸味とほろ苦さを演出するレモンの皮のコンフィ。さらに爽やかなミルクの風味を生かしたフレッシュチーズのソルベを一番上に。

 皆様お察しの通り、「イチゴそのもの美味しさ」が、今回のデザートのポイントになります。だからこそ、彼の地を代表する品種を選び、その中でも高品質を栽培し続ける「赤ずきんちゃんおもしろ農園」さんから直送しなければならなかったのです。違った表情をみせるイチゴに、レモンとソルベが加わり、オリーブオイルを加えたイチゴジュースをそそぐ。一つの器の中で、それぞれが奏でられた時、このデザートが皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことになるでしょう。

 プリ・フィックスメニューのデザートの選択肢の中で、ランチ・ディナーともに+1,000円にてお選びいただけます。

f:id:kitahira:20190217113311j:plain

 

シャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)のご案内です。≫

f:id:kitahira:20190404162825j:plain

 シャンパーニュ地方・ランスに1985年に誕生したシャンパーニュメゾン「ティエノー」。そのシャンパーニュは保守的ではなく、常に新しい独創性を求める現代的スタイルです。創業者・アラン・ティエノ、長男スタニスラス、長女ガランスの3名による家族経営のシャンパーニュメゾンで、それぞれの名を冠したシャンパーニュがあるのも特徴のひとつです。また、アーティスト「スピーディー・グラフィット」とコラボレーションしたマグナムボトルはそのデザイン性から多くの反響を生みました。今回が初来日のガランス女史をお迎えし、豪華シャンパーニュディナーを行います。ラインナップはデザインの異なる1stと2ndの「スピーディーグラフィット」。また、それぞれの名前を冠したファミリーシャンパーニュをお楽しみいただきます。

 

Benoitシャンパーニュメーカーズディナー「THIÉNOT(ティエノー)

日時:2019530()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

<ラインナップ>

NV  SPEEDY 1st Edition Magnum

NV  SPEEDY 2nd Edition Magnum

2008  Millesimé

2007  Cuvée Stanislas, Blanc de Blancs

2008  Cuvée Garance, Blanc de Noirs

2007  Cuvée Alain Thiénot

 

≪ミュージックディナー「三味線プレイヤー 史佳」のご案内です。≫

f:id:kitahira:20190113172334j:plain

 津軽三味線の楽曲の原型は新潟県にあるといいます。それがためなのか、初代高橋竹山師の竹山流津軽三味線を正しく継承していこうと「新潟高橋竹山会」が誕生し、今は二代目会主の高橋竹育さんが100名近い会員を束ねています。その高橋竹育さんを母にもち、さらに師匠として9歳より三味線の世界に入りました。音の響きを大切にする「弾き三味線」を得意とし、古典を大切なベースとしながらも、伝統芸能の枠を超えた新しい「ニッポンの音楽」を求め、国内外の演奏活動・公演活動を行っている三味線プレイヤー「史佳 Fimiyoshi」さん。2019年10月5日にカーネギーホールでの演奏が決まっています。その前にBenoitで奏でます。前哨戦?いえいえ、史佳さんは本気です。

 

Benoitミュージックディナー 「三味線プレイヤー 史佳Fumiyoshi ≫」

日時:2019612()18:30より受付開始 19:00開演

会費:18,000(パフォーマンス・ワイン・お食事代・サービス料込、税別)

※ご予約を受け付けております。電話もしくは、Benoitへメールにてご連絡をお願いいたします。質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせ、もしくは返信をお願いいたします。

≪史佳Fumiyoshi プロフィール≫

kitahira.hatenablog.com

 

≪余談ですが、2019年の「干支」のお話です。≫

f:id:kitahira:20190104164742j:plain

 古代中国の賢人の英知の結晶でもある「干支」。なぜこの漢字なのか?もちろん、自分は占い師ではなく、漢字の語源から読み解いてみたものです。添付の画像は、今年早々に撮影したものです。そして、ブログの中には昨年の初夏の画像。なぜ「ユズリハ」を干支の話で選んだのか?この理由も理解していただけるはずです。

kitahira.hatenablog.com

 

 早乙女(さおとめ)、早苗(さなえ)など、「さ」を冠するものは、田の神がかかわる神聖なものという意味が込められているそうです。「桜」は「サ(田の神)・クラ(座る)」であり、春に山から舞い降りた田の神が降り立つ木なのだといいます。これを祝うお祭りこそ、今の「花見イベント」のルーツなのだとか。その後、田の神はカカシに宿り田を見守る、そして10月の神嘗祭で山に帰るのです。農耕民族の日本人にとって、稲作が生活の糧、この桜の開花が、田植え前の田起こしの目安であり、まさに仕事始めお知らせです。桜咲く中での学校の卒業式、桜の花びらが舞う中での入学式、会社での入社や異動など…この時期につきものの出会いと別れ。感情が交錯する節目として日本人が選んだのが、春でした。海外では夏前に卒業、9月に入学することが多いシステムの中で、日本人が春に固辞する理由がこの辺りにある気がいたします。

 桜もソメイヨシノから八重桜へ移りつつある今日この頃。十人十色の想いの詰まった百人百様の人生がスタートしていることと思います。このような時だからこそ、自分の人生はもちろん、身近な方の人生にも溢れんばかりの幸せが訪れるように、声に出して祝してみてはいかがでしょうか。日本には「言祝ぐ(ことほぐ)」という美しいことばがあります。声に出すことで実現するという、古来より信じられてきた言霊思想。新たな門出を、出会いを言祝いでください。きっと素晴らしい一年を迎えることができると思います。「言祝ぐ」は「寿ぐ(ことほぐ)」へ、そして「寿(ことぶき)」と姿を変え、今に生き続けています。

 

いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、皆様の新たな門出が幸多きことを、遠く青山の地よりお祈り申し上げます。書くだけでは効果は不十分でしょう。続きは皆様と再会した際に、お会いできる時を、心待ちにしております。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選食材「グリーンピース」のご案内です。

f:id:kitahira:20190327102802j:plain

 日本でもお馴染みの春食材の「グリーンピース」。ところが、缶詰の普及がこの食材への偏見を導き、好き嫌いの多い食材になってしまったことは否めません。しかし、鮮度の良いグリーンピースの美味しさは格別で、春にしか楽しむことができない旬の味わいです。

 国産の食材を愛する自分ですが、今回ばかりは驚きの美味しさを誇る、地中海の太陽をさんさんと浴びて育ったイタリア産に席を譲るしかありません。船便では間に合わないため、飛行機で運んできた逸品です。もちろん、品種が違うといえば違うのですが、あまりにも国産を凌駕する甘みのある美味しさは、一食の価値あり。生の鞘(さや)を口にすると、鞘の筋が口中に残るものの、春らしい甘さを堪能しながらポリポリと食べることができるのです。鞘がそれほどまでに美味しいということは、中の粒粒は言うに及ばずでしょう。

 

 グリーンピースそのものをお楽しみいただきたいので、余計なことはしない、その美味しさを十二分に引き出した、とろりとした緑美しいスープへと仕上げます。コクのある甘みに満ちた味わいは、過去何人もの「グリーンピース嫌い」の方々を「好き」へと導いた実績があります。しかし、粒のみで仕上げてしまうと、あまりにも豆の甘さが際立ってしまうため、ほんの少しの「鞘」を加えます。ハーブではなく「鞘」です。もともと同じものだからこそ、その相性は抜群であることは間違いありません。

 さらに今回は、さらなる美味しさを追求するがために、北海道のフレッシュチーズ、それもフランスのフロマージュ・ブラン「Brise de mer Faisselle (ブリーズ・ドゥ・メール フェッセル)」とのマリアージュをお楽しみいただこうと思います。以前にブログにてご紹介しました「Benoitデザート物語」

kitahira.hatenablog.com

 ここでは、フランスのエグゼクティブシェフチームとの新作デザートをめぐる息詰まる攻防?を書いてみました。料理を担うMatthias HAHN(マティアス)とデザートのJean-Marie HIBLOT(ジャンマリ)。彼らがBenoitに来た2日目の朝、実は自分が二人にこのフレッシュチーズを試食してもらったのです。そして、「美味しい」との評価を獲得。何かを画策していたわけではなく、ただ日本のフレッシュチーズを自慢しただけのつもりだったのですが。キッチンに入ったマティアスの一言、「今Benoitに、日本の美味しいフレッシュチーズがあるが、なぜ使わないのか?」。これが転機となったのです。このフレッシュチーズの詳細は以下を参照ください。

kitahira.hatenablog.com

 グリーンピースが完熟したものが「えんどう豆」。グリーンピースの前、まだまだ実がなりたての若さやの状態が「絹さや」です。まさに出世魚ならぬ出世豆なのです。未熟だから栄養が貧弱かと思いきや、このグリーンピースの栄養価はまさにエリート級です。豊富なビタミンB群は糖質や脂質の代謝を盛んにし抵抗力を、さらにビタミンCとの相乗効果で感染症から守ってくれます。特筆すべきはカリウムと食物繊維の豊富さです。便秘解消、生活習慣病の予防にも最適。まさに春の美容と健康のためにあるような食材です。

 プリ・フィックスメニューの前菜の選択肢の中で、ランチでは5月末まで(予定)、ディナーでは4月末まで(予定)、ともに追加料金なくお選びいただけます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬
www.benoit-tokyo.com

Benoit「一夜限りの≪春食材の饗宴≫」メニュー確定のご案内です。

 先日、東京で「桜の開花宣言」が発表されました。桜前線に一喜一憂したときも束の間、今ではいつに「花見」を行うか思い悩む日々なのではないでしょうか。「春に三日の晴れなし」とはよく言ったもので、この時期の天気は、「花冷え」「花散らしの雨」「桜雨」「花嵐」など、サクラの花にちなんだ言葉が多々あり、天気予報でもよく耳にします。これほどまで馴染み深く、想いを馳せる花だからこそ、これほどの名句が詠まれたのでしょう。

世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし 在原業平

f:id:kitahira:20190327102616j:plain

 世の中に、春を彩る食材がなくなれば、ゆったりと春を過ごすことができるかもしれません。いや、そのようなことはできません。四季折々の旬の食材は、今我々が必要としている栄養が豊富に含まれており、その時々を無事息災に乗り切ることを手助けしてくれています。自然から与えられたこの特権を放棄してはいけません。生きとし生けるものの体は、食べたものでできているのです。

 そこで、Benoitシェフのセバスチャンが、アラン・デュカスの料理哲学「素材を厳選し、その素材の持ちうる香りと味わいを十二分に引き出し、表現すること」を踏襲しながら、春の雨によって目覚めた食材を使い。一夜限りの「春食材の饗宴」を、Benoitで開催することにいたしました。開催といっても、ミュージックディナーのように、何かイベントがあるわけでありません。通常通りのディナー営業です。しかし、この一夜だけは、シェフのセバスチャンが、「今、これを食せずして春は始まらない」という旬の食材をつかって組み立てたコース料理のみご用意いたします。Benoitディナーの営業時間内のご都合の良い時をご指定いただき、ご予約いただけると幸いです。

 

Benoit特選メニュー「一夜限りの≪春食材の饗宴≫」

日時:201941()17:30より(21:00LO)Benoitの営業時間内にお越しください。

コース料金:お一人様9,800(税サ別)

※ご予約をご希望の際は、このメールへの返信か、Benoitへご連絡をいただけると幸いです。何か質問などございましたら、何気兼ねなくお問い合わせください。

 f:id:kitahira:20190308181657j:plain

 いったいどのような饗宴となるのか。春を代表する旬の食材は、日持ちのするものが少なく、食材を厳選し、手に入るかどうかの確認をとるのもなかなか難儀な作業でした。よほど天候不順などの問題がなければですが、食材が決まり、シェフのイメージするコース料理の流れが確定いたしました。皆様に以前にご案内した内容から、少し変更が入っています。以下に今回の「春食材の饗宴」メニューを、簡単に紹介させていただきます。

 

Menu de saison du CHEF “C’est le PRINTEMPS !! ”

≪一口の前菜≫

グリーンピースのスープ

≪前菜≫

モリーユのフリカッセ グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」 ヴァン・ジョーンヌ風味

≪魚料理≫

千葉県勝山港より桜鯛ポワレ フランスのロワール産ホワイトアスパラガス

≪肉料理≫

仔羊背肉のロースト グリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」、そら豆オニオン・ヌーボーの旬野菜

≪デザート≫

愛媛県宇和島より「樹成完熟デコポン」と熊本県天草より「不知火」と「パール柑」のヴァシュラン

 

 今回のメニューを鑑み、シェフソムリエの永田から、「料理とワインのマリアージュ」の提案です。シャンパン、白2種類と赤ワインの計4杯のセットを、お一人様5,000(税サ別)にてご用意しております。

Champagne (当夜のお楽しみ)

2008 Pinot Gris cuvée des Comtes d’Eguisheim  Léon Beyer

2012 Châteauneuf-du-Pape cuvée special Clairettes vieille vigne Magnum  Dom.Saint Préfert

2005 Château Calon-Ségur Magnum

 この豪華なラインナップです。マグナムボトル(1.5L)のご用意のため、数に限りがございます。ご希望の場合はご予約の際にお伝えいただくと幸いです。当夜にご希望の旨をお伝えいただけることも可能ですが、一部ワインがl変更になる可能性がございます。この点は当夜にご相談させてください。

 

 今回は道のりの長いコースを組み立てたため、前菜の前の「小さな一品」としてご用意するのは、グリーンピースのスープです。素材そのものの美味しさをお楽しみいただきたく、余計なことはせずに翡翠色美しいとろりとなめらかなスープへと仕上げました。ボイルした粒粒そのものも少しばかり添えさせていただきます。

f:id:kitahira:20190327102802j:plain

 前菜は、今回のメインディッシュともなりうる、フランスの春を代表する、自分も心待ちにしていた逸品、「モリーユ茸とグリーンアスパラガス」です。フランスと日本との育ちの違いこそあれ、ともに太陽の恵みを十二分に受けた春の食材。2019年のBenoitの春は「讃岐から目覚める」、香川県の生み出した至高のグリーンアスパラガス「さぬきのめざめ」です。瀬戸内海を想わせる塩分の湯の中で、職人ならではのしゃくっという心地よい食感を残すように湯でた「さぬきのめざめ」。日本の多くの地域が海外品種を栽培している中で、これは香川県独自品種です。このアスパラガスだけでも十分に美味であることは、この食材が「さぬき(讃岐)」を冠することが物語っているのではないでしょうか。

f:id:kitahira:20190327102840j:plain

 さらに、モリーユ茸はもちろんフレッシュが届きます。生の時にはパッとしない香りが、熱を加えることで豹変するのです。芳しい香りを放つこの茸に、相性の良いクリームを加え、旨味を十二分に引き出した中に、フランスのSavoie(サヴォア)県の特産でもあるVin Jaune(ヴァン・ジョーンヌ)と呼ばれる黄色いワインを香りづけに使用します。なかなか独特な風味のワインですが、モリーユ茸とクリーム、さらにグリーンアスパラガスとを全て調和させる力を持っている山のワインです。よく考えると、全てが「山の幸」ではないですか。春が萌えてくる山を想い描きながら、この美味しさのマリアージュをご堪能いただきたいと思います。

f:id:kitahira:20190327102924j:plain

 

 魚料理もまた、日仏の春を代表する食材のマリアージュです。日本からは、千葉県の勝山漁港より直送される「桜鯛」です。魚の品種である「サクラダイ」とは全く別物。「腐っても鯛」といわれるほど美味しい魚のため、日本では真鯛は魚の王者として君臨し、季節のよって愛称がつけられ、産卵後から夏にかけての期間は、特になし。秋は「紅葉鯛(もみじだい)」、冬は「寒鯛(かんだい)」、そして春が「桜鯛(さくらだい)」です。海深く、美味しい海老をたらふく食べている真鯛が、産卵に向けて浅瀬に姿を現す時期が「春」なのです。エビをむしゃむしゃいただいているということで、身の色がピンク色になるのだといい、まさに春色。日本人の心に花咲く「桜」にぴったりという、古人の名付けのセンスに感服です。縦横無尽に大海原を泳いでいるため、身が締まり格別な旨味をもち、運動不足と飽食の養殖とは違い適度な脂によって美味しさを増しています。この身を、表面に焼き色を付けるようにし、オーブンを使ってふんわりと焼き上げます。

f:id:kitahira:20190327103115j:plain

 そして、フランスからは春食材の代名詞的な逸品、ロワール地方より「ホワイトアスパラガス」が届きます。フランスの大地が育んだ独特の春の苦みと優しく甘い味わい。これこそ、日本でなかなか内包できないフランスのホワイトアスパラガスの美味しさです。この特徴を生かすように、シンプルに茹であげたものを真鯛の下に。アクセントを加えるように、バターのコクをベースに、レモンの心地良い酸味とケッパーの美味しさを加え、イタリアパセリをアクセントに。真鯛白身とホワイトアスパラガスの出会いを演出するこのソースもまた美味なり。Benoitで一堂に会した時、お皿の上でどのようなハーモニーを奏でるのでしょうか。

f:id:kitahira:20190308181255j:plain

 

 メインディッシュは春の肉料理として「仔羊」の登場です。ニュージーランドから届く仔羊の背肉を、余計な脂身は取り除き、赤身の背肉を筒状に整形し、ブロックのまま中がピンク色になるようにゆっくりゆっくりと熱を加えていきます。ラムチョップの肉と脂身とのコンビネーションも良いですが、やはり肉本来の美味しさは赤身です。時間をかけて焼くことは、美味しさの要素でもある肉汁を逃がさず、心地良い食感に、噛むほどにジュワと仔羊の旨味があふれ出すことを約束いたします。仔羊の背肉のローストをご堪能いただきたい。

f:id:kitahira:20190327103153j:plain

 ここへ、日本の春を代表する食材を揃えます。香川県の「さぬきのめざめ」はもちろん、そら豆とオニオン・ヌーボーも加えさせていただきます。そら豆の美味しさは言うに及ばずでしょう。オニオン・ヌーボーとは、なにやら聞き覚えなおない食材ですが、実は銘産地の静岡県浜松では「葉付き玉葱(たまねぎ)」という昔から存在していたようなのです。春に旬を迎える、ネギの風味優しく熱を加えると甘みを増す美味しい野菜です。決して間引いた玉ねぎではありません。江戸時代に年貢として納めていたという由緒正しい伝統野菜です。「葉付き玉葱」では残念至極ですが、「オニオン・ヌーボー」という名もどうかと。なぜ、地名を名前に冠しなかったのでしょうか?そう思いながら、春に出会う美味しい逸品です。仔羊の肉本来の旨味は格別です。そこへ、日本を代表するこれらの春野菜がそろい踏みするのです。

f:id:kitahira:20190327103215j:plain

 仔羊が苦手な方は、他の肉への変更が可能です。ご予約の際にお声をおかけいただけると幸いです。

 

 デザートは、これを以外に春を語るものは無いのではないでしょうか。今まさに旬を迎えている、熊本県を代表する柑橘「不知火」と「パール柑」を惜しげもなく使用し、冬眠気味の我々の体を目覚めさせてくれる今の時期ならではの至高の逸品。不知火とデコポンはパール柑、それぞれ色味の違う果肉と果皮は、見た目にも美しいばかりではなく、味わいや香りの違いを生み出します。果実はそのままに、果皮は甘さ控えめのシロップで煮るようにコンフィへ、さらに果肉と果実をつかって甘ほろ苦いマルムラードへ。さらに、果汁を絞り、そこへ果肉と果皮を加えて仕上げた、輝かんばかりに美しいオレンジ色を放つシャーベットは、今回の特選食材2種類の柑橘の魅力を凝縮したかのよう。さらに愛媛県から「樹成(きなり)完熟デコポン」が加わることになりました。

f:id:kitahira:20190303093029j:plain

 余計な甘さは一切なし。旬の柑橘のもつ「甘さ」「酸味」「苦さ」が、見事なまでのハーモニーを奏でることで、ひとつの作品へと仕上がります。熊本県天草と愛媛県宇和島がはなつ「春の魅力」を我々に教えてくれることになるでしょう。

f:id:kitahira:20190217113334j:plain

 おそらく、今回のメニューだけに登場することになる、愛媛県宇和島の「デコポン」を少しばかり書いてみようと思います。

 不知火(しらぬい)という品種の中でも、甘味と酸味が基準値を超えたもののみに与えられる名称のため、この名を名乗ることができるだけでも、美味しさは保証されたようなもの。日本屈指のミカンの産地である愛媛県の中にありながら、海より隆起した地形ゆえにミネラル分を多く含み、急斜面だからこそ水はけの良さを誇ると同時に、恵まれた日照条件を満たす地。温暖だからという理由以外に、数々の条件を兼ねそろえた、愛媛県の西側に位置する宇和島市の吉田町の産物です。

 今回は愛媛県東部、瀬戸内海に面している西条市、JA周桑(しゅうそう)のもと、県下最大級の直売所として2006年にオープンした「周ちゃん広場」。他の直売所と異なることは、地元の食材のみならず、県内の素晴らし食材を探し集めていること。いうなれば、愛媛県の農について知らぬことはないプロ中のプロが選んだ逸品がそろう直売所なのです。前述した宇和島吉田町の多種にわたる柑橘を育む山ひとつ分の全量を買い取り販売しているといいます。この柑橘フルーツを指揮しているのが、皆より柑橘のプロと称された武田さんです。

 彼女の見立てにより、吉田町で完熟まで収穫せずに樹に実らせておく「樹成完熟デコポン」がBenoitに届いています。完熟に向かえば向かうほど、糖度が上がり酸味が減るため、劣化・腐敗というリスクが高まります。その危険を冒してまでも、美味しさを追求することを求めたのが「樹成完熟」なのです。天気との駆け引きの中で、どこまで耐えることができるのかを見極めることは、経験なくして成しえないもの。彼らがここまで求めるにはそれなりの理由が存在します。どれほどの美味しさなのか、この機会にぜひご賞味ください。

 

 春の雨によって目覚めた食材を使い、4月1日の一夜限りの「春食材の饗宴」をご用意いたします。それぞれが個性的であり、春の美味しさを内包した逸品食材が、どのように変貌するのかをご紹介させていただきました。全てが一堂に会するこの一夜は、皆様を「口福な食時」へと誘(いざな)うことでしょう。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

次回は7月1日月曜日に、「夏食材の饗宴」を予定しております。

 

 今咲き誇る桜の花。この花には花言葉とは別に異名があります。「夢見草(ゆめみぐさ)」。出会いや別れの重なる春らしく、桜ととともに思い出と輝かしい夢を重ねながら、新たな門出を迎える時期だからなのでしょうか。はたまた、桜の豪華絢爛な満開の姿が、これから迎える人世の門出を盛大に祝福していると見たからなのでしょうか。学業の1年の区切りが、海外では9月であるのに対し、日本では4月です。かつては世界競争力を養う上でも、変更すべきと話題になりました。賛否両論でましたが、やはり4月から変更しなかったことは、この「桜」にちなんだ、日本人ならではの感性が大きな要因だったのではないでしょうか。もちろん、他に大事な理由はあると思いますが、毎年「桜」を見るたびに、しみじみと感じ入ってしまう自分がいます。年をとってしまったのでしょうか。

f:id:kitahira:20190327103421j:plain


いつもながらの長文を読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、そして新しい人生の門出を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com

Benoit特選チーズ「バノン・ア・ラ・フォイユ」のご案内です。

 フランスの食文化を語るうえで欠かすことのできない食材、チーズ(フランス語ではフロマージュ)です。ミルクを濃縮したようなものなので、栄養価は抜群です。牛、羊に山羊とミルクの種類の変化に加え、フランスの気候風土が育んだ風味は千差万別。同郷のワインとのマリアージュを通し、まるで旅をするかのような醍醐味もまた一興なり。そこで、Benoitでチーズを担当する保坂と自分が、皆様に「美味しく」、「面白く」、「ベストプライス」で提案させていただこうと考えております。

 

 今回ご紹介する逸品は、「Banon à la feuille (バノン・ア・ラ・フォイユ)」です。

f:id:kitahira:20190321152558j:plain

 手のひらサイズで栗の葉で包まれた可愛らしい姿が特徴でしょう。スイスに源流を持ち、風光明媚なレマン湖を経由し、地中海に流れ込む、全長812kmにおよぶフランスを代表する大河「ローヌ河」。この流域には、上流にリヨン、下流域にはアヴィニョンなど、そうそうたる町々が名を連ねます。そのアヴィニョンを下ったあたりに、東から流れ込む支流「デュランス川」が。この川を上るように進んでいくと、プロヴァンス地方の北部に位置している山岳地帯でもあるアルプ=ド=オート=プロヴァンス県(04)に入っていきます。この県の西側に位置しているのが「バノン」の町です。低いところで標高400m、高い箇所は1000m越え、平均標高は817mといいます。

 

 これほどの高低差がある地域ということは、アルプス山脈の稜線をなしているかのような雄大な牧草地をのんびりと牛たちを放牧しながら…とは違い、斜面厳しいがゆえに、牛の生育は難しく、おのずと羊か山羊が登場することになります。羊と山羊とは漢字一文字違い、やはり山岳地域は「山」「羊」というわけです。バノンの町を代表するチーズ「バノン」は、少なからず育てている牛のミルクが加わることもありますが、やはり山羊のチーズです。

 

 バノン(ここから先はチーズ名です)の詳細は、巷溢れるチーズ本やnet検索の情報を参照してください。山羊のミルクを分離させ、フェセル(水きりかご)の中に詰め、自然脱水を施し、2週間ほどの熟成期間を取ります。この間に自然に発するカビが、ミルクのたんぱく質を分解することで美味しさを導き出します。これを、オー・ド・ヴィ(イタリアのグラッパのようなもの、アルコール40%の蒸留酒)にくぐらせ、栗の葉で包みます。

f:id:kitahira:20190321152623j:plain

 山羊チーズの特徴はなんといっても、ミルク由来の心地よい酸味と食感でしょう。フランス国内の山羊チーズの産地は言わずと知れたロワール河流域です。この地域の特徴は、熟成の若いときにはみずみずしいながらホロっとした崩れるよな食感。熟成をなしたものは、水分が抜けるためにこくのある風味にぼろっとほぐれるような食感。しかし、バノンはまったくタイプが異なります。表皮が少し硬く、切るととろりとした断面を目にすることができます。そう、ほろっとではなく、ねっとりとまとわりつくような食感なのです。なんとも美味!この特徴をなしえるために欠かせないものが栗の葉です。奈良柿の葉寿司のような殺菌効果ではなく、そう殺菌しては困るのですよ、チーズなので、保湿を保つ役割を担っているようです。硬く繊維のしっかりとした栗の葉だからこそなのでしょう。

 

 すでに「食べ頃」とろっとした状態でBenoitに届いております。限定的に購入したもののため、皆様がお越しいただける際に、あるかどうか。しかし、美味しいチーズなので、頃合いを見て今後も購入を考えております。フランスの伝統に裏打ちされた逸品、タイミングがあった際には、ご賞味いただけると幸いです。何かご要望・疑問な点などございましたら、何気兼ねなくご連絡ください。

 

最後まで読んでいいただき、誠にありがとうございます。

末筆ではございますは、ご健康とご多幸を、イノシシ(風水では無病息災の象徴)が皆様をお守りくださるよう、青山の地よりお祈り申し上げます。

 

ビストロ「ブノワ(BENOIT)」 北平敬

www.benoit-tokyo.com